第21話 勉強会②

 軽いアクシデントはあったものの、道具をとってファミレスに戻った。


「あ、お帰り! 遅かったね」


「ちょっと疲れたよ。じゃあ早く始めようか」


「その前に授業の話です。詳しく聞かせて貰いましょうか」


 まだ話してなかったのか。せっかく白石さんを犠牲にして逃れようとしたのに無駄だったみたいだ。


「白石さんが話しかけてくるから返してるだけだよ」


「私だけのせいにしないでよ。最近は蒼から話しかけてくる事もあるじゃん」


「そうだけど、これが始まったのは白石さんが話しかけて来たからじゃん」


「どっちもどっちです。授業は真面目に聞きなさい。話しかけた星華も、それに律儀に返してる蒼君も悪いです。反省してください。」


 はーい、と返事する問題児ぼくたち2人。本当に気を付けないと、授業に着いて行けなくなってしまう。今回は範囲が狭いからなんとかなっているけど、次からはそうは行かないだろうし。


「これは空君にも報告しておくので、しっかり怒られてくださいね」


 空にまで話が行ってしまうのか。白石さんは何ともないと思うけど、僕はかなり色々言われると思う。去年から授業を真面目に受けろと言われ続けているから、この状況を知ったら凄く怒ると思う。


「あいつ怖いんだよ。勘弁してくれない?」


「駄目です。授業中に話してるのが悪いですよ」


「駄目かぁ」


 許してもらえなかった。まぁ、僕が悪いから仕方ないな。大人しく受け入れよう。まぁ、口頭の会話じゃなかったらバレないと思うから、これからも続くと思うけどね。


「しないといけない話も終わりましたし、勉強を始めましょうか」


「そうだね。元々はそれが目的なのに、こんな話ばかりしてても仕方がないからね」


「えー、もうちょっと話そーよー。私疲れちゃったよ」


「わがまま言わないでください。誰のためにやってると思ってるんですか」


 2人の話を横耳に勉強を開始する。理数を集中的にやりたいな。文系科目はあまりやらなくても案外なんとかなるんだけど、苦手科目は勉強しないと散々なことになる。


「あれ? ここどうすればいいんだ?」


 数分問題を解いていると、早速躓いた。いくら苦手とはいえ、こんなに早く躓くとは思ってなかった。授業を聞けてない弊害が出たなぁ……


「そこはこうやってですね……」


「なるほど。ならこっちもこう?」


「そうですね。星華と違って理解が早くて助かります」


「私を引き合いに出す必要あった!?」


 こうやって時々騒いでいるけど、白石さんも真面目にやっている。意外だな。てっきり、もっと適当にやるものだと思ってたんだけどな。


 やっぱり赤点を取るのは嫌なのかな? 多分そのレベルだと思うから、補修にならないように必死なんだろう。


 うちの学校は、赤点を取ったら補修が待ち構えている。僕はそのレベルまで下がったことは無いけど、噂によると先生4、5人に囲まれて数時間勉強させられるらしい。もし、その状況に置かれたらと考えると、本当に嫌だな。


「なんで数学なんて存在するんだろう」


 あまりの面倒くささに、教科の存在を否定したくなる。実際、なんで存在するのかわからない科目はある。例えば社会とか、理科とかね。専門的な方向に行かない人は、そこで習った知識はいつ使うんだろう。


 そんなものを学習させるぐらいなら、心理学でも勉強させてほしい。特に恋愛心理学とか。今の僕に一番必要かもしれないから。


「ほんとにね。なんでテストなんてしなきゃいけないんだろう」


「確かに。テストじゃ測れないこともあるのに、わざわざ学生を拘束してまでテストさせる意味がわからないね」


「くだらないことを言ってないで手を動かしてください」


 怒られてしまった。勉強中にこうやってくだらないことを喋りだしてしまうのは、僕達2人の悪い癖だ。ストッパーがいないとまともに勉強ができない。そうなるぐらいに、白石さんんと話すのが楽しくなっている。


 こうやって話して、怒られる時間すらも僕にとっては楽しい時間だ。僕って結構人と関わるのが好きだったんだな。自分のことながら、ちょっと意外だった。まぁ、関わりたくない人はいるけどね。


「あれ? 親無し君じゃん。ほんとに人といる。しかも2人ともかわいいじゃ~ん。もしかして、レンタル?」


 ……こういうやつとかね。


「勝手に決めつけるな。2は僕の友達だ」


 少し口が悪くなるのも仕方ないと思う。謂れもないことを言われるのは、誰だって気分のいいことじゃない。しかも、関係ない2人まで巻き込んでいるんだ。それなのに優しく言うなんてことは、僕にはできない。


 僕の問題に巻き込んで申し訳ないな。そう思って2人を見る。……あれ? なんかびっくりしてる?


「蒼君、今私たちのこと友達って言いました?」


「言ったけど……なに? もしかして嫌だった?」


 やっぱり勝手に友達扱いされるのは嫌だったかな? 友達になりたい、みたいなことを言ってたから別にいいと思ったんだけど、やっぱりもうちょっと慎重に行くべきだったかな。


「嫌とは誰も言ってないでしょ! 栞のこともそうやって思ってたんだって思ってびっくりしたんだよ」


「それと、そういうことを表で言う人だと思ってなかったので、驚きました」


「なるほど。じゃあ、嫌ってわけじゃなかっんだ。よかった」


「嫌なわけないじゃん!先に友達になりたいって言ったのは私たちだよ?」


 素直に嬉しい。今まで友人と呼べる人はいなかったから。この感じなら、空も肯定してくれると思う。一年かけてやっと友達か。ずいぶんと時間がかかったなぁ……


 それにしても、何か忘れてるようような……


「おいおい、友達? 冗談も大概にしろよ。お前なんかにこの2人は釣り合ってねーよ。お金でも払ってるのか? それとも弱みを握ってるから仕方なくとかか? 2人も考え直した方がいいですよ。こんな奴じゃなくて俺にしといた方がいいですよ」


 あぁ、こいつのことを忘れてた。それにしても、今の話を真横で聞いてよくこの発言が出るね。怒りより先に呆れが出るよ。2人が先に友達になりたいって言ってきたって話をしたのに、どうしてその考えに行き着くのか理解できない。


「お断りします。私達は自分の意志で蒼君と友人になったんです。貴方にどうこう言われる筋合いはありません」


「私が好きで一緒にいたいだけなのに、どうして他の人に指示されないといけないの?私は好きな人と一緒にいたいだけなんだから、邪魔しないで」


「それ外で言わないでよ……恥ずかしい」


 白石さんの気持ちは伝えられてるから知ってるんだけど、それはそれとして改めて言われると恥ずかしいし、誰に聞かれてるかわからない場所で言われてるから余計にそうだ。


「好き……? こいつを? 辞めといたほうがいいですよ! こんなやつ、全く釣り合ってないので!」


 好き勝手言ってくれるなぁ。でも、釣り合ってないなんてことは、僕自身わかってる。だから、正直なんとも思ってない。


「悪いかな? 別に誰を好きになろうと自由でしょ。それに、釣り合うとか釣り合わないとか、私そういう考え方嫌いなんだよね。本当につまらないし、くだらないと思う。

 ろくに関わったこともないくせに、外野が主観で勝手に人の価値を決めて、勝手に順位付けする。当人同士は納得してるのに、勝手に押し付けた価値で似合ってないって引き離そうとする。そんなしょーもないことをする人こそ、誰とも釣り合ってないんじゃない?」


「し、白石さん?」


 なんかすごい怒ってるんですけど……そんな地雷ワードだった?


「それに、蒼はあんたなんか目じゃないぐらいかっこいいんだから!」


 ちょっと!? そんなこと大声で言わないでよ! 周りの人達がこっち見てるじゃん。いろんな憶測産んじゃうでしょ。『痴話喧嘩?』だとか『修羅場?』だとか言われてるよ。公開告白だと思ってる人もいるし……


「星華、落ち着いて。場所を考えてください」


「でも……」


「でもも何もありません。落ち着きなさい。とんでもないことも口走ってましたよ」


「あ、それは大丈夫。もう告白して返事待ちだから」


 なんですぐそうやって明かすかな! そういうことをされると僕も恥ずかしいし、言及されるのが面倒くさいんだよ。


「あんなにへたれてたのにそこまで進んだんですか……勢いだけはありますねほんと」


「それが取り柄だからね!」


「なんだよ……なんでそいつを庇うんだよ。だって……そいつは親がいなくて……ぼっちで……」


「だから何? 関係ないよ。誰になんて言われても、私達は友達なんだから。わかったら帰ってくれる?」


 そう言われると、面倒くさいのは帰っていった。もう絡んでこないといいんだけどな。


「やっと帰った……ありがとね、白石さん。色々言ってくれて。ただ、場所を考えてほしかったかな?」


「う、ごめん」


 あいつは帰ったけど、周りからの注目はそのままだ。こんなのじゃ視線が気になって勉強どころじゃないし、もう帰ろうかな。


「こんな状況じゃ集中して勉強できそうにないし、僕はもう帰るよ」


「そうですね。私達も今日のところは帰りましょうか。星華には色々聞きたいこともありますし」


「あはは、お手柔らかに……」


「それでは帰りましょう。伝票は……あれ?無いですね」


「嘘!? 探さなきゃ!」


「僕は先に帰るよ?」


「うん! またね!」


 見つかりっこない伝票を探している2人を横目に、僕は店を後にする。そうだ、払ったって連絡入れとかないとね。いつまでも探し続けちゃう。


『伝票は僕が払ったから絶対に無いよ。またね』


『嘘!? 次会ったときに絶対お金返すからね!?』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る