第84話 別行動
「それで?私達は早くダンジョンへ行きたいのだけれど?」
「申し訳ございませんが、それは出来かねます」
受付の男は対して申し訳ないと思っていなさそうな態度で私の要求を断る。
「どういう事かしら」
「クロエ様にご依頼が御座います」
私の発言をさして気にする事も無く男は前回聞いたような文言を垂れる。
おかしいわね……態度が対して変わっていないように思えるわ。
原因は……あぁ、ひょっとしてコレかしら。
私のオッドアイ、これか。
オッドアイ、というか人間は黒以外の瞳の色を持たないらしいし、色付きは亜人として差別の対象になる訳で……。
つまるところ私も亜人としてカテゴライズされるものね、そりゃあ敬ったりはしないわよね。
男は私が了承するのが確定しているかのように内容をつらつらと聞いても無いのに話し出す。
「内容は新人の教練、およびダンジョン探索への同行です。ご存知の通りギルド、並びに創世樹街は有望な探索者を常に渇望しています」
外へと行かなくていいのは楽ね。
それにしても……新人の教練を、わざわざ外部へと依頼、ね。
……へぇ?
「加えて、これは失礼ながらクロエ様の指揮能力や基礎能力を図り、今後の依頼の斡旋への基準とさせて頂きます。つきましては偽る事のない様に」
こちらをじっと見つめながら語る男の目は、うんざりとしている様にも見えた。
あるいは、いい加減に正体を表わせ、とも聞こえてくるようだ。
表向きはそれっぽい理由に聞こえるわね。
けれど受けるだなんて言ってないのだけれども……。
「なお前回の依頼同様、受諾無き場合はギルドの利用を制限させて頂くと同時に、クロエ様御一行の不法滞在に対して、月毎に一定額頂戴致します」
「不法とは、随分な言い分ね?」
「創世樹街とはダンジョンにて成り立っております。そしてその管理をするのがギルドです。ギルドへの非協力な態度は街そのものへの反逆ともとれます」
故に、依頼を断るような奴は滞在事態が不法であり、ここにいたいのなら場所代を払え、と?
嫌なら依頼を受けろと……そういう事?
まぁ幸い付与は上手く機能しているようで、そこに馬車がある、なんの変哲も無い普通の馬車が。というふうに見えているようで何よりだ。
「それじゃあ仕方ないわね……リン、リリエル――「あぁ、失礼。もう一点」……なにかしら」
私の発言を遮って潰す程の内容なんでしょうね?
「このご依頼はクロエ様独力での戦力を把握する依頼で御座います。単独でのご依頼遂行をお願いします。……ギルドとの繋がりを強くする好機です。そちらにとっても悪い依頼では無いのでは?」
無言で受付の男を睨む。
勝ち誇ったその面に私特性のえげつない武器でも突っ込んでやろうかしら。
地球生まれ日本育ち舐めなさんな?そういうアイデアや知識はふんだんにあるわよ?
「はぁ……ちょっと失礼するわ。私独りで決める訳にもいかないもの」
ご自由に、とだけ男は言って私の後ろに並んでいた冒険者へ次の方どうぞ、と声を掛ける。
二人を連れてギルドのすぐ横に併設されている酒場へと入る。
普段ならばここで情報収集等を行っているこの酒場は、すでに見知ったもので店の奥へと二人を連れていく。
念の為に付与を、馬車に普段付けているものと同じでいいわよね?
「さて……面倒な事になったわね」
「不法たいざい?なんて酷いよね、要はこれ依頼受けなきゃどんどん不利な事言ってくるんでしょ?」
「さすがリンね、ご名答よ。あのギルドの事ですもの、よほど正体が分からない私を暴き立てたいようね」
はぁ……なんでここまで疑われるのかしらね?
「魔術師の格好が駄目だったのですかね」
「んぅ?そんなにいけない?あの格好……でも魔術師って人間が亜人を真似て魔法を使う為に開発した技術なんでしょ?」
「そうです……でもクロエさんは瞳に色があります。それに魔術師は単独では基本いません。いるとすればそれは塔を追われたはぐれだけです」
塔がなにかは知らないけれど、恐らく魔術師どもの本拠地とかかしら?
そしてそれを追われるような存在、つまる所訳あり品、って訳ね。
街からしたらどっかしら欠陥を抱えた不良品が街へと来た、という感じ?
なるほど、なんとなく分かってきたわね、そりゃあ警戒するわ。
不発弾が服着て歩いているみたいなもんね?
なにやらかすか分からないから早いとこ欠陥を見つけたい、と。
「はぁ、さっさと無害アピールでもしなきゃ永遠に追われるわね。初期の対応間違えたわぁ」
両手をこうさーん、と棒読みに言う。
「んっと、じゃあ依頼は受けるの?でもあの依頼、クロエだけなんでしょ?」
「そうなのよねぇ……そこをどうするかねぇ」
二人を置いていく不安がある。
レベルとしてはリンのが高く、リリエルは未だ不安が残るレベルだ。
そうでなくともイレギュラーとは常に起こるもの。
何か起きてからでは遅いのだ。
二人を信じてみた結果、取り返しのつかない事態だなんてのは御免だ。
「依頼を受けないと締め付けがどんどん酷くなるとして……、受けた場合二人はお留守番してもらう事になるのよねぇ」
「えぇ〜……暇だよぉそれは」
まぁお外で遊ぶほうが好きなリンにとっては我慢を強いる事になるのよねぇ。
リリエルはそうでもないっぽいけれどね。
リンと違いリリエルはどちらかというと私寄りだ、つまりはインドア派。
家の中で十分な食料さえあれば勝手に趣味ややりたい事を作るなり見つけるなりして永遠楽しめるタイプだ。
実際、最近になって少しずつ距離が近くなってくれたリリエルはよく私の隣にいて本を読んだりしている。
私は特に何もしていないのだが、リリエル曰く隣にいてくれるだけでいい、との事でリンとは違った私への甘え方をしていた。
「んん〜……じゃあ一階層で狩りでもする?二人の実力なら階段からあまり離れなければ……大丈夫なはずだし」
「たしかに、それならリンさんが暇しなくていいですね。リリエルの戦闘訓練やレベル上げにもなりますし」
「ごめんなさいね、リリエル。リンの面倒を見てあげてね?」
と言って私はテーブルの背もたれを少しだけ拝借し、付与を施す。
内容は「これと同じ内容の付与を持った物体へと音を伝えれる」……つまりは電話だ。
残念ながらレベルが足りないのか付与が未熟なのか、声ではなくぴ、という単音のみだが。
モールス信号ができるというだけでも革命的なのは間違いない。
「これを渡しておくわ、危なくなったらこれにMPを使いなさい?私の持っているこれから音が鳴るから」
「おー……またクロエのびっくり発明だぁ」
「これも流出したら大変ですね」
その後、思いつく限りの付与をつけようとしたがリリエルからそれでは訓練にならないし、心配しすぎですと断られた。
リンとリリエルはそのままギルドを経由せずにダンジョンへと降りていった。
私がいつもギルドを経由するのは不信感をギルドへと与えない為でもあり、その他様々な事情からだから、リン達には不要だ。
リン達の救出や援護は私が担えばいい。
一応リリエルに帰還時間やら注事事項などをしっかりと伝えているから万が一などはないだろうが、不安ではある。
戦力的にも、そしてあの二人が仲良くやれているかという意味でも。
私は内心の様々な懸念や不安を人形ゆえの便利な身体で隠しきり、受付へと再度向かう。
「依頼、受ける事にしたわ。ほら、早く案内なさいな。誰に教えればいいの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます