3話

 男たちから逃げるように俺は家の外を出て走った。全速力で、息をするのも忘れるほどに。何時間走ったのか分からない。足も疲れ果てピクピクと太ももは痙攣を始めた頃だった。橋の上、綺麗な川が流れているのを見つめながら、ふと死んでやろうかなんて愚かなことを考え、足をひっかけた時だった。


「ミチヒロくんっ!!!」


 聴いたことのある声が耳を刺した。気の所為だと、幻聴が聴こえたんだと、そう言い聞かせて再び足を引っ掛けようとした時だった。


「やめて、ミチヒロくんっ!!」


 やはり聞いた事のある声が響く。後ろを振り向いた時だった。そこに居たのはナナミだった。俺が一生大切にすると決め込んだナナミ。


「……ミチヒロくん」

「ナ、ナナミ……」

「何しようとしてるの?」

「べ、別に」

「……ミチヒロくんってさ、あの事件の子だったんだね」

「え……?」

「知らなかったな。隠し事されてたんだって悲しくなっちゃった」

「て、てかなんでここにナナミが」

「私ね、海外行くの」

「海外……?」

「うん。ミチヒロくんにサヨウナラを言いに来たんだ。もう二度と会えないだろうから」


 俺がナナミの前から姿を消したように、次はナナミが俺の前から消えようとしていた。今の年齢の自分には分からないほど遠い場所に行くんだなと悲しくなり、思わずナナミを抱きしめようとした時だった。


「何近づいてきてるの?」

「え……」

「サヨウナラを言いに来たの」

「ナ、ナナミ?」

「キモ。その名前呼ばないで。貴方があの事件の人だなんて知らなかった。虐められている私に同情したんでしょ」

「ち、違う。俺はそんなの知らなかった!」

「仲間が欲しかっただけなんでしょ」

「違うってナナミ!!」

「じゃあね。偽善者さん」

「……」


 ナナミは静かに黒い車に乗り込んで俺に冷たく鋭い視線を送って去っていった。俺はもはや失うものなど何も無くなった。あとはこの橋から飛び降りれば自分も無くなる。そう考えたら嬉しくなりさっきよりも勢いよく足をひっかけて登った。そして落ちようと身体の重心を前に倒そうとした時だった。


「おっとー。ストップ〜」

「てめぇら……」

「お母さんの借金チャラになったよ〜」


 次々と俺の邪魔をするヤツらが現れる。俺はろくに死ねもしない。ただの木偶の坊でしか無いことに腹が立ってしまって黒いスーツの男たちを殴っていた。


「死ねよ、死ねよ、お前らのせいだ。お前らクズが生きてるから俺みたいな弱者が死ねないんだ!!」

「ははは。痛えなあ〜」

「死ね。死ね。死ね。死ね。死ね!!!」

「……痛えけど、お前弱いな」

「あ……?」


 形勢逆転するのは時間の問題だった。気づけば俺は殴られる側に回っていた。顔を殴られ続けた。大人というのはこんなにも残酷で非人道的になれるんだと驚きすらあった。俺も見た事ない大人の姿だった。


「おいそろそろ」

「あぁ分かってる」

「ほれ、坊主。これ慰謝料だ。300万ある。好きに使え」

「いらねぇよ……」

「やめとけ。強がるのは弱者だぜ」

「……うぅ」

「泣いて強くなれ。俺らは貸したもんを返してもらっただけ」

「くっそやろうが……」


 そう憎悪を込めた言葉を言った瞬間、俺を殴っていた男は相当短気なのか俺の胸ぐらを掴みあげた。


「その口閉じてやろうかあ?!」

「もうやめろと言ってる」

「でもよお」

「お前も殺されてえか?」

「……分かったよ」


 思いっきり地面に叩きつけられた。男たちは去っていった。事が全て終わったせいか、俺は眠気に駆られた。そしてそのまま目を瞑った。


 ☆☆☆


「ぼく、ぼく。大丈夫かい?」

「んあ……?」

「警察だよ」


 俺はどうやら1晩眠りについていたのか、起きた時には警察署で保護されていた。


「警察……」

「僕、名前は?」

「……」

「歯が折れてる。誰に殴られたんだい?」

「黙秘します」

「……君の母親は?」

「黙秘します。ひとりで帰れます」

「じゃあ、この300万は何?」

「……黙秘します」

「君のために言う。君はまだ子どもだ。守られるべきなんだ。君のためを思って……ってちょっ!」


 俺は警察が持っていた300万を奪い、警察署の中を走り、何とか出口までたどり着いた。急いで逃げようと分からない道をひたすらに走り、警察官たちの目を掻い潜って俺はタクシーに乗り込んだ。


「どこまで?」

「……俺がいいって言うまで走ってください」

「……初めてだなあ。そんな注文。とりあえず分かりました」


 タクシーの運転手は安全運転で進んで行った。道なりに進んでいくと、どうやら家から遠く離れた警察署だったようで、初めて見る景色が並んでいた。


「ねえ、ここから1番近い駅まで」

「かしこまりました」


 10分ほど経ち、駅まで着いた。俺は金を支払い駅まで降りて、自宅最寄りまで乗っていった。そして1日と半日ぶりに家に戻った。家の中は酒の匂いで充満していた。


「ミチ……ヒロ……?」

「近寄るな」

「ミチヒロ……」


 俺は自室に籠った。ずっと扉を叩き謝り倒す母親。だがその数時間後、母親の声が途絶え、椅子が倒れる音がした。自殺したのかと心配になり自室から出ると予想が的中した。母親は自殺をしていた。急いでロープを切り、母親を助けたが、既に息絶えていた。


 また俺はひとつ失った。失うものなど無かったはずなのに。


 酷く混乱してしまい、俺は金があるのが悪いんだと錯乱し、燃やしてしまった。燃える紙を見ながらプツンと何かが切れる。


 そして俺は全ての責任をいじめっ子たちにぶつけることにした。この日から俺は復讐の準備に入った。


 ☆☆☆


 俺はまず初めに自殺した母親を自宅付近の庭に死体事埋めた。悪臭がしてはバレてしまう。そう考えたからだ。死体遺棄は罪になるのを知って、俺は埋めた。バレようが何になろうが復讐を果たすまで警察につかまらないと自負していたからだ。


 そして次に準備したのは果物ナイフと包丁を用意する事だった。だが俺の年齢では1人で包丁を買えない。そこであの時出会った老人を頼ってみようと考え、向かった。するとあの日あの時出会った場所に老人は居た。


「爺さん」

「……おぉ」

「包丁が買いたい。一緒に来てくれ」

「近頃の子どもは頼み方を知らないのか……」

「……礼儀を学んだことは無い」

「そうか。余程酷い親元に産まれ、余程酷い環境に置かれ教育もままならなかったんだろうな。良いじゃろ。着いてってやる」


 俺は母親の財布から抜いた5万円を老人に預け刃物で有名な店に買いに行った。5万で2種類の包丁を買い、老人に礼として1万円札を渡してその場を去ろうとした時だった。


「坊や」

「……」

「何をする気だ」

「爺さんって何者?」

「……ただのジジイだ」

「じゃあさ、爺さん。俺を助けてくれるの?」

「こんな老耄には助けるすべは無い」

「そう。じゃあさ、爺さん」

「ん?」

「復讐は悪いのか否か。教えてよ」

「……悪い。とは言いきれん。だが復讐をやったら分かるんじゃろうなぁ。って坊や、やるつもりじゃなかろうな!?」

「さぁ、どうだろうね」


 俺はそう言い残し老人の元を去った。その時映った老人の顔は酷く悲しんでいるように見えた。この俺を止めようとしてくれたのかは分からない。だが俺はもう止まれない。


 家に戻り、包丁1本をカバンに詰め込んで、俺はなけなしの金で電車に乗った。次に向かったのはマサトの家付近の空き家。俺はそこを拠点にしようと考えた。鍵はかかっているもののセキュリティがガバガバなのか窓の鍵が空いていたお陰で部屋に入り込むことに成功した。


 ここからマサトとマサトの母親の行動パターンを調べ始めた。


 何故最初にマサトを選んだのか。それは俺にも分からない。だが何故か自分をコテンパンにしてきたアイツらよりも、マサトの方が一番最初に片付けたい。そう気持ちが動いた。


 これは何にも言い換えられない、人間の本性なんだろう。


 そして俺は1週間誰にもバレることなく、空き家でマサトの行動パターンが読み取れた。平日は朝から夕方まで学校、そして塾へ行き帰るのは20時頃。土日は家から出ることは無かった。母親と父親は朝から夕方まで仕事、父親は土日休み、母親の休みはバラバラだった。つまり父親は土日の定期休み、母親はシフト制のバイトだ。


 どうマサトを殺すか考えていると、近所のおばさん方が話している内容が聴こえる。どうやらマサトの母親は実家へ帰ることになっているようで平日は留守になるらしく、しばらくは父親との2人暮らしになるとのことだった。つまり平日の夜に襲うことが可能になった。


 すぐに計画を遂行するために決行日を決めた。3日後の夜19時にマサトの家に侵入して帰ってきたところを殺す。そう考えた。


 すぐに2日は過ぎていった。

 そして決行日の夜18時半、マサトの家に侵入した。隠れ場所は決めていた。


 2時間ほど隠れていると、どうやら先に父親が帰ってきてしまったようで、覚悟を決めて父親を縛ろうとマサトの自室に見つけた縄を持ち、父親を襲った。


「静かにしろ」

「だ、誰だッ!?」

「静かにしろっての!」


 あまりの叫び声に腹が立ち、後ろから思い切り包丁を突き刺すと、父親は静まった。嫌な静まり方だった。そう、俺は父親を殺してしまっていた。


「……チッ」


 そして偶然が重なり、マサトがちょうどその現場を見てしまっていた。


「やぁ、マサト」

「ひっっ!!!!」

「……動くな」


 マサトは腰が抜けてしまったのか、その場から動かなかったがアンモニアのような臭いが鼻を襲った。マサトが恐怖から漏らしてしまっていた。


「くっせぇ……」

「や、やめて!」

「なぁ、マサト」

「な、なんだよ!!」

「……復讐っていけないと思う?」

「え……?」

「暴力振るったり、SNSで誹謗中傷したり、金を奪ったり、家を奪ったりしてくる奴に対して復讐するのは悪いかなぁ?」

「……わ、悪いに決まってるだろ!」

「答え聞いても?」


 俺はマサトの両手両足を縛り、壁にもたれさせて再び聞いた。


「なんで悪い?」

「そ、そりゃ人を殺したりしたら犯罪だろ!!」

「……答えになってないんだけど?」

「え?」

「俺が聞いたのは復讐が悪い理由であって、人を殺してはいけない理由じゃないんだけど」

「だ、だから……」

「あぁもういいや。飽きた。じゃあね」


 台所にあった包丁でマサトの喉元を突き刺す。


「んー、あんまり切れ味良くない包丁だね。お母さん適当にやってたのかなぁ?」

「ンンンンッッッ!!!!」

「うるさい」


 そして腹にひと突き。


「ンアアアアッッッ!!!!」

「はぁ。うるさ。まぁいいや」


 血で汚れた自分を洗うように、シャワー室に籠る。異様な死体の匂いが充満してきた頃、見つからないように家から出る。


 翌日家電量販店のテレビに映るニュースを見ているとマサトとマサトの父親の死亡について流れていた。犯人の目処は立っていなかった。完全犯罪になった。


 次に誰を狙うか考えていたが、マツヤやルイ、スズが今どこで何をしているかなんて全く知らず、どうすればいいか分からなくなっていた。だがそんな俺に朗報が舞い込んだ。


 ルイが中学生にして、空手の全国大会で優勝したらしく地元の新聞紙に載っていた。どうやらルイはここから車で2時間ほどかかる強豪空手倶楽部に通っているようで、俺は早速様子を見に行こうと金がないために歩いて向かった。


 道中、何とかして資金調達をしなければと思った。


 そして俺はルイより先に金だと考え、フードを深く被り顔が見えないようにして、オヤジ狩りを実行した。3日間に渡り総額15万をむしり取る事に成功し、一時的な金は得ることが出来た。


 そしてラブホテルに1度泊まり、臭い身体を洗い流してルイの通う空手倶楽部に行く準備を整えた。


 翌朝眠い目をこすりながら、鏡で自分を見た時だった。とても酷い顔をしていた。クマは目の下にクッキリと付き、頬は痩せこけ、唇は乾燥からボロボロ。


 どれだけ人を殺すのに体力と精神力が必要なのか一目瞭然だった。


 だがそんな自分を見ても俺の覚悟が鈍ることは無かった。夕方までホテルで過ごし、中学校の終わる時間とそこから車で移動する時間を考え、夕方18時にホテルを出た。

 そしてルイの通う空手倶楽部へ向かった。タクシーを拾い近場で降ろしてもらうと、ちょうど倶楽部に通う少年たちが建物に入っていくのを確認した。その中にルイの姿は確認出来なかったが、先に建物に入った可能性も考えて、建物の中をどうにか覗くことは出来ないかと建物の周りをグルグルと回った。


 すると建物の裏側に小さな窓があり、そこから中を覗くことが出来た。空手を習っている少年たちは汗をかきながら一生懸命に練習をしていた。周りを見渡すとルイも相当な練習を重ねているのだろう。あの小学校の頃とは違う筋肉質で身長も180センチはあるであろう、体格のいい少年に育っていた。


 俺の身長は165センチ。どう足掻いても身長差と体格差で負ける。どう復讐をするか迷った。どうするべきかスタートラインに戻される事になり、自分の甘さに腹が立った。


 仕方なく建物から離れ、ファーストフード店でご飯を食べながらどうするべきか迷っていると、隣の席に居た女性たちがなにやら騒いでいた。話の内容を聞こうと聞き耳を立てる。


「ねぇ、あの子可愛くない?」

「めっちゃ美人だよね。何歳なのかな」


 女性たちが見ている方向に座る子を見ると、とても可愛く、とても美しい顔をした子がいた。俺の頭の中にとてつもない考えが生まれた。それを実行してみようと俺は彼女の隣に移動した。


「え、あ、」

「……君、何歳?」

「え、いきなり何?」

「ごめん、答えて」

「……15歳」

「そう。ルイって名前知ってる?」

「そりゃ沢山居るじゃん……」

「じゃあ聞き直す。新聞に載ったルイという少年を知っている?」

「う、うん」

「そう。じゃあ君にお願いがある」

「え?」

「ルイって奴を落として欲しい」

「落とすって……?」

「君は凄く可愛い」

「……」

「分かるかな。これで」

「君、私と同じくらいの年齢に見えるけど、凄く大人っぽいんだね」

「……で、答えは?」


 じっと目を見つめながら話し続けていると、少女はゆっくりと頷いた。お願いを聞いてくれたお礼として服の内ポケットに1万円を入れると、少女は驚きながらも嬉しそうに笑った。


「あの……」

「はい?」

「いつからやればいいんですか?」

「連絡する。電話番号とかある?」

「うん」


 少女の連絡先を貰うところまでいったはいいものの、決行日をどの日にするか迷っていた。もし仮に彼女に危険が及べば、マサトの件など怪しまれてしまうかもしれないという不安に駆られていた。


 どうにかしてルイを容易に落とし、容易に殺すことが出来るのか。数日間考え抜いた後に、俺は決行日を伝えるために少女に電話をした。


「もしもし」

「はい。どちら様ですか?」

「……この前話をした男って言えば分かるかな」

「あ、こんにちは」

「……君にルイと接触して欲しい日が決まった。来週の日曜日。ルイはどうやら大会があるらしい。その会場に向かってくれ」

「日曜日……。その日はパパとお出かけが」

「……そっか。家族との時間は大切だね」


 パパ。久々に聞いた言葉。

 俺は少女に頼むことをやめた。いい家庭で産まれているのであれば家族との時間の大切にして欲しいと思ったからだ。


 だが、再びスタートラインに戻された。日曜日に大会が行われることまでは分かっているが、どうルイを貶めることが出来るのか、全く思いつかなかった。これが中学生の脳内の限度なんだと、自分の頭の悪さに腹が立ってしまっていた。


 そして何も思いつかないまま、また日が過ぎていった。ルイの大会前の土曜日、外を歩いていると後ろから肩を叩かれる。


「……?」

「あ、あの。やっぱり合ってた!」

「……あ、君は」

「このあと時間ある……?」


 特に何も思いついていない。ここ数日休憩する間もなく脳を動かしている。少しだけでも頭を休めてリフレッシュすることも大事だと考えて、俺は少女の誘いに乗った。


「ありがとっ!!!」

「うん」


 少女に連れ回される。服屋にゲームセンター、飲食店、カフェ巡り。沢山のことをした夜19時、少女はにこやかに笑って言った。


「ありがとうー!」

「……うん」


 俺はなんてちょろいんだろうか。このたかが1回の遊びで、彼女を好きになってしまうなんて。恋にうつつを抜かしている場合じゃないのに。


「あれ、どしたの?」

「ううん」

「……そう?」

「気をつけて帰るんだよ」

「……うん!!」


 そして彼女と別れた数時間後の事、俺はふと思いつく。その計画を必死にメモに書き留めて、俺は明日を待った。


 ☆☆☆


 日曜日の朝。眩い太陽が燦々と輝いている中、俺はホテルのシャワーを浴びていた。どうやら少女に断られてからの間だいぶ物を食べたせいか肥えたお陰で肉付きが前よりも良くなっていた。

 だがこの身体になった事が運を引き寄せてくれたのだと気づく。


 そう俺が考えついたのはウィッグを買い、女のフリをしてルイの大会を見に行く1ファンとして接すれば、怪しまれることなくルイに近づけて殺せるという計画だ。


 さっそくウィッグとレディース服に身を包み、ルイの大会会場へ向かった。大会はとても盛り上がりを見せていた。そんななか、俺はルイを見つけ出した。


「あ、あの!」

「ん?」

「こ、これ受け取ってください!!」

「……ふーん」


 ルイは受け取ってくれたものの、不敵な笑みを浮かべた。そしてその手紙を自分の座っていた椅子に置くと、自分の番が来たのか会場へ向かった。静かに始まった演武、終了後は大歓声だった。


 そして優勝はルイに決まった。その時点で俺は行動に移した。この大会会場の裏側、人目もない場所にルイを呼び出す手紙を渡していた。


 そしてルイは現れた。


「あ、ルイさんっ!」

「……いいよ。そういうの」

「え?」

「はぁ。分かってんだよ。お前」

「……チッ」

「声、もろ男だし。聞きなれた声だわあ。で?」

「……お前を殺してやるよ」

「厨二病のつもり?」


 俺は胸元からナイフを取り出す。するとルイはニコッと笑い気づけば俺は地面に転がっていた。ちゃんとこっちに一直線に向かってきていたはずのルイがいつの間にか俺の身体に乗っかって、マウントを取ってきていた。


「オラよッ!!!」

「ウァッ!!!」

「マツヤを操ってたのは俺なんだよ!!」

「ああああっっ!!!」


 小指を思い切り捻じ曲げられ折られる。ナイフは遠くに飛び対抗する手段は、念の為に持っておいたカッターナイフだけだった。だが取り出そうにも顔を殴られるのを防ぐので手一杯だった。


 だが、油断大敵とはこの事なんだろう。


 ルイは殴り飽きたのか俺から退けて行った。その不意打ちで、ルイの足目掛けてカッターナイフを突き刺した。


「イッッッ!!!!」

「覚えてろ……!!」


 今の身体じゃ万全に動けない。俺は仕方なく逃げる選択肢を取った。痛む身体を動かし逃げる。


 そして遠くから聞こえる女たちの悲鳴。だがルイの痛がる声は一切しなかった。


 悔しかった。自分が惨めだった。覚悟を決めて殺そうとしていたのに考えが甘すぎた。マサトの時で有頂天になっていた自分が恥ずかしくて仕方がなかった。どうやってルイを完璧に殺せるのか考えるために、俺は寝床を探した。


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