第7話 親との邂逅
「着きました」
無心で歩いていると、気づいたら白石さんの家に着いていたらしい。
「ここが……」
普通よりは少し大きいのだろうか? 少なくとも僕の家よりは大きい家がそこにあった。
「では、インターフォンを押しますね」
ピンポーン、と音が鳴り響く。僕が引き渡さないといけないことに多少の面倒くささを感じている。そこだけでも変わってくれないかな。
そうして少し待っていると扉が開いた。少し緊張する。
「こんにちは。どうされました?」
出てきたのは白石さんのお母さんのようだ。よかった。お父さんじゃなくて。僕の勝手な印象だけど、女の子のお父さんは男関係に厳しそうなイメージがある。
知らない男が娘を背負って家にきた。そんな状況を見られたくはなかったからね。
「こんばんは。私達4人で喋ってたんですけど途中で星華が寝ちゃって」
「あら、久しぶりね栞ちゃん。元気だった?星華は後でゆっくり寝かしつけておくわ」
「それにしても転校初日から捕まえるなんて、2人ともやるわね。どっちがどっちの彼氏?」
「そんなんじゃないですよ。ただの友達です」
2人で話してるけど早く渡させてくれないかな?疲れるんだけど。
「黒井さん」
「なんですか?あぁ、そうだ。星華を」
「そうね、ありがとう。そうだ、そっちの2人のお名前は?」
「宮田空です」
「あ、池田蒼です」
「空君に蒼君ね。2人と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくやってくれると嬉しいわ」
「はい」
「できるだけ頑張ります」
僕は確約はできないな。こんな関係も、すぐ終わる可能性があるし。
今の僕たちの関係は、かなり薄っぺらくて、すぐにでも破れてしまいそうな関係だ。そんな関係なのに仲良くやっていけるかなんて、今の僕には多分無理だ。
薄い関係は、すぐに切れて無くなってしまうものだから。
「そろそろ暗くなりそうだし帰らない?」
「そうですね、暗くなる前に帰りましょう。それではまた」
「えぇ、いつでもいらっしゃい。あ、蒼君」
帰ろうとしていると、何故か呼び止められた。名指しで。なんで?
「はい。どうしました?」
「星華をよろしくね。この子、結構寂しがりだから」
それは黒井さんに頼むべきことじゃないのか?僕に頼んだところで何もないぞ。
「それは僕じゃなくて黒井さんに頼んでください」
「それはもちろんよ。あの子にはもう頼んであるわ。でもこの子が男の子といるのなんて久しぶりなのよ。だから空君もだけど星華を背負ってきてくれた蒼君に、ね」
安心した顔してるもの。お母さんはそう言った。
本当にそうなら良かった……のか?まぁ最後まで起こさないで行けたのは良かったと思う。そこには気を使ったからね。まぁ、寝てたんだし誰の背中でも一緒だと思うけどね。
「はぁ、わかりました。それでは、さようなら」
「そうね。また会いましょう」
こうして突発的な白石さんのお母さんとの遭遇は終わった。かなり緊張したけど、何もなく終わってよかった。後は家に帰るだけだ。
「2人の家はどっち方向なんだ? 俺は一旦戻らなきゃいけないんだけど」
「僕はこのまま真っ直ぐ進んだらすぐ着くよ。途中から家の近くだってことに気付いたんだ」
「私も戻らないといけないので空君、エスコートお願いしますね」
二人はあっちの方か。2:2に別れてるのは何か物語のご都合主義のようなものを感じるぞ。
「てことはここでお別れですね。それじゃあまた明日」
また明日、か。僕のぼっち生活も終わりかな?いや、そうはならないか。結局、今まで通り僕は1人なんだろうから。
「うん。また」
帰りながら2人が話している声が微かに聴こえたが、何を話しているのかわからない。
「聞き耳を立てるのも良くないか。さっさと帰ろう」
そうして僕は夕日に照らされながら、1人でいつも通りの道を歩くのだった。
※※
さて、
「星華、そろそろ狸寝入りは辞めたら?」
恥ずかしがり屋の娘を起こすとしましょうか。
「なんで気付いたの!?」
嘘!? 帰ってるときは誰も気付いてなかったのに!
「当たり前よ。私は貴女の母親なのよ? 寝てる姿なんて近くで何回も見たんだから。それと、嘘が下手な星華の寝てるふりなんてすぐわかるわよ」
この子、昔から嘘が下手なのよね。でも、本当に隠したいことは絶対に隠し通す。全部分かりやすかったら、あの時ももっと楽だったのにね。
「そんなぁ……今回こそは誰にもバレないと思ってたのになぁ。母は強しってことか〜」
でも当たり前か。お母さんは私が隠したいことを全部当ててくる。一番隠したいことまで当てられたから、もうお母さんに隠し事はできないのかもしれない。
「ふふっ、そうね。それで?蒼君の背中はどうだったのかしら?」
ちょーーーっとまって? そこ聞いてくるのか。今私が一番聞かれたくないことを聞いてきたね。
なんとかして誤魔化させてー!!
「も、黙秘で……」
駄目だ……こんなので誤魔化せるわけがない。
「仕方ないわね、娘の恋愛事情だもの。根掘り葉掘りは聞かないわ。でも、安心できたんでしょう?」
「うん! 私のこと落とさないようにしっかり支えてくれてたし、私が起きないようにできるだけ静かにしてくれてた。それに2人と距離が空いてもあんまり揺らさないようにゆっくり歩いてくれてて〜」
そこまで言ってお母さんから向けられる温かい視線に気が付いた。そこで我に帰り、今言ったことを自覚した途端顔が熱くなるのを感じた。
「まって!! 今のナシ!!」
そう言って私は自分の部屋に走った。冷えたベッドに飛び込み、シーツで顔を抑えるが、顔の熱さは一向に下がらない。
「うぅ……」
私はベッドの上で今日の一連のことを思い出していた。
あんなに女子が苦手そうなのに、しっかり挨拶してくれたこと。
無理やり屋上に連れて行って無理なことを言ったのに、全部叶えて顔合わせに来てくれたこと。
寝ちゃった私を、優しく家まで連れて帰ってくれたこと。道中で私にかけてくれた言葉。
全部思い出しただけで顔が熱くなる。
「これって……」
いやいや、そんなわけがない。出会って1日だよ?いくら私でもそんなにちょろい訳がない。自分の心の中ではそう思っても顔は熱くなるばかりだ。
「私がここまでだったのはちょっとショックだけど……多分そういうことだよね。いや、まだ確証はないし……」
下心無しであそこまで優しくしてくれたのは蒼君が初めてだったから。
客観的に見て、自分の容姿はかなり整っている方だと思う。そのせいでジロジロ見られる事もよくあった。優しくしてくれた人が、見返りに私を求めてきたこともあった。
だから、転校してからは深く関わる人は選ぼうと思っていた。でも、蒼君は私のことをじっと見るようなことはしなかった。それが恥ずかしさからなのか、優しさなのかはわからないけど、私はその行動に救われた。
今まで、こんな人には出会えなかったから。こんな人は、他にいないかもしれないから。
だから、仕方ない事なのだろう。私の願いは今、想像を絶する速さで達成された。
……多分。
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