第12話 放課後、僕の家
家に帰ってきた。相変わらず誰もいない、寒い家だ。暖房をつけないとね。
「じゃあ私の荷物取ってくるね〜」
真っ先に洗面台に向かう白石さん。仕方ない。台所で手を洗うとしよう。あ、ついでに飲み物とか用意しようかな。何かあったかな……
ふと机の方を見ると、3人が楽しそうに談笑していた。僕の家に僕以外の人が3人もいる。そんな光景に少し感動してしまう。こんなのはいつ以来だろうか。どうしても、あの時期と重ねてしまう。懐かしいなぁ……あの時は、僕もみんなと同じように楽しめていた。
「蒼〜まだ〜?」
「星華、わがままで家に来させてもらったのに、更にわがままを重ねないでください。みっともない」
「もうちょっと待ってて。何もなかったら飲み物だけになるけど、大丈夫?」
「大丈夫だが……蒼、お前の家そんなに何もないのか?」
僕の家にはお菓子とかの類がほとんどない。そんなものにお金を使うくらいなら食材費に回したい。食べたくなったら自分で作ればいいしね。
「無いよ。何かほしいなら作るけどどうする?」
「そこまでしなくても大丈夫だよ! 押しかけたのにこれ以上迷惑かけるわけにはいかないし」
「別に迷惑でもないから大丈夫。それに白石さんは朝も食べていったでしょ。今更だよ」
これは言わない方がよかったか? 若干2名の顔がおもちゃを見つけたかのような顔に変わった。ごめん、白石さん。
「蒼、ホットケーキとか作れるか?食べたくなった」
「わかった。作るから3人で話しといて」
よし。僕は逃げれた。あとは頑張って。
「星華? 説明、して貰いましょうか」
「えっと、何を?」
「聞かなくてもわかるでしょう? 朝のことですよ」
「だよね……」
「朝ごはんを食べたって、何時から蒼の家にいたんだ?」
「大体5時くらいだったかな?」
「早くないですか? そんなに早くからなんで蒼君の家に?」
「それはね〜――」
質問攻めだ。朝のことは一部答えられないけど、答えれる範囲で答える。そんなことを続けていると蒼がこっちに来た。出来たのかな?
「一旦4つ作ったけど、まだ欲しい人がいたら言って。また作るから」
「美味しそう! 流石蒼!」
「お前、こんなことできたのか。なのに調理実習は参加してなかったよな。どうしてだ?」
「入れてもらえなかったからだけど」
「そ、そうか。悪いこと聞いたな」
「別に。全く気にしてないから大丈夫」
そう言ってパンケーキを口にする。うーん。いつもより上手くできてないな。失敗したか。
「美味しいですね。いつから料理を?」
「大体小2ぐらいからだったかな。お母さんに教えてもらいながらやってたんだよ」
「そんなに前からやってたの!? 通りで上手いわけだぁ」
「でも今回のはちょっと失敗かな。ちょっと焼きすぎちゃった」
「確かに、気持ち硬い気がするけど気にする程のことでもないだろ。失敗か?」
「失敗だよ。料理だけは完璧にやりたいんだ」
料理は、お母さんに教えてもらえた数少ないことの1つだから。これだけは完璧にできるようにしたいんだ。
「その熱量を勉強にも向けてくれると嬉しいんだけどな」
「断る、と言いたいところだけど、今年からは向けてみようかな」
「お、急にどうしたんだ? 女の子の友達ができたからカッコつけたくなったか?」
「そんな理由じゃない。それと、僕達の関係は『協力者』だ。友達じゃない。」
「蒼、お前な」
空が詰め寄ってくる。でも僕からすればそういう認識なんだ。『友達』ではなく『協力者』
「僕の中ではそういう認識なんだよ」
「蒼は私達のこと友達じゃないと思ってたの?」
「そうだけど」
逆に友達だと思っていたことにびっくりした。たかだか1日2日の付き合いで友達だと思われるんだ。そういう物なのかな?
「そっか。蒼はそう思ってたんだね」
「蒼君……」
「じゃあ、今から友達ってのは、駄目?」
そんなに軽くなれる物なんだろうか。友達には。もっと色々知ってから、お互いを信用できるようになってからなるものじゃないのか?
「そんな軽くなるものなの?友達って」
「蒼、お前は色々考え過ぎなんだよ。そんなに難しく考えるな。偶には感情的に動くのも大事だぞ」
難しく考えてるのかな? 僕は。裏切られたくない。だから色々考えてるだけなんだけどな。
「色々考えてるみたいだけどさ、私がいいって言ってるからいいの!」
「白石さん?」
相手に言われたからいい? 相手が嘘をついていたら? 裏切られるかもしれない。だから、信じきれない。
「大丈夫ですよ。星華は人間関係において、嘘をつきません。私も保証します」
「黒井さん……」
でも……僕は……
「蒼、お前がどうしたいかじゃないんだ。俺達が、お前と、どうありたいか。なんだよ。俺達がなりたいからなる。お前がきっぱり拒否しない限り、俺達は引き下がらないぞ」
拒否……できるはずがない。僕なんかに寄ってきてくれる人を自分から遠ざけることは、僕にはできない。
だから僕は人と関わるのを避けた。関わると裏切られるなら、人と関わりたくない。でも僕は人を遠ざけられない。それなら、自分から遠ざかればいい。そうやって自分を守ってきた。
いいのかな? 僕なんかが友達になっても。でも、こんな僕相手にも寄ってきてくれる。そんな人達を、突き放すなんて僕にはできない。でも……
「ごめん、考えさせてほしい。今すぐには、ちょっと難しい」
「うん。大丈夫。でもこれから今まで以上に攻めるからね。信頼してもらうためにも」
「そうですね。積極的に行かないといけませんね。星華のためにも」
「そうだな。星華のためにもな」
なんでそこで白石さんが出てくるんだろう?
「なんで私が出てくるの!」
「だって、ねぇ」
「言い出したのは星華なので」
白石さんが……?
「なんで?」
「だって今朝の蒼、苦しそうに見えたから」
やっぱり顔に出てたか。隠せたかと思ったけど、僕はやっぱり嘘が下手みたいだ。
「そっか。なんか、ごめんね」
「全然大丈夫だよ! じゃあこれで暗い話は終わりね」
「うん、ありがとう」
やっと僕への問い詰めが終わった。でも、考えとかないとな。僕がみんなとの関係をどうしたいのかを。僕が今したいことは、何なのかを。
「私達のことばっかり聞いてくるけど、朝空と栞も一緒に来なかった?」
「行きに出会っただけだよ」
「そうですね。合ったのでどうせなら、ということで一緒行っただけです」
ホントか?昨日の帰りに何か話してたみたいだし、約束でもしてたんじゃないのか?
「僕達だけ色々聞かれるのも不平等だからね。2人にも色々聞かせてもらうよ」
「特に無いだろ。面白くもないぞ」
「じゃあ聞かせてもらうけど、昨日の帰り何を話してたの?」
「ずっと黙ってましたね。喋ってませんでした」
「それは嘘だよ。私2人が話しながら帰るの聞こえてたよ?」
「寝ぼけてただけじゃないか?それか夢」
「起きてたよ?」
「え? ほんとに?」
それは聞き捨てならないんだけど。起きてたなら降りて歩いてくれたら良かったのに!
「うん。運んでくれてありがとね! 心地よくて二度寝しそうだったよ」
「起きてたなら言ってよ! 凄い疲れたんだから。人間って重いんだよ?知ってる?」
「蒼……お前……」
「そんなにデリカシーが無い人だなんて……」
「そっかぁ……重かったかぁ……」
え?僕何か悪いこと言った?実際人って重たくない?高校生って大体40キロ超えてると思うんだけど、40キロって大体米の袋4個分だよ?10キロとかでも全然重たいと感じるのに、その四倍なんて重たいに決まってる。
「えっと……何? その反応」
全然わかってなさそうな僕の反応を見て、3人はため息をついた。なんで?
「蒼、女性に向かって『重たい』は禁句だぞ」
え、そうなの?
「……マジで? なんで?」
「どうしてかと言われると難しいな……俺にもわからん」
2人はわかるか? と空が聞く。僕のが駄目なら、それもデリカシーに欠ける発言なんじゃないかな。
「それを私達に答えさせる辺り……空君も相当ですね」
「空も蒼とあんまり変わらないよー!」
「失礼な! 蒼よりはマシだろ」
「それは僕に失礼だよ。空」
「どっちもどっちだよ!」
「そうですね。2人とも気をつけてください」
はーい。と頷く僕と空。なんとかできるように頑張ろう。友人と呼べるようになるかもしれない。そんな人達を失望させたくないからね。
「それで? 流れそうになったけど、なんで星華ちゃんは起きたのに背中に乗ったままだったんだ?」
「今の流れで誤魔化せたと思ったのに! なんでそこに戻るの!?」
僕も実は気になっていた。人の背中にいるのは楽だけど、いつ落ちるか不安だと思う。あと普通に恥ずかしくない?
「僕も気になるな〜。教えてくれる?」
白石さんの正面で、首を傾げて顔を眺める。
……やっぱり綺麗な顔してるなぁ。
「あうあう……」
「星華、落ち着いてください。顔を見られてるだけでそんなに動揺してどうするんですか」
「だってぇ……」
「あ、ごめん。嫌だったよね。見ないようにするよ」
「違うの! そういう訳じゃないよ。嫌だったわけじゃないの。その、恥ずかしいだけだから……見たかったら、その、どうぞ?」
……かわいい。いつも明るい人が塩らしくなってこっちを見てくる。元々可愛いけど仕草まで可愛いと本当に良い。
「そこ2人、急にイチャイチャしだすな」
「してないよ! 見ていいって言われたから見てただけだよ!」
「なるほど。ずっと見ていられる顔だった、と」
「それは間違えてないけどさぁ」
「2人とも、目の前で言わないであげてください。星華の顔が真っ赤です」
「うぅ……恥ずかしい」
「悪い」
「ごめんね」
「もう。私は寛大だから許してあげる! 蒼は私以外にこんなことやっちゃ駄目だからね!」
他の人にやることはないと思うけどなぁ。そもそも、僕が他の女の子と関わりを持ってないからね。
「わかったよ。大丈夫だと思うけどね」
「もしもがあるでしょ」
「ないよ」
「あるの!」
このままだと埒が明かない。でも僕から引くことはしたくない。誰か助けてくれー!
「だからイチャつかないでください。いい時間なので私たちは帰りますよ」
「星華ちゃん、お先~」
「あ、待ってよー!」
「3人ともまたね」
どうせ次会うこともあるだろう。別れの挨拶なんてこんな軽いもので十分だ。
「あ、そうだ。蒼! ちょっといい?」
「いいけど……どうしたの?」
白石さん?何があったんだろう。何か気に触ることでもしちゃったかな?
「蒼が何を抱えてるのか、なんでそんなに後ろ向きなのか私にはわからない。だから、教えてもいいって思えるようになったら教えてくれる?」
どうして、ここまで僕のことを気にしてくれるんだろうか。出会ったばかりなのに、どうしてこんなに優しくしてくれるんだろうか。こんなにも良くされたら、その優しさに甘えたくなってしまう。
いいのかな? 甘えてしまっても、共有してしまっても。わからない。でも、いつかは話せるようになったらいいな。そうやって思う。
「いつかね」
そう思ってても、こうやって曖昧にしか答えられない自分が嫌になる。
「うん。それじゃあまた明日」
僕以外いなくなった家の中で、1人ため息を吐く。今日もまた、1人だ。
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