第4話 怪しい影

「シャアアア――――!」


 泥潜蛇グランド・サーペントが大きく口をこちらに向かってくる。


 いつもより強く地面を蹴って跳躍する。が、体を捻って軌道を修正し再び向かって来る。


「【黒器創成くろきそうせい】」


 槍を両手に構えて口に斬りかかる。硬いうろこと槍が激突し、火花が散った。


「かたッ……⁉」


 踏ん張りが利かない空中とはいえ、突き刺さると思ったが傷一つ付いていない。


 口先を利用して地中を掘り進めるため、他の部位より硬くなっているのは知っていたが……。


やわいとこから捌いていくか」


 持っていた槍の形状に変化させ、着地と同時に泥潜蛇に向かって走る。反応して同じように口を開けて襲いかかる。


「ここだ!」


 タイミングを見計らって泥潜蛇の下顎に上から槍先で突き刺す。泥潜蛇の口内に入り更に地中深くまで差し込み、地面に縫い付けた。


 獲物が自ら口の中に入ってきたのだ。口を閉じて捕食しようとする――――が、口が半開きになった状態で動きを止めた。更に上顎からは血が噴き出た。


「食う前に持っていた武器ぐらい把握しておけ」


 俺は槍から双薙刀そうなぎなたに変形させていた。簡単に言えば、もう一方の棒先にも刃が付いている武器のことだ。魔法力を高めていくにつれて、【黒器創成】の形状変化が出来るようになったのだ。地味ではあるが、色々と小細工ができて悪くない。


「楽にしてやるから少し待っておけ」


 口の隙間から地上へ出ると、雪をかき分け地面に触れた。


「――――【黒棘ブラック・スパイル】」


 俺が触れた地面を中心に短い黒いとげが迫り出すと瞬く間に広がっていき、巨大な棘が泥潜蛇の体躯を貫く。真っ白な雪が血色に染められて、泥潜蛇はまぶたを閉じた。


 【黒棘】は【黒器創成】と同じ、魔力を結晶化させる魔法だ。違いは結晶化させるまでの過程にある。【黒器創成】は武器の形状を明確にイメージするのに対して、【黒棘】は地中に魔力を流し出すだけなのだ。


 メリットは広範囲の魔法攻撃ができること。大地に流れる魔力循環に自身の魔力乗せるだけなので、戦闘の合間に仕掛けることも出来る。デメリットは魔力の消費が半端ない。下手に節約すれば強みである、『広範囲攻撃』を失ってしまう。使いどころが限られるが選択肢が多いに越したことは無いだろう。


「さて、次はあんたらだ」


 俺は気配を感じる森の方へ視線を向けた。


 何か仕掛けてくるわけでも無くずっとこちらを見ていただけ。目的は不明だが放っておくわけにはいかない。


「私たちに敵意はありません!」


 思っていたより素直に木影から一人の男が姿を見せる。気味の悪い笑みを浮かべてながら両手を上げて、敵意が無いことを証明していた。雪景色に全身を黒いローブを包んでおり、真夜中でなければかなり不自然だ。


「私の名前はゴンダと言います。先の戦いは感激いたしました。こんな可愛い子供があの泥毒蛇を圧倒するとは、紛れも無い天才ですね」


「お褒めに預かり光栄です。出来ればお仲間さんにも先の戦闘を評価して欲しいのですが……」


 真意は分からんが今は敵意を感じない。引き出せるだけ引き出そう。


「申し訳ありません。彼は少々人見知りで……」


「それならば仕方ありませんね。それで、あなたたちは一体何者ですか?」


「私たちは一般の方々が取り扱えないような案件を請け負う組織、ぞくに言う『裏社会』というものです」


「そんな裏の住人方がこんな雪山で何を?」


 こいつの言っていることが真実か定かではない。が、そうでも無ければこんな怪しい格好はしないな。


「それは……今のあなたにお話しは出来ません」


「どうすれば教えてくれますか? 仲間になる……とか?」


「そうですね、組織に入ってくださればお教えしましょう!」


「分かりました。では――――」


 最小限の動作で地面を蹴り、男の肋骨ろっこつに膝蹴りを入れる。衝撃で骨が折れ、数十メートルほど飛んだ。


「アガアアァ――――⁉」


「無理やり聞くとするわ。仲良くしようぜ、オッサン」


 起こしてやろうと手を伸ばしすが、泣き叫んでそれどころでは無い。


「こ、このクソガキ……!」


 不気味な笑みは跡形あとかたも無く消え去り、不細工な泣き顔だけが残る。


「どうせ碌なことしてないんだろう? 天罰を与えてやるから大人しくしていろ」


 もう一人のお仲間に視線を向けた瞬間――――。


「ッ……⁉」


 頬に激痛が生じる。寒さで感覚が麻痺したのかと思ったが明らかに違う。何かが俺の頬を伝ったのだ。


「雨か?」


 空を見上げるが、大雪のせいで上手く視認できない。


 いや、氷点下の気温で雨が降るわけがない。


 俺は顔を伝う液体を触ると指先がただれた。


「酸性の液体……毒か?」


 俺から少し離れた場所で、ボンッと雪を踏みつけたかのような音が聞こえる。遠目から見ると、相当量の赤い液体が降ってきた。


 再び空を見上げるとその液体の正体が判明する。


「泥潜蛇⁉」


 見間違いかと思ったが、体躯に【黒棘】が刺さっていた。


「クソッ!」


 泥潜蛇の体液を避けつつ、その場から離れる。


 状況理解が追いつかないが、今できることを見つけるしかない。


 何か忘れているような……オッサンだ!


 重要な情報源として助けようと振り返るが、泥潜蛇の毒液で上半身が溶けていた。


「ッ……⁉」


 せめて遺体だけでも回収しようとするが――――間に合わず泥潜蛇が落下するし、衝撃で周囲の雪が吹き飛んだ。眼前には泥潜蛇の肉片が散らばり、オッサンが下敷きになっている凄惨な光景が広がっていた。


 ***


「……特にないな」


 多少気が引けたが、何か情報を持っていないか目の前の死体を探っていた。どちらも収穫はほとんど無かった。だが泥潜蛇グランド・サーペントには不審な点が見受けられた。


 酸性の毒液である。毒液を分泌する蛇系の魔物もいるが泥潜蛇にそのような特性は無い。そもそも寒い時期に活動するところから違っている。『環境への適応』といってしまえばそれまでだが……少し早計かもしれないな。


「オッサンが生きていれば色々聞けたのに……」


 泥潜蛇が上空から出現したのは、十中八九お仲間さんの仕業だろう。その本人は俺がドタバタしている内に逃げられた。しかも顔を見られてしまった。裏社会の手が家族にまで及ばないよう用心しないと。


「来世があるなら次こそ真っ当に生きろよ」


 俺はオッサンの死体を埋めた。悪人とはいえ俺が怪我をさせたのが原因だ。泥潜蛇も埋めてやりたかったが、大きすぎて時間的に不可能だったので、商人などが見えやすいよう山道近くに置いておいた。


 ***


 怪しい男たちと蛇の戦いを経て、薬草探しを再開して三時間が過ぎる。


「アアアァ――――! 見つかんねぇ!」


 何の成果も挙げられない俺はレブロック山脈のド真ん中でこの世界の不条理を嘆いていた。


「――――何で見つからねぇんだよ! こんなに探してんのに……」


 膝を折り、両手を地面に押し付ける。


 肉体強化で動いているとはいえ歩き慣れない山道、体温を奪う寒さと大雪、そして広大な捜索範囲で満身創痍まんしんそういだった。


「眠い……」


 積もった雪を両手ですくい、顔面に雪を押し付けて目を覚ます。ゆっくりと立ち上がり、覚束無おぼつかない足取りで歩き出す。


「こんなに大変なら来なければよかった……何で来たんだっけ? ああ、レイナのためだったな……ツワリぐらい我慢して欲しいもんだ。前世のロメインはそんな様子なかっ、た――――違うな」


 無かったのではない……俺に見せなかったのか。


 ロメインと結婚し、身籠った時も俺は国の最大戦力として戦争に出向いた。戦争から帰ってくると彼女は温かく出迎えてくれた。ゆっくりと食事を取りながら、『怪我はしていないか?』、『辛いことは無かったか?』と気に掛けてくれたのに、俺は何もしてやれなかった。


「俺は本当にダメな奴だ。最愛の妻が辛く、苦しんでいる時に傍にいることも気づいてやることも出来ないなんて……」


 今更悔やんでも意味が無いのは分かっている。


「苦しんでいる母さんは俺が助ける!」


 前を向いて一歩ずつ地面を踏みしめた。


***


 更に三時間ほど時が流れた。雲に覆われているが太陽が昇り始め、目の前の景色が明るく見え始める。メーデルに教えられた場所に辿り着いた俺は積もった雪をかき分け、目的の薬草を探していた。


「時間的にこれ以上は厳しい……」


 六時間以上も寒空の下で動き回っていたため、体は冷えて声が震えている。


 でも、諦めたくない。何もしてやれない人間にはもう成りたくないんだ!


 冷え固まった右手で雪を払ったその時――――濃紫色の小さなつぼみがチョコン、と見せる。その蕾は図鑑で見た薬草の色と酷似こくじしていた。


「まさか――――⁉」


 周辺に積もった雪を払いのけ――――開花した濃紫の薬草が一面に広がっていった。


「ついに……! ついに見つけたぞぉ!」


 見つけた途端、全身の力が抜けて仰向けになりながらズリズリ、雪の上を滑る。


「おい! 起きろ……後は帰るだけだぞ」


 惰性的だせいてきな欲求を跳ね除けて起き上がる。両手いっぱいに薬草を持って山道を駆ける。


 正確な時刻は分からないが、およそ六時半頃。


 ロイドがどんなに早く起きても七時――――つまり猶予は残り三十分。


「絶対間に合わせる!」


 俺は山道から外れ、森の方へ入っていく。


 太陽が昇って来たってことは、ようやくが使える。


「【シャドウムーブ】」


 森の影に入り込んだ俺は数段加速する。城壁に着く間に、今後の流れを考える。


 まずは薬草を診療所の前に置く。そしてロイドにそれとなく診療所に行くよう促して、薬を取りに行かせる、以上だ。


 もう少し考えても良かったが、眠くて頭が回らない。後は未来の俺に任せよう。


 城壁を乗り越えた俺はメーデルの診療所を通る瞬間、静かに薬草を置いて家まで突っ走る。


 跳躍して窓から自分の部屋に侵入する。丁度良く階段を上る音が聞こえ、服を脱ぎ捨てベッドに潜った。


「おはようアルム、雪が降り積もっているぞ」


 ロイドは元気よくドアを開ける。


「おはよう父さん」


 俺が起きるのを確認したロイドは階段を下っていた。何とかバレずに済んでよかったが……。


「超眠い」


 睡眠不足で頭が回らなかった上、ベッドに入ったせいで完全に脳はお眠りモード。


 だが、寝ることは出来ず顔面に平手打ちをして何とか目を覚ました。


 ***


 昨日と同様、店は大繁盛し仮眠をとる暇も無いまま夕日が王都に差し込んだ。


「父さん、メーデルさんの診療所に行ってみよう!」


 商品を運び出していたロイドに提案する。


「悪いけど明日に――――」


「母さんの病気に効く薬が手に入ったんだって」


「よし、今すぐ行こう!」


 持っていた商品を棚に置きロイドは俺を抱きかかえ、診療所の下へ駆ける。


「本当なんだな! アルム」


「本当だよ!」


 既に言質は取っている。数時間前、驚いた様子で店に来たメーデルはロイドでは無く、俺に声を掛けた。教えた薬草が翌日に届いたのだ。何かしたのかと尋ねられたので、『冒険者さんに頼んだからかもしれません』と言ったら納得してくれた。


「メーデルさん! いらっしゃいますか?」


 ロイドは診療所の扉をノックする。


「待っていたわ、ロイドさん」


 ガチャ、と扉を開ける。手には特効薬が入っている小瓶を持っている。


「凄いのよ! 玄関に薬草が――――」


「ありがとうございます! これお金です! お釣りはいりません! ではさよなら!」 


「お、お大事に……」


 ロイドの勢いに気圧され、彼女は黙って見送るしかなかった。


 店でのことを話してしまわないか肝を冷やしたが、何とか誤魔化せたようだ。 


 小瓶を落としてしまわないよう、積雪に注意しながら自宅に戻る。息を切らしながらレイナの寝室のドアを開ける。


「レイナ! いいお薬が入ったよ」


 彼の足音に反応したのかドアを開けた時には、目を覚ましていた。顔色が悪いせいかゲッソリしているように見える。


「ウゥ……少し静かにして。頭に響くわ」


「ああ、済まない。でもこの薬を飲めば楽になるぞ!」


 小瓶の蓋を外してレイナに手渡すと、少量を口に流し込み喉を鳴らした。


「とても苦かったけれど、少し楽になった気がするわ」


 顔色はまだ優れていないが、久々の笑顔が見える。


「こいつが薬の事を教えてくれたんだ。それにアルムが居なかったら、店は回らなかったと思うよ。本当に自慢の息子だ!」


 俺の髪をくしゃくしゃに撫でながら、笑顔を見せる。


「まだ子供なのに無理させてごめんね」


 彼女は俺の頬にそっと手を添える。


「夕飯を作ってくるからアルムは看病していてくれ」


 やる気に満ち溢れた表情でロイドは部屋を出ていく。


 昨日より元気なだけ、マシな料理になることを期待しよう。


「母さん、水でも飲む?」


 俺は任された仕事をこなそうとするが、彼女は首を横に振った。


「看病は大丈夫。それよりも――――」


「えっ?」


 俺の背中に彼女の腕が回り、力強く自分の方へ引っ張られる。力の向く方へ身を預けると、ベッドに顔を埋めた。


「疲れているでしょう。夕食までここで寝ていなさい」


 己のベッドを半分ほど俺に受け渡す。


 『俺が真冬の山で魔物と戦いながら夜通し薬草を探していた』と勘付かれたわけでは無いだろう。疲労は見せないよう気を付けていたが、母親とは隠し事が通じないな。


「……うん」


 抵抗せず、彼女の言う通り俺は目を閉じる。かすかに温もりを感じる。 


 俺はまたたく間に、眠りに落ちた。 


 ***


 時刻は午前二時を過ぎた頃――――月明かりが地上を照らす。


 ベルモンド王国からはるか東へ離れた古びた廃城。人影を微塵みじんも感じさせないこの地で、五人の人間が王室の真ん中で円卓を囲んでいた。年端としはもいかない子供が三人、大人が一人、そして全身を黒いローブで覆い隠した仮面の男らが重厚じゅうこうな白色の椅子に座っている光景は、余りに異質だった。


「先生、『輸出品』はどうだったんですかぁ?」


 朱色しゅいろ髪の少年ライオスは、円卓に両足を上げながら仮面男に問う。

 

「その態度は何よ! 真面目に参加しなさい!」


 藍色あいいろ髪の少女タリオナは、椅子をガタッ倒して立ち上がった。


「お前に聞いてねえよ、ブス!」


「あんたのほうがブスよ!」


「二人とも喧嘩は止めてください……」


 くすんだ黄色髪の少年リベルは、弱々しい口調と声量で仲裁ちゅうさいに入った。


「ちびは黙っていろよ!」


「ヒイイィ――――! ごめんなさいッ!」


 ライオスに睨みつけられ、椅子の上に足を置いて膝を曲げた。     


「お前ら少しは静かにしろよ!」


 禿頭スキンヘッドで巨漢のモーゴットは、円卓に両手を叩きつけて怒鳴り散らかした。あまりのうるささに仮面男を除いて両耳を塞いでいた。


「あんたが一番煩いわ、モッサン!」


「あんたのせいでモーゴットさんが怒鳴る羽目になったんでしょ!」


「細かい事ばっか気にするお前が悪いんだろが!」


「みんな……ちょっと……」


「いい加減に――――」


「ゴホン……」


 仮面男の咳払いが、激しさを増す話し合いに深く浸透した。


「「「「…………」」」」


 四者は口を閉ざし、形はどうあれ椅子に腰かけた。


「ライオス君、さっきの質問の答えだけど――――子供に倒されてしまった」


 仮面の男は低く、落ち着いた口調で真実を伝えた。


「ガキ……⁉ そいつって俺より年上ですか?」


「それってそんなに重要?」


 追及する内容に違和感を感じたタリオナは間に入る。


「当り前だ! 『世界最強』を目指す俺にとって年下に強い奴が居るのかどうか、知っておくことは最優先事項!」


「……詳しい年齢は不明だが、君らより年は下だろう。それに可愛らしいだった」


「なッ……! 雑魚とはいえ泥潜蛇グランド・サーペントを倒すなんて。しかも――――!」


 円卓に足を上げていたライオスもちゃんとした姿勢に戻る。 


「ふふ……」


 彼の反応にタリオナは満足そうに微笑む。


「……その少女を勧誘しなかったのですか?」


 モーゴットは結果が見えていながら、形式上質問した。


「ゴンダさんが声を掛けたんだが、断られた上に殺されてしまったんだ。私自身、逃げ出すのがやっとだった……」


「『ゴンダ』ってキモ顔のオッサンだろ? 死んで清々するぜ」


「そんな事を言うものではない、ライオス」


「だってよぉ、モッサン。俺らの事を馬鹿にしていたやつだ! どうでも良いだろうあんな奴!」


 モーゴットの注意に反抗の意思を見せる。しかし彼の発言は、自分らの思いを代弁してくれたのに等しい。真っ先に突っかかるタリオナは口を開くことは無かった。


「組織が君らを認めていない者が多いことは事実だ。だからと言って固有魔法ちからで分からせようとは考えないように」


「分かってるよ……」


 仮面男の介入もあって、彼を落ち着かせることに成功する。


 全員が押し黙る中、リベルは円卓からほんの少し見える位置まで手を伸ばす。


「何だい、リベル?」


「僕の固有魔法でどうにかしますか?」


 話し始めこそ聞き取れたが、徐々に声量が無音に近い程に下がっていった。


「……あの国は私の管轄かんかつだ。出来る限り自分で対処するつもりだよ」


 何とか聞き取った言葉を返答すると、露骨にがっかりする。


「そう……ですか。分かりました。必要な時はお呼びください」


 仮面の男は立ち上がる。


「『輸入品』はボスも大変喜んでくれた。事業拡大に向けて更なる働きを期待しているよ。今日は解散だ」


「良しッ! 俺はもう寝る……」


 解散の合図と同時にライオスは自室に向かう。


「では、私も失礼します。おやすみなさい、先生」


 仮面男に一礼した後、タリオナも後に続く。モーゴットも立とうとした時、俯いたままのリベルに視線を向けた。


「リベル、いつまで座っているんだ!」


「僕なんて、必要ないんだ……」


 そんな様子を見兼ねたモーゴットは、リベルを抱えて椅子から無理やり引き剥がした。


「さようなら先生。リベルも、ほら」


「おやすみなさい……」


「ああ、おやすみ」


 キイィン、と音を立てて錆びついた扉が閉まり静寂が訪れた。


「……ようやく見つけましたよ。」    


 



 

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