第83話 女性らしい格好?
「と、言っても私そういうセンスは皆無なのは二人とも知っていると思うのだけれど……どうするの?」
私達全員がいつもしている家族としての証、その指輪の初期デザインをすげなく二人に却下されたのはまだ記憶に新しい。
どうにも私にデザインや芸術的なセンスは無いようで、昔からではあるが諦めきっている。
「んー……とりあえずクロエは人形だから、その関節部分は隠さないとだよね?」
「ええ、そうね。肘……膝……、あとは肩とか、胴体の腹と胸の境にも大きいやつが一つあるわね」
「しってるー、クロエの身体の事なら全部みてるもーん」
ええと、ならとりあえず腕はあれでいいかしら……?
生産魔法で布やらなにやらを加工し、厚手の長手袋を作ってみる。
生地は不透明で黒地、肘まであるそれは軽くレースなんかを装飾してみた。
どこぞのお姫様やお嬢様が付けているようなレディース用の肘まである手袋が想像に近いだろうか。
「こんな感じでどう?」
「あ、いいですね。……クロエさんって細部というか一つ一つのデザインはいいのかもしれないですね」
組み合わせると壊滅するだけで、とリリエルが長手袋をつけた私を見ながら正直な意見を出す。
模擬戦の反省会で言い過ぎたかしら、ちょっと容赦の無い意見すぎない?
むぅ、とわざとらしく頬を膨らませてリリエルにアピールし、リンが私を宥める。
そんな一幕もあったがその調子でとんとんと私の見た目が更新されていく。
正直私はリンやリリエルの「〜みたいな見た目の服とかクロエ知らない?」という言葉に応じてそれっぽいコーデやアクセサリーを生産魔法で作っていただけだった。
あとは言葉の通り、比喩表現でなく着せ替え人形にされ、ああでもないこうでもないと二人によって姿を何度も変えていった。
その結果……。
「ねぇ……ほんとにこの格好で外に出るの……?」
いつもの私の口調は鳴りを潜め、弱々しい懇願に近しい語調が顔を覗かせる。
スカートが……っ!落ち着かないのですけどっ?
「んんぅっ!恥じらうクロエも新鮮でっ……イイ」
良い、じゃないのよリン?
私の装いは全体的に黒と白を基調としたドレスやローブ、そういった上流階級や身分の尊い方が着るような服装、それを動きやすいようにスリット等を入れたりして機動力を確保した、そんな服装となっていた。
全体のイメージとしては可愛らしい、よりも綺麗あるいは美麗、そういった感想が相応しい。
いつもの三本腕は当然人前に出るので外しているので、本当に綺麗な貴族のお嬢さんといった感じか。
必死に服の全面、フリルが控えめについたスカートを少しでも二人の視界から隠そうと無駄に手で抑えるも、リンには逆にその私の姿が刺さってしまったようだ。
「背が高いって……かわいいとかはあんまりですけど、綺麗とかっていう方向ではかなり有利ですよね」
「リリエル〜ほんとにこの格好で私外行くの〜?」
リンは私にお熱すぎて使い物にならないのでリリエルに甘えてみる。
「いいじゃないですか、クロエさんはこういった服装は経験無いのですか?随分と嫌がりますね」
もはや遠い記憶となって久しいが私の前世、つまりは人間であった頃は間違いなく男の、いい年した成人であったのだ。
奥の奥、最奥にまで仕舞い込んだはずの昔の性の感性が私の現在の装いに恥じらいと自分が着るべき服装では無いと訴えている。
「だってっ……私に似合わないでしょ?」
「これ以上無いほどにお似合いですけど……」
リリエルは私の訴えに疑問すら感じているようで、何が嫌なのか理解してくれない。
いやまぁ、元男だから女装してるみたいで……だなんて理解してというのは無理すぎるので当然なのだが。
しかし私にまだそのような感性が残っていたとは驚きだ。
リンやリリエルと関わる期間が長く、また私の身体が女性モデルの球体関節人形なのもあって完全に消えたのだとばかり思っていたのだが。
「リリエルには分からないわよ……この感覚は」
「?確かに分からないです。もとから何処かのお貴族様じゃないかと思う程似合っているのに……」
「せめてスカートはやめにしたいわ……」
その後、リンにスカートから何かズボンの様な物にしないかと提案したのだが当然却下されてしまい、更には今後も私の服を定期的に作ると宣言されてしまった。
藪蛇だったわ……本当に。
翌日、私は嫌という程の視線を浴びながらギルドの受付にいた。
リンやリリエルに注目や視線がいかないのは良いことだけれど、私の精神が削られている気がするわ。
周囲からは聞きたくは無いが嫌でも耳に入ってくる私への感想などが聞こえてくる。
やれあの美人は誰だだの、あの亜人を連れているって事は、あの魔術師崩れかもしや、だとか。
そこには当然のようにして育ちの悪さの滲み出る下品かつ粗野な感想も混じっており、私の気分を害するに十分だった。
……誰がアンタ達の相手なんてするもんですか、自分で擦ってなさいな。
「はぁ……」
「クロエ元気ないねー?」
「逆になんでリンはそんなに元気なのよ……」
リンは普段なら人の多いギルド内など決していい表情をしないはずなのだが、今日ばかりはリンは楽しそうにしている。
「だってあたしの素敵で最高なクロエがもっと素敵で綺麗になってるんだよっ?自慢しなきゃ損だよっ!」
「自慢したいのね……」
うんっ!といっそ気持ちの良い程の返事が帰って来、リンが幸せそうならいいわと思考を停止する。
「もういいわ……あぁ、ごめんなさい。いつも通りダンジョン探索の申請をお願いしたいのだけれど?」
リンとリリエル、二人を私の後ろ、近くに立たせて受付にいつも通りにダンジョンへ行くことを伝える。
伝えるのだが、受付の男……たしか前回私達へ依頼を斡旋した奴だったか。
そいつなのだが、私の姿を見て固まっている。
「ええと……ねぇ、聞いていて?私、ダンジョンへ行きたいのだけれど」
「ま、まさかクロエ様……でございますかっ!?」
「……?まさかも何も……あぁ、そういえば素顔や姿を晒したのは初めてね」
そういえばギルドや外の人間達への反応等を考慮していなかったが、大丈夫だったろうか。
警戒されたりしないかしら?
んんぅ、なぜこのタイミングで魔術師の格好を辞めたのかなど、無駄な考察などでリソースを割いてくれる分には構わない。
だが、どこぞの貴族なのではと疑われるのは……どうなのかしらね。
迂闊に手を出そうモノなら面倒な事態を引き起こすと思ってくれないかしら。
そうすればギルドからの前回の依頼みたいなちょっかいが無くなるかもなのだけれど。
「ま、まぁ……いいでしょう。私達ギルドの役割は変わりません」
ふふ、冷や汗なんか掻いちゃって。
前回の失礼な言動を思い出しているのかしら?
この時代にこんな綺麗で質の良い服装だなんて、絶対に貴族かそれに類する存在ですものね。
自身の過去の失態を恐れているのかしら。
貴族相手になんて発言をしてしまったのだろう、と。
それを思えば、このレースやフリルが控えめだが入ったドレスもどきも、デニール数の高い厚手のタイツや肘まである長手袋も悪くないわね。
「ふふん、あたしのクロエ、美人でしょ?」
誰に聞かせるわけでもなく、リンがつぶやく。
私の大切な人こんなに凄いやつなんだぞ、と子供が買ってもらった玩具を友達に自慢するように得意げになってみせるリン。
癪だが、着た当初こそ元の性別を自覚して恥じらいを覚えたが、自身の姿を鏡で見た時になんだがそれも収まってしまった。
私はどうしようもなく美人な人形なんだと再認識させられたという表現が合っているのかもしれない。
それにこのように得意げになってみせるリンの存在もある。
私の大切なリンが肯定してくれるなら、この姿もまぁ悪くはないか、と。
「はいはい、もうそれでいいわよ。ちょーぜつ美人で貴女達二人しか愛さないクロエちゃんはここよー……」
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