第2話 なんで僕?

 私に恋を教えて? 何を言ってのか、全く意味がわからない。


「えっと、どういう意味?」


「そのまんまの意味だよ。全部言葉の通り」


 つまり、白石さんは僕に恋愛について教えて欲しい、と言っているらしい。それは僕にはかなり無理がある。


 僕は恋愛などしたことが無いし、彼女について全く知らない状態だ。何も分からない状態でいったい何を教えればいいんだ……


「悪いけど無理かな〜って思うな」


「どうして?」


 その質問にさっき考えたことをそのまま返す。それに、本人には言わないけど面倒くさそうだからね。


「なるほど〜。つまり蒼君の言い分は、私の事をほとんど知らないし、蒼君自身も恋っていうのがわからないから無理だと」


「そういうことだね」


「だったら大丈夫だね。何も問題無いよ!」


 は?なんで?どうしてそうなった?何も大丈夫じゃないでしょ。一定以上恋だのなんだのの諸々を知ってる人の方がやりやすいと思うけど。


「えっと……どういうこと?」


「私の事は関わっていく中で知っていけばいいし、愛だの恋だのがわからないなら私と一緒に知っていこうよ! 私は、君がいい」


 僕は少し圧倒された。彼女の期待でいっぱいの瞳に。僕じゃなくてもいいだろうに、断られても僕を勧誘してくるその熱量に。


 だが……


「なんで?」


「ん?」


「なんでそこまで僕に拘るの……?」


 やはり疑問はついてくる。一回断られたのに、僕にこだわる意味がわからない。誰でもいいから手当り次第頼めば、他の人なら受けてくれると思う。それをせずに、僕みたいなどこにでもいる一般高校生を勧誘する意味がわからない。そう思って理由を聞くと……


「理由はあるにはあるけど……殆どが直感かな」


 そう言ってきた。流石に驚いた。自分の恋愛観の今後を決めるかもしれない相手を直感なんかで決めようとしているからだ。


「直感……そんなもので?」


「そうだよ?」


「私ってそんなに頭良くないからさ、ごちゃごちゃ考えて決めるよりも『この人だ〜!』って思った人にしようって決めてたの。で、君と少しだけ話して、ビビっときたんだ。だから私は君を選んだの」


 確かにわからなくもない。直感に頼ることもたまには大事だ。わからなくもないが、それだけで……


「今それだけでって思ったでしょ」


 なんでばれてるの!? もしかして心が読める特殊な人類だったりする?


「なんで、そう思ったの?」


「直感だよ。私の勘ってよく当たるんだ〜」


 なるほど。勘で僕の心情を当てれるくらい勘がいいのなら確かに直感で相手を選んでもいいのか?


「しかもかなり顔に出てたからね〜」


「えっ、うそ!?」


 初対面の人にも見抜かれるほど顔に出てるのか……空にもよく言われるけど、去年学校でよく一緒にいたから気付くだけだと思ってたんだけどなぁ。


「ほんとほんと〜」


「それじゃ、協力してくれるってことで!」


 ちょっと、まだOKしてないよ! 勝手に返事したことにしないで!


「まって! だからまだ言ってないって!」


「むぅ、流れで行けると思ったんだけどなぁ。多少強引でも私が頼めば男なら協力してくれるって言ってたのに。もしかして女の子だった?ごめんね」


 誰がそんな入れ知恵を……確かに白石さんが頼むだけでコロッと手伝ってしまう人は多いだろう。それぐらい単純な人は多い。多分。


「誰がそんなことを……あと僕はれっきとした男だよ」


「栞が言ってたんだ〜」


 確かもう一人の人だったか。……なに吹き込んでるの!? 適当なことを教える方も教える方だけど、信じる方も信じる方だよ。


「とりあえず顔合わせしたいから放課後暇かどうかだけ教えてくれる?」


 だめ、かな? と上目遣いでこっちを見てくる。わざとだな、これ。


 こんなことで落ちてたまるか! 僕は一人静かに過ごしたいんだ!


「暇じゃないよ。放課後は用事がある」


「あ、嘘ついた。また顔に出てるよ? 暇みたいだし放課後ここのファミレスに集合ね?」


 そう言って地図アプリを見せてくる。ここは学校から一番近い所だな。


「いや、まだいいって言ってないんだけど」


「そうだね。じゃあ放課後集合で! 来なかったら、明日どうなるかな?」


「ちょっと!? 何やろうとしてるの!」


 最後に怖いことを言い残し、白石さんは先に降りていった。


 最後に残されたのは、呆然とする僕と白石さんの弁当箱だけだった。……なんで?


 少し待っていると扉が勢い良く開き、少し息を切らした白石さんが帰ってきた。


「弁当箱忘れてた!! じゃあまた後でね!」


 締まらないなぁ……僕は冷たい風に吹かれながら、ため息をついた。今日は忙しい日になりそうだ。


 ※


 そして放課後、僕は空に今日のことを相談していた。


「ふむふむ、なるほど」


「どうしたらいいと思う?」


「相談とは別にとりあえず一つ言わせてくれ」


「何を?」


「おまえは恋愛物の主人公か?」


「えぇ?!」


「何驚いてんだよ、その通りだろ。そんな展開、フィクション以外で見たことあるか? 全く羨ましいやつだぜ」


 そんなに羨ましいものなのかな? 僕からしたら面倒なだけなんだけどな。


「なら分けてあげようか?」


「は?」


 空が『何言ってんだこいつ』みたいな目で僕を見てくる。そりゃそうか。僕が頼まれたことだしね。


「お前が頼まれて了承したんだろう? お前が責任持ってやらないでどうするんだよ」


「了承はしてないんだけど。でも頼まれたからには頑張りたいんだけどさ……」


「なんだよ。不満そうだな」


「そりゃあ、ね。こっちは1人なのに対して向こうは2人だよ? 向こうが1人だけだったらさ、頑張れば、ほんとに頑張ればなんとかなると思ってたんだけどね〜。2人となると僕じゃ絶対無理だからね。せめて協力者が欲しいなぁって思ったんだ」


「なるほどね。それで俺に白羽の矢が立ったと。で、もうひとりって誰なんだ?」


「多分、黒井さんだと思う。わからないけど」


 そこに関しては何も聞いてないから憶測でしかないけどね。まぁ、あとひとりが誰であろうと空を巻き込むけど。


「あぁ、もうひとりの転校生か。仲いいのかな?」


「だろうね。で、協力してくれる?」


「できることがあったらな。」


 お、これなら言質になりそう


「まぁお前ひとりででき「言質取ったからね!」……は?」


 そう言うと僕はポケットから空の声を録音したスマホを取り出した。


「えっ、ちょ、おま、それ」


「いや〜、うまく行って良かった。実を言うともうひとり協力者が欲しいって白石さんから頼まれててさ〜。僕個人としても、後一人道連れになってくれる人が欲しかったから、巻き込んじゃった。てへ」


 普通に誘っても駄目そうだったから騙す形になっちゃったけど、一人ぐらい話し慣れてる人がいる方が僕の精神衛生上いいからね。


 このあと何されるかわからないのだけが不安だけど、空なら来てくれるって信じてるから。


「よし、これで空も道連れだね。早く行こうよ」


 そう言うと空は案の定立ち上がり――


「待てやこらー! 何してくれとんじゃてめぇはー!!」


「やべ、逃げろ」


 ――ちなみに逃げ切れるはずもなく、捕まって叩かれた。痛い……


 ※


 そんなこんなで空に協力してもらうことになった。今僕達は、白石さんに指定されたファミレスに向かっている。


 僕は二人と仲良くできるのだろうか。会話が下手な僕のことだ。場を白けさせることがあるんじゃないか。もういっそ何も喋らないほうがいいんじゃないか……


「蒼、暗い顔するな! お前なら大丈夫だって!」


「そうかなぁ」


「当たり前だろ。俺が保証する。ほら、店入るぞ」


 お店に入ってすぐ、声がかかった。あの二人、わかりやすいなぁ。


「おーい! こっちこっちー!」


 店に入ると白石さんが大声で呼んでくる。白石さん可愛いから、大声で呼ばれたら目立つんだよなぁ。そんなことを考えながら僕達は席につく。


「遅くなってごめんね。白石さん。空を連れてくるのに手間取っちゃって。それと、はじめまして。黒井さん」


「白石さん、はじめましてだな。俺は三宅空、よろしく」


「全然大丈夫だよ! 私のことは星華でいいって言ってるのに。強情だなぁ」


「あ、白石星華だよ。よろしくね」


「こんにちは。蒼さん、空君。黒井栞です。私のことは栞でいいですよ」


「僕のことは好きに呼んでもらって大丈夫だよ。敬語も無くていいし」


「俺もだな。好きに呼んでくれ……はぁ」


 空はまだ納得してないみたい。まぁ今からそんな気持ちも吹っ飛ぶと思うけどね。僕の緊張も吹き飛ばしてくれるといいけど。


「すみません、敬語は癖なもので。追々でお願いします。お二人のことは蒼君、空君と呼ばせていただきますね」


「わかったよ! 私は空って呼ばせてもらうね」


「なら俺は星華ちゃん、栞ちゃんって呼ばせてもらうよ」


 こうして僕達の交流会は始まった。


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