第11話 生き甲斐

 戦後の日本文学界を代表する作家の一人に、三島由紀夫がいます。彼は、小説家•劇作家として、「仮面の告白」「金閣寺」「豊饒の海」など、数多くの文学作品を遺しています。同時に、独特の人生哲学の持ち主でもありました。彼は、憂国の若者を募り、「楯の会」を結成しました。そして、昭和45年11月25日、陸上自衛隊東部方面総監部に侵入し、割腹自決という壮絶な最期を遂げました。

 三島由紀夫は、自己内部の理想と外部の現実との間でもがき苦しみ、ついには、自分なりの美学とも言うべき価値観に基づいて人生最期のシナリオを描き、自ら見事に演じきったのではないでしょうか。私は、「彼の生き甲斐とは何であったのか」と考えざるを得ません。何故なら、「彼は自分の生き甲斐を貫くために死を選んだ」とも言えるからです。

 人は、それぞれこの世に生を受け、物心がついて以来、内なる自分と対話しながら生きています。特に、思春期以降は、毎日、善なる自我と悪なる自我との闘いの中に生きているとも言えるのではないかと思います。そして、ほとんどの人は、その闘いの中から、自分なりの生き甲斐を何とか見つけるのではないでしょうか。それが、自立する、あるいは大人になるということだと考えます。

 人間にとり、生き甲斐なくしては生きていくことは困難です。生き甲斐は、社会的規範に従い自分と周囲の人達を大切にしながら真剣に生きることを通じて、自然に見えてくるのではないでしょうか。

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徒然なる道草 今尾 活 @IMAOIKIL

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