第24話 新武装と素材変換のバランス
翌朝、私はリンの胸の中で目が覚めた。
いつもなら私がリンを抱いてあげて寝るのだが、今回は別だった。
新鮮で、でもなんだか少し恥ずかしくて私はそっとリンの胸から、抱擁からそっと抜け出す。
昨日の出来事は私のミスだ。
どうにも自分に向けられる感情というものにいまいち自信が持てない、或いは鈍い。
私は自信を持ってリンに対してこういう感情をもってる、と断言出来るのだが、リンが私に対してどんな感情を抱いているか?
そう問われるとどうしても正確に断言ができなくなってしまう。
今回の件も私があんな無茶なダメージ喰らっておっけー!な戦い方をリンが見た時どう思うか考えが至らなかった事が原因だ。
昨日の夜、リンにデートを持ち掛けたのもリンの事をもっとよく知ろう。彼女をちゃんと見てあげよう、と思った故なのだ。
昨日ヤドカリに切られたままの右手があった場所を撫でながら未だベッドで可愛らしく寝ているリンを見る。
「んんー・・・、くろえぇ・・・おばかぁ、むちゃしないのぉ・・・」
夢の中でも私は人形の特性と生産魔法のゴリ押しで無茶しているらしい。
寝ているリンの側まで行きすりすりとお腹を撫でていたずらする。
「もう謝ったじゃない・・・、そんなに何回も言われたら流石に拗ねるわよ?」
寝言なので言っても意味が無いとは分かっているが言わずにはいられなくてそっと文句を言ってお腹をくすぐり続ける。
やがてくすぐったさに流石に目を覚ましたリンのジト目とご対面することになった。
「クロエ・・・?前々から思っていたけどあたしに触るの好きだよね・・・」
「んー・・・?なんだか心が暖かくならない?」
悪びれなく言ってリンに同意を求める。
「分かるけどさー、寝てるときにされるとただのいたずらなんですけどー?」
ごめんごめん、と平謝りしてリンの柔らかいお腹から手を離して今日の予定を伝える。
「まずは朝御飯食べたら昨日言ってた通りデートしましょ?何をしたいかは二人で話しながら決める事になるけどね」
と伝えて馬車の上部に設けた倉庫から小麦粉の状態にしたピューロスを取り出す。
それを生産魔法でパンにしたものをテーブルに置く。
「いただきます」
とリンがしっかりと言ったあとでパンをちま、ちま、とゆっくり味わいながら食べるのを横目に破損したままの右手の代わりを生産魔法で作り始めようとする。
倉庫に在庫が無い為一言「ちょっと木材が欲しいから取ってくるわ」とだけ言って馬車から出る。
この三ヶ月で肩口からばっさりと切られるほどの怪訝など初めてのことだ。
今更ではあるが私の人形の体はどこが破損したら駄目でどこに心臓はあるのだろうか?
頭を破壊されれば流石に死ぬのだろうか?
それとも臓器の類もなく、ステータスカード通り意志人形らしく意思がある限り生きているのか?
自分の体だと言うのに知らない、分からない事ばかりで少し不安を感じる。
「試そうとも思わないけれど・・・、もし頭を破壊されて死んだらリンが悲しむわね。約束通りもう少し慎重に動くべきね、私」
近場の適当な木を生産魔法で形を変え右手を作り出す。
相も変わらずぐにゃぐにゃと粘土細工を捏ねるように形を変える不可思議な光景に魅入ってしまう。
が、そんな時間も僅かに数秒。
そこには以前使っていた右手と寸分違わぬ右手が生産魔法で作られていた。
MPを八割ほど使ってしまったが逆に言えば腕一本程度ならそれで新しく用意出来る、という事だ。
右肩に生産魔法を使い新たな右腕と接続し調子を確かめる。
360度、上、人が曲がらない角度、全部試してみたりしていると食べ終えて馬車から降りてきたリンと目が合う。
「もう治ったの?」
「ええ、いつも通りよ。さ、食べ終わったのなら今日はどうしましょうか?」
大きく伸びをしてからリンは
「んー、じゃあねっ!クロエの新しい武器が見てみたいかなっ!それで一緒に狩りデートしよっ!」
リンは室内での趣味よりも外で動いたりする方が好きだ。
特に狩りは一人でも出来ると言えば出来るが必ず私と一緒に行動したがる。
現代で言えばスポーツなどのアウトドア趣味が多い子なのだろうな。
「分かったわ、じゃあ石と・・・弦は、そうね。生産魔法の中級で手に入れた素材変換を折角だからつかってみましょうか」
この頃の弓の弦に当たる部分は動物の腸や植物由来の・・・なにか。忘れた。
なにかをつかっていたはずなのでとりあえず生産魔法で解体していた獲物の筋繊維をほぐして糸の様にする。
それを素材変換で現代で見れるような化学繊維がどうたらのいい感じの弦に・・・、糸のカテゴリー扱いでなんとかならないだろうか?
素材変換は生産魔法が中級に上がった際に手に入れた技能なのだがこれがまあ使い勝手の面で言えば制約が多い。
石材なら石材、木材なら木材、という風に同種類のカテゴリー内で、なおかつ少量でもかなりの量のMPを要求されるというバランス調整っぷりだ。
これで使い勝手がよければ無双ヒャッハーの頭悪い具合になるのでいい感じのバランスとは思わなくもないが・・・。
素材変換は無事に作用したのだが全体の半分も行かない内にMPが切れてしまった。
一旦自然回復を待つほか無く、暇な時間リンとおしゃべりする。
「これから作るのは私の故郷の?弓よ。滑車っていって車輪みたいなのがついてて弦みたいなのが三本あるのが特徴なの」
地球産なら故郷って判定でいいはずだ。
加えて言うのであればコンパウンドボウの構造なども知らない為生産魔法とMPでゴリ押す予定だ。
なんか一定まで引くと軽くなる・・・くらいの知識しか無いのと威力がやべー、くらいしか知らないのでその他の技術的部分は生産魔法頼りとなる。
「へー?なんだかすごそう?でもクロエが前使ってたぱいるばんかー?よりも強いの?」
「それは考えがあるわ。私が度々自分の腕とか脚とか増やしてるのは知ってるでしょ?」
リンは私の人形の体の特徴をよく知っている。たまにそれで腕をたくさん付けてぎゅつと抱きしめてあげたりしている。
「それで三本くらい腕を生やしてそれ全部使わないと引けないような大弓を作ろうと思ってね?」
弦となる部分を話しながら三本ほど用意し、石材と弦に生産魔法をかける。
ぐにゃぐにゃと形を変える素材達を眺める事数十分ほど。
そこには高身長であるはずの人形の私に届くほどの全長のコンパウンドボウが出来上がっていた。
滑車が上下に設けられており、弦はもはやワイヤーなどの太さなのではと錯覚するほどのものだ。
現代科学の粋を集めたその形状は形容しがたく、また私自身なぜこの形なのか、なぜ滑車がつくといいのか、などなどうろ覚えの知識と知らないの部分を生産魔法にぶん投げた関係で「銃の扱い方は知っているが銃の製造法は知らない」という状況となっている。
製作者は私なのだが。
「なにこれー?へんな形ー。クロエっ!これ打ってみてよ!」
リンに請われ私は適当な素材で右腕を二本増設し計三本の腕を用意する。
「うわぁ・・・、片腕だけ多いクロエもそれはそれでアリだねぇ。すてきー」
褒めるリンを横目に大型にすぎる弓を左手で構える。
本当に大きい弓だ。取り回しも少しばかり悪い。閉所では別の武装を考えた方がいいかも知れない。
それは後で考えるとして今はこの弓だ。ついでに適当な素材と適当なイメージで一本だけ矢を作ったのでそれを番える。
右腕の三本の腕が弦をしっかりと掴み、ぎりぎり、と音を立ててゆっくりと引いていく。
「重っ・・・、これは慣れが必要ね」
苦戦しながらなんとか引ききると抵抗が一気に軽くなる。
原理は・・・知らない。生産魔法でそこらへんの知識を代行してもらったので。
とにかく楽になったという事しか分からないが、エイムが楽で助かる。
呼吸を一旦落ち着け、近くの木に狙いを定めて弦を放つ。
ぼっ!と篭ったような音と共に放たれた矢は木を貫通し木々の奥に消えていった。
貫通した穴から縦に割れるようにして亀裂が入り木が割れていく。
「うひゃー・・・、うひゃーだよこれクロエ」
発射時の音と、それがもたらす破壊にリンが感心と呆れを両立させた声で感想を述べる。
これだけあれば遠距離に徹しても火力が落ちる事はないだろう。
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