異世界で人形として生きます

リンリ

生態調査報告書シリーズ

閑話  生態調査報告書:ゴブリン 

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 一匹の女王と呼ばれるメスと一匹だけの交尾相手のオス、そして数十のメス(兵隊)からなる真社会性を持つ生物。


 兵隊たちによる狩りや採集によって集団を維持しているが力が弱く、また生態系の中でも下位に属する為五匹一組で外に探索に出た場合、内三匹は死亡する。


 その代わり毒等の製法を持っていたり、挟み撃ち、待ち伏せ、囮、その他様々な戦略を使う。

 そのためあくまでも自然界の中での序列が最弱というだけであり人間にとっては十分以上の脅威となる。


 そも毒も自然界の強大な生物にとっては遅効にすぎ、弱って狩りが出来る程になるまでに弱いゴブリンは殺されてしまう。そのため複数のゴブリンの死体と、時間を置いて毒によって弱りそこを狩られた魔物の死骸が随所で見られる。


 巣の周囲に自分達でも狩れるほどの弱い生物がいなくなると巣を移しまた巣を形成する。

 こうした集団での【渡り】が一定の周期で存在する。

 また狩りに出ている間や渡りの最中、何らかの理由で女王が死んだり巣が壊滅すると生き残りのメスの中で最も生命力が強いメスが女王となる。

 その際、前の女王が産んだ個体は全て女王によって殺される。これは【自身の遺伝子を残す】事を多くの生物が目的としてプログラムされているためと思われる。


 また女王となった個体は腹部、というより子宮が異常発達し大量のゴブリンを産む。


 巣が未熟かつ、狩りに出せる程の頭数がいない巣の初期の段階でのみ、ゴブリンは単為生殖を行う。

 だがこれで産まれるのはメスと比べ遥かに弱いオスのみが産まれるのですぐにその中から交尾相手を決め通常の繁殖方法を取る。


 環境や時期に左右され、大規模となった集団は本来戦わないような大型の魔物を集団の維持の為狩ろうとするが大抵が失敗に終わる。


 加えてゴブリンは互いを独自の匂いで仲間の集団か判断する関係上、魔物に匂いを辿られ巣を特定され壊滅するパターンが多い。


 そうでなくともゴブリンを最終宿主や中間宿主とする寄生生物、及び寄生菌の類も非常に多い為大規模な集団となる可能性は極めて低い。

 結論としてこの手の種が異常成長し脅威となる可能性は皆無に等しい。


 ゴブリンは必ず数匹一組の小集団をいくつも形成し別々の場所で狩りを行う。

 これは非常に弱いゴブリンが固まって行動したとしても効果的ではなく、一気に全滅するリスクのみを高めると判断した為と思われる。


 今回我々は非常に珍しい事ではあったが移動中の渡り同士がかち合う現場を目撃した。

 どうやら巣ごとで仲間を認識する匂いが異なるようで、他の魔物を狩るときと同様の行動をみせた。

 近くで巣を形成された場合、自身の巣の取り分が減る事を本能的にわかっているのか積極的に争う様子が見られる。


 その際女王は数匹の護衛と思われる兵隊メス数匹と交尾相手のオスを連れ互いの巣の兵隊たちが殺しあいをしている場から離れる。


 恐らくだがこれには間引きの意味も含んでいるのではと思う。

 渡りをしなければいけない程の大規模な集団はそれを統率する女王としても好ましくないのだうろか・・・。


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「次はゴブリンに寄生してたあの菌類を調べてみるのもいいかもしれないわね。タイワンアリタケみたくデスグリップする菌類・・・。やっぱり異世界だから菌類や植物も力を増しているのかしら」


 木材から生産魔法で作った紙にゴブリンに関して現状わかっていることを書き込む。

 木から紙を作る方法など知らない為生産魔法にかなり依存した関係かMPの消費は馬鹿にならなかった。幸い作れない、という訳では無かったのが救いだろう。


「しかし・・・植物は魔法を使っている所をいくつか目撃したというのにゴブリンが魔法を使っている所を見たことないわね。知能が低い・・・って理由なら植物が使えるのは道理が通らないわね」


 木炭から作ったペンの出来損ないのような物の先端を唇に当てて唸る。

 ここまで様々な方法で生き残ろうとするゴブリンが魔法を使えない理由はなんなのかしら・・・。

 もっとこの森を調査すれば分かる?


 私はバルコニーに即席で作った椅子に身を投げ出し、大きく伸びをする。

 別段人形の体が疲れたり体が凝る事もないのだが。


 からから、と机の上を走り回る投げ出されたペンもどきを眺めながら今日はこのあとどうしようか、と悩む。


 リンは朝から狩りや模擬戦ではしゃいで今はバルコニーに体をだらんと投げ出している。

 さっき毛皮製のブランケットを掛けてあげたはずなのだが、どこに・・・。


「あぁ、もう。そんなに遠くに投げ飛ばして・・・」


 リンと出会って約二ヶ月間でゴブリンに関してこれだけ情報収集出来ればいい方だろう。

 内心自身の成果を再確認しながらリンにブランケットを掛け直す。


 もともと現代社会の地球で過ごしていた私にとって異世界というのはリンがいなければ退屈にすぎる。

 娯楽が少ない為、何か趣味のようなものでもと始めたのがこれだった。


 結果としては異世界モノの調査隊ロールプレイはそこそこに私の退屈を無くしてくれた。


 今後も妙な生き物や面白そうなものを見つけた場合長期の観察と考察をしてみたい。

 



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 本編とは関係の無い閑話失礼致しました。

 

 ゴブリンの設定をせっかく作ったのに披露せずにダンジョンにせっせとクロエ達が行ってしまったので出せずにいたのが悔しくて閑話という形を取らせて頂きました。


 色々と見直した結果ゴブリンの生態はこんな感じとなりました。


本来ここにオスがメスに性転換して女王になるとか色々と書いていましたが矛盾を感じて削除したりしている内にゴブリンにしてはオーバースペックじゃんという感じになってますね。


 本編も非常にノロノロとしたペースと進行具合ではありますが書きますのでよろしければ評価の程、よろしくお願いいたします。


 こっそりと感想とか待ってます。

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