第50話 聞き込みでわかった事

 村は簡素ながらも必要最低限の物は揃っている様に見えた。


 それはここが創世樹街からほど近いからだろうか、普通の馬車であるならば街道が整備されているか、馬の交換が必要か、夜間の警備は誰が担当を、などいつの間にやら繁殖していたシロアリもかくやという程に諸問題が湧いてはついて回る。


 この村はそういった馬車で旅に来たときに必要になるであろう最低限の設備は揃っている様に見える。


「・・・さて、村と聞いていたから民家しか無いものだと思っていたのだけれど、中々どうして、色々あるじゃない」


 この調子なら外から来た人間に向けて飲食店とまで立派な物は言わないがそういった場所もあるのでは?


 私は村の全体の把握の為、ゆっくりと村を当てもなく歩き始める。


 村は作りの粗い馬防柵に似たものが全周を覆っており、柵の外側には決して浅くは無い程度の堀まで掘られていた。

 馬防柵に、堀。加えて言うならこの村の入り口には全身とまではいかないが金属製の防具をつけた門衛らしき者が各二名ほど立っていた。


 この村は随分と手厚い支援を貰っている。そう感じた。


 馬車の整備には途中途中にメンテナンス出来る施設が必要、となれば途中の村はある程度国や近くの街がバックアップや支援の類を図り、途中の補給ポイントとして利用出来るようにする。

 村と一言に言っても近隣の村や街との交流は互いのメリットの元に成り立っているのか。


 現代地球で言うならガソリンスタンド?どこにも無いと困るからいろんな場所にあったら移動先でガソリン無くなっても補給出来るよね、みたいな?


「この分なら村を直接襲うとなると賊も相当な被害を覚悟しなければいけなくなるわね。あるいは殺しに慣れすぎて手練となっている、か」


 ま、そんな数が襲ってきたら大人しく無機物の人形のフリして逃れるしか無いわね。

 そのまま回収されてしまっても夜中に時間をかけて一人ずつ殺しては元の位置に戻って・・・みたいな事繰り返せばいけるだろう。


「その場合は私達の監視・・・がいるならだけれど、そいつに人形だってバレるからそんなこと無いと良いけれど。・・・あぁ、酒場、でいいのかしらここ。人がたくさんいそうだし聞き込みにはうってつけね」


 一通り見終わった後、私は一つの建物の前に立っていた。

 恐らくは酒場か軽食でも提供すると思われる目の前の店は寂れた看板に辛うじて〖軽食・・・〗とだけ書かれておりそれ以外は読めなかった。

 外観はそこそこに大きく、長方形。建物は老朽化しており、正面に扉が一つ。


 私はスイングドアを開け、その中へと入る。


 内部は二階までの吹き抜けで、二階への階段が入って右手の奥に見える。

 カウンター四席、テーブルが二組、それがこの軽食店の全てで、天井から吊り下げられた形だけを真似た木製のシャンデリアのなりそこないが頼りない唯一の店内の光源であった。

 

「はぁい、旅人さん?お好きな席へどうぞ。それとも、二階に行く?」


 すぐに来店した私に気付いたウェイターらしき女性が大きく背中の空いた服装で出迎えてくれる。


「いいえ、ちょっと色々と知りたい事があって寄ったのよ。大丈夫よ、ちゃんとお金も落としてあげるから、自分の仕事に戻って頂戴な」


 来店の時と同じく気の抜けたはぁい、という声と共に去っていくウェイターの服装に視線が行く。

 やたらに艶めかしい仕草や癪に障る話し方、きっと彼女はこの店でそういうコトも提供しているのだろう。


 梅毒、つまるところ性病に罹ってないか、デキモノや腫瘍が無い証明として、あの服装なのだろうか。


 外から来た人間相手へのウェイター兼、娼婦の様なものも彼女は兼ねているのだろう。

 二階に視線を向ければ小さな個室がいくつもあり、建物の壁にそうように通路が通り、二階から一階を眺められる構図になっている。


 もちろん、男を惑わす為の服装でもあるのだろうが、買う側としても病気持ちとシただなんて冗談じゃない、お互いが楽しんだ後にいざこざが起きないようにああしてざっくりと背中を開け、客への安全証明としているのだろう。


 食欲と性欲がこの店の収入源か、よく見れば店内は女性もいる事にはいるが、それよりも男性の数のが目立つ。


 私は一言だけ「隣、失礼するわ」とだけ断ってから空いていたカウンター席の一つに座る。


「店主、いきなりでごめんなさい。私、創世樹街からの依頼でこのあたりに出たっていう賊の情報がほしいの。何かないかしら?」


「・・・むぅ」


 店主は低く唸るだけでそれ以上何も言わず、ただ左手だけが忙しなく銅貨を撫で付けていた。


「あぁ、ごめんなさい。情報とは金貨に似て得難い物だという事を失念していたわ」


 どこぞの街からの後ろ盾があって兵士を駐在してくれているからって随分余裕ね、とは内心だけに留め、店主が望んだであろう銅貨よりも価値のある銀貨をそっとカウンターに滑らす。


「・・・嬢ちゃんよ、確かに俺ぁ対価を要求したがそりゃあ、飯屋なんだから飯頼んで金落としてくれって催促だったんだが・・・。まぁ、いいか」


 店主は銀貨をそっと懐にしまって話を続ける。


「賊ねぇ・・・、何度かうちの村に来た連中が話していたよ。女だけで構成された一団らしくてね」


「へぇ、賊なんてのに身を落とすのは男ばかりと思っていたのだけれど、私の思い違いかしら?」


 女なら、まぁ色々と選びたくは無いけれど選べる道もある事だし。


「さぁな、そんな事知らんよ。だがな、見てみなようちのを」


 そういって先程のウェイターの方向を顎でしゃくってみせる。


「買う側も買う側で、リスクが無いか色々と気を遣うんだよ。どこの生まれのどんなやつかも分からん技術も無いヤツ買うのは・・・無くは無いがまともに頭の働くやつならしないな」


 テク云々はともかく・・・病気のリスクを考えればって事ね。なるほど?


「だが、女と子どもだけの理由はなんとなくわかるぜ」


「へぇ、どんな?」


 理由を聞けば戦争だそうで。


 西の国、その中でもこちらの国と領境にある領地同士が戦争を起こしたらしい。

 なにやらあちらが名誉を傷付けられた云々だとか正義はこちらにあるとかなんとか・・・。


 真実はどうだか・・・。


 戦争の理由なんて所詮下の人間にはこれくらいの言葉で煽るだけでいいのでしょうね。真実や思惑なんて言う必要も無いし自分達が絶対正義と煽り立てる方が楽と。


 色んな国を渡り歩いたり西の領地から兵役を嫌いなんとか逃げてきた人間などの話もしてくれたがどれも戦争のきっかけは憶測の域を出ない話ばかりだった。


 更に聞けばその過程で村々から男を・・・戦争において先鋒を勤める雑兵が必要で集めて回っているらしい。

 店主が言うにはそれで食べ物は種まで、男は両足でやっと立てるようになった子まで掻っ攫われて明日はおろか今日すら怪しくなって賊落ちしたんじゃないか、と。


「ま、いつの時代も戦争で割を食うのは私達の様な下々の民ね。そこはどこに行っても変わらない、と」


「そう言うこった。戦争なんて雨が降る頻度と同じくらい頻繁に起きる。昨日までは赤髪の領主様の領地だったのが、別の領主様との戦争で領地が変わったり街ごと破壊されて無くなったりだ」


 一通り聞きたい事も聞けた。もういいだろう。


 そう判断した私はカウンターにもう一枚だけ銀貨を滑らせて一言だけありがとう、もう行くわ。と伝えて席を立つ。


 その時だった。


 店の中でも聞こえる程の大声で助けを求める声が外から聞こえたのは。


「・・・件の賊、かしら。リン一人だけなのは少し・・・心配ね。賊が」


 付与と生産魔法をフルに活かしたサブマシンガンもどきの連射でミンチになっちゃうわね。


 私は店の入り口、スイングドアをゆっくりと開けながら外に出た。



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