2話

 カズヤが警察官となり、最大の山場である事件が起きた。リュウがおおよそ関わっているのではないかとされるものだった。とある大学の講義室にて遺体が3つならび全部が首から上がなかった。

 亡くなった遺体の内ポケットには身分証がちゃんと残っていた。1人は教授で、2人は生徒。リュウと同じ授業を受けている人間とその授業を担当する教授だった。


 カズヤはすぐさまリュウを取り調べた。


「お前何か知っているだろ」

「知らない」

「お前の受けている授業の教授と生徒ふたりが死んだんだ!!」

「カズヤ。お前黙れよ」

「なっ?!」

「証拠もないのに。冤罪吹っ掛けてきといてその態度?」

「く、クソ野郎が!!」


 リュウは証拠不十分な上に冤罪を仕掛けられた事に苛立ちを隠せずにいた。カズヤを止める上司にもガンを飛ばした。


「リュウくん。久しぶりだね」

「あんとき以来ですね」

「本当にやっていないんだよね?」

「……はぁ。やってたとして証拠不十分で僕は捕まりませんし、やるリスクがあるので。僕は父さんとは違い、まだまだガキそのもの」

「でもお父さんは」

「中学生の頃から。と言いたいんでしょうけど、僕の頭脳で父を越えられるのはまだ数年先でしょう。それほどまでに父は偉大だった」

「絶対に犯罪を犯すな。頼む。リュウくん」

「……1度捕まってる奴に言うセリフ?」


 リュウは鋭く睨みドアから飛び出た。カズヤはテーブルに倒れ込み悔しさと情けなさ、そしてリュウへの怒りが湧き上がる。2人もの犯罪者と血が繋がっていることを後悔していた。


 リュウが警察署から飛び出た時、周囲の人間はこぞってリュウの表情に注目した。笑っていたのだ。警察署という重苦しい空間から出てきたことの喜びなのか、はたまた本当は事件を犯したのに証拠不十分ということで逃げられた快感なのか。人々には想像できない笑顔だった。


 そしてリュウの元には嫌という程人が集まる。とある人物にカフェに連れられたリュウは笑顔で言った。


「どうしたの? リリア」

「……カズヤ兄ちゃんを困らせないで!」

「自衛隊の仕事は?」

「お兄ちゃんを困らせるなって言ってるの!」

「そうだね。リリアはカズヤのこと大好きなブラコンだもんね」

「べ、べつに!」

「ははは。分かっているんだよ。君がカズヤが寝静まった時にナニをしたのかなんて」

「え……?」

「まぁジョーダンだよ。気にしないで」

「冗談にしてはタチ悪い……!!」

「なぁ、リリア」

「なによ」

「父さんを許してないんでしょ?」

「も、もちろんよ!!」

「じゃあ、僕がこれからやる改革も君たちは許してくれないんだろうな」


 リュウはそう言ってその場を去った。その言葉にどんな意味があったのかは、この時のリリアは考えていなかったが、それがわかる時がしばらくの時を経て分かる。


 ☆☆☆


 リリアとカズヤが自衛隊と警察官というリュウが目の敵にしている存在になったことで、リュウが頼るのは就職したものの、仕事で失敗が続きパワハラやセクハラのせいで引きこもりになってしまい、PCに毎日向き合う生活をする子。父親が最後に残した子である、フミだけだった。


 フミだけは昔からリュウを嫌がらなかった。


「フミ。居る?」

「だれ」

「フミ」

「合言葉」

「我天罰を与えるもの」

「……リュウ兄ちゃんだあ!!」


 可愛らしい笑顔で家から出てきてくれるフミ。引きこもりにしてはスタイルはよく、食生活も崩れてはいない。モデルも出来るような容姿だった。


「フミ。体調は?」

「大丈夫だよぉ!!」

「……フミ。お別れをしに来た」

「え?」

「俺はこれから世界を変える。父さんが成さなかった政治の取り壊しと実権。それを俺が握る」

「リュウ……?」

「俺は父さんの残した最後の希望なんだ」

「リュウ。私は着いていくだけ。頼ってよ」

「君が俺のせいで捕まるのは嫌だからね」

「もう。そういうとこだよ。惚れちゃうよ」


 リュウは静かに笑って家から出た。フミは扉がしまった瞬間に言った。


「サヨナラリュウ」


 ☆☆☆


 リュウは熱心にふたつの爆弾をつくりあげた。この日からリュウとカズヤ、そして自衛隊のリリアとの勝負が始まった。リュウが起こす革命。それはとあるアウトレットモールに仕掛けられた爆弾からスタートした。


「お電話ありがとうございます。こちら……」

「爆弾をしかけた。責任者を呼べ」

「迷惑電話ですか……?」

「早く呼べ」


 リュウはボイスチェンジャーを使いながら責任者を呼び出した。


「このモールのどこかにふたつ爆弾を取り付けている。俺がこの電話を切った瞬間から時限爆弾の時間がスタートする。探せ」

「な?!」


 モールに流れる避難を促すコール。出動する警備員や10分遅れで到着した警察によって爆弾探しが始まった。


「リュウだ。絶対に!!」


 その現場にはカズヤも居た。モール内で爆発物を探す宝探しのようなゲームが始まった。ゲームに勝ったのはリュウだった。


 大きな爆発音がモールに響く。けが人は居なかったものの、数店舗がダメになりモールは一時的に閉鎖することになった。テレビでその様子を見たリュウは笑うことも無く次の行動へ出た。


 狙ったのはまたもや大きなスーパー。今度は何も予告せずに時限爆弾を設置し、帰る。そしてその一時間後に大きな爆発が起こる。数百人が犠牲になり、死者は50人にのぼった。


 警察では異常事態ということで緊急的に開かれた。そこでカズヤは発言した。


「リュウだ!!!」

「何故だね」

「彼は言った。私の妹に革命を起こすと。父親が成せなかったことをすると!」

「それが本当ならば、彼を重要参考人として引っ張りたいところだが」

「すぐにでも!!」

「落ち着きたまえ。リュウとやらの所在が掴めないんだよ。君の母親に聞いたところここ数年全く姿を見せない。スマートフォンへの連絡もつかないらしいんだ」

「なっ?!」


 捜査は大荒れの海へと放り出される。


 そんななか、リュウはとある場所に来ていた。父の眠る墓だ。静かに手を合わせながらリュウはその墓を掘り、父の遺骨を食べた。


「父さん。力が湧くよ。ありがとう」


 ☆☆☆


 翌朝、ミチヒロの墓にはたくさんの警察が空になった骨壷を見ながらため息を吐いた。カズヤは怒りからとてつもない憎悪に満ちた顔をしていた。


「カズヤ……」

「先輩」

「そんな顔をするな」


 なだめられようやく普通の顔に戻ったカズヤだが、その瞳の奥にはリュウへの殺意が漲っていた。もはや警察とリュウの戦いではなく、カズヤとリュウの兄弟喧嘩が開幕した。


 その数時間後、とある公園で死体が見つかった。小さい子どもたちが血だらけになり砂場遊びをさせられているなんとも奇妙な遺体だった。そして父ミチヒロを真似たのか、遺体の衣服のポケットには血で書かれた予告があった。


「リュウめ……!!」

「カズヤ!」

「す、すんません」

「……捜査外れろ」

「は……?」

「警察手帳とバッチを寄越せ。休暇だ。今のお前は何をしでかすか分からん」

「え、リュウは…… え?」

「良いから渡せ!!」


 事実上の戦力外。リュウを追いかけること、捕まえること、そして殺すことをカズヤは奪われた。静かに手帳とバッチを渡し、カズヤは現場から離れた。


 ☆☆☆


 カズヤ含む警察官が遺体を見つける数刻前。リュウは公園のベンチで幼児たちが楽しそうに遊ぶ姿を見ていた。親の姿はなく、近所の子どもなのだろうと推測した。そして近づいた。


「こんにちはぁ〜」

「なぁに?」

「お砂遊び楽しいー?」

「きもちわるいだれー?」

「……」


 子どもの純粋な言葉がリュウの何かに引っかかった。


「こんな子どもが居るから日本は馬鹿なんだ。僕が改革しなきゃ」


 そしてリュウは犯行に至った。騒ぐ子どもたち全員の首を絞め、腸をえぐった。そして楽しそうに砂場で遊んでいる姿を作り、演出した。


「これがいい。何も言わずに静かに遊んでいる。馬鹿な事も言わない。これが本来あるべき姿なんだ」


 リュウはその場から立ち去った。


 誰からも犯行を見られなかったことがリュウにとっての幸せだったのだろう。スキップをしながら楽しそうに歩いていた。

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