2話
気づけば10時間以上も寝てしまっていた。朝5時、目を覚まし冷蔵庫まで歩く。冷蔵庫を開けてペットボトルの水を飲む。カラカラだった喉と眼が潤ったような気がした。テレビをつけてボヤーっとしながら全てを忘れるようにアニメを観ていた。
気づけば朝7時になっていた。家の電話が鳴る。
「……はい」
「おはよう。先生だけど」
「なんですか」
「お母さんいる?」
「居ません」
「そう。今日は学校来れそう?」
「はい。行きます」
もうそんな時間になってしまったんだと気づく。学校へ行く準備をした。家から出ると朝日がとても厳しく俺の人生に影を差した。
学校に着き席に座ると、マサトがやってくる。
「ミチヒロくんおはよう。体調大丈夫?」
「あぁ、うん」
「そっか。良かった」
「ありがとう」
「ううん。今日も1日頑張ろうね!」
「うん」
マサトの明るさがつらかった。自分とは違う恵まれた環境に生まれ落ち、自分とは違う裕福な生活をして、ゲームや漫画、小説に暖かい母の手料理を食べられる美しい生活に思わず羨ましさと嫉妬の感情が湧く。
授業終わりの午後16時頃、いつものようにそそくさと逃げるように帰ろうとすると、マサトに声をかけられる。
「……あ、マサトくん」
「一緒にさ、帰ろう……」
「よお、帰ろうぜえ!」
「……お前ら」
「あら、新しいお友達?」
最悪な場面が訪れてしまった。俺を狙ういじめっ子たちがマサトと話す俺と遭遇してしまった。マサトを逃がすために冷たく突き放そうとした時だった。
「君たちは?」
「俺、1-Cのマツヤ」
「僕は1-Cのルイ」
「私は1-Bのスズだよん」
俺とマサトを囲むように、いじめっ子たちは立ち塞がる。マサトだけ押し出す形で輪の外に突き出した瞬間マサトは怒る。
「なにすんだよ!」
「帰れよ。マサト」
「なんで?」
「いいから帰れよ!」
怒鳴ってしまった瞬間、少し涙目でマサトは帰って行った。それを追いかけようとするいじめっ子のリーダーのマツヤの腕をぐっと掴む。すると俺の鳩尾に拳がクリーンヒットする。
「うぐっ……」
「俺さ、空手始めてさ〜」
「僕はスポーツ興味無いけど、マツヤくんに誘われて空手一緒に始めたんだ」
「私はボクシング〜」
「……ふはは。身を守るための武道じゃなくて人をいじめるための武道かよ」
「黙れよ」
思いっきり股間を蹴りあげられ痛みで声が出ない。床に座り込むと教師が割って入る。
「どうしたの?!」
「あ、すんません。俺がちょーっとからかったら、足が股間にぶつかっちって」
「マツヤくん。日頃から気をつけなさいと言ってるでしょ」
「へーい」
「大丈夫?」
「……はい」
教師に連れられ保健室で保冷剤で股間部分を冷やしていると、心配して見に来ましたと嘘をついてマツヤたちはソファに座る。
「早く行くぞ」
「分かってるよ」
「先生こいつ大丈夫みたいなんで!」
「ん、そう? 気をつけるのよ」
「はーい」
若干強引に連れ去られ、学校の門を出たところだった。マツヤたちの顔は学校モードではなくいじめっ子モードに入った。近場の公園ではなく数十分歩いて着く、あのトラウマの公園で、俺は服を全部脱がされ丸裸にされる。
「……お前、ちんこちいせえなあ!!!」
「……うるせえよ」
「ねー、マツヤ、私居るんだけど」
「あ、そうだ。スズ触ってみろよ!」
「気持ちわるっ。何言ってんの」
大事な俺の股間を弄ぶようにさらし者にする。あまりの恥ずかしさで手で隠そうとした瞬間だった。マツヤは俺の首を思いっきり絞めながら言った。
「勝手なことすんな」
「うがあっ」
俺の股間は死ぬ間際に子どもを作ろうとする本能なのか反り立ってしまう。するとスズは思いっきり笑いながら言った。
「きもちわるうー!!!」
「たってやんのお!」
「見るなああッッ!!」
「喋んな」
マツヤは俺の腹に思いっきり踵を落とす。あまりの痛さに吐いてしまうと、マツヤの靴が汚れる。すると更に俺の腹を何度も何度も踏みつけた。
「死ねよ。テメェみたいな汚ねえ女の子供はよ!!!」
「は、はぁ?!」
「知ってるぜ。お前の母さん、出ていったんだろ!」
「だ、誰から聞いた!」
「さあねえ。ま、なんにせよ死ねよ!」
何度も何度も踏みつけられていた時だった。スマートフォンのカメラで撮られる音がする。マツヤたちは焦って周りを見渡した時だった。マサトがこの現場を撮って逃げようとした。
「逃げろ、マサト!!!!」
俺は大声でマサトに声をかける。3人が追いかけないように思いっきりズボンを掴むがマツヤは俺の顔面を蹴り上げた。痛さに視界が歪み手の力が抜けた。
そこから何時間が経ったのか分からない頃、目を覚ました俺が見た光景は残酷そのものだった。マサトが捕まり、マツヤに永遠に殴られていた。
「やめろおおお!!」
「このクソ野郎が、撮ってんじゃねえよ!」
「やめろってんだ!」
「うるせえなあ!!!」
その日、マサトは大怪我をして帰った。マツヤたちはいじめ飽きたのか俺を放置して帰った。ボロボロの格好で家まで何とか歩いて玄関を開けた時だった。
「あら、やだ。負け犬よ」
「ガキ。ビールつげや」
「……」
無視して自室に入った時だった。母親の男は自室の扉を蹴り破り俺を思いっきり殴った。
「何無視してやがんだ」
「……あんたらが俺の家を占領してるからだろ」
「生意気なガキだなあ?」
「ここはラブホテルじゃねえんだよ」
「……減らず口叩くのはいいけど自分を守る手段もねえガキは黙って従うのが世の摂理だぞー?」
「そか。俺は死んでもお前らを呪うからいいよ」
「そうかそうか。つまんねえガキだが肝が座ってるのはわかった。仕方ねえから今は見逃すが次はねえぞ?」
「殺すなら殺せ」
あの残酷な奴らに比べたら母親の男は可愛くみえた。やり返さなければ何もしてこない、黙って営みをさせておけば帰る。簡単なものだった。そうやって生き延びていくが、マツヤたちからのイジメはエスカレートする一方だった。
マサトが母親を連れて抗議をしに来たことによって、学校での身動きが取れなくなったと言い、マツヤは俺を殴る。それもどこで手に入れたか分からないメリケンサックをはめて。
あまりの痛さに悶絶していると、あまりの破壊力だったのかマツヤはメリケンサックを外す。俺は思わず煽ってしまった。
「それで殺すかもしれないって怖気ついたのかよ」
「は、はあ?」
「お前ら最低だよ。とことん最低だ。どうせ俺以外もいじめてんだろ。あ、そういえば聞いた話だけどマツヤ、お前の彼女、親父に寝盗られたんだって?」
「……黙れぇぇぇぇ!!!」
「本当だったんだ。笑える」
「マジで殺してやる!!」
マツヤはメリケンサックで俺の顔面をボッコボコに殴った。あまりの痛さゆえか、今は痛みすら感じないほどに腫れ上がり何ヶ所折れているか分からない状態になってしまっていた。
あまりに酷い状態になった事で、スズとルイは怖気付いたのかマツヤを引っ張りながら連れ帰ろうとする。マツヤは怒りから我を忘れてしまっていた。
「あ、あんた本当に死んでも知らないから!!」
「うふひぇーよ……」
「ぼ、ぼくはやってない。やってないから!」
「私もやってない!」
ボロボロの身体で家に着く。道中誰にも見られずに帰ってくることに成功した。そこから数ヶ月間家から出ず治療のために学校にも行かなくなった。
☆☆☆
全く学校に行かなくなり冬休みが訪れていた。母親からの仕送りは続いてはいたものの、月ごとに金が減っていっていた。生活苦に悩まされる中で、どうやりくりすべきか考えた結果、俺は生地を買い、自分で作るという選択肢に出た。裁縫道具を使うのは小学生以来だったが真剣にやっているうちに上達するのを感じ、その時間だけは楽しかった。
月に1度母親が家に来てラブホ代わりにする日。俺が裁縫をやっていた時だった。母親は俺に軽蔑の目を向けた。思わずキレそうになったが我慢をして無視し、裁縫を続けていた時だった。
「そんな針と糸が好きなら俺が縫ってやるよ!」
「は!?」
母親の男は俺の指に思い切り針を突き刺した。鋭い痛みに床を転がりたくなったが、男はそれを許さなかった。俺の首を思いっきり掴み針を何度も何度も突き刺して歪む表情を楽しんでいた。
「あああっっっ!!!」
「大好きな裁縫だぞ〜」
母親の方に目線を向けると、少し悲しげな表情をしていた。それは俺に対してなのかこの男の哀れな行動なのかは分からなかったが、30分ほど虐められた後、俺は外に放り出される。
親指から出血が止まらず、ずっと指を咥え吸っていると大家に見られる。思わず指を口から離すと、大家は哀れな目で言った。
「……何歳になるんだっけ?」
「……うるせえよ」
俺は大家の横を走り抜ける。階段を勢いよく降りてできるだけ遠くまで走ろうと無我夢中で走り続けた。気づけば夜になっていた。疲れきった身体にムチを打つように家の扉を開けた時だった。ちょうど男と母が帰る時間だったのか鉢合わせしてしまう。
「うわっ!」
「チッ。邪魔だな」
「……」
「んだ、その目はぁ?」
「すんません」
「そうそう。お利口にしてたら金やっからよ」
「……」
俺は男に頭を下げた時だった。男は俺の服のポケットに1万円札を入れて帰って行った。母親は俺の頭を少しだけ撫でて何も言わず去っていった。利口にしていれば金が貰えるんだと分かった瞬間だった。
だがその日から母と男は現れなくなった。もちろん月の金も貰えなくなった。今まで少しづつ残していた金で何とかやりくりしていたが、中学2年の夏に金は底を尽きた。俺は大人しく出ていくことに決めて最低限の荷物を持って橋の下、ホームレスが沢山居ると話題の場所で腰を下ろした。
「兄ちゃん、中学生か」
「……だったら?」
「そんな目をするな。心まで憎悪に染めたらいかん」
「……爺さんに関係あるかよ」
「利口になれ。利口になって助けてもらえ。ホームレスはつらい」
「利口ってなんだよ」
「賢くなれ」
老人から出る言葉のひとつひとつに老人の過去を垣間見ている気分になっていた。
「学校は行きなさい。困ったらジジィのとこに来なさい」
「あぁ……」
俺は老人に言いくるめられ、遅刻して学校に着いていた。女教師からはこっぴどく叱られたが、それよりも怖かったのはマサトの目だった。
マサトに声をかけようとした瞬間だった。
「話しかけるなよ。君が学校に来ないせいで僕が狙われたじゃないか」
「え……」
「元は僕が悪いんだろうけど、虐められている君が悪いのに、僕はただ君を助けようとしただけなのに君は逃げて学校に来なくなった」
「マ、マサトくん」
「名前呼ぶな」
マサトは冷たく言い放った。そして背中にゾクッと嫌な視線が突き刺さる。マツヤだった。いつもの連れだったルイとスズはあの一件以来手を引いたのか俺に関わろうともしなかった。
マツヤに手招きされ近づくと腹に強く痛みが襲う。
「うぅっ……」
「やぁっと来たなあ?」
「……もう許してくれよ。俺が何したってんだよ」
「気持ちわる」
マツヤに許しを乞うが、マツヤは笑ってそれを一蹴し、俺の腹にもう一度力強くパンチを打ち込んでくる。それを何とか止めようと手を出した時だった。
「分かってんだよ。手出すくらいよ!」
「あぁっ」
「痛えだろ。自前のナイフだ」
「本当にお前は最低だよ……」
教室の床に倒れ込む。すると女教師は心配そうに救急車を呼び、マツヤの持っているナイフを見て全てを察したのか、警察も呼んでいた。
マツヤは身動きひとつ取らず、警察が到着後も笑みを浮かべながら、警察とともにどこかへ行った。俺は救急車に乗り込み、今までの事を全て警察に打ち明けた。
「どうしてもっと早く相談しないんだ!」
「……相談したところで動いてくれてましたか?」
「……あぁ。動いていたさ」
「そうですか」
俺はこの日から保護されたが、母親には連絡がつかず孤児院に送られることとなった。18歳までは保証してくれるということで素敵な環境が俺を待っていてくれた。
孤児院から通える範囲の中学校へ転校してからはこれが本来の中学生活というものなんだと、楽しい感情はこうなんだと初めての感情と出会うことが出来た。そして友人が沢山出来た。
「ねえねえ、文化祭さ一緒に回りたいな!」
「……うん。良いよ」
俺は初めての恋心も持った。彼女はナナミ。髪の毛は生まれた時から茶色の子で高身長、バド部のエースだった。ナナミは俺の事情をなにひとつ知らないが突然この時期に転校してきた俺に対して嫌な顔ひとつせず、沢山話しかけてくれて、沢山笑ってくれた。
そんなナナミに惹かれていた。
文化祭当日、俺のクラスは展示ということで展示が終えたあとは特にやることがなく、ナナミとともに文化祭を回って楽しい時間が流れていた。
「ねね、ちょっとお話あるんだ!」
「ん?」
「……好きな子いる?」
「……ナナミ。君が好きだ」
「えっ、ほんと?!」
「うん」
「私もー!!!」
「え……?」
「告白しようって決めてたの。中学生だし、周りには冷やかされると思うんだけど、私はずっとミチヒロくんと生きていきたい」
「……俺も」
「俺も?」
「俺も、ナナミとずっと生きていきたい」
「やったあああ!」
俺は中学2年の秋、恋人が出来ることになった。環境が変わると人生も変わるんだなと嬉しさで涙が出てきてしまう。ナナミはそれを見て何も言わずに優しく涙を拭いてくれた。
「ありがとう」
「私こそだよ。これからお願いします」
「こちらこそお願いします」
「えへへ、照れるね!」
笑顔が綺麗ではっちゃけた笑みのナナミ。ずっと守ると覚悟を決めた。そこからずっとなにひとつ不自由などなく、俺とナナミは同じ高校に行くことを決めた。孤児院の先生方にもそれを話すと応援するとのことで、背中を押してくれた。
☆☆☆
中学三年生の春が訪れる。最高学年、そして受験生への道を歩む春。俺の隣には今も尚ナナミが居てくれた。沢山勉強をして、沢山笑って、沢山遊んでこんな毎日を俺が歩むことが出来るなんて思いもしなかった。
人生はたったひとつで転機が訪れるんだなと改めて感じていた。
「ミチヒロくん!」
「ん?」
「あのさ、ミチヒロくんのこと親に紹介したい!」
「え、良いの?」
「うん!」
ナナミは笑顔でそう言った。放課後ナナミの両親と会うことになった。
☆☆☆
「は、初めまして。ミチヒロです」
「固くならなくていいんだよ」
迎えてくれたのはナナミの父親だった。靴を揃えて最低限の礼儀の中、俺はお茶を貰い椅子に座る。ナナミの父親は笑顔で質問をしてくる。
「ナナミが笑って過ごせるのも君のおかげかもな」
「え?」
「君が転校してくる前は、ナナミはクラスでイジメを受けていてね」
「そうなんですか。知らなかったです」
「……私は父親失格だね。娘の事を笑顔にしてやれず、イジメと闘ったのに結局守りきれなかった」
俺は母親との記憶がフラッシュバックしていた。ナナミの父親もかなりの苦労があったのだろうと要らない情景が浮かぶ。
「僕も虐められていました」
「え、そうなのかい?」
「……はい。今では全く無くなりましたが、お父さんがナナミと一緒に戦った結果今があると思います」
「君は子どもには思えないね」
「……ははは」
「変な空気になってしまったね! 母さんカステラまだかい?」
父親は笑顔でカステラを待った。
俺はこの日ナナミの家族と楽しんだが、重要なことが伝えられずに日が終わろうとしていた。
覚悟を決めて話そうとナナミを同席させて過去を話そうとすると、ナナミの両親も真剣な顔で聞いてくれた。
「ニュースで沢山取り上げられたと思います。ある中学校で最低最悪なイジメが行われたと」
「あぁ、ナナミはそのニュースを見る度私より酷い扱いを受けているから私は我慢出来るといって聞かなかったのを覚えている。で、それが?」
「それ、僕です」
「……え?」
俺は全てをさらけ出すために服を脱いだ。数々の傷、見るに堪えない痛々しい跡をナナミやナナミの母親は目を背けたが、父親だけは向き合ってくれた。
「そうか。つらかっただろう。それでそれがどうしたんだい」
「僕の過去を知ってもまだナナミさんと離れろと仰られないんですか?」
「……過去は過去。今は今だ。君がどんなにつらいことがあっても生き延びた今がある。こうやって打ち明けてくれた君は強いんだな」
「……ありがとうございます」
ナナミの父親は俺の肩を叩いてくれた。優しくて大きい手のひらだった。ナナミも母親も俺を受け入れてくれた。両親との挨拶を終えた夜、俺はナナミの家から出て孤児院に帰ろうとした途中だった。
「あ、ここに居たの。帰るよー!」
孤児院の先生が俺を探し回っていたのか、偶然鉢合わせする。なにか焦っていたようで俺は急いで車に乗り込む。
「どうしたんですか?」
「……事情は帰ってから!」
「……はい」
嫌な予感がした。
☆☆☆
「ミチヒロ……」
孤児院の玄関を開けたすぐ目の前に居たのは母親だった。
「……何しに来た」
「ごめん」
「何しに来たって聞いてんだよ」
「こら、ミチヒロくん迎えに来てくれたお母さんにそんな事……。ミチヒロくん……?」
「ミチヒロ、そんな目しないで!!」
「お前に名前を呼ばれる筋合いはない。俺の今の幸せな生活を壊すなよ!!」
「ミチヒロごめん。お願い。捨てないで」
「捨てたのはお前だろ!!」
「ミチヒロごめん。反省してる。お願い……」
1人になりたく、母親を放置し施設の奥に閉じこもった。何とかして帰らない手段はないか。警察は何をしているのか。嫌な記憶が巡りに巡る。
そんな中孤児院の下の子たちが俺を呼ぶ。
「お兄ちゃん〜!」
「……どした?」
「帰るの???」
「え、いや」
「お母さん迎えに来てくれて良かったね!」
「うんうん。羨ましいな。捨てられちゃったから」
「僕も帰りたいなあ。おうちに」
小さな子ども達の残酷で純真な言葉の数々に胸が痛くなる。小さい子だとまだ幼稚園生の歳の子が捨てられたというワードを発する環境。母親がこのまま居座ると嫌な影響が起こってしまうかもしれない。そう胸騒ぎがしてしまい、俺は母親と決着をつけるために母親の目の前にたった。
「ミチヒロ!!」
「あんたが今回した数々のこと、全て許せない。警察は何してんだ」
「……」
「なあ、母さん。俺は捨てられる側だったんだな。奪われる側で」
「じゃ、邪魔しないから」
「もう邪魔だよ?」
「お願い捨てないでやだ。お願い。お願いします」
母親は恥も何も無く俺に土下座した。ナナミとの今を壊したくなかった。俺はナナミの実家に電話をかけていた。
「……あ、お父さんですか」
「おっ。ミチヒロくん。忘れ物かい」
「……お別れかもしれません」
「え?」
「すみません。ナナミには黙ってください」
「どうしたんだい」
俺は覚悟を決めた。下の子たちの悪影響にならないよう、母親と家庭復帰することを決めた。中学もそこから行かなくなり、母親とやり直しの為の1年を過ごすことに決めた。
これが本当に正しい選択だったのかは分からなかった。
☆☆☆
「ミチヒロ。起きて」
「う、うん」
ギクシャクしながら家庭復帰1週間が経った。怪しい所はなく普通の生活をしていた。母親も水商売を辞めて普通のOLになっていた。
日中母が仕事のうちは俺が家事をして暮らしていた。
だがそれを壊したのは、やはり母だった。
家のチャイムが鳴る。
「こんにちは〜」
「黒いスーツ。革靴、ガタイがいい。そっか。母さん借金してんだ」
「……見たことないガキだけど、物分りいいねぇ?」
「……ははは。また人生狂わされちゃった」
「どした?」
「母さんは居ません。帰ってくるまで家にどうぞ」
「……おいガキ」
「なんですか」
「……いや、何でもねえ」
反社の男たちを家に座らせてお茶とお菓子を出して俺は晩御飯の支度を始めた。
「肝座ってんな。このガキは」
「……ははは」
そして夕方18時、玄関の扉が開く音がする。母が帰ってきたのだと思い、反社の男たちを隠すように母を迎え入れて玄関の鍵を閉めた。
「母さんお客さんだよ」
「えー、誰ー?」
「ほら!」
「え……」
「やあ、奥さん。贅沢な待ち時間を過ごさせてもらいましたわ。金、返せますよね?」
「母さん。俺の生活また壊すんだね!」
俺は何とか笑顔を保ちながら母親を責めた。母は泣きながら明日払うからと男たちのブツを俺の目の前で舐め始めた。
「はははは。惨めだな。俺……」
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