第90話 全力全開
「リンっ、閃光をお願い!リリエルはそのまま待機して、閃光に当たらなかった連中だけ貫いて!あとは地雷を撒いて待機!」
私の号令に合わせて二人が動く。
まずリンの大盾が激しく一度発光し、猿どものうち数匹の目を潰す。
リンはそのまま片手に持った銃で攻撃する。
弾頭の先端が平たく、内部を空洞に加工している弾丸を使用している為、威力は申し分ない。
この形状、体の中に入ったら先端が大きく広がる上に弾丸が体の中に残るのよね。
それに内蔵やら骨、筋肉なんかの影響を受けて直進していたはずの弾丸は不規則に、いたずらに臓器や体内を傷つけれる素晴らしい構造なのよね。
加えてリンの持っている銃は連射の出来る、いわゆるサブマシンガンと呼ばれる取り回しと利便性に重きを置いたその銃は、この時代であれば考えも付かない連射速度でもって眼前の敵を容赦無く打ち砕ける。
ユーリ達は銃声、というものを聞いたことが無いのだろう。
リンの手になる銃から発せられた轟音に反射的に耳を抑えて下を向くユーリに、目を限界まで開いてリンの持つ銃を凝視するジャック。
ふふん、ざぁまないわ。リン達を舐めすぎよ。
「クロエさん、全員貫けました。地雷設置、いきます!」
「了解、今回はそこそこ大きい群れと出くわしたみたいね。第二波、畳みかけてくるわよ!」
リンの植物魔法とリリエルの主根との合わせ技による地雷、それを迎撃したい方向以外の全てに満遍なく配置したリリエルに、気を抜かないように注意する。
「ちっ!邪魔だなあ……リロード!」
リンが子供特有のシンプルな暴言と舌打ちをしながら円盤状の装填数に優れるマガジンをひっぺがして交換する。
「あら、リン。リロードが随分速くなったわね、偉いわよ。さすがあたしのリン!」
「っ、クロエっ!しゅーちゅー出来なくなるから褒めないでよっ!嬉しくなっちゃうっ!」
いや、本当にリロードが速い。二秒あったかしら?
ふふん、銃ってやっぱ最高ね!
なにがいいって、やっぱ殺意なんていう大層な物がなくても簡単に殺せてなおかつその方法がお手軽なのがいいのよ。
訓練も早いし、年齢や性別、体格を選ばず全ての者が扱える最高兵器ですもの。
そりゃあ名のある武士や騎士が軒並み歴史からぱたっとある時を境に載らなくなる訳よ。
銃の登場は一人の強大な個人の時代の否定であり、代替可能な多数の凡人によって戦場が動く時代の到来を意味していますもの。
「あはっ、リリエルの地雷も最高ねっ!見た?あの猿の魔物!足がナイナイしちゃってるわ!リリエルってば最高ね!」
あー最近ギルドからの依頼でしたくもない新人の指導とか色々と私自身も我慢してたからなんかテンション高くなっちゃうわ。
「地雷、追加しますか?」
「んー?そうね、一方向からしか来れ無いようにしちゃいましょうか。リン、ちょっとリリエルの地雷作ってあげて」
「あーい、なんだっけスナバコ……なんとか。クロエの故郷ってこんなやばい植物もいるの?」
「あー……まぁ住んでた所からはちょっと遠いところだけれどね」
確かアフリカとかそんな所だっけ?スナバコノキって、熱帯の……とかそんなだったはず。
リンの植物魔法:品種改良によって爆発するように硬い種子を飛ばす植物をつけるリリエルの操る根。
便宜上、あるいは役割としては地雷なので私達はもう地雷と呼んでいるこの植物とリリエルが自由に操作できる植物や樹木の根に似た主根の相性は抜群ね。
「リリエルもちゃんと成長しているわね。前までは眼を瞑って集中しないと根の操作ができなかったのに……すごいわ、リリエルは才能があるわね」
「ん……クロエさん頭を撫でるのは後にしてください……一応戦闘中ですよ。それに、あの純血に見せつけてるんですよね?リリエル達との圧倒的な差を」
「あら、そういえばそうね……」
つい……二人をなんとなく見ればユーリはどこか自分達より幼いリン達を守るべき子供の様な眼差しを向けていたが、今や未知の化物を見るような畏怖した表情をしていた。
ジャックはといえば、ぶつぶつと「あんなもの……どうすれば対応できる」だの「そもそもなんだ、あれは……」と随分と銃を凝視していた。
「どうかしら、私達は、私の子たちは」
「え?えぇ……その、すごい、ね?」
あら、随分怯えてるわねユーリ。
んー……勢いとリン達を侮られて衝動的に全力を出したけどやっぱり良くなかったかしら。
いつも思うけれど私達の戦闘って、冒険者や一般の人が想像する戦闘というより、駆除に近いのよね。
閃光手榴弾や大盾の発光で視覚や聴覚を奪い、無力化した所を遠距離から一方的に攻撃し、終わらせる。
最近はリリエルの地雷もあるから接近してくる所にそれとなくリリエルにお願いして地雷付きの根を操作して置いておくだけで終わるのよね。
地雷も地雷で色々私好みなのよねぇ。
殺気も気配も無い完全待ち伏せ兵器、そして点では無く避けられない面の攻撃。
そしてなにより殺傷ではなく負傷兵を作ることを目的とした非殺傷兵器、さすが地球の方で悪魔の兵器と言われていただけあるわ。
「こんな……一方的な戦闘……ひっ!?なに!?」
ユーリが何かを言いかけるが、リリエルの周囲に張り巡らせた地雷付きの根が引っかかったんだろう、猿の魔物の聞くに耐えない悲鳴と遺跡群の一部が崩れて倒壊する音に怯えて途切れる。
ん、私も指示するだけじゃなくて攻撃しようかしら?
いやでも、せっかくリン達のすごさをアピール出来る場に出ていくなんて大人げないか。
危なくなったら手伝おっと。
その後も断続的に聞こえる刺激に反応し、驚異的な速度で種子を飛ばす植物を備えた根が文字通りに地雷として機能し、リンの正面、十二時方向以外の全てから数回ほど爆発が聞こえた。
「あっ!逃げたっ!腰抜けがぁっ!」
これ以上は損害の方が大きいと判断したのか、生き残りの猿達が尻尾を巻いて逃げる。
そしてそれを見たリンは大盾で近くの遺跡を殴りつけた。
「それ好きねぇリン」
やがて崩れた大きな瓦礫をリンは両の手で掴み、ぶん投げる。
瓦礫は逃げる猿の一団のやや左に着弾し、押しつぶされた数匹が鮮やかな塗料となって地面を染める。
「ちぇっ、二匹逃げた」
「ふふ、じゃあ最後だけ貰っちゃってもいいかしら?」
いつもの滑車弓を取り出してリンに尋ねる。
逃げた猿は今回の敗北を学習し、成長するかもしれない。
若い芽は早い内に摘んでおくに限る。
それが赤子であろうと、なんであろうと。
「いいよー……、あーあ。完璧じゃないのー」
「まぁまぁ、家族全員で協力して完璧にした。でもいいんじゃないですか?」
リリエルは随分とリンの宥め方を心得ているようね。
申し訳ないわ、それ程までに何度も苦労や負担を掛けているという証左ですもの。
これは、気合を入れて二人にご褒美を用意する必要があるわね。
「ん、あー……まぁ、いいか。亜人ならギルドとは懇意じゃないでしょうし、最悪脅せば」
色々と考えるのが面倒になったとも言えるし、自分よりも遥かに弱い存在に何を……という考えもあって私は久々に右肩に三本の腕を増設して滑車弓を引く。
「っ!?クロエ、さん?」
「なんの亜人だっ……」
「あとで説明するわ」
全力で差を見せつけてやると宣言したからには、私も全力を出すべきだものね。
私はユーリ達にそれだけ言って滑車弓を正確に、寸分の狂いも無く逃げる猿達の背中に射掛ける。
ん……訓練用のちゃちな弓よりもやっぱりこっちのがいいわ。
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