第5話 想定外で、想定内の結果

「それじゃあ始めましょう。星華。そっち側でやってもいいですか?」


「あ、うん。じゃあ場所交代しようか」


 そうやって軽く始まった僕と黒井さんの勝負は、とても熱い勝負になる……訳もなく想像を遥かに超える結果を叩き出した。



 白石さんにあんなに色々言ったし、そんなすぐに負ける訳にはいかない。でも空が勝ってくれたから悪くても同点。かなり気楽にできる。よかった〜。


「ちょっとそっちに寄らせてもらうね」


 僕は黒井さんの近くに寄る。そこで違和感を感じた。僕は確かに黒井さんに近寄ったはず。だが今の距離は? 近くなるどころか遠くなったように感じる。もう一度寄ってみよう。


 スッ……、スッ……


 あれ、黒井さんに離れられてる? やっぱり僕なんかに寄られたくなかったかな。


「えっと、黒井さん?」


「どうしました?」


「えっと、気のせいじゃなかったら離れていってるような」


「そうですか。気のせいだと思いますよ」


そうかなぁ。どう見ても気のせいじゃないと思うんだけど。


「そう? 嫌だったら言っていいからね。僕は辞めてもいいから」


「大丈夫です。なのでこのまま続けていいですよ。もしかして私と話しづらいから早く終わらせようとしてますか?」


 ちょっと、その話を持ち出してくる? もしかして本気だと思われてる?


「そんなことないよ!? 全然そんなことないし、楽しいよ!」


「そうですか? ならよかったです」


 そう言い、少し笑ってこっちを見てくる黒井さんに不覚にも見惚れて固まってしまった。


「蒼君? どうしました?」


「あ、ごめん!黒井さんの笑顔がき、綺麗で、ちょっと見惚れてた」


 ここは正直に言ったほうがいいね。かなり恥ずかしいけど。吃っちゃったし、気持ち悪いとか思われてないかな?


「ありがとうございます。嬉しいです」


「そう? なら良かった」


「そうやってはっきり言ってくれる人、私好きですよ」


「あう……」


 やば、これやっちゃった? でも仕方ないよね。好きなんて言われたのは初めてだから。


「蒼……」


「嘘でしょ……私にあんなに言ってたのに……」


 やってしまった。うん、自分でも驚いている。あまりにも弱すぎる。


「う、うるさいな! 女子との付き合いなんて無かったんだから仕方ないだろ!」


「仕方なくはないと思いますが。そんな調子でこれから大丈夫なんですか?ついでに星華も」


 あ、白石さんも言われてる。このまま誤魔化せるかな?


「蒼、黙ってても流せないからな。お前もだぞ」


 ですよねー。わかりきってたことなんだし逃げさせてくれよ。


「しょうがないだろ。耐性がないものは無いんだよ。諦めてくれ」


「そうだそうだー!」


「諦めるのではなく耐性をつけることを頑張ってください」


「そうだぞ。そんなので高校生活やっていけるのか?男女で何かすることぐらいいくらでもあるだろ。コロッといっちまうぞ」


それはそれでいいんじゃないか?恋について知るってことならその方が効率良く感じるけど。


「確かに……それは良くないね。蒼、一緒に頑張ろ!」


「僕は別に頑張らなくてもいいんだけど。それに白石さんはコロッと堕ちてサクッと恋人作った方が目的は達成しやすいんじゃない?」


「うーーん。なんか違うんだよね。私は恋人が欲しいんじゃなくって恋について知りたいだけなの。結果としてできるんじゃなくて落ちるまでの過程の感情だったりを知りたいって言ったらいいのかな? そういうのを知るために蒼を誘ったんだし。」


 難しいや。と笑う白石さんだが、そういう理由で僕を誘ったなら僕とそういうやり取りをしたくて誘った。みたいに聞こえるから辞めてほしい。勘違いしそうだ。


 それと僕に気楽にそんな笑顔を見せないでほしい。照れる。


「星華。それだと蒼君と恋人になるまでのやりとりをしたいってことになりますけど、公開告白ですか?まぁ、ちょろい同士お似合いですよ?」


 黒井さんが茶化してくる。僕もだいぶ恥ずかしいが立石さんの顔が真っ赤だ。もはやりんごを超えてトマトだ。どっちも一緒か。


「そ、そういうことじゃない!!!」


「真っ向から否定されるのもちょっと悲しいね」


 勘違いしないでよ! とツンデレの定型文みたいなことを言ってくるがただ可愛いだけである。顔を赤くしてこっちを睨んでいる。全然圧を感じなくて、威嚇してくる小動物みたいだ


「かわいいなぁ……」


「ひゃうっ!?」 


「なに? 急にどうしたの? びっくりした……」


「無意識みたいですよ? あいつちょろいくせに意外とやりますね栞さん」


「そうですね。思ったより手が早いみたいでびっくりですね空さん」


 なんの話だ? ほんとにわからないんだけど


「蒼? えっと、その。」


 白石さんがこっちを見てくる。助けを求めてるのかな?僕じゃ力になれないと思うんだけど。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど私達まだ会ったばっかりだしもっと色々知り合ってからの方がいいよね?もうちょっと返事は待っててね?いい返事ができるかはこれからの蒼の頑張り次第だよ?」


 急に何を言ってるんだ?頭がおかしくなったのか?いや、元々か。僕に声をかけてきた時点でどこかおかしいんだと思う。


「えっと……急に何を言ってるの? おかしくなっちゃった?」


「星華、多分蒼君は気付いてないですよ? 後、そこまでは言ってません」


「え? てことは……」


「また星華の独りよがりってことだな」


「うう……ああああああああ!!!」


 あ、撃沈した。また勘違いをかましたのか白石さんは。ほんとにポンコツだなぁ。でも、そんなところが「凄く可愛いと思うんだよなぁ……」


「あぴゃっ!? うみゅう……」


あれ? また変な声出してる。本格的に壊れたのかな?


「こいつやっぱ本当は落としまくってるやり手なんじゃないか? 女の子と関わりがないとか嘘だろ」


「そうですね。恐らく無意識でしょうし関わりがないというのも嘘ではないと思うんですが。天然なのかな。現実でこれをやる人は初めて見ました」


「二人はなんの話をしてるの?」


 軽く聞いてた感じは僕のことみたいだけど、今何かやったかな?もしかしてどこかで何か失礼なことをやっちゃったとか?それだったら謝りたいな。


「いや、なんでもないよ」


「なんでもないですよ」


 なら安心だ。僕の少し曇った心が晴れていく。悪い方に考えすぎるのは僕の悪い癖だ。治さないとな。


「そっか。ならいいや。というか白石さんどうするの?動かないけど」


 つんっ、と突いてみるが全然動く気配はない。叩けば起きるかもしれないけど女の子相手にそれはできない。どうやって起こせば……


 異性に触られるのは嫌かもしれないし、公共の施設で大声で起こすわけにもいかない。これ以上僕にできることは無いな。黒井さんに頼もう。


「黒井さん。白石さん起こしてもらえる?」


「どうしてですか? 蒼君が起こせばいいじゃないですか。」


「ほら、僕が色々ベタべタ触るのもあんまりよくないじゃん。だから黒井さん、お願い」


「そうですか。星華の寝起きは面倒くさいので私はやりません。空君は?」


「いや俺は論外だろ」


「そうだね、空は論外だ。色々と駄目そう」


「色々とってなんだよ!」


「そうですね。駄目かも」


「えぇ!? 栞ちゃんまで!?」


「黒井さんにも言われたらおしまいだな。なんか駄目そうなんだろ。空は」


「なんでだよ! そんなに駄目なところあったかなぁ……」


 などと3人で話していると隣から寝息が聴こえてきた。……寝息!?


「え、待って? 白石さん寝てるよねこれ。自由すぎるよ」


「え、嘘。そんなことありますか? 流石に星華とはいえ……寝てますね。」


「この状況で寝れるんだな。逆に凄いというかなんというか」


 正直びっくりだ。急に悶え始めたと思ったらいつの間にか寝ているのだ。自由がすぎる。


「これどうするの? 置いて帰るわけにはいかないし、起きるの待つ?起こすのは可哀想だよ」


「そうですね。仕方ありませんし少し待って起きなかったら解散にしましょう。開いた当事者が寝てるのは如何なものかと思いますが。」


「了解。でも起きなかったらどうするんだ?誰かが運ぶのか?」


「二人のどっちかにお願いしたいです。私じゃ力が足りないですし」


 まぁそれは仕方ないな。でも僕にできるかな?そもそも僕に運ばれるのは嫌なんじゃないか?まぁ空に押し付ければいいだけの話か!


「じゃあ空、頼んだ! 僕じゃ力不足だ!」


「はぁ? 人に押し付けるんじゃねぇよ。お前でもできるだろ? じゃんけんしようぜ」


 嫌だ、やりたくない。僕は致命的な欠点がある。ゲームの中でもひとつだけ異常に弱いものがあるのだ。何を隠そう、じゃんけんが弱いのだ。弱すぎるのだ。勝率はなんと2割。もしかしたらもっと低いかもしれない。


 現実的にあり得ないと思われるかもしれないが、これが僕なのだ。それを知ってて仕掛けてきやがったな空のやつ。


「嫌だよ。他のことで決めない? 空の思惑はわかってるんだから」


「えー。楽だからいいじゃん。それ以外何もないぞ。考え過ぎだ、蒼」


「そんなわけないでしょ! 僕がじゃんけん弱いの知ってて仕掛けてきてるよね!」


「バレてるか。それじゃあじゃーんけーん」


 強引に始めやがった! ふざけるな!


「ぽん!」


 空が出したのはパー。僕が出したのはグー。つまり僕の負けだ。


 やっぱりこうなるのか……


「ほらみたことか! 僕はじゃんけんが弱いんだ!」


「乗ってくるお前が悪いだろ。スルーしたら良かったのに、そのまま続けるからこうなるんだ」


 ぐうの音も出ない。何も出さなきゃよかった。いや、急に始めた空が悪いな。うん。


「じゃ、蒼頼んだぞ〜」


「くそ……」


 仕方ないから運ぶかぁ。落とさないように頑張ろ。いや、起きてくれるのが一番いいんだけどね。


「起きてくれることを願おう。僕は運びたくない。」


「どうしてですか? 星華は可愛いですし男性としては約得なのでは?」


 確かに約得ではある。約得ではあるけど僕にできるのかが不安なのだ。なにより面倒くさい。


「約得だけどさぁ。男だと誰でも嬉しがるってわけでもないんだよ?」


「どうしてですか? 男なら誰しも喜ぶものだと、お母さんからは聞いていたのですが」


 随分と変な教えだな。黒井さんのお母さんは世の中の男をなんだと思ってるんだ……とんでもなくちょろいと思ってない?


 僕が言っても説得力無いか。


「そんなことないと思うけど。僕には僕なりの考え方があるし他の人にもそれがある。空も嬉しい! とは思ってないんじゃないかな?」


「いや? 嬉しいぞ?」


「じゃあお前がやれよ!」


「なんでだよ。負けたのはお前だ。お前が運べ」


 蒼君は何がそんなに嫌なんでしょう?私から見ても星華は可愛いと思うし、正直私が男なら嬉しいと思います。どうして?


「起きそうにないですし、帰りますか」


そのまま数分話していたが白石さんは起きる気配はなく僕達は帰ることになった。


僕が運ぶのかぁ……

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