第19話 到着
少しずつ近くなるに連れ、創世樹と言われたものが馬鹿げた大きさだと日増しに実感する。
遥か頭上はやすやすと雲に掛かり見えず、幹から伸びるようにして通路や家が生えているのが見える。
樹上生活と普通の地面の生活を融合させたような上にも下にも富んだ街らしい。
通路はぐるぐると螺旋を描き地面に降りるものもあれば高くそびえる建造物群の屋根に直通の通路となって続いているものもある。
「なにあれ〜?樹にくっつくみたいな家だね、あたし達が住んでいたツリーハウスに似てる」
「規模や数は比べ物にならない程だけれどね。それにしても創世樹なんていう大層な名前の樹に寄生するみたいに家を作らないと行けないほど人で溢れているのかしら?」
私の感想にうへぇ、と口を歪めるリン。
おそらくは人が多い、という点を想像しうんざりしたのだろう。
ここまでかなりの日数を掛けて移動し、今や創世樹と街は目前にまで来ていた。
門には簡易的な詰所と衛兵らしき人間が二人ほど、武装に統一性は無いが職務には忠実な印象を受ける。
街についたらなるべくリンの為にも二人きりになれるよう心掛けよう。
当初はリンに面倒な人とのやりとりやなどを任せたようと思ったが荷が勝ちすぎるだろう。
関節部分など球体関節人形と分かる部分を隠せば顔がすごく良い女としていけるか・・・?
私はツリーハウスで冒険者と相対した時に使ったローブを被る。
「もし、そこの衛兵さん。通りたいのだけれど検問は必要かしら?」
創世樹も大きければ門も大きいな。
リンには馬車の中に隠れてもらって御者台から声を掛ける。
薄く微笑んで私が尋ねれば衛兵は嬉しそうに答える。美人に微笑まれて嬉しくない奴は少ないはずだ。
「ん?いやぁ特別怪しいやつじゃない限り大丈夫だ。あんたみたいなべっぴんなら色々と検問してぇけどな」
二人の衛兵のうちの一人が下品なジョークを言えばもう一人も同調するように笑う。
まあ悪いやつ、という訳じゃないんだろう。いわゆる荒くれ者特有のノリなんだろう。
肩をすくめて勘弁してくれ、とアピールする。
「あーすまねぇすまねぇ。ここはほら、色々と後ろ暗い奴等が一発当てようって最後の賭けしてる奴等が多くてな、下品でわりぃ」
「構いませんわ。それで、通ってもいいのね?」
下品なジョークを言った方が通ってもいいぞ、と顎で街の中を指す。
続けて彼は
「ここに来た以上ダンジョン目的だとは思うがダンジョン前にある冒険者ギルドに行っておけよ。見つけた魔導具なんかはそこで売り買いも出来る」
と言ってそれきり自分の仕事に戻る。
私としても彼にこれ以上の用は無いので馬車を進め街の中に入る。
暫く街中を見ながら大通りを進む。
街には様々な物や者がいた。ツリーハウスで聞いた冒険者の話であれば上から下まで節操無くダンジョン探索へお触れを出したと言っていたがなるほど、確かにと納得出来た。
大通りから少し逸れた路地の裏には敗残兵のような人々がいた。
彼らは文面は様々だが「私は西国との戦争で国境の砦の指揮官の首を取りました」や「前の戦争で56人殺しました」などが書かれた首掛け看板を下げて俯いていた。
自身の功績を宣伝し自分を買ってもらおうとしているのだろう、文面の最後に大きく自分の値段を書いている。
恐らくは敗戦後に負傷兵の面倒を見る余裕が無く捨てられたのだ。
ここまで欠損したり負傷した体を引き摺って街に入り、誰かに戦力として飼われるのを待っているのだろう。
さながら自らの意思で宣伝から売買まで行う個人奴隷商だ。
あの様子を見るに稼ぎは悪そうだが。
表の通りは裏と違い活気に溢れている。人間の半分ほどの大きさの犬を解体しその場で火を通して販売する店やよく分からない魔導具らしきものを売る店や露天の類、みな呼び込みに必死で大きな声があたりを行き交っている。
ふと気になり御者台から振り返って馬車の中のリンの様子を確認する。
ご機嫌がナナメらしく私に怒ってますよ、とアピールしてくる。
「どうしたの?人が多くてやんなっちゃった?もうちょっと我慢してちょうだいね。ギルドとやらに顔を出したら後は外で野営しましょ」
「むぅー・・・」
どうやら検討違いだったらしく、リンは唸ったまま私を見つめるのを止めない。
「クロエ、あの門番の人間に微笑んでた。私のクロエなのに」
御者台と馬車内を繋ぐ小さな扉から覗き込むようにして文句を言うリンの指摘に私は衛兵とのやりとりで愛想良くしていたなと思い出す。
「それは・・・、仕方ないでしょう?感じ悪いよりは愛想の良いほうが聞いてもないのに色々と教えてくれるでしょう?」
そう言うと馬車内からごろごろ、とベッドを転がる音とわかってるけどさー、わかってるんだけどさー、とリンにしては珍しく煮え切らない様子の声が聞こえてくる。
理解はしているが納得はしていない、と言ったところか。
「だってあんな表情私初めて見たんだよっ!?それがあたし相手じゃなくてあんなの相手なのがなんかいやっ!」
「 あら、心も篭っていない愛想笑いをリンは向けられたいの?」
意地悪な返しだったろうか?それはそれで・・・いや、でも。など本気で悩んでいる声が聞こえる。
その様子にふふん、と少し笑って馬車を進める。
暫く進み、目的と思われる建物の前まで来た私はリンにも降りてもらうようにお願いする。
一応ギルドへの登録?挨拶?は二人で行ったほうがいいだろう。
人と接近しなけれはいけない緊張と私が側にいる事とが相殺し合ってギリギリなのか先程とは変わってリンは大盾で自身を覆い隠すようにして歩く。
大盾でカバー出来ない方向は私を立たせる事でカバーしているようで、外からは誰かいる?くらいにしか見えないはずだ。
樹とそれに絡みつくような幾つもの手が描かれた看板が下がった建物の扉を開ける。
中は受付が三つ。一つは解体、もう一つは売買、最後に総合案内、と書かれたプレートをそれぞれが貼り付けられており、カウンターはちょうど空いていた。
総合案内のカウンターにて頬杖をついて暇そうにしている女性に声を掛ける。
「のんびりしているところごめんなさい?私ここに今日来たばかりで・・・、門の所にいた衛兵さんにここに来るよう言われたのだけれど」
「あっ!申し訳ありません私ったら、こんなところをお見せしてしまって・・・。登録ですねっ!ではお名前をお願いしますっ!」
名前だけでいいのだろうか、と気になり聞いてみるとどうやら死亡率が高くいちいち何が得意かなど聞いても翌日には意味が無くなるので最近は聞かなくなったそうだ。
簡単な外見の特徴と名前だけを記載した受付の女は続いて簡単な説明をしていく。
「ダンジョン探索は基本的に自己責任でお願いします。一応出発前に何日くらいで戻るか教えて頂ければそれを超過した場合捜索隊を組むこともあります」
私達が理解しているか少し目線で確認をとってから説明を続ける女。
「また死亡した場合は業者が装備や使える物を回収して再利用しますのでご理解ください。説明は以上です。ダンジョン内の地図などの販売は売買の窓口でお願いします」
本当に簡易的な、ゆるく管理出来ていればいいという感じが伝わってくる。
別に怠惰な訳では無い。世界中の明日はおろか、今日を生きれるかすら怪しい連中がこぞって最後の希望と夢を持ってここに集まっているのだろう。
ここで魔導具をもし手に入れればそれを売って大金を、人生をやり直せるかもしれない、もっと贅沢ができるかもしれない。
魔導具はおそらくピンからキリなのだろうが、王すらも欲しがる物も出る以上現代地球で言うところのガチャの様なものなのだろう。
それも人生を変えれるほどのガチャだ。
そうなればしたくも無い賊紛いを脱却し人権ある人間として返り咲けると夢見る野盗共から農奴として一生を生きるよりは死を覚悟で一発当てようとする農民までみながこの街に集まるだろう。
さながら西武開拓時代の様に莫大な成功を世界が追い求めている、というところか。
要は人材など畑から取れる勢いだから多少死んでもそれを超える数が入ってくるから問題無く動いてる、と言う事か。
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