第8話 現状確認

「リン、食べ終えた?うん、いい子ね。残さずに食べてくれるとこちらも嬉しいわ」


「あたりまえ、だよ?村ではもらえる量もすくなかったし、むだには出来ないからね。何もしてないのにごはんをもらえたのは昨日が初めて、クロエは村の人とはちがうんだね」


 食事を提供するだけでこの反応とは、一体どれほどの・・・。

 いや、これ以上は過去の事を考えても詮無いことだ。気にするべきは現在、ひいては未来である。


「リン、これからあなたは幸せになる。いえ、私がするわ。私はあなたの友人となると昨日約束したからね。だからあまり過去の事を気にしては駄目よ。過去ばかり気にするのは老人のすることよ」


 リンは私の老人のすること、という冗談めいた言葉に少しだけ笑う。


「クロエってそんなじょうだんもいってくれるんだね。分かった、おばあちゃんじゃないからもう言わないよ」


 食べ終わって骨と内臓を残すばかりとなった残骸をツリーハウスの根本を軽く掘って埋め、私達は今地面に降りて向かい合っていた。


 さて、とりあえずなにをするにしてもLvを上げていくべきだな。


 とりあえずあのステータスが見れるカードを取り出す。


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クロエ Lv2


種族 意思人形


HP:110/110

MP:110/110


技能:生産魔法(初級) 錬金(初級) 付与(初級)


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 名前と種族が変わっている。自分はこうである。と定義したから変化があったのだろうか。まあ名無しの種族不明と表記されていたらリンに不信感を抱かれてしまうので助かった。

 とりあえず私が何が出来るのかリンに見せる。リンはこのステータスカードに対して特にコメントは無いという事はこれはこの世界では珍しいものでは無く誰でも持っているという事だろう。


「クロエ、これちょっと借りてもいい?あたしが持ったらあたしのステータスが出るとおもうの。あたしのはもう無いから」


 村で取り上げられたか?もしステータスが良くて一人で生きていけるのではと気付かれた場合、労働力が減るのでは危惧しての事だろうか?

 私としても断る理由が無いので素直に渡してあげる。


 リンがカードを持った途端私のステータスが書かれていた文字一つ一つが意思を持ったように動き出し、変化し、やがてリンのステータスがそこには映し出されていた。


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リン Lv1


種族 獣人


HP:100/100

MP:100/100


技能:水魔法(初級) 植物魔法(中級、品種改良、成長促進)


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 これは・・・なんとも、いいな。

 たしか醤油って大豆だよな?パンも麦だし、米は稲だ。植物扱いでいいよな?

 異世界に同じ物はおそらく無いだろう、と思って諦めかけ、最悪生産魔法でなんとかならないかと半ば諦めていたが彼女の能力があればそれらを


 いい。すごくいい。


 自分の能力が役に立つか不安で、縋るような目で私を見上げているリンの頬を割れ物を扱うように優しく撫でて安心させながら、


「大丈夫よ、あなたの能力は凄いわ。これだけの力を持っているのよ。自信を持って」


 そう言ってあげる。


「ほ、ほんと?うそついてないっ?あたし、役に立てる?すてない?」


「実際に証明してみせた方が早いわね。とりあえず適当な果実とか作物の種なんかを探そうか」


 品種改良、これと私の日本での作物などの名前や情報等をなるべく詳しく教え種の段階で品種改良すれば恐らく上手くいく、あとは製品にするのは私が生産魔法で工程を飛ばしてしまえばいい。


「種なら私、少しだけ持ってる。おなかがへってちょっと倉庫からとったピューロスならあるよ」


「ピューロス?」


 聞けばパンの元なのだとか、つまり地球でいう麦か?名前や性質に違いはあるかもしれないが、似たようなものはあるのか、なるほど。完全に同じものは当然ながら無いか。


 私からさっきステータスカードを受け取って初めて自分のステータスを知ったリンは自分の能力を水魔法と植物の成長を助けるだけの魔法だと思っていたようで品種改良の存在は知らなかったようだ。


 私はそのピューロスと呼ばれる作物に品種改良の能力でたくさんの実をつけるように改良してツリーハウスの根本に植えて欲しいと伝える。


 リンは自分にしか出来ない事を見つけたのが嬉しいのか、あるいは自分の食事の為に作業が出来る事が嬉しいのか楽しそうに能力を使っては数粒のピューロスをツリーハウスの近くらへんに植える。


一通り作業が終わり、リンいわく成長促進の能力も使ったようで後は待つばかりなのだと言う。リンが成長促進を使えば大体半年で収穫できるピューロスを三ヶ月まで短縮できるそうだ。


「あとはそうね、Lvが上がれば出来る事もきっと増えるし装備を作ってみようか」


「魔物を、倒すの?あたしにできるかな・・・」


「装備なら作るわ、私のこのパイル・・・あぁ石槍も私の生産魔法でつくったのよ?」


リンに何を持たせるかはもう決めていた。柄が通常よりも長い槍にするつもりだ。

 槍の長さは恐怖を薄れさせる。突き刺すという単純な動作も新兵への適正も高い。他に装備は・・・体力が持つか?


 いかんな、人形になってから人がどれだけの疲労を感じるかなどが早くも分かりづらくなっている。


 とりあえず槍と・・・、下に車輪をつけた大盾でも用意するか。持って移動すれば手間だが車輪をつければ多少は移動にあまり体力を使わないだろう。


 魔力は回復するので時間さえ掛ければ作れるだろう、作れないのは最大MPを超えた複雑なものだ。少なくとも今は。

 方針が決まった私は石やら木やらで生産魔法を使って武装を作成していく傍らリンに簡単な戦術を伝える。


「リン、基本はあなたは自分の身を守ることを念頭に置いて頂戴。前衛は私がやるわ」


「あたし、獣人だから力はあるよ?」


「でもあなたは戦闘経験無いわよね?大丈夫よ、慣れてきたらあなたにも私と並んで戦ってもらうから」


 一方的に与える、やってあげるではきっと彼女との間に齟齬を生まれるだろう。それでは奴隷からペットに成り代わっただけにすぎん。

 なにより私が言ったのだ。「あなたの良き友人となる」と。

 友人とは対等な存在だ。彼女には彼女にしか出来ない方法で、私は私にしか出来ない方法で互いに助け合うべきだ。


「今は我慢して頂戴、あなたが自分に出来る事を増やし自分の価値を証明したいのは理解しているつもりよ。でも無茶して死んだら全てがおしまいよ。ね?」


「・・・うん。でもおぼえておいてね。やくそく、だよ?」


「勿論よ」


 とりあえず一通りの武装を作り終えたのと私達の会話が終わるのはほぼ同時で、作り終えたものをリンに装備させる。

 

 大盾は全部石製では重すぎるかと思い木製の部分もそこそこの割合で混ぜてある。

 リンは獣人故に力があるとは言っていたがそれでも軽いに越した事はないだろう。盾の下部には森での悪路でも問題無く走破出来るように戦車の履帯のようなものをつけておいた。

 そのため形状がアルファベットのTを逆さまにしたような少々見た目に難がある形だが、まあ耐久も問題ないだろうしなにより生産魔法を使えばすぐに修復も、最悪履帯部分をとっぱらってしまえばいい。


 非戦闘時には槍を盾の持ち手側、裏側に簡易的な収納ラックのようなものも付いており必要ない時まで持っていて疲れがたまらないようにしてある。


 リンの身長と相まって大盾にすっぽりと収まった姿はなんとも微笑ましい。


 石槍は特にこれといった特殊な部分は無く芯に石を入れて周りを木材で包み、まっすぐにたわまないようにしてある槍だ。


 一度槍での素振りをさせてみたが力があるというのは本当のようで、勢いだけで言うのであれば申し分ないものだった。


「重くはない?そう、ならいいわ。このあたりで魔物が多くいる所があればいいのだけれどね。食べれそうな植物や生き物を探しながらゆっくりと行こうか」


 最悪迷ったら生産魔法で簡易拠点をその場で作ればいいだろう。

 決して無理や無茶はせず、ゆっくり行こう。

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