第2話 撮影

 入院生活でのライフライン、それがスマホだった。

 入院患者でスマホ・ケータイを持っているのは1割程度だったと思う。私はと言えば、実は撮影禁止の病棟内でこっそり撮影した写真をSNSにアップして、それへのリアクションにかなり救われていた。

 ネットを介してとは言えきちんと外部と繋がっている感が持てたからである。

 朝一番に窓の外の雲の様子、おやつの時間にそれを、くらいしか撮影できなかったがコメントが付くと元気が出た。

 そんなスマホだが、実は患者同士での貸し借りは厳禁となっており、私も何度か注意された。どうして駄目なのか、は聞かなかったので不明なのだが。

 少し脱線するが、どこかの介護施設で入所者への暴力事件があったのだとか。これは退院してから相談支援員の方に聞いた話だが、ネットでも話題になっていたらしい。一部始終が防犯カメラに録画されていたので露呈したらしいが、スマホが原則禁止なのは案外とこういう事案に対処するためかも、とは邪推。

 ではここで、一風変わった患者を紹介してみよう。

 名前は知らないが、廊下で昼夜問わず一定時間ごとに「うー」と唸っている方。

 とにかくしゃがまないと気が済まず、挙句、満員のエレベータでもしゃがむ方。

 そして、歩きながら罵詈雑言を独り言の如く吐く、とても迷惑な方。

 特に最後の方は本当に迷惑なので、看護師に「迷惑だ、なんとかしてくれ」と数回は言った。効果はなかったが。

 今だから「それが『精神科』たる所以だ」と納得できるが、同じ空間にいないといけないとなると、これはもう拷問に近い。

 主治医の診察の際に「あんな妙な人と一緒だとこっちがおかしくなる」とぼやいたりもした。「あんなだから」閉鎖病棟にいるのだ、と誰か言ってくれれば良かったのに、とは今更。

 ついでに紹介すると、自分は絵の才能がある天才だ、と称する、水彩画描き。

 この方の水彩画、実はスマホで撮影してヤフオクに出してみたのだが、本人が言う通りの価格で出して、入札ゼロと惨敗。まあ当たり前の結果なのだが。

 看護師連中に「あなた、天才なんでしょう?」とからかい半分で扱われている様は、かなり嫌気がさしたが、そうからかわれるだけの失態を冒してきたらしいのでこれはもう自業自得だと言えよう。

 話をスマホに戻すと、私のスマホはバッテリーが劣化しているらしく、1日持たない。なので電源残量が怪しくなるたびに看護師ステーションに預けに行かないといけないのだが、これが実はかなり面倒臭い。

 ステーション内にいる看護師によって対応がまるで違うからだ。

 如何にも面倒そうに受け取る看護師もいれば、「充電ですね」と笑顔で受け取る場合もある。

 なので後者を狙ってスマホを渡しに行く、必然的に。

 たかがスマホの充電で何故にこんなに気を遣わなければいけないのか、と思いつつ、しかし気分が悪いことは極力避けたい性分なので仕方がない。

 貸し借り禁止、撮影禁止、所定の場所以外での使用禁止、とスマホだけでこんなに制限がある、さすがは閉鎖病棟だな、と思ったり。

 ちなみに充電用電源コードは「自殺防止」という名目で手元には持ち込めない。こちらもさすがは「精神科」と言うべきか。

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