第131話 自爆特攻

「クロエ?事前に話していた通り、あいつは縛っておいてね?」


 リンが釘が刺す。


「分かっているわよ。ほらロザリィ、来なさい。別に殺したり傷つけたりしないわよ」


「ちょっと待ちなよあんた達……別にあたしゃあんたらと敵対するつもりは……」


「貴女にどんな算段や企み、あるいは善意があるかは関係無いの。これはあの子の為に必要なの。亜人が嫌いなあの子の為に」


 ロザリィはリリエルの刺し殺すような視線を受けてそれ以上言葉を口にする事は無く、大人しく私による拘束を受け入れた。


「まぁこんな街で生きていた婆なんざ信用はされないだろうねぇ……」


 ロザリィの呟きには敢えて触れる事無く縛り終え、目隠しをした上で馬車内に転がしておく。


 とりあえず目先の問題は解決した。次は目先からちょっと離れた位置にある問題だ。


「それで?なんだったかしら」


「わすれないでよクロエー……だからこの先で亜人達が通せんぼしてるんだってー」


「あぁ、そうだったわ。ごめんなさいね、ありがとう」


 さて、密集した場所にぶち込むなら爆発物と相場が決まっているのだが……どうしたものか。

 砲兵の真似事でもしてみようかとも一瞬思ったが、細かな計算や弾着観測等の問題もあるかと思い断念する。


 出来れば楽なのだけれどねぇ……砲兵は戦場の女神とも言われるくらいには戦況を簡単に変えれる兵器、又は兵科なのだけれど……。


 種類や火薬量、地形にもよるがだいたい一発だけでサッカーコートくらいの範囲を一気に爆破し跡形も無くせるその兵器は味方にあっては女神、敵にあっては死神とも呼ばれる存在……私には無理ね。計算式とか座標とか、知らないもの。


「あ、じゃああれ使いましょう」


「どれー?ってかなにそれー?」


 言いながらすでに作り終えたドローンを見てリンが変なかたちー、とてしてしとドローンを軽く叩きながら言う。


 ずっと思ってたのよね、偵察用のハエをもう少し大きくして爆弾付ければ楽に殺せるって。

 風情も異世界情緒も無いけれど……私にはこれくらいが丁度いいわよね。


「ほら、この手榴弾をこの子につけて突撃させれば素敵な花火が上がるわ」


 命を消費しない特攻兵器、これなら人道……とかいうのにも配慮してるでしょうね。


「これ一つだけ?」


「いいえ?もっと用意するわ」


 言いながら街の地面や街の建材などを片端から奪い素材としてドローンを作っていく。

 そのドローンの下部に丸く、鋭い破片をいくつも刺したような物を用意する。


 手榴弾、というが爆発物の勢いで殺す訳ではない、爆発の勢いで破片を飛ばし、それによって殺すのだ。

 簡単に言ってしまえば爆発の勢いで飛んできたらちっこい鉄の破片でも死ねるよな?が手榴弾の基本設計だ。


 これもそうだ。丸い爆弾に鋭い破片をいくつもつけ、それによって殺傷する。

 もちろん、現実であれば火薬の量や種類によっては破片ではなく爆発の威力そのものが十分以上の脅威となるのだが……私の付与魔法での付与はその威力には足り得ない。


 爆発したとて殺すには至らず、いたずらに苦しめるだけになるだけだ。

 まぁそれも士気の低下を誘えるなら有用だが、この場では必要無い。


 ずらり、と並んだ数十程のドローン群が亜人の街、その大通りに並ぶ。


「うわぁ……いっぱい、いっぱいだね!」


「ええ、これで面倒な連中を消してしまえばいいわ。リリエル、もう少し待てる?」


 ぬいぐるみを抱くかのように弾帯を抱えて御者台に座り込むリリエルを見る。


 私の言葉にややあって反応したのか、私をゆっくりと見るリリエル。


「……」


 無言でただ頷くリリエルに余程この街の異常さに参っているのだと再認識をする。

 加えて未だその気狂い共の巣に自身がいる事もストレスの原因か。


 リリエルの頬に手を添え、両の手で包み込んであげれば、ようやくこちらを見てくれる。


「大丈夫よ、私とリンが頑張ってここからすぐに出してあげるから」


「はい……」


 よし、それじゃあリリエルの為にも直ぐにでもドローン特攻をしちゃいましょう。


 数十はあるドローンが私の操作により飛び上がる。


 そのすべてに手榴弾がつけられ、自らの出番を待っている。

 それらは高く飛び上がり、陽の光に乏しい峡谷にあってはその機体の色も相まって至近距離で無いと発見は困難になる。


「おおー……なんかすっごいね、これ」


「これが、この速さで突っ込むのよ」


 いつも通りに肉眼での視認か困難になれば映像越しにドローンを見る。

 私にとっては地球で様々な映画やゲーム、あるいは車等で見慣れた速度ではあるが、リンにとってはそうではない。


 ドローンが街の建物をそこそこの速度で通り過ぎるその様に食い入るようにずっと見ているリン。


「ほら、この速度ならすぐに通せんぼしている亜人どもに特攻かますでしょうから馬車動かしましょうね」


 この馬車で出せる全速力でドローンを追う形ですすめる。


 ドローンが街を飛ぶ鳥の様に街を眼下に風を切る。

 街がよく見える。人の入った檻……コロシアム……イヤに荘厳な、この街のどの建物よりも装飾過多な教会と思われし建物……散乱した探掘装備に鉱物資源の山。


 それらを超えた先に、亜人どもは布陣していた。


 その全てが教会とやらの所属の亜人か、人攫いはいなかった。

 大盾に……長槍、それらを前面に出しまさに槍衾と呼ぶべき様相であった。


 その背後には雑に組まれた木組みが見えた。

 急ごしらえにしてはそこそこ立派ね。


「クロエー?もうぶっこわしたのー?」


「んーん、まだよ。もうすぐ爆破させるわ。リンはそのまま馬車を進めてちょうだい」


 数十機のドローンがまっすぐに教会の亜人どもに向かう。

 教会と言えば非暴力や非服従とか異世界とかゲームのイメージがあるのどけれど……実際は違うみたいね。


 ま、異教徒弾圧とか大好きな宗教も地球にあるし不可思議って事でも無いし、掲げる教義や信奉する神によっては如何様にもなるわよね。


 なら別にここで教会の亜人を殺しても罰は当たらないわよね。

 正義と嘯き神に酔って殺しを正当化するのと、信仰なく殺す事に違いはそうないはずよ。


 亜人の一人に勘が鋭いのか、あるいは感覚器官に優れているのか空からまっすぐ近づくドローンの方を向く。

 画面越しに視線があう。


 だがそれだけだ。

 近く、からもはや至近と呼んで差し支えない距離にまでドローンは特攻し……爆ぜた。


 破裂音に、やや間を置いて飛んだ肉片が落ちるひどく粘着質な音。


 勘が鋭かった亜人の最期の言葉は何ら意味の無い単語にすらなっていない物だった。


 数を揃えて爆破したからか悲鳴も上がらず、ただ爆発とその結果だけが唯一一機だけ特攻させなかったドローンの映像に写っている。


「うっわすっごい音っ!なになに?」


「あー……あのドローンが爆発した音よ。ごめんなさい。びっくりした?」


「ほんっとびっくり、すごいねー。後はもう馬車で進むだけー?」


「ええ、そのままでおっけーよ。銃座、着くわね」


 映像を確認し障害が無いのを見てからリンに伝える。


 リンにちょっとだけ横にどいてもらい、御者台に前日に着けた機関銃の銃座に座る。


 後は何も無いといいけど。

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