第21話 ダンジョン探索 初日
「それじゃあ、まずは閃光手榴弾の投擲からね」
宣言とともに腰に生やした腕から投げられた閃光手榴弾は上空で破裂し、上の通路で奇襲のタイミングを伺っていただろう猿の苦悶の声が聞こえる。
リンが前方の猿達に突撃するのとそれは同時で、リチャージを終えた大盾からの発光があたりを一瞬照らす。
前方を一瞬照らすだけであってその範囲は以外と狭い。
しっかりと目を潰したい相手に大盾を向けた上で発光させなければいけない。
最初リンはこれの扱いに苦戦していたが今やそんな様子は微塵も見られない。日頃の実戦がリンを確実に成長させていた。
等間隔に並んでいた為全員の目を潰す事は叶わず、リンの大きな舌打ちが聞こえる
・・・本当に戦闘中に出る下品な口調あたし治そうかしら?今のうちにたしなめておく必要あるわよね?あれ。
「っふぅんっ!」
リンが掛け声と共に三匹のうち目を潰せた一匹に肉薄し大盾を叩き付ける。
が、彼らもただ見ているだけでは無い。
大盾に二匹目の猿を磔にしたせいで重量が増し取り回しが劣悪となった事で、リンは残り二匹からの爪での攻撃に大盾での防御は間に合いそうになかった。
だがリンの目に怯えや不覚を取ったという感情は見えない。
盾を猿の方向に構えるのではなく、盾を向けた方向はそのままに自身の体を盾の前面方向に移動し念の為回避行動をとる。
「・・・クロエ」
とだけ呟いたのと私の銃モドキが残り二匹の頭を撃ち抜くのは同時であった。
猿が攻撃モーションに入っていること、私が常にカバー出来るようにリンの近くにいたこと。
この二つが幸いして正確に猿二匹の頭に弾丸を撃ち込むことが出来た。
「リン、可愛い少女は舌打ちなんかしないものよ」
「んー・・・、クロエはこんなあたしキライ?」
磔になったままの猿を大盾から引き剥がしながら問うリンに「それとこれとは別問題」とだけ答えて視線を上げる。
最後の一匹が閃光手榴弾の影響から完全に復帰したらしく通路から顔を出したり隠れたりしながら攻めあぐねていた。
下ですでに仲間が全滅したのを知っているのだろう、迂闊には飛び出さずにいる最後の一匹。
本能か、はたまた知性があるのか随分と消極的にこちらを伺う猿に私はどうしたものかと少し困る。
今のところ閃光であったり爆音であったりで虚を突けているが地の利を向こうが得ている以上迂闊に動くのは控えるべきだろう。
リンもそう慎重に考えているだろうと思っていたのだがそうでも無かったらしい。
大盾に磔にした猿を剥がし終えたリンは私と同じく上の通路で隠れている猿を確認すると溜め息を一つついて、
「んー・・・、いいや。メンドクサイし」
そう言ったと思えば大盾を猿が隠れている上の通路に思いっきり投擲した。
獣人の膂力が凄まじいのはこれまで何度も見てきた。
嬉しくなるとテンションが上がり大盾をブンブンと振り回したりなどそれは幾度と無く見てきた。
だがまさか大盾を石ころの投擲の様に投げつけるなど予想の範疇外だった。
「ちょっ!?リン・・・。あー、まあ解決したと言えばそうだけど」
遺跡同士を繋ぐようにして出来ている二階通路はあっけなく大盾によって破壊されガラガラと派手な音と共にその姿を失っていく。
私はその光景に浅慮な行いを諌めるべきか大胆な行動を褒めるべきか悩んでしまう。
瓦礫と化した遺跡の一部に体を潰され無力化された猿とそれにとどめを指すリンを見ながら私は結局褒めてあげるか。と結論した。
リンには大胆に動いてもらってもいいだろう。私がその分慎重に行動すればバランスも取れるだろう。
リンと出会ってそれなりの時間が経っているが彼女には注意するよりなるべく褒めて自信と自己肯定感を高めてもらうほうがきっといい。
「リン」
と私が声を掛けるとリンは少しだけ決まりが悪そうにえへへ、と笑ってこちらの言葉を待っている。
私が直前にちょっとっ!?と言いかけた事が原因だろう。勝手な事しちゃった?と言わんばかりに不安がる彼女に私は
「かっこよかったわよ、さっきの攻撃」
と褒めてあげる。
リンはてっきり注意されると思っていたからか最初はなんて言われたのか分からずきょとん、とした顔をしていた。
が、褒められたと分かったリンは「うんっ!」と大きく頷いてふんふんとハミングしながら私の手を取って自身の頬に当てすりすり、とセルフで自分の頬を撫でる。
「でもああいう行動は事前に相談して欲しいわ」
一応注意をするとうんうん、と聞いているのか分からない返答が聞こえる。
まあリンはこれまでちゃんと言ったことは理解して従ってくれているので大丈夫だとは思うが・・・。
それはさておき、これで戦闘が終わったのでリンの大盾を軽く点検し破損や欠けがある箇所を生産魔法で補っていく。
「クロエ、この大盾に付いている光る部分違う場所に移動出来ない?殴りつけて刺さったらそいつに遮られて使えないよ?」
修理中、リンからの指摘が入る。
こういった実際に使っている者からの要望は正直ありがたい。
実戦を想定し作る。と言っても所詮は想定でしかない。
戦場で使えば思わぬ所で見落としや欠陥が見つかる事は多い。しかし・・・。
どうしたものか。盾に発光するアタッチメントが付いている利点は防御しながら攻撃の起点となる行動が取れることにある。
盾の一部分だけ穴を開けるか。
あとは穴に棒なりなんなりを入れて磔になった死体を無理矢理押し出す、とか?
「んー・・・、とりあえず帰ってからでいいかしら?改良と実験はダンジョンよりも外でやったほうがいいと思うの」
おっけー、と緩い返事が帰ってきたところで大盾の点検が終わる。
大きく破損した箇所も無いところに、作成者としての誇りのようなものを感じる。
これからもリンを守り、支えてあげてね。と盾に対して心の中で祈りリンに大盾を返す。
大盾を振ったり地面に振り下ろしたりして攻撃動作の確認と慣らしをしながらリンが一旦帰る?と尋ねる。
「ん、どこも怪我はしていないしあと一回だけ戦闘をしたら帰りましょう」
閃光と爆音を付与した石は遺跡の残骸でもなんでも適当に拾って確保すれば消費分は補えるだろう。
あと一回くらいならなんとかなるはずだ。
私はリンに一応降りてきた階段からあまり離れずに周囲を探索するから安心して欲しい、と伝えてから行動を開始する。
「あたし達が降りてきた階段とかもそうだけど不思議だよねぇ。外からは廃墟のただの扉にしか見えないのに上に続く階段部分はどこにあるんだろうねこれ」
探索をしながらリンが階段がある方向を見て疑問を口にする。
「本当にね、あれだけ下ってきたのだから坂道だったりがあるはずなんだけど・・・、ただのどこにでもある廃墟の半壊した扉なのよね」
上に続く通路や建造物、山の類などもなく階段を降り扉を開けるといきなり廃墟の遺跡群の真ん中に出る。
外見上ただのこのあたりに広がる遺跡群の一つにしか見えない為帰りの扉と階段を見失えば迷ったまま出られない恐れがある。
それもあって決して帰りの扉と階段が常に振り返れば見える範囲だけでの探索を心掛ける。
「ダンジョンってへんな事ばっかりだねっ!お空があったり急にボロボロの遺跡ばっかりのところに出たり・・・。これで魔導具?っていうのもこのダンジョンから出るんだよねっ?」
「ええ、なんでもここの魔物を殺したりした時とかに死体が淡く光って道具だったり武器だったりの形に姿を変えるらしいわ」
なんともゲームの様な仕様だとは思わないでもないが、形状から魔導具としての効果までバラバラなのだという。
ロングソードの形状なのにお湯が出たり、ただの木の枝が放電していたり・・・。
身体能力が向上するお面、鑑定のような能力を持った小手など、それは人の道具を形だけ真似てやりたい放題に考えなしに適当な効果をつけたような有様らしい。
思わぬガラクタが強力な効果がついていたりなど見た目では判断がつかないらしい。
おもしろ装備のクセに性能ガチな奴が場合によっては完成するのか。
ふふっ、とその様を想像し思わず吹き出してしまう。
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