第28話 そんな想像通りにはいかないよね
「んーっ!お休み挟んだし気合入れ直していこーっ!」
翌日、ダンジョン内の遺跡に入ってすぐの所でリンが大きく宣言する。
私達は太陽が登るよりも早くこのダンジョンに探索に来ていたので誰ともすれ違う事なくこうして人目も憚ることなくダンジョンでのんびりできていた。
「今回の目的はあくまでも連携の向上よ。肝心な場面で誤射をしないようにする為の、ね」
「むう、分かってるよー。でもでも魔導具が魔物を倒す内に湧くかもと思うとワクワクするじゃーん」
「そうねえ、それは分からないでもないわ」
まだまだお互い弱いレベルなので遺跡群の探索や威力偵察の域を出ない為、あくまで二、三回戦闘をして帰る。というスタンスで行くのは変わらない。
今回もその一環で、目的は連携と敵の強さを図ること。
当然リンもそれは分かっているのだが、昨日話した「果たしてどんな魔導具があるのか?」という話題に引っ張られているのか少し気持ちがはやっている印象だ。
もちろん、夢や目標、楽しみが無いよりはあったほうがいい。それはそうだが本来の目的や自身の実力を見誤れば遺跡の隅で時折見つかる骨と皮膚の一部を残すのみの屍となる。
「それじゃっ、とりあえず前回戦った猿かヤドカリを探しましょう?ヤドカリの場合は遠距離を徹底して無理そうなら諦めましょう」
「分かったっ!」
元気なリンの合図で私達はダンジョン探索を開始した。
それから猿の一団に出会うまでは時間はほとんどいらなかった。
むしろ待っていたのではないかと疑うほどにあっけなく、数分で猿との戦闘になった。
だが一つだけとはいえレベルの上がった事による彼我の戦力差は大きく、大した見せ場も無く猿は残り二匹となった。
最初は全部で五匹ほどいたのだが開幕で私の放った矢が二枚抜きしてしまったようで、背の高い柱のようなものに縫い付ける形で仕留めてしまったのだ。
派手な音とリンの感心したような呆れたような歓声を開戦の合図とし、そのままリンが大盾による暴力を敢行すれば残りの数などものの数ではなかった。
「そうだっ!クロエが昨日話してくれたの、試してみよっ!」
軽い口調と共に既に「どう撤退するか?」と後退り始めている猿に急接近したリンは「よっ」と軽い口調で猿に大盾を投げる。
それは友人に少し雑に物を手渡すような優しさだったが、質量まではその優しさを内包してはいなかった。大盾を避ける事が出来なかった一匹はその重量の下敷きになる。
「ん?あぁ、水責め、してみるのね?」
ここに来てようやくリンがしたい事が分かった私は滑車弓を引き絞る事をやめて周囲の警戒に移行する。
リンはそのまま腰の小さな小さな収納ポーチからタオルを取り出して猿ぐつわのようにして下敷きになった方の口を縛る。
そうして掌から大量の水魔法による放水を開始した。
猿はもがき苦しみ息をしようとするがタオルがそれを阻害する。むしろ息をしようとした気道に水が入り込み激しく咳き込む。
何度も咳き込む内に嘔吐したようで、その液体も仰向けで拘束されている関係で気道やら食道に逆戻りするやらで液体が更に追加される結果となる。
そうして暫くの時間を掛けて猿は死んだようで、ぐったりと動かなくなる。
リンは大盾の一部についた吐瀉物に顔をしかめながら一言だけ、
「んんぅ〜・・・、殴った方が、速い??」
もがき苦しむ猿と仲間の窮地をチャンスに遠くに逃げ去った猿を眺めながらリンは感想を漏らす。
「あー・・・、そう全てが上手く行くはずもないわよねぇ」
「クロエの案にしては、珍しくしっぱいだねぇ。それにまず仰向けにしないといけないっていうのもハードルが高いし。何かに下敷きにした上で四肢なんかを破壊して無力化してやっとだもん・・・」
「まあ、じゃあ普通に銃モドキ、作ろっか。小型の」
そのまま警戒を続けながらリンとの会話を続ける。
「そうだねぇ、ねっ、ねっ」
「ん?」
「クロエがこの前話してくれたさ、さんだん?銃だっけ?作ってよ。盾構えながらぶっぱなすのっ!」
獣人の膂力ならショットガン片手とかいう阿呆な構成も難無くこなせるか?
いや、いっそレバーアクションの銃とかだうだろう?
大盾を構えながら撃ってはスピンコックする獣人の少女。
ふむ、ありだな。むしろ大正解に近いのでは?
使えるか、有用かではなくロマン重視の思考でありだな、と考える。
レバーアクションなら昔なんかで見た気が・・・したような無かったようなはずだ。
火薬が無いので付与による「ものっそい勢いであっちの方向に風吹いてくれ」で弾となるものを飛ばすなんちゃって銃なのは変わらないが、それでもいいだろう。
「リン?散弾じゃないけれど私がかっこいいな、って思う銃があるのだけれど・・・。見るだけ見てくれない?作るから。で、どっち使うかはリンが決めていいから」
「クロエがかっこいいって思う銃!?みたいみたいっ!たのしみ〜」
水魔法によるなんちゃって拷問はあっけなく失敗に終わったが別の案も発見できた。まこと、失敗は成功の母であるとはよく言ったものだ。
そんな失敗と新発見の二つを得た後も安全第一で帰り道の例の扉からそこまで離れずに行動していく。
これまでそこそこの数のダンジョンの魔物を倒しているはずだが、魔導具の類は影も形も無い。
噂・・・、というか創世樹街での聞き込みでは魔物を倒した時にその死骸が淡く光ってやがて死骸の代わりに様々な効果、形状の魔導具が落ちる、という話なのだが・・・。
いい加減、どのような効果であれ魔導具というものを実際に見てみたいものだ。
レベル上げの為にダンジョンに当初は来ていたが、魔導具の存在に関する情報を集める内、二人きりでいずこかの未開の地で生きていく上で有用な魔導具が欲しい、という目標も出来ていた。
お湯が出たり、作物の成長を著しく成長させたり、周囲の安全を確保したり、認識阻害の様な効果も欲しい・・・、それと・・・、不老。
人形である私にはおそらくだが破壊され死ぬことはあっても寿命の概念がおそらく無い。
その際私が真っ先に気にしたのはリンだ。
リンが生物である以上、いずれは私を残してリンは逝ってしまうのだろう。
私はそれがどうしても耐えられそうに無い。まだリンにこの事は話していないがいずれは話すつもりでいる。
願わくば、永劫の時をリンと共に行きたい、生きたいと思っている。
というか、リンが寿命で死んだら多分私は躊躇いなく死ぬと思っている。
果たして不老などというトンデモ魔導具が存在するかは分からないが、諦めるつもりは無い。
最悪、生産魔法でいっそ――
「あっ!クロエっ!ヤドカリいたよっ!リベンジしちゃう?」
思考の海から急激にリンの言葉によってサルベージされた私は視線を上げる。
そこには遺跡群の中、いくつも植物の根によって床が持ち上げられ、でこぼこした通路の真ん中ほどで餌を探しているヤドカリがいた。
肥大した左の鋏と、小さな右の鋏、二つの内小さい方でひび割れた床の隙間を走る虫を器用に摘んでは口に運んでいる。
二度目の邂逅ともなれば初見とは違いこの生き物の特徴がよりわかる。
このヤドカリが背負っている殻はどうやら遺跡の破片と魔物の骨を混合させたもののようで、間を取り持つように白い粘着質のものが殻としての形を保つ役割を担っている。
なるほど、ああして適切な大きさの殻が無ければ自分で作る事もあるのか。粘着質の白いものはおそらくは自分で作り出した糸か唾液か、そこらへんのものなのだろう。
出来の悪い三角錐の様な形状の殻はヤドカリの立派な砦であり家としての両立した機能を完全に果たしているようだった。
「え?あぁ、本当ね。せっかくだし、ぶち込んでみましょうか」
「がんばってっ!亀の魔物も貫けたしきっといけるよっ!」
目の前のヤドカリが同一個体では無いのだろうがリベンジのつもりでいこう。
先程の思考は一旦隅に追いやり、滑車弓を構える。
別段そうする必要は無いのだが片膝立ちにしっかりと狙いを定め、三本の右腕が身の丈ほどの馬鹿げた大きさの滑車弓の弦を引いていく。
一呼吸の後、既に何度か聞いたぼっ!という特徴的な、ゆみでその音はおかしいだろう、と思わずにはいられない音と共に矢が放たれる。
硬い殻と矢の先端がぶつかる。その結果は以外なものだった。
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