第5話 ゲームの様な簡略化された森ではなく

 今更だがこの森に人のいた、あるいは通った形跡らしきものはまったく無い。

 視界が悪く、足元には倒木や背の高い草が覆い、先程通ったような私の首ほどの高さの段差やちょっとした丘などもあり見通しが効かない。

 今の季節が不明だが冬なら何かが冬眠していそうな穴ぐらなども至るところで見られ、ここが人が住むのに適していない場所なのだと分かる。


 ゲームのような分かりやすく簡略化されていない、本当の森だ。


 そんな森を歩く途中地球ではぜったいに見られない様なものをいくつも見た。

 例えば飛ぶキノコ。私の腰ほどの高さまで飛んでゆっくり回転と降下をしながら胞子を撒き散らす。おまけにあれはゲームなどで言う風魔法だろうか、撒き散らした胞子のまわりだけ風の向きが無茶苦茶だ。

 恐らくはあれで広範囲に胞子を飛ばし広く分布する策なのだろう。

 

 異世界特有の魔法という文化が人間種のみのものではなく現地の動植物にも繁殖の手段として使われている。

 その多様性と生命の有用なものであればどんな物でも取り入れ生存の為に進化を遂げていく逞しさと生きる美しさのようなものを感じ、感嘆する。

 

「これはまた奇っ怪な・・・。だが合理的、なのか?確かにこうすれば効率よく胞子を撒ける。」


 メモとペンが欲しい、なんとなくゲームに出てくる調査隊や学者の様なキャラを連想しついそれっぽくメモでも取りたくなってしまう。


 その他にも奇妙なピンク色の発行する器官を持ち、それを見た虫が誘われるように入っていくウツボカズラによく似た食虫植物。

 火打ち石と自身の額の角を勢い良く打ち付け火を出し外敵から見を守ろうとするリス。

 さまざまな魔法と融合しこの場に適応した生き物を見た。

 

 そうして様々な生物を観察していると日が傾いてきた。

 逢魔が時、あるいは黄昏時と呼ばれる時刻くらいだろうか?オレンジ色に染まる空が森の僅かな木々の間から見える。


 睡眠も食事も不要な私だが夜目は効かない。生産魔法で何か作れるだろうか?


「ああそうだ。さっきいたリスの角と持っていた石を使って火を起こせないか?」


 私はリスを捕らえる策を思いつき実行してみる。

 

 ぱたり、と糸が切れた人形の様に地面に横たわる。


 人形には呼吸も気配も無い。こうすれば見慣れない無機物が投棄されていると興味を持って無防備に近づいてくれるかもしれないという思いつきでの実験だ。


 私が人形の体にしてくれと言ったのもこれを思いついての提案という面もあった。ちょっと大きい人形が捨て置かれている程度、誰が気にするのだろう?と。「食える部分ないやんけこいつ!」と興味を無くされれば助かるかも?と。


 果たして思惑通りにいったのか、あの奇妙なリスが私に近づいてくる。好奇心が旺盛なようで何よりだ。 

 リスは暫く私を遠巻きに観察していたが、やがて生き物ではないと判断したのか徐々に近づいてくる。


 そうしてわたしの体が食えないか、あるいは食べ物を持っていないかとチョロチョロと動き回る。


 だらんと広げた手のひらに乗ったタイミングでリスをしっかりと掴み、起き上がる。

 自己満足ではあるが謝罪の言葉を述べてからパイルバンカーでリスの腹部を貫通させ、持っていた石と額の角を貰う。


 生産魔法で石ころをカンテラの形に整えて真ん中に火打ち石と額で火を・・・、火種が無いな。

 どうすれば・・・、脂身ってリスからも取れるのか?分からん。

 それに加工とかしなくてそのまま使えるのか?フム、まあ最悪MPで不足文を補うか。

 

 私の生産魔法は知識やイメージ、材料などか不足している場合その分をMPで補ってくれるというのが以前の石槍作成で分かっている。

 あまり深く考えずリスの肉の一部をカンテラの真ん中、受け皿の部分に乗せて着火させる。


 MPを半分ほど使い加工できた脂身の部分は無事機能したようで、暖かな灯がカンテラの中で踊っている。


 カンテラの形に加工したのは完全に趣味と癖によるものだが中々どうして、様になっている。


「うん、これはいいな。私好みだ。いっぱしの冒険者みたいじゃあないか?」


 強い風が吹く、素早く行動をしてしまうなどで着いた灯が消えてしまうかもしれないが、それでも光源を確保できた事に少し安心する。


 空はオレンジから少しずつ色を落とし今や周囲は目を凝らさなければ見えづらい、という程までに暮れてきた。


「これは今日は誰かと会うのは無理かねぇ、適当に生産魔法で穴ぐらでも掘って整えて休むか。どこかにいいところないものかねぇ」


 人形の体に休息の必要があるかは不明だが、心は人間なので少し一息いれたいと考えていた。


「最悪内部構造が分からない家電まわりはMPでゴリ押しすれば現代地球と変わらないクオリティの家も作ろうと思えば作れるだろうしなぁ。Lv上げは熱心にやっていこう。まあどれだけMPを使って実現出来るかは分からないがね。遠い目標だ」


 この世界に来て特に目的が無かったがとりあえずはLv上げをし快適な生活空間を作る事を目標に動こうと思う。というよりは文化水準が遥かに下であろう異世界で現代人が満足に生きれる訳が無いというのが自分の考えだ。


 排泄事情・・・、食文化・・・、調味料の価値等々。

 考えれば考えるほどに生身の地球から来た現代人が耐えられるとは思えない。


 その点人形ってすげーよな、諸々の問題に対応しなくてもいいんだぜ?とあの時に願った人形の体は間違っていなかったのだと得意げになってみせる。


 くだらないことを考えつつ歩く事数分、ちょうどよい大樹を見つける。

 その大樹は他の木々より抜きん出て大きく、幹周りなど中にそこそこ大きな部屋を作ったとしてもまだ余るほどだ。


 もし周囲が木々で覆われておらず、満足に空を眺める事が可能であったならばまず間違いなく気付くであろう程のその大きさに驚愕すると同時に私はここなら仮の拠点としても問題無いだろうと判断する。


「人の手が全く入っていない樹齢なんぼかも分からない大樹か。ツリーハウスとかなら高度も確保できて安全か?」


 この大樹の一部をくり抜いて今日の拠点を作るべく私は行動を開始した。

 MPの許す限り生産魔法で目の前の大樹に大穴を開けた際に出た木材で各種家具の類を作る。

 途中、MPが尽きれば少し休憩し時間経過によるMPの回復を待つ。


 イメージとしては木についてる丸いデキモノ、瘤のようなもの、うろ覚えだがあれは雨なんかと一緒に染み込んだ菌が木の細胞と反応して異常成長したとか、虫が卵を産み付ける際に開けた穴がー、とかだったりしたような気もしなくないが覚えていない。


 とにかくそんなイメージで木に半ばまで埋め込んだ不完全で歪な球体、そんなふうなツリーハウスをそこそこの時間掛けて完成させる。

 バルコニーが付いておりそこの一部に回収可能な縄梯子がついている。入り口はそこだ。


「バルコニー入って左に玄関扉、中に入れば一階部分と下に降りる階段がついてて倉庫用に作った地下室・・・。中々悪くないんじゃないか?」


 感想を漏らしながら梯子を登り扉に手を掛ける。


 一階に作ったゆったりと座れるように浅い角度の背がついた椅子と無いセンスを絞ったおしゃれ(私基準)な机、そして端に余った材木を雑置き。

 扉を開けて左側には一応使うかもしれないと調理場も用意してある。

 ガラスが無い関係で窓は窓戸を開けるタイプのものだ。虫など入り放題だがまあ刺される心配も無いしいいか。


 材料さえあればガラス窓にしたのだが、砂でいいのだっけか。仮で作った拠点な以上あまり拘ってもと思わないでもない。

 

 まあ分からない部分はMPでこう、上手くいってくれると思いたい。


 椅子に座り楽観的な考えで色々な事を思う。


「しっかしまあ今日一日で色んな事が起きたなぁ。起きすぎたとも言うが・・・。体力的には疲労も無いが心が疲れたな」


 死んで、死後の世界で神に相当する人物と出会い、人形となって、殺しをし、魔法でツリーハウスを作ってそして今こうして休んでいる。


 こうやって羅列するとなんともまあ生涯でぜったいに経験出来ないであろう数々を経験しているな。

 この体に睡眠は不要だが、それは眠れないわけではきっとないと思いたい、睡眠は一日で起きた事を脳が情報処理をしたりする時間だと思っている。

 目を閉じ手をお腹で組んで暫くゆったりとする。


 暫くそうしていると外が騒がしい。縄梯子回収したっけ・・・?


「助けてっ!お願いっ!」


 ああ、うっかりしていた。縄梯子はそのままだったか。

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