第7話 対話と今後について
私が言った言葉にリンはきょとん、とした顔をした。
彼女からしたら小さな子供が果たして共に生きるだけの何かを提供出来るか不安なのだろう。
「そんな顔をしないでちょうだいな。私は見ての通りの人形だからね。食事も睡眠も必要無いの。だから一人分の食事くらいは訳ないわ。それにね」
「それに?」
「流石に一人でずっといるのも飽きてきた所だしね。私は人形だから、きっとこうして姿を完全に晒してお話出来る人は少ないだろうから、それもあるわね。」
「・・・。」
少女、リンは驚いた顔でこちらを見る。
「なに?そんなに以外?私だって一人でずっといればやがて孤独で狂うだなんて分かりきっているもの。それで、どうかしら?何が出来るかはこれから二人で考えていかないかしら?」
「・・・どうして?」
「ん?」
「どうして、そんなに良くしてくれるの?あたし、村ではちくしょうだって。私は目の色がちがうから化け物だ、きっと母親が死んだのも母親の命を奪って生まれたからだって、ケガレだって・・・だから、わかんなくて」
困惑、不信感、僅かな期待、悲しみ。様々な感情を含んだ青と緑のオッドアイがこちらを見上げ、私の赤と金のオッドアイと交差する。
「あたしを、どうする気?あなたも村の人と同じなの?」
「・・・リン、あなたを助け、食事を提供した対価を要求してもいいかしら。対価は私が信用に、信頼に値するあなたの良き友人だと証明するまで少しの日数を要求するわ。私達はついさっき出会ったばかり。言葉は軽く、なんの価値も無いわ。」
リンと視線を合わせる為にしゃがみ視線を逸らさずに、ゆっくりと一言ずつ確認させるように言う。
正直に言えば、私は彼女を気に入り始めている。感情の面では無く、利点の面で言っても彼女は孤独だ。取り入れば強力な現地の情報源だろう。街や村での応対や面倒事など、素顔を晒していいか分からない状況下での協力者になってくれるだろう。
それがなくとも、迫害され村から殺されかけたにも関わらず絶望し生きる事を諦めるわけではなく、足掻くその姿勢に好感を抱いた。
「だから私が信頼に足る人物だと、これからの行動で証明してみせましょう。それまでの時間を頂戴な」
リンの目線が私を見つめる。暫くそうしていただろうか、リンは
「・・・わかった」
と頷いてくれた。
ひとまずは信用してくれた、という所だろう。
とりあえず私は彼女が許してくれた時間を有効に使うべく、まだそこそこ余っている木材を生産魔法で簡易的ではあるが寝具にした。敷布団は無いが・・・。それらも今後の課題ではあるか。
「ありがとう、さあもう今日は遅いから寝てしまいましょう。硬くて申し訳ないけれど寝床は用意したわ。そっちを使って頂戴な」
「一つしか無いよ・・・えっと」
「ああ、ごめんなさい。名乗ってなかったかしら。私の名前は・・・」
まいったな、名前を決めてない。もういっそ前世の名でもいいか?いやだがこんな美人の人形に男の名は・・・。
少し迷った末私は
「私はクロエよ。それと人形に睡眠は必要無いわ。眠らない訳では無いと思うけれど、絶対必要というわけでも無いの。だからそれはリン、あなたが使っていいわ」
昔読んだ漫画で見た少女の名前を借りる事にした。これならそんなに悪くないだろう。
「眠くならないの?」
「ええ、食事もいらないし睡眠もいらない。便利なものよ」
食事に関しては舌のような器官はあったが食道や気管にあたる部分は手鏡で口の中を軽く見たところ見られず、少し大き目の空洞が口の中にあるだけだった。
味を感じる事は出来るが嚥下する事が可能かは不明だ。
「まあ、だから気にせず寝てしまって構わないわ」
「わかった。・・・あのね、クロエ」
「うん?」
「助けてくれて、ありがとう。村の人間はみにくくってひどい人ばかりで外の世界もみんな敵ばっかりだと思ってたけどクロエはやさしいね」
そう言ってリンは私が用意した寝床にとてとてと向かい、やがて穏やかな寝息を立てて眠ってしまった。
ふむ、多少は好印象を抱いて貰えたか?私も起きていてもやる事も無い以上睡眠を取ってみるか。椅子にふわりと座り目を閉じる。
翌朝、私をじっと見つめるリンの顔のドアップで目覚めた。
どうしたのか、と聞けば慌てて「なんでもないっ!」と言って離れて行った。
人形が動いて、意思を持っているというのが珍しく、観察でもしていたのだろうか?まあいい、見てくれは美人なのだから目の保養にもなっただろう。
さてとりあえずはリンの食糧が必要だろう、私は椅子から立ち上がり軽くパイルバンカーの点検をし、動作に問題無いことを確認してから扉を開け外に出る。
「あの、私水まほうと植物の成長を助けるまほうくらいしか使えなくて・・・、Lvも低いし本当に役に立てるのかな?」
私の後ろをついてきてリンが不安げに尋ねる。
なるほど、水魔法と植物。家庭菜園が捗りそうだな。食える植物などが見つかれば種を確保して色々試してみてもいいだろう。
「朝ごはん食べてから実際に色々と使ってみて一緒に考えましょう。大丈夫よ、私も協力するから」
まずは肉か、こういった場合なにかしらの生き物でもいればいいのだが・・・。
彼らとて生き物である以上この森で散策していればかち合うとは思うが。
一番いいのはリスだが果たしてどうなるか。好戦的な生き物と出会った場合、リンを守りながら戦えるかという問題だ。
問題というか、確定で無理だろう。と思っている。戦闘などこの前始めてゴブリンを倒しただけの素人未満が他者を気にしながら戦闘をこなせるとは思えない。
前回と同じ方法でリスでも釣ってみるか?とりあえず試してみて、無理そうなら別の方法を考えるか。
私はリンに前回リスを取ったときの方法を軽く教え、今からそれをやってみる事を伝えてツリーハウスのバルコニーで暫く待機して貰う事にした。
それから待つこと体感で十分ほど、一見投棄されているとしか思えない横たわる私に昨日も見たリスが が一匹こちらに向かってきた。
警戒心が薄すぎる気がしなくも無いが、どうやって種の数を保っているんだこの好奇心で。
火を起こして威嚇出来る能力がそれほどまで有用なのか。確かにたいていの生物が本能的に火を恐れるというが、それを自由に扱えるという慢心がここまで彼らを大胆にさせているのか。
そこからは昨日と同じくリスを捕まえ前回と同じく丸焼きにしてリンに振る舞う。
前回と違うのはリスの皮を生産魔法を利用して綺麗に剥がしたぐらいか、無機物、あるいは生きていないものであれば生産魔法は使えるらしい。
これを数揃えれば敷布団代わりになったりしないだろうか?と思っての行動だがそれをするにはまだ数が足りない。
本来は何かを作り出す魔法だと思うのだが・・・、リスの死体からリスの皮を作り出しているから生産魔法でいいのか?判定が甘い気もしなくもないが、便利だしそれでよいか。
「今日もごはん、ありがとうクロエ。」
ただ焼いただけの味付けも全くない肉だが、それでもリンは礼をいってくれる。
「ただ焼いただけでごめんなさいね。」
「だいじょうぶだよ、村では余り物とか虫とかしか食べれなかったから。おいしいよ?」
「・・・そう」
どうやら私が想像するよりも村での扱いは酷いものだったらしい。それこそ奴隷もかくやという程だろう。
この様な幼子を、なんともむごい話だ。
彼女が獣人だと言うのも理由の一つか?異世界モノではよく迫害の対象であったりするというのがあるが・・・。
口減らしだったりの場合は仕方ない事だと納得は行かずとも理解は出来たものを、忌み子だ呪いだなどという根拠無き無知から来る恐怖で他者を排するなど、到底許されるべきではない。
これは私の目標の一つにこの子にうんと美味しいものを振る舞うも追加するべきだな。
日本人の食文化、彼女に必ず味わってもらおうか。なに、MPのゴリ押しで加工すれば調味料も手に入るだろう。
「それを食べ終えたら、色々と出来る事を探しましょう」
とりあえずは魔法二種がどれだけ使えるか、ね。
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