第16話 新武装は虚を突く方向で

 冒険者を名乗る存在が帰って数分後、私は即席で用意した外のソファーにどかり、と乱暴に座って上を向く。


「はぁー・・・、やってられん」


 ダンジョン?創世樹ぅ?冒険者だぁ?厄ネタもいい所だまじで。


 それにこのあたりを支配している王は馬鹿ではないらしい。

 賊や騎士崩れなんかの連中にまで声を掛けるのは恐らくは犯罪抑制と仕事先の斡旋だ。


 賊だなんだと言うが彼らとて好きで殺しや略奪をするわけでは無い。

 それは食料不足や仕事を失くしたりなど必要に駆られての者が大半だ。


 そういった者たちが増えぬように、またダンジョンである以上危険が伴うという事は死亡率も高いはず。

 使えぬ賊共に働かせてなおかつ死んでくれれば万歳、もし生き残って使えるやつならそのまま自国民として正式に取り込む。そんな所だろう。


「ク、クロエ・・・?」


「んぅ?あー・・・大丈夫よ。もうあいつらはいないわ」


 行儀が悪い事この上ない脚まで組んで思いっきりため息をついている私に、躊躇いがちにリンが声を掛ける。


 普段からお行儀悪いのは駄目よ、と言っている私がこれでは駄目だな。


「ごめんなさいね、はしたない所を見せたわ」


「ん、ううん。気にしないで。あたしもちょっと疲れたから。」


 脚を組むのをやめた私の膝に向かい合って乗るリン。

 ソファーに座りながらお互いの瞳が交差する。


「いつダンジョンに向かうの?」


「今後こういった感じで誰かと接触した時、最悪殺せるようにはなっておきたいわ。急な話で悪いのだけれど、荷物を軽く纏めて明日にでも行きたいくらいよ」


 少しのんびりとしすぎていたのかもしれない。

 これからリンと生きるのなら人との交流は諦めた方がいい。

 リンの冒険者相手の反応を見るにもうこれは治す治さないの域を超えているのだろう。


 となってくると人と出会っても黙れと言える実力が必要だ。


 のんびりするのはそれからかもしれない。

 生存、という点においては私の生産魔法を極めて行けば問題無い。あとはレベルだ。


 それにまあ、最悪ダンジョンの中で生産魔法で拠点作れば人との接触を最低限に出来ないだろうか?


「うん・・・、分かった。クロエと一緒にいる為にも必要だもんね。あーあ、ミロで作ってくれる料理、食べたかったなぁ」


 リンが分かりやすく拗ねて「慰めて欲しいんですけどー?」と言わんばかりの視線を寄越す。


 さっき冒険者の一人に下卑た視線を寄越された浄化も兼ねているのだろう。


 自身の体を上書きする様に私に必死に擦りつける様に少しだけあの冒険者の男に同情する。

 可哀想に、リンが人嫌いだったが為にここまで嫌われるとは・・・。


「リン、いくら私が人形の体で痛覚をオフに出来るからって噛むのは・・・。というか噛み跡残してマーキングしないで。流石に恥ずかしいわ」


 「ん?んぅっ、ふぅー・・・。駄目?あたし体が気持ち悪くって・・・なんだがあのクソ野郎の手があたしの体を這いまわっているような・・・、吐きそ」


 重症ね・・・これ。リンにも全身を覆うタイプの装備でも作ろうかしら?

 大盾で体の大半は隠れるけどあとは・・・。


 とりあえず急務としては装備の見直しか。どこに行くにしてももう少し改良が必要だろう。


 もう少しだけリンの好きにさせてあげてから提案するとしよう。


 それからほんの少しだけ好きにさせた後、武器の改良案があるのでそれをしようと伝える。

 リンはまだ満足していなさそうだったが今夜は一緒に寝るんでしょ?と言うと頷いて私の膝から降りた。


 さて、改良案というか武器開発の案は二つある。

 

「リン、その大盾少し貸してもらえる?」


 大盾をリンから預かった私は大盾の前面に付与魔法を付けた平べったい石とそれに連動するよう、持ち手にボタンを付ける。

 付与の内容は


 【ボタンを押すと激しく発光する】


 以上だ。

 交戦時、近距離で対峙する以上目を閉じて交戦は出来ないはず、そうなれば目の前の相手の盾が発光するなど敵からしたらやってられんはずだ。

 しかも持ち手側にボタンがついているので敵はいつ発光するか分からない。

 遠距離から一方的にやられない限りはこれは音が出ない閃光手榴弾として機能してくれると思っている。

 

 大盾を返してから軽い操作説明をする。持ち手の親指がくるあたりにつけられたボタンは石を細長いリードの様にして前面の付与した石と繋がっている。


 離れた二つの物体が連動するか不明だったのでこの形にして一つの物体として扱えないかと考えた結果だった。


「ぐぅっ!?これは面倒ね、相手にしたくはない」


 試しに模擬戦のようなものをしてリンに大盾を試してもらう。

 攻撃しようと踏み込むがそのタイミングで発光し目を潰してくる大盾に攻め切れず、石などによって投擲に徹する他無くなる。


 勿論、素早い敵などはこれを脅威とすら見なさず回り込まれるだろうが、それはレベルと今後の練度次第でカバーできるだろう。

 

 なにより私達は二人いるのだ。私が遊撃やカバーに回れば多少は安全だと思いたい。


 リンにも自分の使っている武装がどんな利点があって欠点があるのか身を持って知ってもらう為、大盾を今度は私が持つ。


「きゃっ!?・・・これたしかにやだねぇ〜、クロエっ!これあたしの獣人の体力でムリヤリ目の前にいすわり続けたらやだねっ?」


 リンの指摘に私は嬉しくなる。

 ちゃんと考えて運用しようとしてくれている成長とこれまでちょくちょくとゲームや娯楽いっぱいの日本での知識やなんちゃって戦術を教えた成果が出ている。


 日本で生きていた頃は数少ない友人から「基本性格終わってるよな」と言われた私が教える影響かリンにもその片鱗が見えているようで少しだけ不安になるがなるようにしかならん。


 それから何度かリンと大盾を使ったり使われたりして使用感を確かめていく。

 発光にはMPと数秒のリチャージが必要なようで、「はい発光ー!また発光ー!」と小学生じみた連発害悪戦法は取れないようだ。


 まあ自然回復で賄える範囲ではあるMP使用量なので無駄遣いしなければ問題は無い。

 大盾に少しめり込ませて発光付与した石はつけてあるので石を破壊される心配はまああまりしなくとも良い。


 というか激しく動き回る戦闘中に的確にそこを狙える強敵と対峙したとして、その時点でおしまいみたいなものだろう。


「っふぅ!クロエっ!もう一つ案があるって言っていたけどそれは?」


 一通り模擬戦を終えたリンが地面に杭で突き刺した大盾の上でくつろぎながら聞いてくる。


「あぁ、そろそろ次も試してみましょうか」


 戦いで一番重要な事は個人的には恐怖を使う事と虚を突く事だと思っている。

 我らの武具は恐怖である。なんてね。


 私は腰に投擲用のアーム生やす。久しぶりに人形の体としての特徴を使っている気がしなくもない。


 腰から子供のような小さい手をつけた私はその三本目の手を動かしてみる。


「いづぇっ!・・・〜っぱこれ以上体に部位生やすと脳が過負荷を訴えるな」


 球体関節人形としての生を受けたこの体は関節となる球をつけたものなら自分の体のように動かせるという特徴があるが、増やしすぎると人間としての限界か脳が「これ以上変なもん増やすなっ!?処理しきれんっ!」と頭痛がしてくる。


 一通り手が動く事を確認した私は適当な石にこれまた付与を施した。


【MPを一定量流してから4秒後に激しい閃光と音を出す】


 まあまんま閃光手榴弾だ。閃光はまぶた程度では防げず、音は近距離で聞けば平衡感覚を失い無力化出来る。


 付与の内容が簡単だった為か付与は成功した。  

 MP190あるうちの50程を消費したがこれはその価値があると思う。

 なによりそこらへんの石で作れるというのがありがたい。


「いい?これは相手を無力化出来るものだけど近くで聞くとかなり辛いわ」


「ふんふん、一回体験してもいーい?」


 好奇心か、自分の身で食らって知ることが大事と考えているのか分からないがその言葉を受け私はリンに閃光を投擲する。


 腰につけた三本目の腕はその近くに石を入れておく袋をつけた事で両手を塞ぐ事なく投擲する。

 兎にも角にも何か行動するときに両手が塞がる事は避けたい。せめて片手は常に開けておきたい。


 キィンっ!ともガンっ!とも取れるような閃光と音を発生した石とそれを至近距離で食らった為か大盾の上から転げ落ちてジタバタするリン。

 

 大丈夫かな、あれ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る