第6話 帰り道
「それじゃあ帰りましょう。先に星華の家に行くので私についてきてください」
僕達は帰路につく。白石さんを背負っている僕は道に気をつけながらゆっくり歩く。正直軽すぎて驚いた。ちゃんと食べているのか?
「蒼、大丈夫か? 落とすなよ?」
「僕はそんなに力がなさそうに見える?」
「見える」
「見えますね」
「だよね……」
やっぱりそう思われてたか……ちょっとは鍛えてるんだけどなぁ。
まぁ細いとは僕も思ってるから仕方ないのかな。どれだけ鍛えてももやしのままなんだよなぁ。なんでだろう。
「酷いなぁ、まったく。これでも筋トレしてるんだよ? それでもそこのそいつには負けてるんだけど」
「俺に勝とうなんざ100年早いぞ。もやしが」
「うるさいぞ脳筋」
「その脳筋にテストですら負けるお前は? 脳が筋肉以下の何かでできてるのか?」
「うるさい、僕はまだ本気出してないだけだ! ちゃんとやればお前なんか余裕よ。余裕」
負け惜しみでこんなことを毎回言ってる気がする。僕は基本的に空に勝てたことがないのだ。今年こそは1勝はして吠え面かかせたい。
「その言葉、何回も聴いたぞ?そう言って俺に勝てたことはあったかな?」
「うるさいな。ないけどその時は本気出してなかっただけだよ」
「蒼君はなんだかポンコツの気配がしますね。星華と一緒で」
ちょっと待て、あれと一緒にするのは辞めてもらおうか。流石の僕もあそこまでじゃないと思うぞ。ポンコツなのは認めたくないけど認めるよ。
「流石の僕もあのレベルじゃないよ。多少ポンコツであることは認めるけど」
「そうだな。今日会話が途切れたら蒼のポンコツエピソードで場をつなごうって思ってたぐらいエピソードがあるもんな。祝日に五割ぐらいの確率で校門前で観測される蒼君?」
「うるさい!言わなくていいんだよ!間違えることは誰にでもあるだろ!」
「それはそうですね。間違いは誰にでもあります。ですが、そこまで行くと記憶力の方も心配になりますが、ポンコツですね。それもかなりの。それこそ星華レベルの」
「黒井さんまでそうやって。僕は認めないぞ! そんなに重度のポンコツじゃない!」
まったく、失礼だな。そんなに言うなら今から証明してやるからな。
「そこまで言うなら証明してやる」
「どうやってですか?」
「できるならやってみろよ。今、ここで、ポンコツじゃない証明を」
「あぁ。やってやる、さ?」
そもそもポンコツじゃない証明ってどうやるんだろう。普段無意識にやってる事をしないことを証明って無理じゃないか? だって意識してたらそれはただのミスだから。
もしかして僕は今、自分がポンコツである証明をしたんじゃないか?
「あれ? 証明ってどうやってやるんだ?」
「そういうとこだぞポンコツ」
「やっぱりそうなんですね」
くっ、反論できない。今まさに出ちゃったからね。僕はどう頑張ってもポンコツのままらしい。
「うるさいな! 早く帰るよ!」
「誤魔化したな」
「誤魔化しましたね。誤魔化せてませんけど」
恥ずかしい。この場から逃げたい。まだそんなに遅い時間ではないからここから離脱して1人で帰りたい。誰も背負ってなかったら、という話になるから実行には移せないけど。
「後どれくらいで着くんだ? 遅くなる前には帰りたいんだが」
「僕は正直疲れてきたよ」
ある程度鍛えてるとはいえ人を背負って歩くのは初めての体験だ。流石に疲れるから変わってくれたりしねぇかな〜。
「早すぎるだろ。まだ5分くらいしか経ってないぞ。もやしが」
「流石に早くないですか? それでほんとに鍛えているんですか?」
「人を背負うのは初めてだからね。余計に疲れるんだよ」
「そうですか。今半分くらいです。あと少し頑張ってください」
立石さんの家は意外と近かったらしい。あと少し頑張ってみるか〜。
「ちなみに変わってもらえたりは?」
「すると思ってるのか?」
「だよね」
まぁダメ元だったからしょうがない。最後までやってやろうじゃないか。
「さっきから星華を運ぶことを嫌がっていましたが何か嫌なあるんですか?」
ほんとにこれといって無いんだけどなぁ。強いて言うなら……恥ずかしいとか?でもそれを告白することが恥ずかしい。
できれば誤魔化したいんだけど空がいるから無理な気がしてきた……
「別に、これといった理由はないよ。ただ面倒くさいだけ。それ以上でも以下でもない」
「そうですか」
黒井さんはこの件について、これ以上何も聞いてこなかった。もしかしたら呆れたのかもしれない。これからの関係に支障をきたすかもしれないがまぁいいだろう。壊れたら壊れただ。後は任せた、空。
「蒼お前さぁ、その理由はどうなの?もうちょっとなんかなかったか?お前らしいっちゃお前らしいけどさぁ。どうせ恥ずかしいとかだろ」
「じゃあ、恥ずかしい」
「じゃあってなんだよ。それが本命だろどうせ。恥ずかしがり屋の蒼君」
「うるさい! 女の子とは関わりが無かったんだって言ってるだろ!」
なんで本命だってバレてるんだよ! 適当に乗った感じで言ったのになんで!
僕は今までほとんど人と関わってこなかった。いわゆるぼっちってやつだったんだ。最近は空のおかげでまともな会話ができるようになっただけで、未だに同性と話すのでも緊張するんだ。恥ずかしくて当然だろ。
「そんなに関わりがなかったんですか? そこまでなるほど関わらないのも難しいと思うのですが」
「そうだよ、ほんとに関わりがなかったんだ。僕は、ずっと1人だったから。」
「そうですか」
そこからの会話は、そんなに覚えていない。たまに起きてるかどうかの確認で、白石さんに言葉をかけたりはしたかな。
僕は2人の会話に軽く相槌を打つだけだった。それはいつも、周りに複数人集まったときにやっていたことで、そこに僕がいなくても成立する。そんな感覚に襲われる。これも、いつものことだ。
そんな当たり前を感じながら僕は2人についていくのだった。
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