第52話 生き残り

「生きていたのね。・・・ハァ、もう少しの辛抱よ!助けてあげるから無理して起きなくていいわっ!」


 ええと、一旦この賊は残りの手足を折って逃げられなくしてから・・・。


 私は賊に簡単な処理を施した後、なるべく善良且つ生きていて良かったと思っている様な演技をしつつ生き残りの冒険者に近付く。


 私の情報を知る者は出来るだけ少ない方が良かったのだが・・・この際は仕方ない。

 どうせこの依頼とやらも監視はされているはずだ。


 相も変わらず気配も無ければ姿も見えないが、依頼の意図を考えれば多分・・・間違い無いはず。


 となれば人助けポイントも稼いでおいて損は無い。


「う゛ぅ、た、助けて・・・くれてありが、と、とう」


「黙っていなさい。・・・血が出てるわね、外傷は頭部だけ?運良く気絶して死んでると勘違いされたのかしらね」


 応急手当の類は素人程度だがある。

 私はともかくリンが怪我をした時に何も出来ない、なんて事は避けたい一心で途中まで熱心に覚えていたが、付与で自然治癒力を高める効果を付けたり、生産魔法で医療器具の類が作れるじゃない、と気付きその時点でやめてしまった。


 付与に関してはただ自然治癒力を高めるという内容ではコストが高かったのか付けれなかった。

 その代わり漫画とかでよくある体中のエネルギーを使って〜とか想像しながら付けたら腹が異常に減るが強力な再生能力が付く付与が出来た。


 ・・・今回それをコイツ如きに使うつもりなんぞ毛ほども無いが。

 手札を公開した状態でカードゲームはしないだろう?誰がどこでどう見ているかも分からない以上私達が見せるのは滑車弓とリンのサブマシンガンもどきだけだ。


 馬車もシャーペンも紙も医療器具も全て秘匿しておくべきだ。

 オーバーテクノロジーという単純な話でもあるしね。生産魔法で作れるものは。


「少しはこれでマシになったはずよ」


 軽く処置を終えて私は生き残りの冒険者から離れる。


 彼女は頭部の傷を気にしながらゆっくりと起き上がり・・・自身の装備が、武器はおろか文字通りの意味で服すらも追い剥ぎされている事を思い出し、自身の体を両の手で隠した。


「あ、あの・・・リリエルの服、取ってくれませんか・・・?」


 自らをリリエルと呼んだ彼女は、よく見れば身長こそ成人に見えたが、その顔立ちはまだ幼かった。


 私は怪我を負った彼女に代わって追い剥ぎされた物品の中から適当な服を見つけて手渡す。

 彼女はそれを受け取るといそいそと服を着て、少し危うい足取りではあるが私の方を向く。


「改めて・・・その、魔術師様?の方でいいんですよね?助けてくれてありがとう御座います」


 追い剥ぎに合い、更には元々が裕福で無い為お礼はもう少し待って欲しいと続ける彼女の言葉を遮って私は言葉を返す。


「待ってちょうだい、なぜ私を魔術師だと判断したの?」


「えっ・・・と、魔術師様では無いのですか?魔術師の方々はローブを着ている方がほとんどなので・・・」


 確かに私は自身の素性、人形だと言う事を隠す為にローブで全身を覆っている。

 これが人間で言うところの魔術師の格好だと?


「その・・・人間は、リリエル達亜人とは違って魔法が使えないので全身に魔法陣を刻印するって昔聞いて・・・」


 私をそのニンゲンだと思っているのか、怯えた様な態度で私に魔術師について教えてくれる。


 それにしても・・・、そうか人間は魔法が使えないのか。

 だから自分達に無いもの、魔法が使える亜人達が妬ましく、羨ましく、そして憎いのか。

 亜人達の差別の原因はここにもあったか、レベルアップの恩恵差、魔法を魔法陣という物無しでも使える、醜い人間はいつの世も持つ者を妬むモノだ。


 となれば魔導具がここまで人間の目に止まるのも道理か、魔法陣などという物が何かは知らないが、そんなものに頼らずに亜人達の様に自由に魔法を行使出来るとなれば、その価値は多岐にわたるだろう。


 魔法があるなら魔導具は必要ないのでは、と王が態々御触れを出す程では無いのではと思っていたが、人間は魔法を自由に使えないのであれば魔導具の存在は青天の霹靂であり人類に飛躍的進化を齎すと嘱望される存在だろう。


「私達亜人、と言ったわね。貴女も亜人なの?」


「そ、その・・・」


 彼女は苦しそうな表情の後、一気に吐く様にして


「リリエルは、ので、その・・・」


「なるほどね?」


 もう少し事情を聞けば、仲間の冒険者も似たり寄ったりのはぐれ者、混血児や元奴隷などの後ろ指を刺され放題の身分どうしで集まった種族混成の臨時パーティだったらしい。


 もう少し聞き出せそうか?リンは生まれや環境が環境だったのでこの世界についての常識であったりが聞けなかったが、コレならもう少し聞けるかもしれない。


 その為にはまず信用してもらう必要があるか。


 私は彼女に覆いかぶさる様にしてからそっとローブの一部を捲り、人形の体、関節に球体が存在し、自由な角度に動く、木製のソレを見せた。


「安心して?私は魔術師でも、ましてや人間ですら無いのだから・・・」


「っ!そ、それ、ナニ?」


 信じられないモノを見るような彼女の口を手袋越しの人差し指でそっと止める。


「私の、私達の種族よ。人形、と呼ばれここから遥かに遠い国から来た旅する命無き者。これで私が人間じゃないって分かってもらえた?」


 彼女はコクコクと首を縦に降って肯定し、力無く地面にへたり込んだ。

 長く伸びた深緑の髪が円形に広がりを見せ、ふわりと広がったドレスのスカートの様になっていた。


「もう、私は一応貴女を助けてあげたのだけれど?疑ったり気持ち悪い化物を見るような、そんな人間みたいな反応されたら悲しいわ?」


「はっ!ご、ごめんなさいリリエルそんなつもりじゃなくて、そうだよねっ、お姉さんもリリエル達みたいに人間から酷い事されてるだろうし、そんなのと同じ反応されたらヤだよねっ」


 別に嫌じゃないが。上手いことそれっぽい発言並べてこちらに友好的な態度に持って行けたようでなによりだ。


「それにっ、あんな巻者スクローラーと同じにしちゃってごめんなさいっ!」


巻者スクローラー?なぁに、それ」


「あいつら魔術師どもの事ですっ、自分の体を羊皮紙に、魔石筆で魔法陣を描き、ローブで巻いて中身の記述を見せぬようにする冒涜的研究者達の事です」


 スクロール、が語源か?

 確かにその特徴なら魔術師達はまさにくるくると纏めた状態のスクロールだ。


 ローブで全身を隠すのは魔法陣の形状や特徴、書かれている文言でどの魔法か悟られぬ様にする為だろう。

 そうして全身に魔法陣を刻んでローブで隠して、巻者スクローラーとは上手く言ったものだ。


 恐らくはこれは蔑称、差別的な言い方に当たるのだろう。

 魔法が使えぬ者どもが我らの真似事を必死にしようとしている。そのなんと滑稽な姿か、人からスクロールに姿を変えたぞ、と。


 それに気になる単語もあった、冒涜的研究者、と。


 憶測と推測、妄想を重ねるが、多分だが、


 人間魔法使えないなぁ


 亜人魔法使えるやんけ!なんでやねん!


 気になるなぁ


 そうだ!解剖したり実験したりして人間でも魔法が使える様になろう!


 とかそんなんだろう。


 もしこれが当たりの場合、異世界モノあるあるの種族の垣根を超えて仲良く!は夢幻、便所に吐き捨てれられた吐瀉物を砂金の煌めきと勘違いする確率ぐらいの事なんだろうな。


 逆に亜人同士の友好関係はかなり深そうに感じる。

 もし人間が組織的に亜人狩りを行って、過去に確執があるのなら、亜人達や追いやられた者同士が結託して対抗したとしたら・・・。

 エルフとドワーフが仲良く肩を組む光景がこの世界ではありそうだな。


「姿を隠すなら別の手段を用意すべきねぇ、だったら」


「リリエルもそう思いますっ、正直お姉さんが戦っていた時もうわぁ人間に助けられた最悪・・・って思ってましたからっ」


 後々何を要求されるか分かったものでは無い、怖くて仕方なかったと言う彼女の様子は心底私が人間じゃなくて安堵している様子だった。


 別に人間じゃなくても悪人はいるでしょうに・・・。


「貴女・・・いつから私の戦闘を盗み見ていた訳?」


「うぅっ、実は最初から・・・。今起きたら賊に殺されると思って服や装備を剥がれている時も死んだフリをしてて・・・あっ!そうだ!」


 そこまで言って彼女ははっと何かを思いついた様な顔をして、私にとあるお願いをしてきた。


「お願いしますっ!リリエルに戦う術を教えて欲しいですっ、私の戦闘の師になって欲しいですっ、一人でも生きて行けるようにっ!」

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