第27話 水魔法の使いみちを考える

 勝負がついた頃には日が傾きつつあり、私は一旦伸びをしてから


「そうだ、リン。水魔法あなた技能にあったわよね?」


 と聞く。今までは飲み水を確保する以外は使ってこなかったがそのままにしておくのも勿体無い。


「ん?うん。持ってるよ。でもこれ水を自由に動かそうとすると物凄いMP取られちゃうんだよ。水を出すだけなら大量に出せるんだけどねー」


「そうね・・・、試したいことがあるの。もし上手く行けば水を出すだけで相手を陸の上で溺死させれるわ」


「ほんとっ!?」


 とリン。


「ええ、本当よ。タオルと水さえあれば簡単に溺死させれるはずよ」


 大盾で突き刺すにしろ杭で突き刺すにしろ、大盾の重しとなってしまう。

 引っこ抜くにしろ敵がそれを許してくれる状況はそう多くはないはずだ。それ故に、攻撃手段の増加は急務だと判断する。


 私が以前使っていた銃モドキ程度の軽さと扱いやすさなら片手に持たせてもいいが基本は両手でしっかりと大盾を持って攻撃に備えて欲しい事を考えると、大きな武器は持たせたくない。


 映画の知識だが、拷問で横倒しした人間の顔にタオルを掛けて水をぶっかける拷問があったはずだ。それを思い出した私はリンにも同じ事をして貰おうとしている。


 そも、拷問とは途中でやめる事によって肉体的、精神的に弱らす事が目的であって途中で中断することなく継続すれば普通に死ぬはずだ。

 リンにも重しなどで動けない状態にした敵を水責めで「後はこのまま五分待つだけで完成です」状態にしてもらおう。


 さっとタオルを掛けてさっと水を掛ける。それだけで後は別の敵に応対すればいい。

 助けに向かう敵がいればそれでもいい。救助に一人割ければ一時的な戦力削減に繋がる。


「タオルはクロエが作ってくれたものがあるからそらを使えばいいよね!クロエばっかり新しい面白武器ばっかりでずるかったから嬉しいっ!」


「明日実際に試してみましょう。実際使えるかは分からないしねぇ。さ、明日の予定も決まったことだし晩御飯にしましょ?」


 今夜の夕食は亀の魔物の肉、パン、リンの水魔法で出した飲み水。

 水魔法の初級は能力として水を出す、出した水をゆっくりと動かす程度のもので、直接的な破壊力や威力は無い。


 せいぜいが窒息狙いの水責めが良いところだ。リンが村から追い出され、崖に落とされ私と出会うまでの間は水だけでなんとか生きていたらしい。


 食わずに七日は生きれるというが、水を断つと三日と持たぬという。

 そういう意味ではリンの技能が奇跡的に命を繋いだのだろう。


「あ、そうだクロエ。今日の水浴び、クロエがやってよー」


「え、まあいいけれど・・・」


 口の中のものがなくなって水を飲んでいるリンからそう提案される。


「たまにはいいでしょ?いくらクロエが人形で水浴びしなくてもいいからって一人は寂しいじゃんっ!」


 人形の体は腕なり脚なりを隈なくタオルなどで拭けばそれで済む。

 自分の脚の裏とかあの角度で見れるのは人形にならないと出来ない貴重な体験だ。そういった理由でリンには即席の風呂場モドキを作ってそこで体を一人で洗ってもらっている。


「はいっ!ごちそうさまでしたっ!ほら、クロエいこー?」


「風呂なんて三ヶ月ぶりよ・・・あんまり汚れないし人形だしでねぇ。関節に水入り込んでも大丈夫よね?」


 そうして馬車の近場の適当な場所に建てた風呂場モドキに二人して入る。


 水は全部リンの水魔法で出して貰う。

 初級は少しぬるめの水しか出せないようで、それてで浴槽をいっぱいにする。


「それじゃっ、まずは体から拭こうか?」


 持ってきたタオルでリンの全身を洗う。

 小柄な肉体ながら筋肉がみっしりと詰め込まれたそれを余すところなく洗う。


「うひゃー、くすぐったいよクロエっ!そんなところまでしなくていいからっ!」


「駄目よ、汚れたままで私と寝るつもり?いやよ、私」


 あらかた洗い終えてタオルをリンに手渡す。


「はい、あとは自分でやってね?」


「ふぅ・・・、分かった。ねえ?クロエ」


「ん?」


 残りの場所を洗いながらリンが聞く。


「魔導具ってどんなのがあるんだろーね?あたし達の生活がもっと素敵になったりするかな?」


 ふむ、確かにそこは盲点だった。

 魔導具の効果は様々らしい。人間視点で有用なだけでおそらく魔導具を作り出している存在に意思は無いと思われる。


 それほどにしっちゃかめっちゃかで節操無いほど魔導具としての効果や形状は様々らしい。


 おそらく「なんか適当に作ったらなんか人間に喜ばれてる、オモロ」くらいの感覚なんだろう、と勝手に思ってる。


「そうね、どんなのがあるか予想してみましょうか」


 浴槽の縁に腰掛けながら話題を振る。


「んー、じゃあそうねぇ。爆発しちゃうランタンっ!」


「どう使うっていうのよそれ・・・ふふっ。でもありそうねぇ。投げつてつかうのかしら?」


「きっとそうだよっ!でもランタンである必要はないねっ!次はクロエだよっ!」


 いつの間にやら順番制になっているが、気にせず私からもありそうな魔導具を妄想してみる。


 ゲームなんかではありそうなのは・・・


「周りの生き物の目を見えなくしちゃう剣とか?もちろん、使ってる人も含めてね」


「えーやだなーそれ!自分とか一緒に戦ってる人には効果無いようになってたら使えたのにねー」


 それからも暫く、灯りを付けたら周りの光源を全部使えなくして自分だけが光るランプ、死んだ人に近づくと死体の死因を採点する紙など、思いつく限り変な魔導具や利用価値がある魔導具を「こんなのあったらいいねー」と妄想する。


 個人的なわがままを言わせて貰えれば呼吸している存在が近くにいれば感知してくれる道具があればと思っている。


 リンはMPを溜めておける道具があればなぁ、と言っていた。理由はMPがたくさんあればそれを使ってもっと色んなものを私に作ってもらえるかららしい。


「たしかにそれは私もほしいわね。今のレベル以上の物を作りたい時に重宝しそうね?」


「そうでしょ?それとねそれとね・・・」


「リン、そろそろ体拭いて着替えましょう?話ながらでも出来るでしょうから、ね?」


 話の途中でリンにそう促し簡易浴室から出る。

 馬車に隣接するように作ったそこから出て最低限体を拭いて馬車へと移る。


 リンが体を吹いている間こっちはこっちで風呂上がりの人形の体の手入れをする。


 左腕を取り外し、三本の右腕を使って拭き上げる。内部にみっしりと木が詰まったそれは、どうしようもなく人形のモノだ。


 肉など詰まってはおらず、血液の類も無い。ささくれや荒れの類もなくすべすべとした表面を伝う水滴を全て吹き終えまた体に嵌め直す。


そうした作業を全ての腕や脚で行っている間もリンはテンション高く私に「今日の狩りはクロエの弓がすっごかったねっ!」とか「私にもああいうのほしー」など話題が尽きる事が無さそうだった。


 一通りの清掃を終えた後もリンは終始楽しそうにしており、そろそろ就寝の時間だと告げるのが少しだけ申し訳なく思う。


 だが健全な時間での睡眠は彼女のためでもあるはずだ。私はリンの話を遮って


「・・・うん。うん、そうねぇ。ねぇ、リン?そろそろ寝る時間よ?また明日もあるのだから今日はもう寝ましょう?」


 と言う。


「えー!もう?まだ早いよー・・・話したい事が――」


 リンの抗議の声は彼女自身の大きなあくびによって遮られた。


「ほら?もうオネムちゃんじゃない。今日も一緒に寝てあげるからおいで?」


 ベッドで脚を組み、リンに一緒に寝ようと腕を広げてハグ待ちする。


 暫くの逡巡の後リンは勢い良くこちらに突撃して自分ごとベッドに私を沈める。

 きゃー、とわざとらしく演技してリンにされるがままにされてあげる事数分、電池が切れるようにしてすう、すうと寝息を立てるリン。


 世間一般のデートからは外れるのだろうが、こうして私達なりのデートが終わった。

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