第80話 今日の晩御飯
「ただいま」
果たして行く意味があったのかと疑問なギルドでの一件を経て、創世樹街の外壁、その外に停めた馬車に戻ってくる。
「あ、おかえりークロエ」
自家製コンソメはどうやら爆発も失敗もしていないようで、リンはこちらに鍋を少し傾けて中を見せて確認をとってくる。
「……うん、大丈夫よ。あとはそのまま弱火で暫く置いときましょう」
「ほんとっ?うまくできてるー?」
「もちろんよ、リリエルとは仲良く協力して作れた?」
リンの隣でくつくつと煮える玉ねぎや肉、セロリなどを見ているリリエルを見て答えるリン。
「大丈夫だったよ、リリエルは手先が器用だから野菜を切ってもらってたの」
「そう……それは良かったわ。リリエルもありがとうね、助かったわ」
「……」
当の本人は鍋をじっと見つめてくぅ、とお腹を鳴らしている為か聞いては無かったようで、苦笑しながら通りで買ってきた材料を冷蔵庫へと入れる。
「あ、ちょっとリンったら。お茶飲んだのなら新しく作っておいてってばぁ」
付与魔法を使い冷蔵庫を再現したものにぽいぽいと食材やらなにやらを入れるのだが、お茶の入ったボトルがだいぶと減っている。
飲むのは構わないけれどそのまんまはいやなのだけれど?
「うへっ?ごめんねクロエ、忘れてたや」
ちょっと下の戸棚開けるわね、と一言断ってから開け、乾燥させておいた茶の葉の入った袋を開く。
ボトルに少量の茶葉を追加してはい、とリンに手渡す。
「あ、うん。今水出すね」
「ええ、ありがとう」
水魔法でとくとく、と水をボトルに注ぎ切ったリンはそのまま冷蔵庫へと戻す。
「さて……それじゃっ、もう一品美味しいのを作りましょうか」
「えっ美味しいものですか?」
あ、リリエルが再起動した。
顔を上げたリリエルは私が帰ってきた事にようやく気付いたのか、あっ……とつぶやいて顔を赤くして俯いてしまう。
「ただいま、リリエル?」
「あ、はい……すみませんクロエさん、おかえりです」
結局迷った末に唐揚げでも作るか、となった。
元人間で、男の作れるものなどやはり油臭いいわゆる男料理でしか無い。
二人には悪いが暫くは我慢してもらおう、人形だから記憶力はいいのだから、前世で一回ちらっと見ただけの料理のレシピとか思い出すから、ずっとこんな健康に悪いそうな料理ばかりではないから。
「リリエル、申し訳ないのだけれど手伝ってくれると嬉しいのだけれど、いいかしら」
「は、はいもちろんです。何を作るんですか?」
「ふふん、リリエルの大好きな美味しい物、よ」
冗談めかして言う私にリリエルはむぅ、とちょっとだけ表情を変えて私に返事する。
「そんなにリリエル食いしん坊、じゃないです……」
ふーん?とリンと揃ってリリエルを見つめる。
私が帰ってきたことにも気付かない程に食べ物に夢中になっているリリエルが、ねぇ?
「な、なんですかっ二人してリリエルを見てっ!」
「いーえ?なんでもないわー」
ないわー、とリンがそれに続く。
もうっ、違うんですよ?と反論し続けるリリエルをなんとなく構いながら今日の晩御飯である唐揚げの準備をしていく。
相も変わらず創世樹街の店の多くは産地や部位といった詳しい事は重要視せず、美味いかそうじゃないかが分かりゃいいだろ、と言う店主がほとんどだった。
やっぱり創世樹へ来る人間の多くが元々あまり良くない出自の人間が多いから、店や職員にもそういった人間が多いのかしらね?
あまりMPを使いたくは無かったのだけれど……仕方ないのでダンジョンで取れた魔物の肉などを利用する他無いわ。
「分かった、分かったわ。リリエルはちょっと美味しい食べ物が好きなだけだもんね?」
「そうです、だいたいクロエさんの作る物が美味しすぎるのがいけないんですから、リリエルは悪くないですっ」
「はいはい、そうねぇ」
「むぅ……それで、何を作るんですか?」
納得のいっていないリリエルだったが埒が明かないと判断したのか話を切り替える。
切り替える内容も美味しい食べ物なのだが、それは言わないでおいた。
「唐揚げよ」
からあげー?とリンとリリエル、二人から少しだけタイミングはズレていたが同じ言葉が出る。
唐揚げ、とは言ったけれど本格的、あるいはちゃんとしたやつかと問われるとちょっと怪しくなってしまうが……まぁ唐揚げだ。
「まぁ作ってみればわかるわ。リン、そろそろその鍋の中のコンソメ、いいんじゃない?後はそれトレーに移して乾燥させて固めれば完成よ」
「あ、はーい。ちゃちゃっとやっちゃうねー」
リンがトレーに諸々を煮込みきったコンソメを移していく。
乾燥して固めた後はブロック状に切ればご家庭でよく見るあのコンソメの出来上がりだ。
「じゃあ、リンが作業をしてもらっている間にこっちもやってしまいましょうか?ちょっとそこの塩こしょうとお砂糖取ってくれる?」
「あ、はいこれですね」
ん、あとはお酒と一緒にお肉に混ぜてよく揉み込んで小麦粉をまぶすだけね。
「お砂糖なんて高価なもの、どこで手に入れたんですか?」
「え?リンの植物魔法」
サトウキビを要は栽培してくれればいいのよ、似たような種さえあれば品種改良で魔改造したり、私の生産魔法なりでうまく使えばいいのだ。
最初こそ大変だったが、そこは生産魔法の素材変換で種を別の種に変えたりして作った。
「人間に見つからないでくださいね……」
「大丈夫よ、そんなに心配しなくてもこの馬車には認識や認知を歪める効果がついているからね」
レベルが上がる毎に出来る最大MPで付与のし直しも行っているので、下手して派手に注目を浴びたりしない限りは大丈夫なはずだ。
「初めての家族ですから、心配になります……ここには考えられない程の技術や知識が溢れてます。人間に目をつけられるのが怖いです」
リリエルもなんだかんだ言って私達を家族と認識しようとしてくれているようで嬉しく思う。
「派手に動くつもりも無いわ。それに……どうしても面倒になったらダンジョンに家を作ってそこに篭もればいいのよ」
「そんな事考えてたのー?」
リンが作業を終えたのか会話に参加する。
「ええ、でもまだ見つけてない種とか色んなものがあるかもしれないからね、最終手段として考えてるって感じなだけよ」
後は魔導具が出た場合のギルドの手による鑑定、又は路地裏なんかにいる自分を売り込んでいる敗残兵を使った検証、それらを出来ない事のリスクを考えたら、なるべくしたくはない。
その他にも様々な理由はあるが、どちらにせよあまり気乗りしない策なのは確かなのだ。
リリエルに頼んで各種調味料を肉に揉み込んで貰いながらリンに返答する。
「なるほどねーまぁクロエと一緒ならどこでもいーけど」
「リンはそればかりねぇ、もっとしたい事とか言ってくれてもいいのよ?」
んー……とリンは考え込むが特になーい、と返ってくる。
まぁまだリンは若いし、これから選択肢を増やしてやればいいかと考え直しながら鍋に油を注いでいく。
唐揚げは二度揚げ?するとカリッとおいしくなる、でいいのだっけ?
あんまり料理の経験が無いのがここで響いてくるな。
「あの、これでいいですか?」
手が肉を揉み込んでいたからべとべとなのか、二の腕あたりで顔を拭いながらリリエルが下拵えの確認をして欲しいと声を掛けてくれる。
全体にしっかりと各種調味料が馴染んでいるようで、これなら後は鍋に入れた油が一定の温度になるまで待てばいいだろう。
「完璧よ、鍋が温まったらこのお肉を油で揚げましょうね。リリエル、手を洗って後は待ってていいわよ」
はい、と答えてからシンクから水を出して手を洗いだしたリリエルのお腹はやはりくぅ、と可愛らしく悲鳴を上げて空腹を訴えていた。
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