第121話 決裂、交戦
「待て……話はまだ――「あぁ、その前に一つ聞くわ」」
これを聞いておかねば、この後が面倒だ。
恐らくは馬車も抑えられているだろうしね、無理矢理にどかすなら最悪その生命活動を停止させるつもりで行かねば。
「……なんだ」
「今ならまだ見逃すわ、降伏なさい。街の亜人として、そして人間と敵対するものとして利益を追求する姿勢は認めるが、些か乱暴にすきるわよ」
別段私としてはこのドワーフの男の思考や交渉を悪く言うつもりは無いのだ。
私が今言ったようにあれらにはあれらの思惑があり、成したい事がある、それは分かる。
そして成すべき事の為に必要な物があるのも。
私は彼らを悪と言うつもりはない。ただ対立し、害を成すのであれば排除するまで。
「状況がわかっているのか……?如何に君達が強力な武装を有していたとして、ここは我らの街だ」
未だその半身を半端に開けた扉に隠したまま、ドワーフが言う。
「頼む……同志よ。君が人間でない以上我らも手荒な真似はしたくはないのだ……。なにも君達の持っている物を奪う、などとは言っていないだろう?情報だけでいいのだ。それほど秘匿するという事は、それ程のものなのだろう?」
だから嫌なのよ、とは言わないでおく。
銃器の登場は塹壕を呼び、塹壕を攻略する為に様々な戦略兵器が登場する事だろう。
地球の事を言うのであれば毒ガス、戦車……火炎放射器の類も有効かしらね。
塹壕を突破する為に数メートル進むのに千人の犠牲が必要になった。
と言えばそれがどれほど戦争に変化を齎し、大地に犠牲と消費を強いるのかは分かるだろう。
地球ですらそうなのだ。この魔法という不可思議ちゃんが存在する異世界ではそれがどう激化するか……私には想像もつかないし、そうなれば世界的に武器や防具、戦略のレベルが上がってしまう。
そうなれば私達も対策に追われるだろうし、いずれ完全に追い抜かれ、後手に回る……かもしれない。
「お断りよ。……交渉は決裂ね。リリエル、お願いっ!」
リリエルの短い返事と共に、扉にリリエルの根が覆う。
「これはっ……!いつの間に……?」
お返事してあげる義理は無いし、無視する。
リリエルにそのまま足元の壁面も壊してもらい、一階のどこかの部屋へと落ちる。
扉が一つと……何かの書類が山積み。それと壁に幾つも貼られた地図と思しきもの。
地図には主要な街道ルートと幾つかの注意書きの類。
そのいずれも複数で襲撃する事と地味で特徴の無い馬車のみを襲う事と書かれていた。
「わわっ!びっくりしたあ!クロエ?派手にやる時はちゃんと何するか言ってよー……」
「ん、ごめんなさいね。ちょっとリリエルに白蟻の真似事をしてもらっていたのよ」
壁面を根で食い破り、脆くさせ、通り道を作る。レベルと操作技術の両方が上がったからこそ出来る芸当だ。
そういえば……亜人達はレベル上げとか熱心にする方なのかしらね?
ダンジョンがない以上そこまで上のレベルの連中はいないと思っても……いい?
敵の大体の戦力や個体あたりの脅威度を考察しつつ、この部屋の唯一の出入り口たる扉に矢を放って半壊させる。
「クロエ?さっきの降伏云々ってそういう事でいいの?」
チェンバー内に弾丸が入っているかしっかりと再確認しながらリンが問う。
「ええ、大丈夫よ。でも必要以上に痛めつけたり、殺すのを目的としない事。そんな危ない子は苦手よ私」
「わかった!」
壊れた扉の先から複数の足音と影が見える。
対応が早いのか、予め待機していたのか……。
こちらもそれなりの物を用意しましょうか。
迎撃戦となったらまぁ機関銃よね。それもしっかりと固定して使うデカイやつ。
えぇっと……付与魔法でいつも通り内部機構を擬似的、あるいは模倣してそれっぽくしてと。
「うっわクロエなにそれ?クロエのが危ない子ってやつじゃない?」
「うん?うーん……でも警告はしたわよ、それ以上は責任取れないわ」
交戦状態にあって手加減は自分の大切な人を失う結果に繋がりかねない。
それに、手加減とか無力化って言葉にすると三文字程度で簡単に書けるけど実際やるとなったらかなり難しいのよ。
実力差が三倍?とか離れてて条件整っててやっと……みたいな話どこで聞いたんだったかしら?
「クロエー弾丸もうちょっと作ってー」
「はいはい……ここの建物の建材でいいわよね?」
生産魔法で建物を削って弾丸の形に形成し、リンに渡す。
今回用意する弾丸は装甲を……ドワーフのあの分厚い岩の鱗を貫徹出来るようにした物だ。
先端を丸くし、正面から当たった場合の弾丸自体の破砕を防ぎ、また斜めからも跳弾したり滑ったりするのを防ぐ。
先を鋭くすれば貫徹力が増すと思われがちだが、硬い岩盤層などを掘るドリル等を見れば分かるが、大抵平面だったり丸い形状のが多いのだ。今回もそれを参考に作った。
あと少しで機関銃の作成か終わるというタイミングだったが、敵は待ってはくれないようだ。
「うわっ!もう来たよクロエっ!」
狭い扉から入ってくる亜人二人を撃ち殺しながらリンが知らせてくれる。機関銃の作成を急ぐ。
扉の奥から手が伸び、亜人の死体を引き摺って邪魔にならない様にする。
そして扉からまた亜人が侵入しようとする。
「出来たわ!リリエル、機関銃を使ってくれる?私は上を警戒するわ」
ドワーフの男がなにするか分からないから一階に降りたけどあの部屋でそのまま迎撃した方が良かったかしら?
んー……でも扉に半身隠してたし、あの隠してた方の手に何を持っていたか分かったもんじゃないもの。
リリエルが私の作った機関銃を握り、リンに射線に入らないように警告する。
そして……そのトリガーを引いた。
射撃音が鳴るのと、埒を明けようと重装備の亜人が入ろうとしたのは同時であった。
硬い金属を貫徹し、くぐもった悲鳴を上げる亜人。
仲間を引き摺って安全圏まで移動させようとする奴がいたが、構わずそいつも弾丸で食い破る。
扉が死体で埋まり始める。それはリリエルの操る機関銃の脅威故に仲間の死体をどける事すら叶わない為だ。
機関銃の真価発揮してるわぁ。
どっちかっていうと機関銃って制圧力、つまりは遮蔽から顔を出せない膠着状態を作り出す事に意義があるものね。
こうやって動けない状態にして、そこに手榴弾なんかを投げ入れれば……
「うわ、クロエってばえげつない……」
扉の奥、通路から短い悲鳴と破裂音が響く。
「手加減してたらいつ反撃されるか分からないでしょ?リンも手を抜いちゃ駄目よ。魔物と一緒」
「はーい。でもリリエルのおかげであたし仕事ないよー?」
「リリエルのリロード中は貴女だけが頼りなんだから、そこだけ仕事してちょうだい?」
「はあい、上の方はどうなのー?」
リンが気にした通り、さっきまで交渉に使っていた殺風景なあの部屋、その扉の根はもうすぐ壊される。
交渉をしていたあのドワーフは気が付けば姿を消しており、代わりに数人の亜人がなんとか根を壊そうと躍起になっていた。
「んー……もうすぐでリリエルの根が壊される所ね。そろそろこっちも攻撃していくわ」
「手伝うー?」
「んーん、私一人で大丈夫よ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます