第14話 嫌悪感と拒絶
私達の食事に地球基準のふわふわパンが追加されたあの日から二日ほど経った。
相も変わらずゴブリンを中心とした狩りを行っている。
変化というほどのものは無く、精々がリンが植物魔法による農業に力を入れ始めたくらいか。
私が「色んな野菜や果物があれば故郷の美味しい食べ物を作れるわ」と言ったのが決定打だったのだろう。
今も狩りから帰る途中で見つけた果物を私に見せて
「クロエ〜、このミロも美味しい料理になるの〜?」
と赤く丸い果実を私に見せながら尋ねる。
その目には「クロエなら絶対できるよねっ!」という感情がありありと見て取れる。
ミロ、という果実を私は寡聞にして知らない。
特徴やどんな場所に生えていたのか聞けば、どうやら地球で言うところの林檎のようなものだと分かる。
一番成長しても成人男性の目線ほどの高さの低木に実をつけ、甘く、瑞々しい。と村で見たミロについて教えてくれるリン。
「そうね・・・、似たような果物を知っているから多分作れると思うわ?リン、この子には病気や虫とかが付きにくいように品種改良してツリーハウスの近くに植えてくれる?」
「うんっ!分かったっ!ちょっと行ってくるねっ!」
そう言うと風のように素早くツリーハウスに一足先に帰っていく。
ただし棘や杭が阿呆ほどついた大盾付きの風だ。あれ当たったら痛いだろうなぁ。
林檎と全く同じだとは思わないが、念の為に病害虫に強い品種にして植えてもらおう。
「林檎ならアップルパイね。リンったら食べたらびっくりするわきっと。楽しみね」
その光景を想像し楽しくなり先に行ったリンに無性に会いたくなって私は残り数メートルほどの帰路を走る。
だがそんな幸せな私達の家に帰るといつもとは違う光景が広がっていた。
三人の人間と、それと対峙する形で大盾を構え威嚇するリン。
・・・あぁ、面倒な事になった。ここは人が来ない森だと思ったがそうでもないようだ。
「何度でも言ってやる。人間。私はこの森から、私の大切な人の元から離れる気などありはしない。警告はしたぞ」
リンの口調からして、何かあったか。
私の位置からならギリギリ人間達に視認されていない。念の為に作った全身を覆うゆったりとしたローブを着込みリンの側に向かう。
「リン、あれらは何?」
とりあえずこの人間達が何者なのか知らなければ。敵か、他人か、あるいは・・・ありえないとは思うが友好的なやつらか。
「分からない、急に来たと思ったらチョウサだとかカイタクがどうたらと訳のわからない事を。さらに私を見て保護してあげる。だなんてクソのような事まで抜かしやがる」
・・・戦闘中に偶に口が悪くなる私の癖、直しとくべきだったわ。完全に移ってる。
そんなくだらない事はともかく、この反応を見るにリンはやはり人嫌いになってしまっているな。
私が人形で、人じゃないというのがおそらくは決定打になってしまったのかもしれない。
人間ってやっぱカスだわ。あーそれに反して人形ってか異形っていいなー。めっちゃ優しいやん。そんな風になるのを止める必要性もあまり感じなかったので放置していたがこれは多少は窘めるべきだな。
少なくとも表面上ニコニコする程度までは教えておくべきか。
「すまないっ!そんなつもりは無かったんだ!俺達はただその子が一人でいるのが可哀想だから・・・」
軽薄そうな男がそう語る。おそらくはあいつがリンに「保護」などという巫山戯た事を抜かしたのだろう。
それにリンが噛み付く。
「はっ!言うに事欠いてカワイソウですってぇ?そうやってテキトウな事言ってゴキゲン取れば私が股開くと思ってんだろっ?」
あーこれこれ。そんな表現どこで覚えて・・・。
まあ私なんですけどね。うん。
「知りたい事は二つ、目的と敵意の有無」
私としても人と積極的に関わりたいかと言うと別にそんな事も無いので最低限の会話を心掛ける。
リンが彼らを嫌っている以上私もそういう態度を取った方がいいだろう。一体感は大事だ。
なるべく威圧感が出るような口調で頑張ってみる。
リンがいるし二人で生きていけるし別に他はまあ、うん。いらないかな。
「落ち着いてください、私達は創世樹のダンジョンがある街から来た冒険者ですっ!ここには調査と開拓に適した地か調べに来ただけなんですっ!」
三人のうちの一人、唯一の女がそう話す。
誰が話そうが私にとっては知ったことではないが。女が話せば耳を傾けると思って交渉役を代わったと見るべきか?だとするならかなり知恵が回る。面倒だ。
「では何故その調査隊が私の可愛い子を攫おうとしたのだ?疾く去るがよい。痴れ者よ」
冒険者、異世界ではよく見る表現であり職業だが装備や話し方を見るに普通に教養と資金があるように思う。
農奴と民の違い、か?あるいはダンジョンと呼ばれるものが中世ぐらいの治安や政治体系に影響を?
革命を恐れ民衆が知識をつけないように情報統制していたりしているイメージがあったのだが・・・。
リンが私を守るように私の前に立つ。私の手に絡みつく尻尾はリンが私をどれだけ必要としているかの証明のようだ。
リンの大盾はいつでも目の前の彼らを磔に出来るように構えている。
「なあ・・・気を悪くしたのなら謝るよ。そんなに嫌わないでくれよ。ここで出る魔物とかが知りたいだけなんだ」
「では立ち去るがいい。こちらに干渉しない限り私達も干渉しないとしよう。調査など勝手にすればいい」
ダンジョンとやらは気になるがリンがこいつらを嫌ってる以上あまり関わるのはごめんだ。
村からの迫害やら何やらで完全な人間不信が完成してしまっているリンはよく耐えている方だ。
「待ってくれよ、お嬢ちゃんたち。俺は悪いやつじゃあ・・・」
「しつこいぞ下郎めが。この子がお前を嫌っている。話は終わりだ。去ね」
しつこいな。殺そうにも数が多い。相手の戦力も分からない以上無謀な選択肢だろう。
さて困った。このまま二人で逃げようか?
思案していると今まで会話に参加していなかった最後の一人が口を開く。
さて、陰険メガネという表現がよく似合う胡散臭い男という風貌だがどう出る・・・?
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。対価も無しに対話が成立するとは思っていません。こちらからも見合った報酬を出させて頂きますよ?」
「・・・貴様らは話も禄に聞かぬと見える。三度は言わぬぞ、去ねと言うたのじゃ」
「私たちが提供出来るのはダンジョンと街の場所。それと必要であればちょっとした優遇もしましょう。面倒で持って回ったような前置きはいいでしょう。あなた達は人嫌いだ。でしょう?」
「わかっておるのなら・・・」
「レベル、必要でしょう?誰とも関わらないで生きる強さをあなたたちは求めているはずだ。面倒事に巻き込まれないような強さとそれに最適な修練場を」
・・・ダンジョンは確かに最適な修練場だろう。ゲームの様なものだとしたら。敵が無限湧きでいくらでもレベルが上げられる。
むう、一理はある。それにこいつの言い方、まるでダンジョンが他に無いかのような言い回しだ。
少なくともダンジョンでのレベリングを交渉のテーブルに出せるという事はダンジョンがこの世界にそこ一つしか無いか。
あるいは他のダンジョンはもっと厳重に管理されていたり気軽に入れないという事だ。
それか、目の前の陰険メガネが権力者かそれに属する者で許可の権限を持っている、か。
はぁー・・・。面倒臭っ。
「リン」
「・・・クロエが言うなら、我慢する」
私は目の前の三人に聞こえる様に大きく、うんざりだと言外に伝わるようにため息をつく。
少なくとも話を聞くだけの価値はありそうだ。なるべくなら二人だけで世界を回って、二人だけで会話して、二人だけで家で生活したかったなぁ。
あーあ、それにリンがたいそうご立腹だ。後でうんと慰めてあげなきゃ。
喉を鳴らしながら私のふとももをてしてし、とはたくリンの頬を撫でながらその場に二人掛けのソファーを用意して一緒に座る。
「心底気に食わぬ。が、おんしらの話は聞く価値だけはありそうじゃ。手短に話すがよい」
今更ではあるがこの口調は威圧感があるというよりは時代掛かっているだけなのでは。
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