3話
リュウ。お前は間違ってなどいない。
「はい。父さん」
リュウは自分の身体に摂取した父の骨から、父の言葉を創造し勝手に父が自分が正しいと言っている。そう認識していた。殺しによってたくさんの人物が救われるとそう考えていた。それを実行に移してしまっていた。
リュウが次に狙ったのは夢の国。皆が幸せを願う街のアトラクションに設置した。なぜ誰も気づかないのか、リュウだけは真相にたどり着く。
幸せを壊したくないが故に現実を見ようとしないからだ。
そしてスタートしたジェットコースター。楽しそうな声が響く中でリュウは爆破ボタンを押した。とてつもない爆発音。レールが壊れる音、皆の騒ぎ声、従業員たちが慌てふためく姿。全てがリュウの瞳にはバカバカしく映っていた。
「こんなんで騒ぎ散らすなんて。お子ちゃまだ。彼ら彼女らは自分の幸せを大事にしすぎて現実を見ていない。そろそろ全国民が、全世界が目を覚ます頃合だ」
リュウはテーマパークの外に出た。大人数の警察がテーマパーク内に入っていく中、カズヤだけはリュウを見つけた。
「リュウ!!!!」
「どうした?」
「お前がやったんだろ!!」
「さぁ?」
「逮捕する」
「兄さん。あんた今バッチも手帳も持ってないよね。これって私人逮捕扱いなんじゃないの?」
「何故知ってる……?!」
「兄さん。馬鹿な真似はよしなよ」
リュウはその場から去った。全てリュウの思い通りに進んでいた。父親の事件簿を見た時のような恐怖と、どこまでいくのだろうかという父親の細胞がワクワクしているような気がしていた。カズヤはその場に座り込むしか無かった。
そしてニュース記者が沢山集まる会見場で行われた今回の爆破での死者はおおよそ38人にのぼった。負傷者は数百名にもおよび、警察の信用度はガタガタに落ち、国民からは不安の声が沢山あがった。
そしてこのニュースはリュウの怒りを促進させた。
「こんなガキばかりだから世の中狂うんだ。警察のせいなんかにしているから学ばない。父さんを見習え。欲しいものは自分の手で!!」
貧乏では無く、裕福でもない。与えられた愛は平等なはずなのにリュウにはどす黒く父親の怨念が宿る。そしてリュウは再び犯罪に手を染める。
美しい花畑の地面にたくさんの爆弾を仕掛け、深夜に爆発させた。綺麗な景色が消えたことにより観光客の激減、そこからどう立て直すのかを見守ろうとした。なぜそんな無駄な行為に移ったのか。
リュウはぼそっとひとりで呟いた。
「警察、観光客に頼り切りの今の日本はどう考えてもおかしい。だから僕は全てを破壊し、全てを再生させる。日本は日本。自分の力で全てを凌駕する。そのために経営者はどう立て直すのか見ものだ……」
だがリュウの目論見は自分の想像とは違うものになってしまった。凄惨な状態になっている花畑を取り戻すためにクラウドファンディングが始まり、あっという間に数千万という金が経営者に舞い込んだ。
リュウは面白くなさそうな顔をする。
「結局他人の金。結局他人任せ。だから腐るんだ」
リュウは怒り狂い、経営者を殺害した。殺害現場には血で大きく【死】と書き残した。そしてリユウは経営者の遺体を引きずりながら闇夜へ消えていった。
警察が到着した頃には既に経営者の死体はなく、引きずられたあとが残っていた。どういう状態でこうなったのか、書き残された【死】という文字になんの関連があるのか警察は手をこまねいてしまい、捜査は泥の中を船で漕いでいるような重さになっていった。
☆☆☆
リュウは引きずった遺体を綺麗に捌きながら防腐処理を施し、火に炙った。キレイに焼けた肉をむしゃぶりついた。父ミチヒロでさえ行わなかった異常行動、リュウは泣きながら呟いた。
「俺がこの肉を喰らうことで、沢山の人間の想いを引き継ぎ、日本を改革する!」
全部の肉をたらふく食べた後に骨を地面に埋めて手を合わせて、還るようにと祈った。リュウは寂しげに立ち上がり、闇夜へと消え、次の獲物を狙い始めた。覆面を被り車で移動中だった有名人の男。バラエティ番組、歌番組、ドラマなどで活躍する俳優の男だった。
この男は俳優業の最中、営業回りでヤクザから金を受け取っているという情報をリュウは得た。ヤクザから金を受け取るなど自分の仕事に責任を持たず、仕事を全うしていない表れだと想い、リュウは車から降りてきた俳優を拉致した。
「な、なんだ君は!!!」
「黙れ」
「うぁ……」
口元にハンカチが覆いかぶさった。その瞬間俳優は意識を失った。次に俳優が目を覚ました時には薄暗い倉庫に真っ裸の状態で縄に繋がれ放置されていた。
「な、なんだこれ!!」
「静かにしろ」
「俺を降ろせ!」
「いいのか?」
「え?」
「下はアツアツの鉄板だぞ」
「へ……?」
リュウはニコッと可愛らしい笑みを浮かべた瞬間、縄を緩め鉄板に降ろす。足が焼けただれ、イケメンだった男の顔は死ぬほどブサイクになり、ぐちゃぐちゃの顔面へと変わった。リュウは鉄板から少し離してやると、足の裏を思い切り蹴り上げる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「お前がしでかした事への罰だよ」
「俺はなんにもやっていない!」
「ヤクザからの裏金」
「貰ってなんか……」
「女優を孕ませ、堕ろさせた」
「な、なんで知ってんだよ!!」
「二股、三股。さらには自分の母親にすら手を出した」
「や、やめてくれ」
「母を大事にしない。人を大事にしない。お前はクズそのもの。お前のようなクズが居るから日本は腐る」
「お、お前だって人に手を出して…… ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アヅイイイイイ!!!!!!」
ニコニコと薄ら笑いを浮かべ、リュウは男が死ぬまでの間ずっと降ろして、上げて、降ろして、上げてを繰り返した。事切れた頃合に、リュウは死体に刃物で【生きててごめんなさい】と書き、その場を後にした。
☆☆☆
「な、なんだこの遺体……」
「昨日の晩、何者かが警察内に手紙を置いて逃げましたけど、もしかしてリュウ……」
「そんなわけ……」
倉庫の中、リュウが昨晩殺した遺体が目の前に飾られていた。昨晩、何者かが倉庫に死体があると手紙を置いて逃げたらしく、その情報をもとに来てみれば、この有様だった。
「俺らは何を追いかけているんだ」
「分かりません……」
この情報はすぐさまネットニュースとなりテレビでも報道され、警察は会見を開かずにはいられなかった。
「再び死人が出たことを、警察の落ち度であることを謝罪させていただきます。申し訳ございませんでした。つきましては今事件の詳細と、質問があれば受け付けます」
「日刊ヘリスと言います。今事件は被害者がとんでもないことをしていたとテレビで報道が連日されていますが、どのようなことを?」
記者会見は進んで行った。
「必ず警察の総力をあげて、捕まえます。国民の皆様大変ご不安にさせ申し訳ございません」
記者会見が終えた後、その場にいたカズヤはリュウが次に狙う人物の予測ができていた。そしてカズヤとリュウは相対することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます