第17話 理由と告白
「・・・〜っ!ったぁ〜いっ!で、でもこれはたしかに強いねっ!こんなの急にされたら何も出来ずにコロされちゃう」
石ころを使った擬似的な閃光手榴弾の影響から復帰したリンがふらふらと立ち上がりながら言う。
これでとりあえず武装面はいいだろう。
強いて言うならあとは嗅覚を責めてみる方向で作ってもいいがそれはまた今度でいいだろう。
「武器はこれでいいとして後は荷物ね。どうしましょう・・・」
いわゆるアイテムボックス的なのはこの3ヶ月のうちに試したが無理だった。
付与は弾かれ、素材は壊れた所をみるにアイテムボックスの実現はかなり未来の話になる。
馬車のようなものを作るか?素材はなるべく木材と石を用意してMPでの補填分をなるべく減らして、揺れないような機構を生産魔法のMP分で再現・・・。
サスペンションの構造を知らないのが痛いな。知らない部分はMPで補填されるが知っていたらその部分も使用MPを減らせたろうに。
「総MP190を超えない範囲であれば時間が掛かるけどMPの自然回復でゆっくり作れるけど・・・」
「なになに?何かまた作るのっ?手伝ってもいーい?」
リンにはなるべくいい思いをしてもらいたい。ここは外側からは馬車にしか見えないが中身は普通に生活出来るほどのものを作ってあげるか。
私はリンにこれから作るものを伝え素材を集めてもらう事にした。
「・・・あぁ、その猪の骨まだ余ってるのね。使ってしまいましょう。リン、木材が足りないからちょっと切り倒して貰えない?ごめんなさいね、ありがとう」
陽は完全に傾いてしまったがお互い目の前の馬車のようなものが少しずつ組み上がる様子が楽しくて止めようと思わなかった。
途中、リンの食事を作ってなどの休憩は挟んだがそれ以外は夢中で作業だ。
付与で【地球の街頭並に発光しなさい】という付与内容を付けた石を周りにいくつか置き光源を確保しながらリンから受け取った木材を馬車の作成材料に充てる。
馬車のような見た目だが中身は完全に別物にしている。
キャンピングカーが一番わかり易い表現だろうか?
馬車の背面に右寄りに扉がついておりそこから中に入る。
長方形の部屋内は二人用のベッドが奥を贅沢に占拠している。
本来はもっと小さくする予定だったがリンが「クロエと一緒に寝る用に広くして」と言うのでそうした。
また御者代につながる小さな扉もベッド側についている。
手前の左側は部屋に沿う形でL字のソファーにテーブル。
そして詰め込むようにして簡易的な調理スペースがベッドとL字ソファーに挟まれるように申し訳無さげに部屋の左側、真ん中程に作られている。
火種やら脂の類はあったのでレベルが上がった事で増えたMP量でコンロのようなものを作った。
正直火種などの素材が無ければ作れなかっただろう。MPがちょうど0になったのをステータスカードで確認しておいおいまじかよ・・・と思わず呟いてしまった。
「クロエ〜?あとは何がい・・・っくあぁ、ふぅ。るの?」
だいぶとリンに遅くまで突き合わせてしまったか。欠伸をしながら目を擦るリンに私は
「これで最後よ、付与でこの馬車を目立たくなさせるのと自動で走ってくれるようにするだけ」
内容は他者の意識に入らないようにする、とかその辺だ。
視界に写って背景の様に薄ぼんやりとしてなんだが記憶に残らない。いわゆる漫画のモブのようなシルエットは分かるがそれ以上の詳細が分からない、そんな感じにしたい。
自動で動くに関してはMPを流している間指定の方向に動く、という内容にする予定だ。
両方とも日本生まれの想像力豊かさが功を奏したのかMP量が足りなくなる事無く二回に分けての付与が終わる。
私は最後の仕上げに完成の宣言をする。
「はいっ!お疲れ様っ!これでお終いよ」
ここまで付き合ってくれて手伝ってくれたリンにハグしてあげる。
「んぅ〜っ!疲れたぁ!でも楽しかったっ!一緒に何か作るの楽しいね!」
「そうねぇ、また何か一緒に作りましょうね?今度は夜遅くじゃなくてもっとお昼の時に」
「うん・・・、もう眠くて仕方ないよ」
荷物の積み込みなどは明日にでもすればいいだろう。
せっかくなのでこの馬車・・・キャンピングカー?まあ馬車でいいか。で今日は寝ようとリンを誘う。
リンの要望で作ったベッドは二人が寝てもまだ広く、その素材も生産魔法で現在出来る最高傑作に仕上げている。
・・・クオリティとしては少し安いホテルのベッド程度だが。
流石にレベル9のMP量では望むクオリティには程遠い。
それでも異世界の事情を考えればオーバースペックも良いところなのは理解している。
故にこれはこの世界の住人にはリン以外には使用はおろかその存在すら秘匿するつもりだ。
リンと並んで入るベッドの感触に少しだけ地球の記憶を刺激される。
「おやすみなさい、良い夢を」
背中を撫でてあげるとリンは嬉しそうにしてこちらに身を寄せ、次第にそれはお腹の中の胎児のように丸まって私の腕の、胸の中に収まる。
頬を撫ぜる度に狂おしい程に愛おしい存在なのだと痛感し、目の前の愛しい私だけに心を許す少女が寝ているのをいい事に悪戯に愛する。
自分だけに心を許してくれる少女、自分だけに笑ってくれる少女を好きになるのに時間など掛からなかった。
私は半月ほどをすぎる頃にはリンの事をあらゆる意味で愛してしまっていた。
暫くそうしていると眠っていたと思っていた胸の中で丸まったリンがこちらを見ていた。
少し撫で過ぎたか?
「あのね・・・クロエ?あたしまだクロエに話してないこと、あるの」
リンが言った言葉はどうやら私が撫で過ぎた事による苦情ではないらしい。
リンの言葉の続きを促す。
「なぁに?」
「クロエは、あたしと初めてあったときの事、おぼえてる?」
私がリンと出会った日なら今でも明確に思い出せる。
扉越しの必死に助けを求める声、その声を信じられないと切り捨てた時の悲しそうな声、扉に打ち込んだパイルバンカーの感触・・・。
人形の体は記憶力に優れる。その時の時刻や破壊した扉の形状も余すことなく覚えている。
「あのね・・・その、クロエを初めて見たときからね。その・・・」
リンの瞳は潤んでいて、綺麗だった。
私の手を掴んだ指は次第に絡み何度も強弱をつけて自分の存在を私に意識させるように握る。
「綺麗だなって・・・、好きだな、って思ったの。人に対して気持ち悪いなっていう思いが、初めからクロエには沸かなかったの。人形だからかもしれないけど・・・」
青と緑のオッドアイに浮かぶ感情は少しの危うさと大きな信頼に溢れている。
「その・・・、あたしがクロエの事たった二日でしんじちゃったのもこれが理由なの。単純な事で、なんだかごめんねっ?あんなにクロエは頑張ってあたしから信頼してもらおうとしてたのに、あたしはその時クロエの綺麗な横顔とか瞳ばっか見てたんだ」
少し合点がいった。いくらなんでも距離が縮まるのが早いとは思っていたが、この顔の良さと人間不信センサーに引っかからない人形という種族のダブルパンチがリンを堕としたのか。
「その・・・クロエはあたしにこんなにも優しくしてくれて、いつも一緒にいてくれて距離もこんなに近いから、あたし、我慢出来なくて・・・。気持ちが溢れちゃって」
拒絶される事の恐怖は無いようだが改めて自分の心を吐露することに羞恥心はあるようだ。
まあ今までほぼゼロ距離で一緒にいたからほとんど一心同体だしな。
「その、おやすみっ、クロエ。言いたい事はそれだけなの、ごめんねっ?」
真っ赤になった顔がベッドの近くに備え付けた薄い暗い灯りに照らされている。
リンはいそいそと私の胸に顔を押し付けるようにしてぎゅっと丸くなる。
元よりリンと生涯を共にするつもりでいたが、改めて言われると、こう。
ああ、人との交流に乏しいとこういう時困る。
結局なんと返すべきか分からずリンをよりしっかりと抱きしめてやる事でしか返事が出来なかった。
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