第48話 依頼
「・・・依頼?私達に?」
リンの新武装、銃が完成した次の日、私達はいつも通りに早朝よりも早朝、太陽が顔を出すか出さないか程の時間にギルドに来ていた。
交代制による二十四時間制のギルドはいつもと変わらず営業しており、ギルドにダンジョン探索を伝えるよりも早く職員に『クロエ様、リン様、両名にご依頼があります』と伝えられたのだ。
ギルドには様々な形で世話にはなってしまっている。
それは魔導具の売買、まだ世話にはなっていないがダンジョン探索予定時間の超過による業者の派遣、職員は口にこそ出していないがこれはほぼ強制の様な物か。
下手にごねてギルドの利用を制限されても面倒が多い。
「内容を聞くだけなら、聞いてもいいわ。受けるかはその後で」
「ありがとう御座います。それでは、依頼の概要を説明しましょう」
受付の男はどこかこちらを見下した様な雰囲気のまま話を続ける。
「目標は創世樹街近隣で略奪行為を働いている賊の対処です。賊は街道にて襲われて助けを求める民間人を装い攻撃をしてくる事が僅かな生き残りの証言からわかっています。まぁ、なんとも杜撰で馬鹿の考えそうな策ですが、所詮賊などそんなものです」
賊の正確な出現場所の目星はこちらに、と簡単な地図を見せられる。
覚えれましたか?とこちらに確認を取ってから彼はその地図を仕舞う。
人形舐めんな、完全記憶持ちやぞこちとら。とは実際には言わないが内心毒づきながら覚えましたわ、と返す。
「賊の多くはただの食うに困った農民、村民でしょうが、既に何人もの被害者が出ています。レベルは少なく見ても六、ただの人間の手には余る案件です。故に、今回ギルドを通して冒険者への依頼という形となりました。なお、受諾無き場合は、ギルドの利用を制限させて頂きます。説明は以上です」
そこまで言って受付の男は事務仕事に戻ってしまった。
しかしまあ、利用を制限か。
やはりと言うか、権力や立場がある以上平気でそういう事するわよね。
しかもここはダンジョンという他にぽんぽんあると言う訳では無い施設の管理部門。
権力はあるし力もある、おまけに相手をするのは一発当てようとする社会的弱者ばかり。
となれば『従わんのやったらどうするか分かんねぇなぁ〜?」とやるのはおつむが弱々ちゃんでも分かる事だ。
ま、私達の場合別に一発当てるつもりも無いし弱者でも無いですけど。
生産魔法があればダンジョンに篭りきりでも食べ物に困らないしリンの植物魔法があれば野菜や果物の類も問題無い。
ギルドの世話になっているのは後ろ盾が無いよりはあった方が安心というだけの話。
「どうするの、クロエ」
てしてし、ぺしぺしと私の太ももを優しく叩いてこちらに注意を向けたリンは、小声で私に決定を促す。
「リンはどうしたいの?私は確認したい事があるからそれ次第では受けるつもりよ」
「う、でもギルドが使えなくなるんだよね?」
「リン、私達には生産と植物魔法があるじゃない。ぶっちゃけ言うとこんな所必要ないのよ。貴女がどうしたいかだけ、聞かせて頂戴?」
リンは大盾に引っ掛けて収納してある銃を見てから、少し悩んでから口を開く。
「新しい武器試したいし、別にクロエ以外と無理して仲良くしようとしなくていいんだよね?じゃあ別にいいかな」
「そっか・・・分かったわ」
リンのくすんだ灰色の髪を優しく撫でてから私は受付の男にいくつか質問をする。
「少しいいかしら、先程の依頼について。少し聞きたいのだけれど」
「・・・なんでしょうか、貴女の様な落伍者と違って、暇では無いのですよ?」
「・・・。なぜ今私達に対して依頼が来たの?ここに来て私達はそこそこ長いわよね。なぜ?」
「貴女方はダンジョンに精力的に向かい、そして幸運にも生き残っています。一定の実力がギルドにて認められた為、依頼を発行したまでです」
「そ、ありがと。二つ目よ。対処、と言っていたけれど、これは?」
「文字通りです。殺しても、ここの存在を伝えダンジョンに毎日向かう冒険者の一人として勧誘しても構いません。全て一任致します」
「・・・そう。聞きたい事は以上よ。依頼、受けさせて貰うわ」
それだけ言って私はリンを連れてギルドから離れた。
創世樹街の大通りを通り過ぎ、創世樹街からそこそこに離れた私達の馬車に戻ってきた私は、リンから不思議な顔して尋ねられた。
「クロエ、さっきの質問なんだったのー?」
久々に取り出したステータスが記載されているカード、それを眺めるの止め視線をあげる。
確か今の私のレベルが十五、リンが十二で毎日ダンジョンに潜っている成果が少しずつ出ている。
「ん?あぁ、あれね。ちょっと気になって聞いたのよ。まず最初の質問は私達を警戒しているのか?という意味で聞いてみたの」
創世樹街には毎日新しい人間が入ってくる。それは悪人も善人もだ。
そのうち、実力の無い奴は悪人、善人問わず放っておいてもダンジョンが勝手に殺してくれる。
だが、ダンジョンで死なない奴がいた場合、改めてそいつがどっちなのか判断しなきゃ行けなくなる。
それが悪人か善人か。
この依頼がその判断をするのだろう。
殺すのか?賊と同じように略奪は?女が混じっていたらどう対応する?
この依頼はつまるところ私達を試しているのだ。
「それで、二つ目は殺してもいいのか、という確認よ」
「・・・?賊なんだから殺してもいいでしょ?あたしがいた村でも賊とか盗人は畑に磔にして案山子代わりにして鳥とかに啄ませたり、村の入り口に賊避けに首並べてたりしてたよ?」
「・・・わーお。さすが中世、人権の概念が無い世界ってすごいわね」
賊避けって・・・いやまぁお互い痛い思いせずに済む最善の方法ではあるか。
「リン、命を粗末にする様な考えにはならないでね?」
「んぅ?ちゃんとクロエの言うとおり食事以外で殺しはしてないし命に感謝して頂いてるよ?」
「そうじゃなくて、人の命についてよ。正確に言うのであれば獣人なんかの亜人も含めて。リン、貴女そこだけは尊重できないでしょ?」
リンは私の問いに答えに詰まり、目線を逸らす。
「リンの気持ちは分かっているつもりよ、でもね。人間だから簡単に殺してもいい、なんて思っては駄目よ?」
「じゃあどうするのっ、折角抵抗出来る、殺せる力があっても使っちゃ駄目なの!?もうあんな目に合いたくないよっ!」
「そうは言っていないわ。もちろんどこかで線引きは必要よ。でも最初から死ね、は間違いって言うだけよ」
「分かんないよ、クロエ以外に大切にしなきゃいけないものなんてあるの?」
「・・・大切にする必要は無いけれど、簡単に壊したり奪ったりするのは違う、という事よ。人間以外への考え方や尊重はちゃんと出来ているのだから、きっとできるわ」
いっそ奴隷でも飼おうかしら。
奴隷の世話を通してリンも私以外の命を大切にすべきという考えが育つかも知れないわね。
今思えば学校とかでプチトマト育てさせたりしているのは狙いとして命を育てる尊さを教える側面があったのかもしれないわね。
私もそれに倣ってリンに何か課題なり宿題の類を用意してあげるべきかもね。
異世界かつ中世の人間の価値の低さと合わせて、どこに殺しの線を引くか。
甘い事言ってるとこっちが死ぬこの世界において、線引きがそもそも必要か。
依頼の賊の排除に向けて準備を続けながらどうすべきか考える。
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