第6話 異世界人接近遭遇
助けを求める声に私は椅子から立ち上がり扉の前に移動する。
さて、どう声を掛けるべきか。今の私の姿では露出した腕や足から人形として認識されてしまう。
それに相手が何人かも分かっていない。戦力は?友好的か?
しばしの逡巡のあと、
「どなたですか?ここに何の用で来たの?」
と声をかけた。人前ではとりあえず女性らしい言葉遣いを心掛けるようにしよう。見た目と乖離した話し方は違和感や不信感の元だろう。
「あたしっ!もう何日も食べてなくて、それにひとりぼっちで・・・。村の人からもおまえは気味が悪いって、それで・・・それでぇ」
ふむん、忌み子の類か?忌み子の伝承や歴史は案外と古いと聞く。
科学的根拠など無く噂や呪いなどが真面目に信じられていたり今でこそしっかりと原理や原因などが究明されているが昔は他と違った特徴などを有する子は不吉としてその場で殺されたりなどしたらしいしな。
「そう・・・、でもごめんなさい。あなたを信用出来ないの。こんな森の中に一人でいるだなんて、ちょっと・・・ね。本当は大勢のお友達とご一緒で、この扉を開けたら殺されてしまう、なんてのはよくある話だわ」
「ちっ、ちがうよっ!ほんとうだよ!あたし一人だもん!」
声の感じや喋り方に幼さを感じるが、どうだろうか?
盗賊や賊の類が油断を誘う為に仕込みをした子供という説は?流石に警戒しすぎか?
「そうね、分かった。じゃあとりあえず扉から十分な距離を取ってもらってもいい?ごめんなさいね」
「え?・・・うん、わかった」
少女と思われる人物の声で「離れたよ」と言われたのでとりあえず相手が信じてもいいか分からないので私はあるアイデアを試す。
私は溜めを作ってから目の前の扉にパイルバンカーを射出した。
射出されたパイルバンカーは扉を容易く貫通しその先にもし人がいた場合、殺傷するに足る威力だ。
「ひぃっ!なにっ!」
・・・これでもし扉の前で奇襲の為に待機している存在がいた場合は殺せる。少し離れた位置から見ていたとしても扉からいきなり槍が生えれば驚いて声を上げるはずだ。ちょうど今悲鳴を上げて驚いている少女のように。
他に声がしなかったし安全か?
「悪かったわね。こっちも安全だという確証が欲しかったのよ。とりあえず、信じてあげるわ。」
「えっ、えっと・・・その、あたし」
「ああ、ごめんなさい。急で吃驚しちゃったわよね?もうあんな事はしないわ」
半壊した扉を開け少女の前に私という人形の姿を晒しながら謝罪する。
少女は獣人らしい、耳はペタリと伏せられ荒れ放題な尻尾はいまは片足にきつく巻き付いていて先程の私の行為に驚きが抜けきっていないのだろうと分かる。
「・・・っ!お姉さん人、じゃないの?」
「ええ、まあ。驚いた?それとも、気持ち悪い?」
「ううん。見たことないくらいキレイだよ、それに・・・ううん。とにかく大丈夫」
「?まあいいわ。とりあえず入りなさい。殺したばかりのリスで良ければ一匹だけあるわ。」
少女はおずおずとこちらをしきりに気にしながら家の中に入っていく、身なりはお世辞にも綺麗とは言えず、大きな傷こそないが小さい傷は無数に存在している。
恐らくはここまで彼女の言うとおりひとりぼっちで逃げ隠れしながら生きていたのだろう。
私は半壊した扉を生産魔法で直しながら部屋に戻ると少女はじっとこちらを見ていた。
少女の青と緑のオッドアイがくすんだ色の髪の間から私を見つめ、その目は困惑の為か絶えず揺れていた。
「あの・・・その。ありがとう、ございます。信用?してくれて。」
「こちらこそごめんなさいね。私だって命が惜しいからあんな冷たい態度取っちゃって。お腹空いたわよね?今お肉焼くわ。焼くだけの簡単なものだけれどね。」
調味料の類が、せめて塩くらいは欲しいものだ。胡椒は何が原料なのだろう。
異世界あるあるの鑑定なんかが使えればこういった分からない部分を補ってくれるんだがなぁ。
それとも適当な植物でも毟ってMPゴリ押しからなにかのの調味料になってくれとかやってみるか?
ゴールも定めていないのにMPでゴリ押しても何も作り出せないか?当然ながら。
憶測で駄目だろうと言う判断するよりやってみた方が早いか。明日あたりに試してみよう。
「さて、それじゃあ軽くでいいからお互いの身の上を話ましょうか?信用の為にも、ね?」
「わかり、ました。・・・あたし、リンです。すこし前まで村で畑仕事をしていたんだけど、もうお前のとしだと子供として扱われないからいらない。って忌み子?だって、不吉だっていって村の近くの崖から落とされて・・・それで、気が付いたら崖の底で・・・」
少女、リンはそこまで言って当時の仕打ちを思い出したのだろう、俯いて涙を堪えていた。
なるほど?子供として扱われないから、と。うーん子供カウントで何かしらの特典でもあったのか。
で、もう子供判定じゃないからその特典が貰えなくなって元々忌み子だったのもあってポイ、か?
断片的な情報で分かる事なんて所詮小説のあらすじ程度のものだ。
リンの話し方の幼さといいこれ以上は聞いても知らないだろう。
「なるほどね、それはなんとも。辛かったわね。でももう大丈夫よ。次は私の番ね、私は・・・」
そこまで言って私は自らの境遇をどう話せばいいかか決めていなかった事に気付く。
正直に神からの依頼ついでにこっちに飛ばされたんですよねぇ、とは言えん。
確実に「おめぇ頭大丈夫か?」と言われる。
「えっとね、私は、というか私達人形は大人になると故郷を去って新しい土地で生活するのよ。それで私はつい最近故郷を離れてね?それで色々と点々としている、って感じなの。」
「たくさん、いるの?あなたみたいな人形が」
「ええ、いたわ。でも今は私一人よ。・・・さあ、肉がそろそろ焼けるわ。話しは一端おしまいね」
即興で作った設定にしてはまあいい感じだろう。ある程度嘘も言ってないしな。故郷を離れて異世界来てるし、うん。
リスがいい感じに焼けたので端に置いてあった余りの木材で皿を作りリンにリスの丸焼きを渡す。
空腹は最高のスパイスというしきっとおいしく食べてくれるだろう。
リンは夢中になってリスを食べる。その姿は行儀が良いとは言えず彼女が恐らく村でまともな教育や礼儀作法に関して教えられていないのだと認識する。
忌み子に教える訳ないですものねぇ、というかこの歳までよく捨てられたり殺されなかったな。なんだろ、子供の数で税の徴収額でも安くなるのか?未来の労働力がそれだけあるとして、あるいはそれだけ余裕のある場所ならあまり締め付けず安定して一定額徴収する狙いか?
あまり良くない頭で考えても分からない事ばかりで、まあいいか。と思考を放棄する。
そんなことよりも彼女、リンの事だ。忌み子として周りとの繋がりが希薄、というか皆無に近いのは都合がいい。
人数が多ければそれだけ警戒しなければいけないし、相手がこちらにどんな感情を抱いているのかの考察を一人に集中できる。
マルチタスクであっちもこっちもと考える等出来る自信が無い。
それにここで彼女と良好な関係を築ければ現地の人間から情報を色々聞ける。
まあ忌み子の少女が一体何を知っているという話だが、この森の名前くらいは聞けるだろう。
とりあえずリンの能力を確認したい。もしかしたら私には無い能力や魔法を持っているかも知れない。そうなれば行動を共にする事も悪くないだろう。
リンが食べ終わるまでの暇な間、私は意味も無く手首をくるくると回転させたりして遊ぶ。
暫く経ってからリンは全部食べ終えたようで、小さく感謝と謝罪の言葉を述べた。
謝罪は必要ないのだが、やはり村での待遇が良くなかったのだろうか?無意識に謝る癖でもついているかのか。
「はい、お粗末様。気にしなくてもいいわ。私は食べる必要が無いから余っていたものだし。ねえ、それよりこの後あなたに行く宛が無いなら提案があるのだけれど」
「ていあん、ですか?」
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