4話
オヤジ狩りをし続ける毎日。いずれか警察にみつかり捕まるんでは無いかとビクビクしながらラブホテルを宿にして動き回る。どうにかしてルイを殺す手段を探していた。ナイフで後ろから刺すのも良いと考えたが、恨みを永遠に言い続け、地獄の底にたたき落とすように殺したいという願望が俺の頭の中を占領する。
その中で連日のオヤジ狩りのせいか、ニュースにも取り上げられるようになってしまった。俺の特徴である体型や背丈、服装が出されてしまっていた。着替えを買おうと、こじんまりとした古着屋に入る。何種類か買い、袋を貰い受けてそのままその服に着替えて店を出る。この作業だけでもとても心臓は収まらず、警察に怯えながら過ごすことになってしまっていた。
復讐をしようとしている奴が、なにを警察にビビっているのかと思われるかもしれないと自分の中で自分を嘲笑った。
ひとりで笑みを浮かべ歩いていると、周りからキョロキョロと見られる。鏡に映った自分の気持ち悪さに驚いたが、だがもっと驚いたのは後ろから警察が来ていたことだった。逃げることはせず怪しまれないように素早く足を運んで、早歩きしているように見せかけたが、警察には通用しなかった。
「ちょっといいかな?」
「……時間ないんですけど」
「聞きたいことがあってね」
「はい」
「こんな格好をした男を見なかったかな?」
「いいえ。知りません」
「そっか。ありがとう」
「じゃあ、これで」
「……君」
「……はい」
「まだ若そうに見えるけど、いくつ?」
「そこまで聞く権利あります?」
そう聞くと警察はにこやかに笑って、気になっただけだと言った。心臓が止まるかと思うほど、たった少しの質問の時間が長く感じた。
ビビるなと自分に言い聞かせて、夜間の間はオヤジ狩りを続けた。総額30万程を1週間で稼ぎながら歩き回り、いざと言う時に使える武器を何種類か手にした。
ルイを、どうにかルイを。そう思っていたが俺は思わぬ幸運に恵まれた。ルイよりも先に殺しやすく、抵抗されても力でごり押せる、性別の差を見せつけられる相手、スズだ。ルイについて考えることを辞め、俺はカッターナイフをすぐに出せるよう右のポケットに入れて、スズの後をつけた。
どうやら帰宅途中のようでにこやかに、そして気分がいいのかスキップしながら帰っていた。その気分を地獄にたたき落としてやろうと、思わず笑みが漏れる。そして通行人が居なくなった数秒の間に俺はスズを拉致し、脇道へと引きずり込んだ。
「誰よッ!!!」
「……黙れ」
「は?」
「黙れって言ってんだ。殺すぞ」
「ヒッ……」
俺はベルトで腕を後ろに縛る。そして相手の視界を奪えるようにと、ずっと持っていた目隠しを使いスズの全てを奪った。
「こ、こわいっっ!!」
「叫ぶな。まず教えろ、お前の住所を」
「こ、ここから数百メートル先よ!!」
「詳しく言え」
スズから住所を詳しく聞き出した後に、俺は見つからないようにスズを引きずりながら、公園の公衆トイレに連れ込んだ。
「何ここ臭い!!!」
「喋るな。黙れ!」
そして俺はスズの服をカッターナイフで全て切り裂き真っ裸にした後に、トイレに縛り付ける。
「やだやだやだやだやだ!!!」
「……あーやっとだ。やっと本命の1人目だよ」
「そ、その声!」
「分かったかよ」
「え、ゆるしてよ。たかがイジメでしょ?!」
「たかが……?」
「そうよ!! 男なら許しなさいよ!」
俺は叫び声が外に聴こえないように、スズの口の中に下着を詰め込む。
そして、自分でも中々に残酷だと思いながらも、今までの自分にされたイジメよりマシだろうとスズの生殖器に思いっきりカッターを突き刺す。
「ンウウウウウウッッッ!!!!」
「ハハハハッ!!!!」
「ゔゔゔゔゔ……」
呻き声、痛み、苦しみ。全てからかスズの目からは大量の涙、鼻水が流れ出る。痛み苦しむ姿がとても気持ちよかった。
「ハハハ……。おもしろ」
「うぅ……」
このまま刺し殺しても良いが、面白くない。そう思い次に俺はハサミを取り出した。
「!!!!」
「分かるよな。何されるか」
スズはとてつもない泣き顔をしながら、懇願しようとした。
仕方なくスズの口から下着を取ると、スズは思い切り俺の指を噛んだ。
「離せよ。口裂くぞ」
「!!!」
「なぁ、お前さ、たかがイジメって言ったよな」
「痛いよおおお」
「聞け。たかがイジメと言ったよな!」
「う、うるさい。痛いのよ。うるさいうるさいうるさい!!!!」
「はぁ」
俺は思い切り足で刺した傷口を蹴り上げた。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「うるせえな」
「なにすんのよおおおお!!!」
「うっせえっての!!」
再び口の中に下着を詰め込むと、泣きながらもこちらを睨むスズ。思わずその視線に苛立ちが買ってしまい、俺はスズから回答を聞く間もなく、殺してしまった。
【たかがイジメによって、たかが虐めていた雑魚に殺される、自分の雑魚さを恨め。復讐は悪いか?】
そう血で俺は残した。これによってマツヤやルイが狙いにくくなるのを分かって、そう書いた。
☆☆☆
翌朝、ニュースで取り上げられた。若い女がトイレで亡くなっていた事、そして血で書かれたメッセージについてが。連日報道されていた。
そしてその晩、スズの自宅へ向かった。あのゴミを産んだ両親を殺すために。
☆☆☆
「どちら様ですか……」
声のくらい女の声がインターホンから響く。俺はスズの同級生だと良い、弔いを先にさせてくださいと嘘を吐き家の中に侵入した。
「手を合わせても良いですか?」
「スズのために、ぜひ……」
「ありがとうございます」
俺は手を合わせた。今からスズの目の前で起こる残酷を天から見守っておけと願いを込めて。
「あ、あの」
「はい」
「スズは学校でどうでしたか……」
「え?」
「悪い子じゃないですよね?!」
「えぇ、まぁ」
「……あの?」
母親の前に立ち上がり、思い切り顔面を蹴る。
「?!?!」
「……スズはな、お前らゴミが産まなきゃ死ななかったんだよ」
「え……」
「俺にしたことの全てをお前に聞かせてやろうか?」
「じゃ、じゃあ貴方がスズを?!」
「逃げんなよ」
スズの母親は尿を撒き散らし、恐怖からか身体は震え目から大量の涙が溢れていた。泣きたいのはこっちだと言うのに。
「……なぁ、大人なんだろ。聞かせてくれ」
「な、なんですか!」
「復讐って悪いかな」
「ダメに決まってる。人を殺すなんて!」
「スズが俺を自殺まで追い込んだのにか?」
「……スズはそんな子じゃない!!」
「なぁ。復讐って何が悪い?」
「復讐しても何も生まれない!!」
「生まれたよ。ゴミはゴミのままだっていう考えがね」
「や、やめて!!」
俺は母親を縛り付け、スズとおなじ方法で殺した。刺す部位は違えど、痛みは同じ。
そしてそこに運良く父親が現れた。
「な、なんだ。臭いぞ。母さん。居ないのか? 母さん??」
リビングに着いた父親は血塗れになった床、返り血を浴びて真っ赤に染った俺を見てすぐさまスマートフォンを取り出した。俺はすぐさま父親の腕を切りつけ、腕を噛んだ。
「イタタタタっっ!!!」
「スマホを置け」
「わ、分かった!!」
俺は父親を遺体の傍に座らせて、再び聞いた。
「復讐って悪いか?」
「い、いいか悪いかなら悪いだろ!!」
「それは何故?」
「不幸になる人がいるからだ!」
「不幸にたたき落としてきた人間が、自分が不幸になるのが嫌って都合よくない?」
「わ、私の娘が何をしたって言うんだ!」
「俺をいじめたんだよ」
「たかがイジメで人を殺すのかッ!!!」
「その言い方、お前も人を殺してきた類の人間か」
「殺してなんて居ない!」
「物理的にじゃねえよ。精神的にだ」
この時点で話し合いになんかならない。そう思って俺は刃を父親に向けて刺そうとした瞬間だった。
家のチャイムが鳴る。
「警察です〜」
最悪な状況に置かれてしまった。悠長に質問をしていたせいで、殺し損ねて逃げ場を失った。居留守を使うようにと父親の口を封じた。息を殺し警察が過ぎるのを待っていると、裏口に回る足音が聴こえる。
カーテンの閉まっていないガラス窓。正面には死体と俺と殺されかける男がバッチリと映っていた。詰めの甘さに自分を恨んだ。だが警察も良識があったのか、居ないと判断して帰って行った。
「ふぅ……。さ、心置き無く殺れるよ」
「た、助けてくれ。私が悪かった」
「心にも無いこと言うなよ。あえてこう言おう。ただのゴミ掃除に来ただけ」
「やめろおおお!!!!」
コレでスズ一家は清掃できた。だが気持ちに晴れ晴れとするものは無かった。
☆☆☆
連日の報道により、街を徘徊する警察官の量が増えた。怪しい人や普通の市民でさえも、職質されていく姿をよく見かけるようになった。動きずらさの中でも金を稼ぐためにオヤジ狩りを続けていたがオヤジ狩りをしている所を警察に見られてしまう。
「こら、何やってるんだ!!」
「チッ……」
刃物を持っている俺に対し、警棒を構える警察。ジワジワと距離を詰めながら、逃げる術を考えていたが、警察は応援を呼ぼうと下を向いた一瞬の隙に逃げ出す。
「こら、待ちなさい!!!」
警察官ということもあってか、足も早く中学生の俺には逃げ切れる自信もなく、警察を殺そうと考えた。とある橋の上、俺は思い切り警察を刺し殺してしまった。
警察官の内ポケットから財布を奪い、拳銃と警棒を奪ってその場からそそくさと逃げた。銃弾は入っていない。拳銃の使い方も分からない俺には勿体無い武器だったが脅しの道具にはなると考え、ポケットに大事にしまった。
☆☆☆
「お客さん、おまちどうさん」
「ありがとう」
ラーメンをすすりながらニュースを見ていた。とうとう顔写真のない殺人鬼と名された指名手配が出回った。
1000円を置き、店を出た時だった。
「……警察です」
「何ですか?」
「殺人鬼。ご存知で?」
「今ニュース見ましたけど」
「……君、いつかの300万の子だよね」
「……チッ」
「あ、逃げるな!!」
警察官に追い回される時間が再び訪れた。このまま捕まれば洗いざらい吐かされ、ルイやマツヤの復讐が出来なくなる。いくら少年法があろうと例外によって死刑も有り得る。
頭をめぐらせ、脳をフル稼働させて逃げ道を開拓して行った。そしてタクシーを拾い首元に包丁を突きつけ走るようにと脅した。そして降りた先のラブホテルに逃げ込んだ。
☆☆☆
これからどうすべきか。指名手配情報も変わり俺の顔写真の載った物に。このままホテルに滞在すればフロントの人間によって通報される。急いでホテルを出て隠れながら過ごす日々。息をつく暇も無い。
そんな時だった。俺はどれだけ運がいいのか。自分で自分を褒めた。マツヤやルイ、スズとは何も関わらずに教室の隅っこで絵を描いていたクラスメイトの少女を見つけた。
「おい。何も騒がずに聞いてくれ。1週間でいい、お前の家泊まらせてくれ」
「……ミチヒロくん」
「頼む」
「し、指名手配を庇ったら私たちが」
「俺に脅されて匿わなきゃならなくなったと証言すれば大丈夫だ」
俺は少女の家まで、少女の帽子を借りて誰にも見られないようについて行った。家には母親と父親が両方居た。
「ユウコ、それ」
「……話聞いて。ママ、パパ」
「早く警察に……!!」
「ママ、パバ!!」
「ユウコ……?」
俺を庇うように色々な話を両親にするユウコ。ユウコの両親はそれでも警察に突き出すべきだと言った。
俺の覚悟は決まっていた。警察に突き出すという結論が出た時、この一家を殺し俺はこの家を隠れ家として使うと。
だが、結末は違った。
「虐められているのは分かった。お前の気持ちもわかった。脅されて匿った。それでいいだろう。私も狂っているんだろうな」
「狂ってませんよ。殺人鬼に脅されたとなれば誰だって怖くなる」
「何故だろうな。君からは私たちと同い年のような匂いがするよ」
「……感謝します」
「復讐なんてダメだ、そう言っても無駄なんだろう?」
「……はい」
「そうか。私たちが怪しい行動をした時殺すかい?」
「えぇ、遠慮なく」
「……そうか。逃げ場がないのは君もだが、私たちもなんだな」
悲しそうに笑った。初めて俺の心に何かが刺さった。罪もない人間を脅し、悲しくさせた。それはとても罪なんだと感じた。
そんな事を考えないようにと頭を振る。するとユウコは不思議な顔をしながら、こちらに近づきハンバーグと白飯をくれた。
「え?」
「食べて」
「いやいや」
「良いから」
「違うんだ。できるだけ箸、皿に俺の証拠を残したくない」
「……そっか」
飯を断った罪悪感が襲う。
家族たちが全員眠るまで俺は眠らなかった。言葉だけでは信用ができなかったからだ。怪しい行動をしていないのを確認して、すぐさま起きれるように体育座りで目を閉じた。
☆☆☆
翌朝ユウコ一家全員がどこに行くかを確認し、居なくなったところで、家にある刃物全てを回収し、ガムテープと結束バンドをユウコのカバンに詰め込んで俺は家を出た。もちろん家は燃やした。
何故かは想像に容易いだろう。俺の居た痕跡を根絶やしにすること、そして家族全員を抹殺するためにだ。俺に関わったのが可哀想だと思いながらも、人は信用出来ない。
最初に俺は買い物に行くと言っていた母親を殺しにかかった。スーパーの裏、人目のつかない路地に母親を引きずり込み、喉をカッ捌いた。そして家が燃えているとそろそろ父親に電話が行く頃だろうと考え、タクシーを急ぎ拾い父親の会社へ向かった。
運が良かった。ちょうど焦りながら走る父親の姿を見かける。俺はそこを狙った。人目のつかないところが近場になく、仕方なく接近した。
「あの、急いでますけどどうしたんです?」
「き、君、家が燃えてるってどういう事だ!!」
「皆さんが出掛けたあと、僕も出かけたので今初めて知りました」
「嘘つけ……!!」
「じゃあ、ちょっとそこでお話しましょうよ」
俺は父親を人目のつかない場所に移動させた。徒歩30分ほどかかってから、不審に思ったのか父親は震える声で言った。
「妻に手を出してないよな……」
「えぇ、もちろん」
「君は本当に殺人鬼なんだな」
「はい?」
「目が……」
「落ち着いてください。僕は何も手を出してませんよ」
「ち、近づくな!!!」
「……まぁまぁ。落ち着いて」
「来るなッ!!!」
父親は走り始め逃げようとした。だが俺は逃がさなかった。包丁投げ足に的中させた。痛みから転び這いずる父親の首根っこを掴みあげ、引き摺りながら裏路地のゴミ箱に突っ込み、ガムテープで口を塞いだ。
「じゃあサヨナラ」
「ンンンッッ!!!!」
殺すことにも躊躇が要らなくなり、本当に感覚が鈍ったんだなと、悲しくなった。こんな俺を産んだ母親がとても憎かった。そしてこんな俺をつくりあげたいじめっ子たちへの想いは強くなる一方だった。
父親の財布から奪った金で服を買い換え、帽子を深く被り、火事の現場にユウコが居ないか確認しに野次馬に紛れて居ると、泣きじゃくるユウコが確認できた。警察が慰めているために近寄れず、仕方なくその場を離れようとした時だった。
「アイツのせいだ!!!!!」
大声でユウコは俺の名前を叫んだ。
「ミチヒロくんのせいだ。アイツが居なければ!!!!」
「ミチヒロ……。まさか指名手配の?!」
「脅された! 匿えって!!」
「なんだって……」
「アイツが死ねよ!!!」
いつも大人しいユウコがあんなにも発狂し口が悪くなるなんて想像もできなかった。人はやはり地獄に堕ちると変わるんだなと実感することも出来た。学びを与えてくれたユウコは生かしておこうと考えその場を離れた。
クラスメイトに近づく手段として確立が出来た。そのうちルイやマツヤに再び近づくことが出来るだろうと心の中は笑みで溢れていた。
☆☆☆
殺人鬼と称された俺を探す警察の手は世界にまで回った。たかが中学生1人なら海外に行ける訳もなく、パスポートなんてものは持っていないのにも関わらず世界各国のニュースにも載っていた。世界最悪の殺人鬼と称され、俺は少し嬉しかった。ようやく俺を見てくれる人が増えたんだと。
そして俺はそこから犯罪を重ねていった。警察が手をこまねいている姿が滑稽で面白かった。そして俺は全世界に布告した。
ある殺害現場。俺に抵抗したオヤジを殺し、スーツの内ポケットに手紙を一通忍ばせた。
【ある人物2人を殺すまで俺の犯罪は終わらない】
そう、オヤジの血で書いた手紙を。
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