第91話 如何ともし難い実力差
一階層の主な魔物である猿、その集団を容易く駆除し終えた戦場跡地にて、ジャックがユーリを庇うように立ちながら私に尋ねる。
「お前は……なんだ?お前のような亜人は、知らない。そもそも亜人か?魔物の類では……」
汗が滲み、ジャックの顎からぽたりと雫となって落ち、一階層の乾燥気味の遺跡群の床に落ちてシミとなる。
説明するよりステータスを見せた方がぁー……生産魔法もバレるわね、それ。
手の内を晒す趣味は無いし、どうしたものかしら。
「そう……ねぇ。ギルドに私の事を喋らないと約束出来るなら、話してもいいわ」
「お前は……ギルドの敵か?」
リンが私の側に立ち、銃を見せつける様にして構える。
「リン、そこまで警戒しなくてもいいわ。こいつがギルドに喋ったら、最悪ダンジョンで数年篭れば済む話よ」
「分かった……」
リンが銃口をほんの少し下げ、代わりと言わんばかりに大盾をジャックに向ける。
「私はさっき見たとおり特殊な種族でね、なるべく隠しておきたいのだけれど……もう一度言うわ、ギルドに内緒に出来る?」
「……俺達に目的や話していない事があるように、お前にもあると」
ジャックが唸り、ユーリの方を見る。
視線を向けられたユーリはジャックと何やら話した後、こちらに向き直る
「わかった、私達の死んだ両親に誓う。口外はしない、その代わりしっかりと話して」
神やどこそこの誰かさんではなく、両親と来たか。
私はそれを受けてステータスの記載されたカードを投げて寄越し、
「ほら、それを見たほうが早いわ」
とだけ言って後ろのリン達に視線を送る。
「いいんですか……クロエさんかなり必死に素性を隠していたんですよね?」
「あー……そうなんだけどね?なんか、疲れちゃって、その場のノリで楽しくなって?」
はっちゃっけたくなったのよ。
ギルドからは不審者扱いで依頼という形で人形という正体を探ろうと嗅ぎ回られる日々に、したくもない誰か分からん他人への戦闘指導、私の可愛い家族であるリン達と離れなければいけない日々……。
要はちょっとガス抜きがしたくなったのだ。
まぁ状況や場所は選ぶべきだったとは思うけれど……。
「リンさんが我慢していたように、クロエさんも案外ストレス溜まってました?」
「え、そうなの?クロエあんまり普段と変わらない気がしてたよー?一緒に寝る時もあたしが寝るまで優しく背中を撫でてくれるし、御飯もいつも通り愛情たっぷりだし?」
「そりゃあ、大人ですもの。みっともなく感情を表に出して周りに迷惑はかけないわよ。リンも私が怒ってたら話し掛け辛いでしょ?」
それに、リンにそういう情け無い親だと思われたくないし。
というか、人形という体のおかげという部分が大きいのだけれどね。
意識すれば文字通り『人形のように』無表情で無機質にできますもの。
そうなれば後は声のトーンを死ぬ気で隠すだけよ。
いつもの優しくてリン達が大好きなクロエちゃんだよーってね。
「怒ってたのー?」
「いえ、モノの例えよ。そこまで怒ってはないわよ勿論。ちょっとイライラしてたとかその程度よ?」
「あ、あのー……クロエさん?」
私達の会話を遠慮がちに遮り、ユーリが私のステータスカードを差し出しながら話し掛けてくる。
私はそれを受け取り、ユーリを見る。
まだ若干怯えが……主にリンの持つ銃にだがあるように見えるが、ひとまずは落ち着いているように見える。
「少なくとも私が魔物の類では無いって理解してもらえたかしら」
「あ、はい。それはもう!他にも色々と聞きたい事がありますけど……秘密ですよね?」
そうね、種族が分かっただけで満足しておきなさい。と返し、カードを受け取って人形の体に切れ込みを入れて即席のポケットとし、厳重に保管しておく。
「あの……本当に、人形?なんですか?」
「ん?そうよ、ほら……」
リン達監修の元、作られた機動性も確保したドレスを少しずらして胴体や腕、関節部分を見せる。
リンがわあー!っと騒いでいるけれど、どうしたのかしら。
「クロエ!?はしたないってばっ!あたしには散々言う癖になんでクロエはそう自分の魅力に鈍感なのっ!?」
「え?えー……人形の体よ?無機物の、生きてない人形よ?」
「それでもなのっ!クロエの色んな所を見れるのは家族のとっけんっ!」
特権て……というかそこまで価値のあるものかしら?
自身の体のラインに沿って手で撫でるが、ちっとも凹凸が無いスラリとしたこの体はやはり魅力に欠けるのでは?
ほら、もう太もものあたりまで来たけれどここまで首からほとんどすとーん、よ。すとーん。
スレンダーだとかモデル体型とか言えば聞こえはいいけれど……うーん。
「えっと……とりあえずクロエさんが特殊な種族なのは分かりました。それに、それを隠しておきたいのも」
「あぁ、そうね。そうしてくれると助かるわ。正直私も色々とノリで行動しちゃって困っていたのよね、ギルドにバラされたら、私二人を殺さないといけないもの」
「ギルド、というか人間とは仲良くないですから、大丈夫だからやめてくださいね?」
実際はちょっとだけ、ほんのちょっとだけちゃんと考えた結果でもあるのよ。
亜人は人間と仲が悪いと聞いていたから、二人を通じてギルドに私の素性が出回る事は無いとは思っていた。
もちろん確定では無いが、これでも二人の教官を二週間程しているのだ。
なんとなく人柄についてはわかっているつもりだ。
ユーリから聞く人間の話しやここのギルドでの話しも加味した上でおそらく問題無いと、私の頭の四畳半ほどの片隅でしっかりと計算した上での行動ではある……つもりだ。
「さて……話が逸れに逸れたけれど……元々はリン達がジャック達の補佐として申し分ない実力を持っているか確認する為の戦闘だったわよね?どう?うちの子たちは」
確認するまでも無いとは思うが、一応ね。
後、ジャックからは失礼な態度と言葉をリンにしっかりと謝って貰いますからねっ!
ジャックはリンの銃を、そしてリリエルを、最後にこの荒れ果てた元遺跡群と呼ぶべき惨状を見てからしっかりと言葉にした。
「ああ……俺が想像するよりも遥かに二人は強かった。……すまなかった。ユーリや俺に何かあった時に安全である保証の為とは言え、失礼な事を言った」
「ふふん、そうね?貴方は私の可愛いリン達を侮辱したんですもの」
リンもふん、と鼻で笑いジャック達を見下した後、もう興味無さげに銃の点検と整備をし始めてしまった。
「あぁ、特にそこの緑の髪の……リリエルだったか?すまなかった」
真っ先に反応して噛み付いたのはリリエルだものね。
リリエルからすれば人間、亜人両方が地雷みたいなものだしね。
あれ?リンよりも爆弾抱えているのはリリエルかしら?
「別に……いいですよ。リリエルは気にしていません」
リリエルの表情は見返してやった、という晴れやかな物では無く、冷めた眼差しでただそれだけを伝えるとそれきり私の腰に抱き着いて黙ってしまった。
んん……見返してやったと喜ぶものだと思っていたのだけれど、リリエルはそうではないみたいね。
後でちゃんと理由を聞いて上げたほうがいいっぽいわね。
それもこの探索が終わってからにはなるけれど。
「まぁ……これで晴れて疑念は解消された訳だし、当初の予定通りジャック、ユーリ。二人のダンジョン探索をお願いするわ」
「あ、はい。そうだった。私達の実力の再確認ですもんね!」
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