第19話 朝からやりとり
『ピロン』
朝5時半、珍しくメッセージアプリの通知音が鳴って目が覚めた。朝からなんだ? 公式の通知は全部切ってるから誰かが何か送ってきたんだろうけど、こんな朝から?
不思議に思いながらもスマホを確認する。そこに表示されたのは白石さんの名前だった。偶に連絡してくることはあるけど、こんな朝早くから送ってくるのは初めてだ。
不思議に思いながら確認すると……
『緊急連絡!』
『至急確認せよ!』
どういうこと? 今連絡しないといけないようなことって何があるの? とりあえず聞いてみよう。
『何が?』
『勉強会!』
『今日栞とするから来て!』
なんだ、そんな緊急の事でも無いじゃんか。昨日その話をしなかったし、そのまま流れて無くなるものだと思ってたんだけど。
『なんで僕も行かなきゃいけないの?』
『別に行く必要ないでしょ』
『私が一緒にやりたいから来ないと駄目!』
『凄い正直に言うね。びっくりしたよ』
『昨日勢いで好きって言っちゃったからね。もう吹っ切れて真正面から行こうと思って』
『そうなんだ。てことは昨日のはドッキリとかじゃなかったってことだよね?』
『当たり前じゃん。そんな嘘はつかないよ』
どうやって返せばいい? 嘘であってくれた方が楽だった。メッセージでは平静を装っているけど、昨日の事が冗談じゃないと聞いて心臓がバクバクだ。
昨日家に帰ってから、ずっと考えていた。僕は白石さんのことをどう思っているのかを。
間違いなく友達だとは思っている。友達じゃなきゃ、毎週家で遊ぶようなことは無いと思うから。じゃあ、それ以上の感情はあるのか? そう言われるとわからない。僕にとって特別な存在だとは思っているけど、ただの友達の関係でも僕にとっては大切で、特別な存在になるから。
『おーい、見てるのはわかってるよー。既読無視しないでよ〜』
『どうしたの?』
『おーい』
『大丈夫?』
『何かあった?』
『返事しないなら家に行くよ?』
どうやって返そうか悩んでいる間にも、白石さんからの連絡が次々と飛んでくる。何でもいいからとりあえず返そう。こんな時間でも、白石さんなら本当に来てしまいそうだから。
『何もないよ。考え事してただけだから気にしないで』
『むぅ、適当な理由をつけて家に行こうと思ったのに。なんでそこだけしっかり返事するの』
『朝から来てほしくないから』
『辛辣!』
休みの日の朝くらいのんびり過ごさせてほしい。僕にとって、朝に何もしなくてもいい日っていうのは貴重な日だから、1人でのんびり過ごしたい。
『休みの日ぐらいゆっくりしたいからね』
『そっか、今日は休みだから蒼も忙しくないんだ。もしかして起こしちゃった?』
『うん。通知音で起きたよ』
『ごめんね。今日はもう昼まで連絡しないようにするから、ゆっくり休んでね』
『そんなに気にしなくて大丈夫だよ。でも、ありがとう。じゃあもう一回寝るから』
『うん。おやすみなさい』
これでやっと寝れる……今から寝たら10時くらいには起きれるかな。
起きたらまた考えよう。彼女の事とか、自分の変化とか、色々と。
今はとりあえず、これだけ返しておこう。
『おやすみ』
そうだ、寝る前に通知を切っておこう。さっきみたいに起きたくないからね。
※※※
「本当に寝ちゃった」
返信の帰ってこなくなった画面を見て呟く。寝てるところを起こしちゃったみたいだし、当然といえば当然かな。いつも忙しそうにしてるから、ゆっくり休んでほしい。
勉強会が始まったらまた連絡してみようかな。今回は近くのファミレスでやるつもりだけど、来てくれると嬉しいな。好きになった人と一緒に勉強するの、憧れだったんだ〜。
そうだ、栞にやる場所伝えとかないと。私の家に来るのとそんなに変わらないし、直前でも拒否はされないと思うんだけど、念の為早めに連絡しとこう。
『今日ここのファミレスでやろ〜』
まぁ、まだ起きてないだろうからこんなに早く送る必要はなかったかもね。
何をしようか。今の時間ならもう一回寝てもいいけど、かなり目が冴えてきてしまっている。暇だし、朝ごはんでも作ろうかな。色々教えてもらったし、試すいい機会だ。
最近、家に突撃して蒼君の料理を食べる機会が何回かあった。家に押し入る形だったから、最初の方は度々文句を言われた。どこからか、そんなことは無くなったけどね。今思えば、その辺から私のことを友達だと思ってくれていたんだと思う。
嬉しいことだけどそれは置いといて、蒼君の料理しているところを見させてもらう機会がかなりあった。一緒にやったりもしたけど、息ぴったりで夫婦みたいだったなぁ……料理のできる夫っていいよね。
「蒼君と夫婦……いいな」
まだ付き合ってもないのに、結婚生活を思い浮かべて顔を赤くする。仕事から帰ってきた蒼君を玄関で私が迎えて……いや、家事が得意な蒼君が家にいて、仕事から帰ってきた私に温かいご飯を出してくれる……良いな。それなら私も仕事を頑張れそう。抱きしめてくれるともっといいな……
「星華、お疲れ様。今日も頑張ってきて偉いね。ほら、こっちおいで……なんてね」
できるだけ声を似せて言ってみるけど、全然似てないし、キャラもおかしい。蒼君はそんなこと言わない。多分、もう少し冷たい感じで声をかけてくると思う。例えば……
「よし。ご飯にしよう」
ひとしきり妄想に浸った後、適当に朝ご飯を作り始める。目も冷めてきたし、安全にできるはずだ。
「せっかくだし、みんなのぶん作っとこうかな。成長した私を見せるとき!」
作り終えるぐらいにはみんな起きてくると思うし、食べてもらお〜っと。俄然やる気が出てきたよ!
「えっと、これをこうして……」
教わった通りの手順で進めていく。まだまだ手つきはぎこちないけど、しっかりとできている。私が普段作る物と味が違うからみんなびっくりするかな?
「よし、いい感じにできた。蒼君にも食べてもらいたいなぁ」
最近、いつも蒼君を基準に考えてしまっている気がする。これ蒼君だったらどうするかなぁ。とか、ここにいたらなんて言ってくれるかなぁ。とか。私の生活の一部に蒼君が入り込んできてる気がする。こんな短期間でも、ここまで好きになれるもんなんだなぁ。早く会いたい。
「星華、おはよう。ごはん作ってくれてたの?」
「あ、お母さんおはよう! 朝早く起きちゃったからね。いつもと違うと思うから、期待しといて。お父さんは?」
「まだ寝てるんじゃない? 最近仕事が忙しいみたいだし、そっとしておいてあげましょ」
お父さんは寝てるのか。三人分用意したけど、いらなかったみたい。お父さんにも食べてほしかったんだけどなぁ。
「そっか。用意したんだけどいらなかったかぁ。お父さんにも食べてもらいたかったんだけど。特訓したからね」
「それは蒼君の家で? 仲がいいのね」
どうしてバレてるのか不思議に思ったけど、家でやってないのは食材の減りでわかってると思うし、そもそも私の家に呼んだことはない。それに加えて最近は出かける用事が蒼君の家に行く事だけになってたから、当たり前か。
「うん! 友達だからね!」
「恋人じゃなくて?」
お母さんの中ではその認識だったの? こんな短期間でなれるわけないじゃん。なれるものならなりたいけど、相手が相手だけに苦戦するのは目に見えている。
「違うよ。OKどころか、まだ返事すら貰ってないし。はい、これ朝ごはん」
「ありがと。私は星華は贔屓目無しに優良物件だと思うんだけどねぇ。随分とガードが硬いこと」
「ガードが硬いんじゃなくて、そんなことは全く想定してなかったし、気にも留めてなかったからどう動けばいいのかわからないんだと思う」
「なるほどねぇ。それにしてもこの味付けいいわね。蒼君の家の味付け?」
「多分ね。蒼君のオリジナルだと思う」
「家事ができて、星華のわがままにも付き合ってくれる。ガードが硬いから浮気もしないと思うし……絶対逃がしちゃだめよ? 貴女のわがままに付き合いきれる人なんてそういないんだから」
実際そうだ。蒼君よりいい人なんてそう現れないと思う。まぁ、元より逃がすつもりはないけどね。
「逃さないよ、当たり前じゃん。こんなにも人のことを好きになったのは初めてなんだから」
どこまで行っても追いかけるよ。今の私は、君無しじゃ駄目なんだから。
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