第54話 とりあえず・・・仲間?
「うっ・・・その、どうしよう?」
咄嗟に言ったはいいが、具体的にどうするのかは決めていないみたいだった。
自分との言い争いの末泣かれたという経験は初めてだっただろうから、それで動揺してしまって思わずリリエルを気にしてしまったのだろうか?
私としてはリンがどう判断を下しても従うまでだが、個人的な事を言わせて貰えれば同年代、あるいは精神年齢が近しい存在が一人くらいリンにできてもいいと思っている。
子どもとは同年代の友達との交流、あるいは喧嘩等を通じてある程度善悪や物の道理という物を無意識に学ぶものだ。
これをしたら嫌われるな、だとか。一緒にいると楽しい子と、そうじゃない子がいるなとか。
意地悪ばかりしているとみんなから避けられてしまうからやめておこう、だとかね。
それは自己成長にも繋がるだろうし、多少なりとも私以外の他者を思い遣る気持ちを理解するかもしれない。
未だに座り込んで俯き、泣いているリリエルをちらと見てから、
「じゃあ、そうねぇ・・・とりあえずこの依頼の間だけでも行動を一緒にして、二人であの子の望みどおり戦い方を教えてあげるのはどう?」
とリンに提案する。
「えっ?うーん・・・それなら、短い間だし多分大丈夫?クロエがつきっきりであの子に教えるとかじゃないんでしょ?」
不安の種はやはりそこだったか。
私はついでにもう一つ気になった事をリンに聞く。
「リン、貴女あのリリエルとかいうのは怖くないのね?」
「え?」
「ほら、ジャンの時はすごく怖がっていたじゃない?」
その発言にあぁ、と目をちょっと開けて私の発言の意図を理解したリンは
「んー・・・ジャンは男だから、ね?だから怖かったし、キ、キリ・・・なんだっけあの女。とにかくアイツは同じくらいの歳のクセに呑気に幸せそうに生きてて憎かったから」
と続け、リリエルを見ながらこう言った。
「それに比べてあの子はあたしと似てるっぽいし?あたしより弱いから脅威じゃないしね。」
「んーなら大丈夫かしら」
私は泣いているリリエルの側まで歩く。
「な・・・なんですか。今更リリエルに何の用ですか。どうせ助けてくれないクセにっ」
泣きじゃくっているせいか少し詰まりながらの発言でリリエルが私を睨んで拒絶する。
「リンとの話し合いで貴女をとりあえずこの依頼の間だけ預かる事に決定したわ。望みどおりね、良かったわね?」
「さっきリリエルを見捨てたのにっ、急に何が目的なのですかっ」
「リンの為よ、あのままいけばあの子は私以外を大切にしない。だから私以外との交流で外からの刺激が必要、貴女みたいな外から来ていて、交友関係が絶無に等しく、いつでも捨てれて、情報の漏洩の心配が少ない貴女みたいなのが」
「・・・、、」
・・・?なんでそんな顔しているのかしら。
まず対話には嘘をつかず誠実に真実を話すものだと私は認識しているから、そのとおりにしてリリエルに誠意を見せたというのに・・・なぜ?
私が頭を捻って悩んでいるとリンからため息が聞こえた。
「なによ・・・私何か間違ったかしら?」
「いや、クロエって本当に知識として道徳を知っているだけって感じがして・・・。あたしと話している時は普通なのになんでそんな風なんだろーって」
「?・・・心で会話する相手くらい皆選んでいると思うわよ?」
何故かは分からないが私なりの誠意を持った話の後に絶句と言わんばかりの表情と共に泣きやんでしまったリリエルをリンの補助の元話をつけて彼女とこの依頼の間だけの共闘関係を結べた。
そして三人での話し合いの末、とりあえず私が情報収集していた村に皆で戻る事になった。
村へ到着した私達は門衛と思われる人間へ軽く挨拶をし中に入り、そして数分もしない内に私に救援を求めてきた小商い人の男に見つかった。
救援の報酬などの話し合いの場を欲しがった彼の為に場所を聞き込みをしていた店、相も変わらず軽食店とかろうじて読める文字以外は掠れてしまっているそこに私達はいた。
創世樹街と違い人は疎らな為かリンも大盾をいつでも展開出来る距離に置いていれば幾分かリラックスした表情の様だった。
一方のリリエルは私のローブの端をしっかりと掴んで少しでも目の前の男の視線から自分を隠そうと必死になっていた。
だがその大きな体が、特に通常の人間の手足の長さよりも1.5倍ほどの長さの手足がどうしても隠れきれていなかった。
「いやぁ、魔術師様のおかげで助かりました!俺はしがない小商いでしか無いもんで、対した礼は出来ないんですが、それでもいつかきっと、今回の件はお礼させて貰いますので!」
「・・・」
その後も助かったと何度も何度も繰り返し言ったり。礼はすると口では言うが肝心の礼の内容に関しては具体的には何も言う事は無かった。
恐らくは私達が冒険者だから足元を見ているのだろう。
知っての通り冒険者とは例外もいるが大半は農奴や賊、敗残兵などが主だ。
最後は除くとして、前半二つは学も無く未来も無い人間が大抵だ。
つまるところ、小汚い小商い人程度の口八丁でも簡単に騙せるしカモれる。
目の前の男が礼はしますので!と揉み手をして言いながらも一向に具体的な物品や約束を言わないのもそういう事なのだろう。
どうせ創世樹街の冒険者だ、数日会わないように気を付ければダンジョンとかいうのが勝手に殺してくれる。
わざわざ金品や面倒な契約を交わす事もあるまい。
だが形だけでも礼を言っておかねば力だけはある学の無い冒険者が何を言うか分からない。
大体ではあるがこんな所か。
「はぁ、もういいわ。貴方の薄っぺらな言葉は聞くに耐えないわね。この感じでいけばここ辺りを荒らしている賊に関しても対した情報は持っていないでしょうし、失礼するわ」
リン、リリエル、帰りましょ。とリリエルの方はどうやら男の方をしきりに気にして怖がっているので、私のローブですっぽりと覆いかぶせてそのまま去る。
リリエルの好感度も稼いでおいた方がいいだろう。せっかく理由は分からないが怖がっているのだからそれを利用しない手は無い。
自分でも気に入ってる細く、長く、綺麗な人形の指を自身の唇にあてがい、大丈夫。とだけ囁いて貴女は喋らなくても大丈夫と言外に伝える。
時間を無駄にした。
私は最後に男の方を見、少し付与魔法で自身の目に赤く発光するように付与してから睨んでやる。
ローブですっぽりと全身を覆い、表情はおろか、顔の輪郭すら分からないその頭部から赤い光だけが妖しく見える・・・みたいに見えたら脅しになるかな、という子どもの様なハッタリだ。
だが男にはよほど効いたのか冷や汗を流し、開きかけた口のまま石化したように止まってしまった。
私達はそのまま店を、村を出て今は自家製馬車の前で寛いでいる。
生産魔法さえあればどんな場所でもリラックス出来る場所を作れるのが良い所よね、ふふん。
「ふぅ、怖かったぁ。見てよークロエぇ。あたしのおてて震えてるーこわかったよー」
本気四割、冗談残りといった具合で気付いてくれたら嬉しいなぁ別に気付かんくてもいいけどー程度の茶化した具合で話すのはリン。
「お疲れ様、ほら、おいで?」
ローブの前、手製のボタンを外して中にリンを誘う。
すっぽりと収まる様に突撃してきたリンをあやしつつ、私はリリエルを見る。
「う、その・・・。さっきはリリエルを助けてくれて助かりました。それに、な、泣いていたからって命を救ってくださった恩人にあんな言い方をしてしまって申し訳ないです・・・」
「気にする事は無いわ。私の言い方がどうやら悪かったらしいからね」
なにが駄目だったのかしら、と零す私にリリエルは微妙な顔つきでこちらを見る。
「だって信じて欲しいなら嘘は絶対駄目でしょう?だから嘘偽り無く貴女に告げたのに・・・」
「リリエルが言うのもあれですけれど、流石にあの言い方では仲良くしようとはなりませんよ・・・」
馬車の側面、荷物を括るようにして縛り付けた両手両足を折って無力化した賊の前でリリエルに言われた言葉を反芻する。
そんなに変だったのかしら?分からないわ・・・。
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