第13話 3人の帰り道

 私達は蒼君の家を出た後、近くのベンチで話していた。


 かなり暖かくなってきたとはいえ、まだまだ夜は寒いし、今日は風も強い。おまけに制服であまり防寒もできていないため、特に何もなかったら帰ってたと思う。でも、私は2人と話したいことがある。


「2人とも、ちょっと話いい?」


「別にいいけど、寒いから早めにな?」


「思ったより早く帰ることになったので、私も大丈夫ですよ」


「よかった……ありがとう。で、相談なんだけど」


 私は今の胸の内を打ち明ける。


「蒼と連絡先交換したいんだけど……どうすればいいかな……?」


 私がそう言うと2人は


「帰るか」


「そうですね」


 待ってーーー!! 帰らないでーー!!


「待って待って待って! なんで帰るの!」


「想像以上につまらない理由だったから」


「私達に相談するほどのことでもないことだと思ったので」


「ひどくない!? ちょっとくらい助けてくれてもいいじゃん!」


「つってもなぁ、一言声かけるだけでいいだろ。何をそんなに悩む必要があるんだ?」


「だって……恥ずかしいじゃん」


 ただの友達に聞くのと、好きな人に聞くのじゃ全然違うんだよ! 私も聞こうと思ったけどさ、なんか、こう、ねぇ?


「へたれ」


「なんで貴女はそうなるんですか……わたしにやってきたようにやればいいじゃないですか」


「好きな人に聞くのはまた違うんだよ! 2人はその経験がないからそんなことが言えるんだ!」


「確かにそんな経験はないけどさ、連絡先聞くだけでそんなに緊張することはないだろ」


「嘘!? みんなそんなものだと思ってたんだけど……」


 私ってもしかして変なの? いや、そんなことはないはず。


「そんなわけないじゃないですか。星華がおかしいだけですよ」


「まぁそういう人もいると思うぞ。もしかしたら俺たちが少数派かもしれないしな」


「そうだよね。私が多数だと信じるよ!」


「じゃあ今から蒼に聞いてみるからその結果で決めるか」


 ……まって? 蒼君に聞くの? そんなことしたら私が蒼君のこと好きなのがバレちゃったりしない? ちょっと心配なんだけど。


 もしバレれたらおかしいと思われて引かれないかな? この速さで人のことを好きになったなんて、軽いと思われないかな?


「え、聞くの? 蒼に」


「おう。星華が交換できなかった連絡先を使って聞くぞ」


「一言余計だよ!」


「蒼君に聞くのは賛成ですが、聞き方は考えてくださいね?」


 栞〜〜〜! 栞ならわかってくれるって信じてた! そうだよね。私が発端って知られたら交換したいって思ってる対象がほぼ確定しちゃうもんね。私がちゃんと喋った男の子って蒼君と空君だけだから。


 対象が空君だったら相談する前にここで交換すればいいし、恋を知りたいって言っちゃったから昔の知り合いって線も消える。ちょっと考えたらそこまでわかっちゃうから消去法で蒼君だけになる。ちょっと考えたらわかりそうだから怖い。


「え? もう送ったけど」


「嘘! なんて送ったの!?」


「『気になる人と連絡先を交換するのに緊張する! って星華ちゃんが悩んでたんだけどお前はする派?しない派?』って」


 あっ……これは流石にバレるかも……


「空君……本気ですか?」


「おう! ストレートに聞かなきゃあいつはわかんねぇからな」


「そうですか……」


「そ、それで! なんて帰ってきたの?」


 そっちが重要だ。少しでも気付いたような素振りがある返信だったらどうしよう……明日からどうやって接したらいいのー!


「まだ帰ってきてないから、落ち着けって」


「誰のせいでこうなってると思ってるの!」


 お願い! 全く気付かれないのはちょっと複雑だけど、超絶鈍感であって!


「お、帰ってきた。どれどれ? 『白石さんって気になる人できたんだ。頑張ってって伝えといて。僕はする派かな』だってさ」


「ほら! 蒼も緊張するって! 私だけじゃないんだよ!」


「蒼君に聞いたのは間違いでしたね。友達相手にも緊張してそうなので」


「確かに。でもこれで半々か〜、決まらなかったな」


「蒼……私の味方だと思ってたよ!」


「それに、この感じだとやっぱり気付かなかったみたいだな。あの鈍感ポンコツ男は。ちょっとだけ期待したんだけどな」


 え?天然じゃなくて故意的にやったの?これは怒ってもいいやつだよね?


「空、わざとやったの?」


「そうだけど」


「気付かれたらどうするつもりだったの?」


「考えてなかったな……もしそうなってたら星華ちゃんが頑張るだけだろ。てか、気付かれないと思ってたし」


「私が頑張るだけって……何も考えてないじゃん! 結果的にバレなかっただけだよ!」


 空君、これは流石に適当すぎるよ……これで本当にバレてたら、私はどうしたら良かったんだろう。


 彼には、私の気持ちを知ってほしい。でも、それは自分で伝えるか、私の言動から察してほしい。決して、誰かからの又聞きで知ってほしいことじゃない。


「確かに、そうだな。悪かったよ。次からは気をつける」


 ほんとだよ! こういうのはもう辞めてよね。


「余計なことをするのは変わらないですね。空君」


 今の、栞? 普段より低い声で一瞬わからなかったよ。そんなことより、変わらない? 2人って、会ったことがあったりするの?


「うるさい。人の性格なんてもんはそんな簡単に変わるもんじゃねーんだよ。そっちこそ、反省したことに口出してくるところは変わらねーな」


 空君も? え? いつから?


「えっと……2人は、知り合いだったの?」


「そうだな。昔から家が近所で、所謂腐れ縁ってやつだ」


「幼馴染です」


 2人で言ってることが違うんだけど!? 仲の良さにかなり違いがありそうな表現なんだけど!


 私的には幼馴染は仲がいいってイメージだけど、腐れ縁って言われるとそんなにいいイメージがない。どっちー!?


「えっと……つまり昔からの知り合いだったってことでいいんだよね?」


「そうですね。その認識で大丈夫です」


「にしても空がねぇ……」


「なんだよ」


「栞があ〜んなに嬉しそうに話してた幼馴染の話が空のことだったとは」


 中学の頃は凄かった。正直鬱陶しいくらいだったもん。『あの時幼馴染が〜』って何回聞かされたことか。


 そのせいで私も空君についてかなり詳しくなっちゃったし。最近落ち着いたと思ってたけど、同じ高校に入るんだからそりゃ落ち着くよね。


「せ、星華! それは誰にも言わないでって!」


「へ〜、栞がそんなに俺のことをねぇ。ふ〜ん」


「なんですか。悪いですか」


「いや? 悪かないけど?」


「じゃあ良いじゃないですか」


「そうだな。俺のことがそんなに好きだったか」


「なんでそうなるんですか! 空の痴態を晒していただけですよ!」


 この調子でずっと言い合ってるけど、2人とも楽しそう。ぱっと見ただの喧嘩だけど、ちゃんと聞くと仲がいいのが伝わってくる。


 この空気感、なんかいいなぁ。お互いに好き勝手言い合って、それでも壊れずに普通に続く関係って、なんか憧れるな〜。


 でも、そろそろ辞めてもらわないと話が進まない。それに帰れなくなりそうだ。


「言い合いするのはいいけど、後にしてくれない? 私の話もまだ終わってないし……」


「ああ、悪い。でも、話って終わったんじゃ?」


「流石にあれだけじゃないよ! あれだけなら帰りながらでもいいからね。本題はこっち」


 私は本来聞きたかったことを空君に聞く。もし知ってたら、多分長くなるからね。


「蒼の家族について、何か知ってる?」


「あぁ、その事か。それについては何も知らないぞ。宛が外れたな」


「そっか。じゃあ本人から聞くしかないんだ」


 空君なら何か聞いたことあると思ってたんだけどなぁ。そんな簡単にはいかないか。


「そもそも知ってたとしても俺は教えない。あいつは優しいから、聞いたことは基本的に教えてくれる。それでも教えてくれなかったってことは、あいつが言いたくないことだってことだ。それを、俺が勝手に人に教えることはできない」


「そっか……ごめん。変なこと聞いた」


「いや、気になるのもわかるからな。仕方ねーさ。でも、人の家族事情に自分から首突っ込むのは良くないと思うぞ」


 そっか。そうだよね。やっぱり、話してくれるのを待つしかないみたい。私が、頑張らないと。


 でもどうやって?どうすればいいの?蒼君を救うなんて、どうやったら……


「星華。ひとりで背負う必要はありません。私達で、みんなで頑張ればいいんです。私も、彼をまた、1人にさせたくはないですから」


「栞……うん。そうだよね。」


 少しは、気持ちが軽くなった。でも、私が頑張ることに変わりはない。私が、彼を助けるって言ったのだから。


 頑張ろう。押し付けかもしれないし、私の自己満足かもしれない。でも、私がやりたいから。


 ごめんね、蒼君。君は望んでないかもしれない。でも、苦しそうだった君を救いたいから。ちょっとだけ、私の身勝手に付き合ってもらうから。


「よーし。これからみんなで頑張ろっか! じゃあ、解散!」


「はいはい。じゃー帰るか」


「全く、いつもいつも急ですね」


「私が引き止めたのにごめんね〜」


 今日のところはこれで解散。2人は私と別れた後でまたじゃれつくのかな?全く、嫉妬しちゃうな。私にはまだ相手がいないってのに。


 私も早く彼とそういう関係になりたい。でも焦ったら駄目。心を開いてくれるまで、最低でも『友達』のラインになってから始めないといけない。


 あーあ。難儀な人を好きになったな、私は。


 頑張らなきゃね!

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