創世樹街とダンジョン

第12話 成長と日常

 あれから少し時間が経った。

 私達は相も変わらず誰とも会わず、お互い以外必要とせず生きている。


 これは後にリンから聞いた事だがこの森は「帰れずの森」というらしい。

 帰らず、ではなく帰れず、というのはゴブリン含め様々な生き物が、植物すらもが人を襲うらしい。

 生還は極めて困難、それ故に帰りたくとも帰れない。それどころか森の奥に獣達に追い立てられ、襲われる。


 異世界に来て初日に見た怪しく光るウツボカズラのような生き物なども含めて、この森は人には脅威だそうだ。


 あれは中度の魅了魔法らしく、一度リンがふらふらと誘われて大慌てでリンの頬を叩いて正気に戻した。

 私が最初見て影響が無かったのは私が人形だからだろうか。生き物に、有機物に反応する魔法だったのかもしれない。


 このように植物でさえもが人間に牙を剥く。


 そんな環境で私達が暮らし始めて3ヶ月という月日が経過している。

 あれからレベルが二人とも上がり私が9、リンか7だ。やはりというか獣人であるリンはレベルが上がる毎にHPが20ずつ上昇するようで、いまやHP240もある。


 二人で模擬戦をしたりゴブリンを中心にしてレベル上げを行っていた私達はだいぶと戦闘にも慣れてきた。


 リンの装備は――


「せいっ!」


 気の抜けるような声に反して大盾の下部に付けられた杭の一つが転倒したゴブリンの首に深々と突き刺さる。

 既に何度も似たような方法でゴブリンを無力化しているその大盾の杭部分には三匹ほどのゴブリンが深く刺したせいで中途半端に抜けきらずくっついたままだ。


 あれからリンは大盾の扱いを上達させていた。獣人の膂力とレベルは比例するようで、今やグリップ部分以外を石製で固めた大盾で有るにも関わらず小枝を振り回すが如くだ。

 

「クロエっ!そっちに一匹いった!」


「ええ、わかってるわ。・・・というよりリンが仕事しすぎて暇してたからちょうどいいわ」


 一方で私の装備はパイルバンカーを猪から取った牙と骨製に変えたのと今まで空いていた左手に付与魔法を使った銃モドキをつけてみたくらいか。


 付与の内容は

「トリガー部分を押すと内部で一定の方向にものすごい勢いの風魔法が吹く」

「MPを消費してマガジンに入れた石の塊を削って弾丸を生成する」

の二点だ。

 銃とは雑に言ってしまえば火薬の爆発の勢いでこれ飛ばしたらめっちゃ速くね?だ。少なくとも私はそう思っている。


 つまりなにも火薬を使う必要は無い。言ってしまえば同じくらい速度が出るなら別のものでもいい。


 後は銃内部に先を尖らせた弾丸になるものを入れておけば風魔法でひゅーと飛ぶというわけだ。

 リロードもマガジンにいれたそこらへんの石の塊から勝手に削って次を撃てるようにしてくれる。


「精度はお察し、というか私の練度不足ね」


 ゴブリンの脚に四発撃って当たったのが二発。姿勢を崩し倒れるのに合わせてパイルバンカーを射出。

 前に倒れていたゴブリンはパイルバンカーの衝撃で後ろに回転しながら地面に散らばる。


 勢いをつけすぎて前衛をしていたリンの背中にゴブリンの臓器の一部がかかってしまった。


「にゅっ!?・・・クロエ〜?」


「んふ、ごめんなさい。ちょっと派手にやりすぎたわ」


 素っ頓狂な声をあげるリンが可笑しくって少し笑ってしまった。


「〜・・・っ、今日は一緒に寝てもらうんだからっ!」


 先程の失態の罰が決まってしまった。

 いつもは一人で寝てもらってその間に私は色々と技能の習熟に努めているのだが今夜は一緒に寝る事になった。

 普段夜に寝ずに鍛えていたおかげで生産魔法は中級まで上昇し新たに素材変換が出来るようになった。

 これはMPの消費が本当に割に合わないが素材を近しいものへ変換できるというものだ。例えば銅から銀など、「鉱石」の同じ括りなら変換が出来る。という具合に。

 木材を石材には変換が出来ない。あくまで同じカテゴリーの中での変換という感じだ。

 

 錬金に関しては諦めている。何も分からん。


「も〜、取ってぇクロエ〜」


「はいはい、その間周りを警戒していて頂戴ね?」


 派手にやりすぎたせいであたりは酷い事になっている。ふぅ、と一息入れたリンは大盾を軽く上下に振り未だに杭にこびりついたゴブリンの死体を落とす。


 地面に粘着質な音を立てて落ちるゴブリンの体表にはキノコのようなものが生えていたりする。

 この3ヶ月ゴブリンのみを中心に狩っていて分かった事がある。


 それは異世界あるあるのような異常繁殖などそうそう起きるものでは無いということだ。

 これまでゴブリンの拠点、巣のようなものをいくつか見てきたがそのどれもが蟻のような一匹の子宮が肥大化した女王によって形成されており日に数十から百ほどを産む。

 だが彼らはこの自然界では最弱の存在に位置付けられており女王が産んだうち生きて明日を迎える者は五割もいない。

 さらに言うなら、


「ねえねえ見てクロエ、またゴブリンが木にしがみついてる。へんなのー、あんなに暴れて。手をはなせばいいのにねっ?」


 リンが樹上の枝の一つにしっかりとしがみついた一匹のゴブリンを見てそう言う。

 これが異常繁殖を抑えている一因なのだろう。


 恐らくはあれは寄生菌の類に寄生されている。筋肉や脳にいたるまで体の内部を菌糸が覆い、腕ががっしりと枝を掴んで離さないようにしているのだろう。


 ああいった個体は今までも何匹も見てきた。高いところに登らせて枝にしがみつかせ、餓死させる。

 そしてその死体からキノコが生え胞子を飛ばし繁殖する。


 もしなんらかの理由で規模が大きいコロニーになれたとしても、自然界とはよくできたものでああして寄生虫や菌類が数を保っている。

 

 寄生虫や冬虫夏草の類は自然界に於いてバランス役を担っているのだとどこかで見た。何かの生物が異常繁殖する事を防ぎ食物連鎖のバランスを取る。

 ああいった寄生されたゴブリンは一匹見つければ数百程が近くで見られ、そこら一帯の食物連鎖を一時的に活発化させる。


 そうして規模の大きいゴブリン達のコロニーによって数を減らしたリスや植物の類はこうした死体からまた数を増やし元の数に戻る。


「本当によく出来たシステムね」


「?何か言ったクロエ」


「ううん、なんでもないわ。・・・はい、綺麗になったわ。いつもの可愛いリンになった」


 あら方汚れを落とした事をリンに伝えると、リンは自分の水魔法で自身を軽く洗い流す。

 これには血の匂い等を落とす目的もある。一度匂いに釣られて猪と鉢合わせた時は焦った。


「今日はこのあたりにしましょう。そろそろ私達が出会った頃に植えてくれたピューロスが収穫できる頃合いじゃない?」


「あっ!そうだね!そろそろかも知れないっ!早く帰ろうっ!あたしそろそろお肉以外も食べたいっ!」


 果実の類などは小動物達が食べているのを確認出来たものだけは食べるようにしているが、主食の殆どは肉だ。


 さすがに飽きるのだろう。文句こそ言わないが表情には分かりやすく出ているのを最近よく見る。


 リンは大盾をぶんぶん振り回しながら家への道をずんずん進んでいく。


 あれからリンは槍を持つ事は無くなった。その代わり大盾の前面に鋭い棘をいくつも付けたり下部に杭を並べるようにつけたりなど大盾を使った攻防一体、あるいは大質量を活かした単純な暴力などの技術を磨いている。


 実際獣人の膂力に任せて大盾で突進されたゴブリンが盾に磔にされたところをよく見るに殺傷力は十分なのだろう。


「あまり離れないで。一緒に帰りましょう?」


「うんっ!クロエとかえるっ!」


 二人で並んで家に帰るが、やはり楽しみで仕方ないのだろう若干足並みが合わない。


 さて、そろそろMPも多くなってきたことだしピューロスは地球で言うところの麦だと思う。食パンくらいなら生産魔法で作れるだろうか?

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