第68話 一階層をもう一度 (リン視点)
「ねぇークロエ?どこらへんでリリエルの戦闘れんしゅーするの」
クロエの方を見ながら聞く。
相変わらず綺麗なかおー、あっ、こっち見た。
クロエの目はいつも綺麗だ、あの赤と金の宝石に見つめられるとそのまま吸い込まれてしまいたくなる。
クロエはいつもの様に綺麗で長く細いその指を口に当てて少し考え込む。
クロエは気付いてないだろうけど、これクロエの癖だろうね。
「そうね、基本はこの階段が目視出来る……つまり帰り道がきちんと分かる距離での探索にしましょう」
確認するようにあたし達二人にそれでいい?と聞くクロエに頷く。
クロエから事前に言われていたように、今回はリリエルの戦闘訓練が目的だもんね。
いまさらこの階層に用は無いし、だいたいの一階層の地形は把握している。
どこまでも石作りの廃墟が続く一階層はいきなり襲われたり、上から攻撃されたりとか、色々と気を付けなきゃいけない部分が多いから注意しなきゃ。
そういう意味でも練習にぴったりってクロエは言ってたし、あたしもそうおもう。
「それじゃあ、事前に言っていた通りにね?基本は二人で頑張って戦って、どうしても無理そうなら私が出るわ」
「ん、わかった。任せて」
口ではそう言うが、あたしは内心ちょっと不安だ。
リリエルとは正直、まだ仲良くはなれていない。
でも、別に嫌いとかそういう訳では無いし、むしろあたしと近い過去を持っているって分かってる。
だから、あのジャンとかいう汚い棒を股にぶら下げてる男とか、そいつの娘のキリアとかいう女みたいに、気持ち悪いとかは思わない。
「よろしくお願いします……リンさん」
あたしとの距離が物理的にも精神的にも分からないっぽいリリエルが微妙な近さであたしに言う。
仲良くしたいし、クロエも多分それを望んでいる。
それは分かっているけど、リリエルを気に入る理由がまだ見つからない。
他人か、知り合いぐらいから進まない。
元々はあたしがリリエルの境遇や言葉に同情して、助けてあげたいと言ったのが始まりだもん。
何かリリエルを好きになれそうな要素……、
ギルドでの人避けになってくれた優しさ?
いや、そもそもとして優しい、なんていうのは特徴にもならない。
綺麗な見た目で、清潔で、優しくて、それでやっとスタートラインだ。
プラスになんてならない、そこまででやっとゼロなのだ。
昔クロエとそういう話をしたような?その時は確か
「阿呆みたいなあるあるの小説や恋愛話だと、彼の優しさが〜、とか言われるけど優しいだけの無能なんて何の役に立つのかしら」
とか言ってたっけ。
あたしも同じ感想だけれど。
綺麗な見た目で、清潔で、優しいクロエ。
そこまでで零点、スタートラインだ。
生産魔法があって、付与魔法があって、豊富な知識がある。
ここが加点要素であって、だからあたしはクロエが最高で大好きなのだ。
顔だけよかったら最初こそ付いていったけどそのうちどこかへ逃げてたと思う。
「うん、じゃあ基本的にあたしが敵を引き受けるから、一匹だけそっちに流すね」
じゃあリリエルは?
多分だけど、様々な場所を転々と旅してきて、色々知っているところ?
うーん、クロエの方が色々知ってそう。
だったら一度身内に引き込めば交友関係が無いっぽいからあたし達の秘密を知られるのを心配しなくていいところ?
これはクロエが考えて対策するところだからちがう?
リリエルを好きになれそうな理由を考える。
クロエを好きになった理由は簡単だ。あたしを認めてくれたし、頼ってくれた。
一人のちゃんとした対等な存在として扱ってくれた。
他の連中とは違う。
クロエだけがあの時私を人間として扱ってくれた。亜人は人じゃない、なんて言わない。普通の人として。
じゃあ、リリエルは?
初めての友達、というヤツは、どうしたらなれるの?
仲良くなるにはどうしたらいいの?
「はいっ、大丈夫です。リリエルも一応はレベル六。戦い方を知らないだけですから」
「そーいえば、戦い方を知らないのにどうやってレベル六になったの?」
きのうクロエに聞いた、相手を好きになりたいなら相手を知りなさい。だっけ。
それをやってみる。
「えと、死にかけの魔物にとどめを刺すとか。あとはリリエルはよく盾や囮をしてましたから……多分それが戦闘に参加していた事になってたと思います」
程度ややり方に差はあるけど、どこもあたしと同じ様な経験をしているっぽいねぇ、まぁそうだろって思ったけど。
「どこも似たもんだね、あたしも人間たちのアソビって奴で、森に放置されかけたよ」
「よく生きてましたね……?」
「あー……あの時は結局二日くらい?いたのかな、地面掘って出てきた虫を食べたり森に入って帰れなくなった死体を食べたりしてたねぇ」
あのボケ村人どもが、今からでもあの坑道に行ったら殺せないかな?
思い出したらイライラしてきた。
「リリエルも虫は食べた事ありました、苦いですよねアレ」
「ん?ちゃんとご飯食べさせずに数日放置したらお腹の中の糞とか食べ物が空っぽになってそこそこイケるよ?」
「えっ……」
「知らなかったの?」
生き延びようと必死になっていたら割と覚えると思うけど、違うのかな?
他にも虫の中でも幼虫は割とあたりの部類だったりとか、色々とリリエルと話す。
仲が良いかどうかは知らないが、こういった話で共感出来る相手は居なかったので新鮮だった。
クロエはそういった経験が無いらしくて、普通の人生を生きてきたんだなぁと思う。
……人形の普通って?
「あ、出た」
話題が互いに共感できたりする物だったからか話が詰まったりはしない。
そんな会話を続けていると魔物の匂いをあたしの鼻が察知した。
「え?ど、どこですか?」
「待って、匂いを感じただけ」
床に這って耳を地面につける。
複数の足音、数は……多分四?か五、だと思う。
立ち上がってリリエルに、
「一匹そっちに流すから、そのつもりでいてね。大丈夫、クロエも後ろにいるんだから」
と声を掛ける。
クロエもいつもの様にいつでも戦えるように構えている。
でも若干なんか緩め?なのはあくまで本当に駄目な時しか手伝わないからかな。
「来たよっ!えいっ!」
大盾の持ち手に付けたボタンを押し、盾の前面を激しく、しかし一瞬だけ照らす。
いつも見ている光景で、これの脅威は嫌というほど知っている。
クロエがこれを初めて作ってくれた時、お互いに模擬戦したことがあるから。
クロエが考えただけあってクロエが使う時はとても上手だった。
一気に懐に入ろうと足に力を込めれば、それを見逃さずに発光してタイミングを潰してくる。
周り込もうとしても同じで、それでもなんとか側面を取れて、後は内側に入るだけのときもあった。
でもそれも人形だからか有り得ない角度に曲がった腕によって掴まれた閃光手榴弾の投擲がタイミングよく差し込まれて潰されたり。
あれこそあたしの目指す理想のこの大盾の使い方だって思わせるものだったのを覚えている。
まだ完全にうまくは扱えてないけど……いつかきっと、という奴。
「ふんっ、邪魔ぁ!」
一階層、そのどこにでも居る猿の魔物、好戦的で常に複数匹のグループで行動している。
今回あたし達を襲ったのもそういったグループで、あたし達が弱そうに見えたのか、ズルとかもせず真っ直ぐ向かってくる。
だからそこに大盾の発光をかまして、四匹いたうちの三匹を叩き潰すのはかんたんだった。
「そっちいったよ!頑張って!」
ん、こっちは問題無し。
リリエルの方はどうかな?
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