第106話 報告会

「なんだっけこういうの……玉石混交?」


「なにー?どういういみー?」


「えぇっと……価値のあるものと、そうでないものが混じっちゃってる!って事よ。この状況で言うと要らない情報もあるしそうじゃないのもあるね、という事よ」


 陽はとうに落ち暗くなるまで情報収集をしたが、得られた情報は先の会話の通りだ。


 有用なものからそうでないものまで、そして割合としては使い物にならないどころか、子供の教育に悪影響とまで言えるものが大半だった。

 どこの娼婦がいいとか、話してんじゃないわよ。


 晩御飯の時間で一旦休憩したが、それ以外はこの時間までずっと三人がかりで創世樹街で盗み聞きに注力していたと言うのに……目的の情報はそこまで集まらなかった。


「もう遅いわねぇ、それぞれが集めた情報を整理して今日はこれくらいにしておきましょうか」


「そうですね……そろそろリリエルも眠くなってきました。そっち……行きますね」


 リリエルが私達のいるベッドの方へと上がる。

 三人で寝るにも大きいと感じる馬車の一階の大部分を占拠するベッドの真ん中で、皆して座り込んで話す。


 リンは私とベッドにいたからリンの持っている端末の音声が漏れ聞こえていたからだいたい把握している。

 リリエルの情報収集の結果だけ知らないので割と期待を寄せてしまうのだが、それが伝わったのかリリエルは少し申し訳なさそうに話す。


「あの……リリエルも対して有用な情報という情報は……強いて言うならギルドが正式に大猿討伐が失敗したと宣言している、くらいです」


「その情報だけでも十分ありがたいわよ、リリエル。ありがとうね、ギルドは大猿討伐を諦めたのかしら?」


「いえ、第二討伐隊を募集しているようです。ギルド内部に忍び込んでちょっと深入りして聞き込みしたら、かなり強引に集めようとしているらしいです」


 一回目で失敗したという情報を出した以上、わざわざと処刑台に登りたがる物好きはいない。

 その対応に関しては予想出来るし納得出来る。


 今回は亜人も関係なく呼ぶのかしら?

 部隊を完全に分けて別働隊として起用するなら……有り得そうね。

 

「なるほどね……ありがとうねリリエル」


「うぅ……リリエル、役に立ちました?」


 リリエルはギルドを中心として情報を漁っていたが、それでも得られた有用と言える情報はこれだけだ。

 たった一つだけしか報告出来るものが無い事を気にしたリリエルは、弱々しく私の手を握る。


「もちろんよ、リリエルはよくやったわ」


 握られた手に対してこちらもリリエルの手を握り返して返事をし、安心してもらおうとする。


「んーと、じゃあ後はクロエの報告だけだよっ!」


 リンが場を取り仕切って私に報告を上げるように促す。


 それに対して私は二人とは全く違う場所にいる偵察用のハエからの映像が映る板切れを見せる。


 それは……


「なにこれ?ダンジョンのなかー?」


「む、一人で遊んでいたんですか?クロエさん」


 純粋な疑問と、少し拗ねたような非難する声が左右から聞こえるが、ちゃんと考えがあるのだと説明をする。


 大猿をこのハエで討伐してしまおうと私は思っている。

 このハエは極小だ。それこそ容易に生物の体内に侵入出来る程度には。


 二人が情報収集中もこのハエを使って一階層の猿を何匹か体内から殺害した。

 目的はある。


 それは私の作った遠隔操作出来るハエで殺害してもレベルが上がるのでは?

 というものだ。


 これが出来ればこのダンジョンを離れた後も恒常的なレベル上げが可能となる。

 猿を数匹殺したのもそれが可能か検証する為だ。


 結論から言えばこれは可能だった。

 たしかに私のレベルは上がった。


「……つまりね、私はここから離れた後も成長し続けれる方法を探していたのよ……?さぼってたんじゃないわ」


「んんぅ、でも目的は情報収集であってレベルアップじゃないですよね?」


「えぇーっと……レベルアップの方法についての、情報収集……じゃ駄目?」


 一応理由はちゃんとあるのだ。

 もしギルドが亜人も大猿討伐隊に参加するよう要請した場合、あの危険な大猿とまた対峙しなければいけない。

 そうなる前に殺害し、事前に脅威を排除しておこうという事だ。


 如何に私達が日々怠惰に過ごさずレベル上げと実戦経験を積んでいるとは言え、あの大猿ともう一度私達が対峙したら、リンの腕の骨折以上の悲劇が起きないとも言えない。

 そうなる前に、脅威を脅威で無くす必要性がある。


 ここから立ち去るまで僅かに三日といえど、その三日で何を言われるか分からないし、色々と仕込んでおきたいものもある。


「むぅ、ちゃんとした理由があるなら……まぁ」


「そ、そうよ?私だって色々と考えての事だもん。それでも納得しないなら、明日の晩御飯に一品何か追加するわ、ね?」


 二人が情報を集めてくれるなら一日くらいなら私は別の事や検証を優先してもいいかな、と多少気が緩んでいたのは事実だ。


 故にリリエルを宥めすかし、今回の件は手打ちにしてもらった。

 そして、その後は特に報告するような話題も無い為今日のところは就寝。





 ……皆が寝静まった後、私はリンとリリエルの二人による拘束を慎重に解いてベッドからそっと出る。

 予め二人には言っていたこれから行う事は大猿の討伐だ。


 討伐、というのは誤った表現かもしれない。

 絶対に外敵に脅かされる心配は無いと勘違いしている大猿の耳から侵入し脳を破壊する……なんていうか、駆除?


「なにせ私はここから一歩も動かないんですもの。最初からこれを思いつけば良かったわ」


 昼間は偵察だけに留めていたハエ。これは生産魔法と付与魔法を使って作り出したもので、今はダンジョンの一階層の人目のつかない所に隠してある。

 ハエの見たもの、聞いたものは私の手に持つスマホ……を模した何かに映像として映る。という仕組み。


「さて……ねぐらの場所も把握しているから後は脳みそをこね回して内側から破壊するだけよ。待ってなさい、大猿」


 ふんふん、上機嫌に鼻歌でも歌ってやろうかしら?


 ちらりとベッドの方を見て二人がぐっすりと眠っているのを確認し、それはやめておくことにした。

 黙って映像端末を操作してハエをおおザルの元へと移動させる。


 遺跡を壊し、積み上げた半壊した……ドーム状の何か、それが大猿のねぐらであった。

 通常サイズの猿達が大猿を囲むようにして眠っている。


 雌……かしら?生物によってはこうやってハーレムを形成する生物がいるらしいけれど……。

 リーダー格の雄とそれを囲うようにした数十匹の雌は雄の遺伝子が途絶えないようにスペアを沢山用意しておくって発想?


「んー……眠っているのならちょっと性別の確認を……。ああいや、殺してからでも出来るわね」


 抉れた右手を庇うようにし、体のあちこちに私の放った矢が半ばで折れて刺さり、それでも尚大猿の寝息は弱々しさを感じられなかった。


 図体がでかいと体力もその分多いのかしらね。


「でも、これでおしまいよ」


 自身の指先にも満たないハエが私の操作で大猿の耳の内部をまずそろりと侵入していく。


 ここまで来れば後は楽なものよ、耳掃除の概念が無いからかきったない耳内部の映像に私が耐えなきゃいけない事を除けばね。


 そして侵入を開始して数分後……大猿が耳を抑えのたうち回り、ねぐらが混乱で包まれた。

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