1 すべての始まりは単位不足

 さて。

 些か情けない状況から話を始めることをお許しいただきたい。


 私の通っていた高校は、ちょっと毛色の変わった校風で、テストや点数を重視しない教育方針を採用し、校則もなく、服装や髪型の規定もない学校でした。とんでもなく世間離れしていて、ゆるい環境でした。


 そんななかに十代の少年少女を放り込んだらどうなるか、みなさん、お分かりですよね?


 まあ、なかにはその自由闊達さに触発されて勉学に励む生徒もいました。母校の名誉のために言っておきましょう。

 でも、大概はダレます。ここぞとばかりに授業をサボり、芝生で寝たり、図書館に篭ったり、なんなら近くの川で泳いだり。


 そして私はもれなく後者でした。

 これ幸いと苦手な理系の授業はサボり、好きな文系の授業の時だけクラスに顔を出すような体たらくでした。あとは音楽かな。(ちなみに音楽の出席率だけは異様に高い学校だった。あまりお近づきになりたくないヤンキーなんかも音楽には出ていた)


 とはいえ。

 日本の学校制度のなかで生かされている以上には、遅かれ早かれ「裁きの日」は来るのです。

 そう、「単位が足りない」という現実が。


 かくいう私も、高校一年生の冬のある日、教師に呼ばれ、単位が足りないことを告げられました。


 そりゃあそうでしょうね、とどこか他人事のように心のなかでつぶやいた私は、ちょっと「シュンとした」ように見えたのでしょうか。教師は憐れみを感じたのか、続けてこう言いました。


「文を書くのは好きだろう。なら、理系の科目でレポートを書きなさい。それで救済策としよう」


 というわけで、私はその日、レポートのネタとなる本を探すべく、放課後、図書館を訪れたのです。

 しかし、苦手分野である以上、なにを書けばいいかさっぱり思い浮かびません。たしかにその頃から文を書くのだけが取り柄でしたが、文章ならなんでもいいわけではないのです。私は半ば途方に暮れながら、数学や理科の本の棚を漁りました。


 そのとき。

 あ、これいいかも、と思った一冊が目に入ったのはなにかの思し召しでしょうか。

 それは生物学の本でした。

 それも、理科のなかでは、まあまあ興味のあった進化論に関する本のようです。


「……これでいっか」


 あまり深く考えることもなく、私は先生の本を手に、貸出カウンターへと向かいました。

 著者名には一切目を向けることなく。

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