第23話 変えるべき所と反省
「じゃあ、安全第一を約束してくれたクロエはあのヤドカリどうするの?」
リンの少し棘のある言葉が刺さる。
過去に私がリンから信頼してもらう為に言葉ではなく行動で示したように、もう一度行動で先程の約束を証明してみせろ。
そう言われているのも同然だろう。
「ん、移動速度自体は遅いみたいだし放っておいて帰還しましょう。破損もした以上修理しないと不意に別の魔物とかち合ったら面倒よ」
と言ったあと片目でちら、とリンの様子を伺う。
リンはん、と満足げな頷きと共に地上へと続く扉に向かって行く。
どうやらお許しを貰えたみたいで、ほぅ、と息を吐いて安堵しその後をついて行く。
選択を間違えていたらたぶんこの先リンは今回の出来事を一生忘れないのだろう。
表面上こそいつも通り接してくれるかもしれないが私達だからこそ分かる微妙な違和感、溝が出来てしまっていたと思う。
「クロエとは一度しっかり話し合わないといけないってちょっとおもってたんだよねー」
扉を開け階段を登りながらリンがそうこぼす。
やはりいつものゲームキャラみたいな被弾やダメージ無視のヒャッハープレイは少なくない不満をリンに抱かせる原因となっていたようだ。
今はその原因を話し合いの結果次第では潰せるかもと嬉しそうにしている。
ここが異世界で、私は転生したのだと分かってはいるつもりなのだが、どうにもゲーム感覚のようなものが抜けないでいる。
人形の体になる、という選択は間違いではないと今でも思っているが五感のオンオフとダメージをゲームの回復アイテムを使う感覚で生産魔法で直せてしまうのも相まって実感出来ていなかったのだろう。
いっそ痛覚は常にオンにしておくか?いやだが恐怖は行動を鈍らせるし正常かつ冷静な判断が出来ないかもしれないと考えると・・・。
リンと一緒にいたりリンが怪我する可能性があれば慎重にもなれるが、どうにも自分だけの場合人形なのも相まって大事にしようと思えずにいる。
「その、あんまりいじめないでね・・・?怒られるのは少し苦手なの・・・」
今回の件は私の異世界での生き方を見直す良い機会にはなるだろう。
それはそれとしてお説教はやだ。
階段を先行しているのはリンな為、上目遣いがちにしてリンにお願いする。
リンは私の事が大好きだ。きっとこれは効くだろうと狙ってやったがやはり効果抜群なようで胸を抑えている。
「ん゛んぅっ、そ、それはクロエが良い子にしてたらだよっ!」
「むー、私結構良い子だと思うんだけどー?」
今回、というか普段のプレイスタイルがソロだと脳筋なだけでリンと行動している時は割と慎重第一だと思うのだが・・・。
これからは自分にも慎重第一を課すべきだろう、これが他の異世界モノなら命大事にを別に言われるまでも無く実践出来るのだろう。
人形になって初めての弊害を感じたかもしれない。
それから私達は階段を登り切り創世樹街へと戻ってきた。
結構な時間が経っていたらしく空はそこそこに暗く、もう夜と言ってもいいくらいだった。
ダンジョン内と外では時間の流れすらも違うようだ。
私はともかくリンが人嫌いを極めている為たいした会話イベントも無くそのまま街の外に置いてある馬車まで向かう。
冒険者ギルドにしても「へー初日で死なんかったんやー」と言わんばかりの視線と表情がちらりと見えたくらいで別段何も言われることはなかった。
そうしてお説教の覚悟を固める時間的余裕もたいして無く、私は自作馬車(という名のほぼキャンピングカー)の二人用ベッドの上でリンにのし掛かられていた。
「さて・・・、なにからはなそっかな。クロエ?」
「えっと・・・でもでもあのダンジョンで大体話す事は話したじゃん?」
みっともなく抵抗をしてみるがリンにあっさりと否定される。
「んーん?確かに安全第一で行こう、とは約束してくれたし実際あの場はちゃんと帰るっていう選択をとってくれたけどまだ足りないと思うんだよねー」
「んむぅ・・・、じゃあさ」
「ん?」
私がちゃんと反省してる証明として私はある提案をしてみる。
「私完全に遠距離で戦うわ?接近戦はリンに任せて私が遠距離!ね?これならどう?」
一応草案はある。
弓だ。それも普通のではなく腕三本ほど使って引くような馬鹿げた威力と大きさの弓。
左手だか右手だかに新たに腕を二本ほど生やしてそれを全部使って引く。
複雑な動きは出来ないだろうが全く同じ動きをするのであれば脳への負担も許容範囲ギリギリ・・・だと思う。
これなら今の武装に劣る事もなく素材や場合によっては強化まであるはずだ。
「んう、分かった・・・それならいいよ。クロエはもうちょっと恐怖を知ったり自分の命の価値を知ったほうがいいし・・・」
そう言って納得したらしいリンはお説教の空気感を霧散させベッドに私を完全に押し倒す。
二人分の重みにベッドが僅かに軋み、付与でナイトランプ程度の明るさを出す石が天井にはつけられており、その明かりをリンは背に受けている。
ベッドに押し倒されリンを見上げる形の私からはリンの輪郭だけがうっすらと見える。
「もっとあたしを見て・・・?クロエが助けたんだから最後まで一緒にいてよ・・・。あんなどこかに行っちゃうんじゃないかって心配になる戦い方しないで・・・?」
夜なのと天井の明かりを背に受けている事でリンの表情は見えないが、その声は普段明るく幸せに満ちた声では無かった。
まるで最初にリンと出会ったときのような冷たさと寂しさを感じる声に、私はリンが私の事をどれだけ大事に思っているか思い知らされた。
「ごめんなさい、私わかってるつもりだったわ。私があなたを大切に思うように、リンも私を大切に思ってくれているんだね」
「当たり前でしょ・・・、自分だけが一方的に愛していると思わないでよ・・・」
わかってるつもり、本当にそのとおりだ。
リンの気持ちを考えていなかったかもしれない。私はもう少しリンと向き合うべきだろう。
いつも一緒にいると行っても僅かに三ヶ月。お互いを知るのはもう少し必要だろう。
ダンジョンやレベル上げとは離れて一度リンと一日ゆっくりしてもいいかもしれない。
「ねえ、リン。明日はダンジョンには行かずにデートしましょうか?」
私の発言にそれまでふんふんと鼻を鳴らして私の無くなったままの右手のあたりをにぎにぎとしていたリンは顔を上げて喜ぶ。
「ほんとっ!じゃああたし一緒にこの前教えてくれたチェス?っていうのやってみたい!あとね、サッカーも・・・、あっ!それに外で狩りもしたいっ!デート狩りっ!」
随分とアウトドア趣味なようで・・・、一気に捲し立てるリンを微笑ましく思いながらこんな事も私は知らなかったのだなと反省する。
「それでね、それでね・・・、あっ!クロエは何かしたい事ないのっ!デートなんだからクロエのやりたい事も一緒にしたいっ!」
リンに聞かれて私は思いついた事を言っていく。
「そうね・・・、それじゃあ新しい遠距離武器を思いついているからそれを作ってみたいわね・・・。あとはこうしてリンとくっついていたいわ」
今日の出来事は私が悪いとは言え無性にリンがちゃんといるか確認したい衝動が止まらないでいる。
とりあえずはダンジョンで魔物を数匹倒した事と創世樹街に来るまでの道中で倒した分でレベルがもしかしたら上がっているかもしれないので確認もしたい。
だがそれもすべて明日でいいだろう。眠気こそ人形故に無いが心が無性に睡眠を欲していた。
リンに抱き着くようにして私は深い眠りに落ちる。
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