第11話 私達の目的
「これから?」
「ええ、私達の目的よ。私はもう少し住みやすく便利な家にしたいと思っているわ。それこそ私の故郷くらいの、ね」
リンは私のオッドアイを見つめ静止する。
いきなり夢や目的はあるか、と言われても難しいだろうか?いきなり自由になった直後に聞かれても困るだろうか、少し酷だったか。
リンはゆっくりと口を開く。
「今は分かんない。でもクロエと二人きり。二人きりがいい。今はそれだけしかわかんない」
やはりそうか。まだ自由になって間もないのだ。
焦る事はないと私はリンに
「わかったわ、じゃあこれから私の目的の手助けをしてくれない?私はこれから故郷の家の快適さを再現する為にレベルをあげたいの。その為にはきっと色々な場所へ行かないといけないわ。」
と伝える。
リンは嫌がる素振りも見せず頷いてくれて、それが嬉しくて両手で包み込むようにしっかりと頬を撫でてあげる。
くすぐったいのかリンは笑いながら身を捩っていやいやと私の両手から逃げ私の手が悪戯を出来ないようにしっかり握る。
「わかった。ここからいつかははなれなきゃ行かないのはかなしいけど、クロエが作ってくれるコキョウの家も楽しみっ!」
「ふふっ、楽しみにしていなさい。きっとびっくりしちゃうわ?」
「ほんとに〜?キタイしちゃうよっ?」
私が目的を語っただけに終わったが今はこれでいいのだろう。リンはまだ幼い。きっとこれから二人で様々な事柄に遭遇し彼女の世界を広げていくだろう。
それが例えなんであったとしても。
気が付けば外は暗くなっていた。私はともかくリンはお腹を空かせているだろう。
いつものようにリスの角と火打ち石で火を熾してイノシシの肉を焼く。
寄生虫など本来は気にしなければいけないが、生産魔法を使った際に私が完璧に処理された加工肉を思い浮かべながら魔法を使ったせいかそれらが無理矢理に排出され猪肉が形を変えていく様は中々に見れない光景だった。
「美味しそうっ!いただきます」
いただきますを教えたのは私だ、猪肉を荷台で運んでいた時の雑談の中で私が軽く触れたのだ。
命を「いただきます」と思いなさい。殺してその命を糧とします、と。いただきますに含まれる本来の意味は重く尊い。
そう話したのをリンは覚えていてくれたのだろう。
これは私の我儘だが、リンにはその意味とそれをする理由を知ってもらいたかった。
強制はしたくは無かったがこれはなるべくでいいからして欲しいとお願いした。
リンは私からのお願いなのとその考え方は素敵だと言って快く聞いてくれた。曰く、命に感謝するのは大事だと思うから。だそうだ。
リンが食事をしている間、リンの寝床の改良を行う。生産魔法で猪の皮をとにかく圧縮して形を整える。とてもじゃないが地球でこんなもの出せば批判間違い無しのクオリティだ。
情けない、生産魔法と今持てるすべてのMPを使ってもせいぜいが万年床レベルとは・・・。
本来想像して作りたかったのは低反発のふわりと体が沈むような寝心地のいい敷布団だったのだが・・・。
足りない素材などをMPでゴリ押ししてこれの原因は生産魔法の(初級)部分なのかはたまたMPか、いずれにせよやはりLvが足りない。
「ふむ、生産魔法を多く使えばLvとは関係無く熟練度が貯まる方式なのかそれともレベルアップで技能が上がるのか・・・」
だがリンはレベル1にも関わらず植物魔法が中級ではなかったか?
ならばレベルとは別か。このまま使い続ければいずれ上がっていくだろう。
「クロエ?なにしてるの?」
食べ終わったらしいリンが私の後ろから顔を出しながら尋ねる。
「ああ、あなたの寝床を少し改良してみたの。これで多少は寝やすいはずよ」
「わあ・・・ありがとっ!」
リンは寝床に寝そべってみたり寝返り打ったりしてはしゃぐ。
いつか絶対地球基準のベッドを見せてあげましょう。
そんないつかを勝手に心の中で約束していると、リンの大きなあくびが聞こえた。
はしゃいだと思ったらおねむだったり、幼子らしく忙しない事だ。
「もう眠い?今日はこのあと何も予定はないから寝ちゃいなさいな」
「うん・・・、クロエぇ。」
「ん?」
「あしたは・・・いっしょに、まほうを・・・」
私はそれには答えずリンの手の甲にやさしく口づけをしてから頭を撫でる。
するとリンはすとんとブレーカーを落とすように眠りに落ちた。
やがて穏やかな寝息が聞こえ私は一つ大きく息を吐く。
リンとの時間が楽しいのは事実で、私はこれまでで一番幸せを感じているというのは嘘偽り無く本当だ。
だがやはり色々と考えなくてはいけない事や彼女の境遇やこの短い期間で起きた事など思い返す事は多い。
そしてこの二日で得た、ただの一人にも優しさを与えられなかった少女からの全幅の信頼から来る責任の重さを思うと少し疲れたというのも偽る事の出来ない事実だ。
短期間で信頼しすぎではとリンに思ったが、私が逆の立場であれほどの施しと一人の人間として認め頼られたら堕ちる自信がある。
・・・私がチョロいだけかこれは。
まあいい、リンも寝たことだしこの間に錬金と付与の二つを試してみようと思う。
万が一があっては事なので玄関から外のバルコニーに出る。
夜風と満点の星空が見える。
視界の一部を専有するほどの大きな満月は翡翠を思わせる色。それを囲うようにして大小様々な星々が空の黒いキャンバスに散りばめられている。
このツリーハウスは大樹のそこそこ高い位置にあるので普段地面を歩く時木々で遮られた空が障害無く眺める事が出来る。
星座には明るくない。どれを見ても同じに見えるので私にはこの星空に綺麗だという感想しか抱けないが専門家が見れば地球との差異がどうたら・・・と考えるのだろう。
だがこんなにも美しく綺麗な星空からここが異世界なのだと再確認するなど野暮な事をしなくともリンの存在で私は異世界に来てしまったのだと実感するには十分だ。
日本に未練があるかと問われれば技術レベルやネットが恋しいくらいでそれ以外はあまり感じる部分が無い。
大体日本に抱く印象など仕事とストレスぐらいしかパッと思い出せん。というより思い入れがあるなら老紳士にもっとゴネている。
すんなりと了承した時点でお察し、というやつだ。
しばし感傷に浸っているがやがて夜の風の冷たさに本来バルコニーに出た目的を思い出し天体観測を止める。
「さて、こんなにもいい景色を独り占めはよくないな。今度リンと見よう。今は付与と錬金を試して見なければな」
猪の骨が石製よりもはるかに頑丈だったのでパイルバンカーは改修する予定だ。
となると今までつかっていた石製のパイルバンカーが不要になる。
あの戦闘で破損してそこらへんの石で修復はしてあるが結局は使わずになってしまった。
これに付与を試してみよう。
はて、付与とは・・・。ゲームなどのあるある等を思い出すなら属性がついたり後はMPを使って自動で修復などか・・・。
とりあえず私は石製のパイルバンカーに自動修復を付与してみようとする。
想像するのは生産魔法で作ったようにパイルバンカーがゆっくりと形を整えていく様子
念の為ステータスカードを見ながら付与を試してみれば上手くいったのかMPが九割ほど消費された。
試しに石槍の一部を破損させてみればMPをゆっくりと吸い欠けた部分が戻っていった。
その後様々な試験をして分かった事がある。
「なるほど?明確に効果をイメージすること。そして素材によって付与出来る数と効能は変化するということ。最後に当然と言えば当然だがMPが足りなければそもそも付与は出来ない」
試しに私が指示した通りの魔物のみを狩ってこいと機械のプログラムをイメージして付与しようとした。
言葉にはしづらいが付与が弾かれる感覚と共に石槍が小さな破壊音を出して壊れてしまった。
外で良かった。リンが起きてしまう。
だがイメージさえ明確であればいいというのはありがたい。日本人で良かったと言える唯一の利点だ。
特に人形の体になってから記憶力がよくなった。劣化がなくなったと言えばいいのだろうか?
異世界で暮らすうちに地球の記憶がやがて薄れていくのではと少し悲しく思った事もあったがそんな事もなさそうだ。
アニメやゲームなど、様々なもので見たものをイメージして、後は素材とMPさえあれば他よりも優位に立てるだろう。
「付与は分かったとして、後は錬金か・・・。今までの異世界での暮らしからするとレシピ画面が出るとも思えないな。どちらかと言うとこの世界は体力なんかのUI周りをなるべく世界観に落とし込んで損なわないようにしているイメージがあるな。ゲーム的なメニューが出るとは考えづらい」
そういったUIの工夫でいうと少しマイナーにはなるが最強の宇宙エンジニアが暴れ回る作品だ。あれは独特かつ上手い事やっていると感じたものだ。
さて、困った。錬金が出来る気がさっぱりしない。
前途は多難だと思わざるを得ない
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