第10話 いつもとは違ういつもの道

 僕はいつも通り学校への道を歩く。だけど今日はいつもと違って横に人がいる。2人で通学路を歩くなんて、初めてのことだ。


「聞いてる? 蒼!」


「ん? 何?」


 白石さん、何か言ってたのかな?誰かと並んで歩くのが新鮮すぎてぼーっとしてしまっていた。


 普通の人なら何か話したりするんだろうな。でも、僕には何を話せばいいのかがわからない。人と1対1で長時間話す、ということに慣れていないから咄嗟に言葉が出てこないのだ。


「聞いてなかったの? 昨日学校で自己紹介やらなかったじゃん。だから今日はやるのかな? って話だよ」


「確かに、昨日やると思ってたんだけど無かったね。白石さん達のことで忙しかったっていうのもあるのかも。今日やるんだったら内容考えとかなきゃなぁ」


 僕は自己紹介が苦手だ。自分の紹介するべきところがわからないんだ。テンプレートみたいなやつがあったら多少はやりやすいんだけどね。去年はなかったから今年もないんだろうなぁ。


「みんなのこと知りたいからやってくれたら嬉しいなぁ。蒼が失敗しても笑わないであげるから、安心してね!」


「なんで失敗する前提なの? 失礼だなぁ」


「蒼、もしかして元気無い? 昨日よりテンションが低い気がする」


「学校前は基本テンション下がってるんだよね。学校って、僕にとっては特に何も変わりのないつまらない場所だから」


 行ったところで座って授業を聴くだけの作業。勉強のモチベーションも最低限しか無いから、本当に変化がなくてつまらないんだよね。


 今年は始まりから急展開だったし、ちょっとぐらい変化が無いか期待してるけどね。


「そっか。今年は楽しくなるといいね!」


「多分変わらないと思うけどね。去年と同じで、ちょっとだけ期待しとく」


「うん。それがいいね! そうだ。帰りも蒼の家に行っていい?」


 ……え、待って? 帰りも家に来るの? 白石さんが?


「えっと、なんで?」


「理由がないと行っちゃ駄目なの?」


「駄目ってわけじゃないけど……白石さんも用事とかあるでしょ?」


「今日は特に無いかな〜」


「ほら、友達から誘われるかもしれない」


「先約がいるって言って断ればいいじゃん」


「ぐぬぬ、じゃあ……」


 他に何かあるかな? 家に来てほしくない訳じゃないんだけど、緊張が……


「まぁ、服とかメイク道具とか置いていったからどうせ行かなきゃいけないんだけどね」


「置いていったの!? 一回家に帰らないから学校にそのまま持っていってると思ってたんだけど!!」


 だから来たときよりも荷物が減ってるのか。友達でもない人の家に自分のものを置いていくのはどうかと思うけどね。


「一回帰るのが面倒くさくてさ〜。なら家も近いし、置いていって学校終わってから取りに行けばいっかな〜って思って」


「ちょっとぐらい我慢してよ……僕の家族に見つかったらどうするつもりなの?」


「今日はいないでしょ? じゃなきゃ流石に朝喋ってるときに起きてきてると思うし」


 そこまでバレてたか……いないのは間違えてないから何も言えないけど。


「じゃあ、学校が終わったら僕が白石さんの家に届けるから普通に帰っていいよ?」


「わざわざ大丈夫だよ!」


「おやおや、おふたりさん。朝から2人で仲良く登校とは。もうそこまで行ったんですか?」


「おはようございます。2人とも」


 どうやって断ろうか考えていると、後ろから昨日聞いた声がした。まさか行きの道で合流するなんてね。


「あ、おはよう。空、栞さん」


「空、栞、おはよ!」


 空君と栞が後ろから現れた! って言うとゲームのキャラみたいだよね。2人で来たってことはもう仲良くなったのかな?


「2人で登校なんて、栞、案外積極的だったんだねぇ〜」


「それを星華が言いますか?2人で登校してるじゃん。」


「それにさっきの会話を聞いた感じ蒼の家から一緒に来たんだよな?もう蒼が家に誘えるほどの仲になったのか〜」


「待って?今の会話聞いてたの? いつから後ろにいたの2人とも……」


「バッチリ聞かせてもらいました。文句は空君にお願いします」


「うん。大体わかってるから大丈夫。そういうことをするのは空だと思ってたから」


「なんでだよ。栞もノリノリだっただろ」


 まさか聞かれてたなんて……いや、もしかしてチャンス?栞にどうしたらいいか聞いてみよう!


「ねぇ、栞。ちょっと来て?」


「何? どうやって蒼君の家に行くかって話?」


 ため息をつきながら完璧に聞きたかったことを言い当ててくる。もしかしてエスパー?


「え!? なんでわかるの!?」


「さっきの話を聞いてましたし、星華はわかりやすいので。とりあえずその事は私に任せてください」


 やっぱり栞は頼りになる!


「ただし」


「なに?」


「どうしてそんなに必死になってるのかは、後で聞かせてもらいますから」


 やっぱり説明しないと駄目かぁ……仕方ない。こうなったら栞にも協力してもらおう。



「すいません、蒼君」


 突然、黒井さんから声をかけられた。2人で少し後ろの方で話してたから、離れておきたいのかな?と思ってたんだけど違ったみたい。


「どうしたの?」


「放課後4人で集まろうと思ってるんですが、蒼君の家でもいいですか?」


 今日も? そこはまだいいとしてなんで僕の家で?


「別にいいけど、なんで僕の家で? 昨日と同じでファミレスじゃ駄目なの?」


「駄目ではないんですが、昨日みたいに星華が寝てしまうと、星華が蒼君の家に置いていった物が返せないじゃないですか。それと、公共の場であまり騒ぎたくないので」


「確かに一理あるけど、静かにすればいいだけじゃない?忘れ物も、家が近いんだから僕が届ければいいと思うんだけど」


 白石さんの家の場所は覚えているし、すぐに着くからそんなに手間にもならない。特にこれといった問題はないと思うけど。


「わざわざ手間をかけさせるわけにもいきませんし、私だったら他の人に化粧とかの用具を触られるのは嫌なので。置いていった手前言い出せないだけで、星華もそうかもしれないので」


「なるほど……そういうもんなの?」


「そういうものです」


「そうなんだ。なら仕方ないか」


 その辺は僕にはわからない話だしね。別に理解したいとも思ってないけど。


「そろそろ学校に着くし先に行くね。僕先生に用事があるから」


「あ、うん!行ってらっしゃーい」


「また後でな〜」


「わかりました。それでは」


 特に用事もないけど適当な嘘をついて1人で学校に入る。一緒にいるのを見られると絶対に面倒くさい事になるからね。


 それに、僕なんかがいていい空間じゃないんだ。あそこは。




「あいつ、逃げたな。いつまで続けるんだよああいうの」


「逃げた?」


 進級して二日目で先生に用事? とは思ったけどそういうことだったんだ。朝ちょっと吐き出して少し良くなったと思ったけど、まだまだ駄目そうだね。


 私は彼を助けたい。でも私だけの力じゃ、多分足りない。この2人にも協力して貰わなきゃ。


「ああ。俺は、あいつの去年からの事しか知らない。でもあいつは何故か人と関わることから逃げてる気がする。」


「そうなんですか。何があるんでしょう……」


 人から逃げる。相当なことが無いとそんなことにはならないと思う。蒼君には、何があったんでしょうか……


「ねぇ、2人とも」


 協力をお願いするなら今がベストかもしれない。私1人じゃどうにもできないかもしれないから、2人にも手伝ってもらいたい。


「私は蒼君を助けたい。理由は具体的には言えないけど、私は彼の支えになりたい。だから、手伝ってください!」


「貴女の頼みですし、聞いてあげますよ」


「栞……ありがとう空は?」


 私が質問してから、空君は黙っている。どうしたんだろう?


「なぁ、星華ちゃん」


「どうしたの?」


 空君が真剣な顔で私を見てくる。何か気に触ることを言っちゃったのかな?


「今やろうとしていることは自己満足で、星華ちゃんの気持ちの押し付けだ。あいつはそれを望んでないかもしれない。それでもやるのか?」


 そんなことは重々承知だ。自己満足、気持ちの押し付け、上等だ。私がやりたいからやる。ただそれだけなんだから。


「もちろん! 望まれてなくても、否定されても、私は最後までやるよ」


「ならよし! 俺も協力するぜ」


「ほんとに!?」


「ほんとほんと。生半可な覚悟だったら、そのお願いを蹴って俺が自分でやろうと思ってたけど、そんなこともないみたいだし」


 2人とも……


「ありがとう!」



「それで、星華。聞きたいことがあるんですが」


「どうしたの? 今ならなんでも答えちゃうかも!サービスタイムだよ!」


 2人が協力してくれるのが嬉しくて余計なことを言ってしまった。


「そうですか。では」


「星華はなんでそんなに蒼のことを気にするんだ?」


「朝、何があったんですか?」


 あ、まって。そこだけは聞かれたくなかった。あー!なんでもなんて言わなかったら良かった!


「そこを聞くの!? ほら、他に何かない? えーっと、どうして私が蒼に声をかけたのか、とか!」


「大まかには聞いてるから問題ない」


「私に相談してきたのはあなたでしょう?」


「うっ……どうしても言わなきゃ駄目?」


「「駄目」」


「なんでえええええ!!」


 誰か助けて……


「で、いつから好きなの?」


「待って! なんでそうって前提なの!?」


 まだそうだって確証は無いもん! そうじゃない可能性だってあるから!


「かなりわかりやすいぞ? 星華ちゃんは好きでもない相手の家に服とかを置いていくのか? 面倒くさいからってだけの理由で」


 そうだった。あの会話聞かれてたんだった……


「置くかもしれないじゃん! もしかしたら!」


「でもバレちゃってたのかぁ……でもでも!まだそうだって確証は無いから!」


「当然でしょ。なんで蒼君が気付いてないのかが不思議なくらい分かりやすかったですよ。話してる途中すごい笑顔でしたし。見てる感じは多分もう落ちてそうでしたよ」


「そんなに!? 嘘でしょ……」


 私的には結構隠せてるつもりだったんだけどなぁ……ショックだ。


「それで、いつからですか? 以前に会っていた素振りは無かったですが、もしかして会っていた、とかですか?」


「ううん。昨日が初対面だよ」


「それで今日にはそうなってる、と。流石にちょろすぎないか?」


 それは私も思ってる。未だに自分が信じられない。夢かどうかを何回も疑ったぐらいには信じられない。もう1回考えてみよう。私は本当に蒼君のことを好きになってしまったのかを。


「星華ちゃん? おーい。行くよー?」


「先行ってて! ちょっと考え事!」


「わかりました。遅れないようにしてくださいね」


「わかってる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る