第4話 初戦闘の結果は?

 挟み込まれてしまったわけだが、私としてはあまり気にしてはいない。

 この体は人形だ。


「とりあえず、目の前の脅威からっ!」


 言うやいなや私は駆け出しパイルバンカーがついている右手をゴブリンの頭に添えようとする。

 が、ゴブリンは私の腕を向かって右側に回避する。


「むっ、以外に頭がまわり、かつ反応がいいな・・・けれどね」


 空振りした腕は肘の球から本来曲がらない方向へと曲がり、追従する様に動く。


 ゴブリンからしたら異様な光景だろう。

 本来人間の肘とは逆・・・と表現するべきか反るようにはなっていないはずだ。まあ、人によっては多少反る事も出来るが・・・。

 だが今私がやっているように完全に外側へ90度反ることは出来ないはずだ。


「ギィッ!?ギッギギィッ!」


 言葉こそ分からないがおそらくは困惑、あるいは驚愕とでも言っているのだろうか、やはりゴブリンは脅威だ。

 言語の概念がある。そして挟み撃ちにしようという知略、戦略を知っている。毒の製法を持っている。

 これでは残虐性のみに特化した人だ。


 だが今回は私に天運があった。

 虚を突かれたゴブリンはあっさりと私の追従した手につかまった。

 暴れるゴブリンに構わずパイルバンカーを射出する。


メキャッ、あるいはゴキャ、と表現出来る音とパイルバンカーから伝わる板チョコを細かく包丁で切っている時のようなパリパリ、ゴリゴリという感触。


 死体となったゴブリンは力無くだらん、と体を地面に横たえる。

 

「あとは背後か、それも問題無しっ!本当に色々と自分の体で出来る事を試しておいて良かったよっ!」


 180


 腕がそうであるように人形の体は自由自在に動く。足も当然どの角度にも動くし腰から上だけを180度回転させて後ろを向くことも出来る。


 人形故に出来る事だ。地球の本来の人形がそんな融通効くかは不明だが・・・。まあ私の場合は出来るのだからよいか。


 背後に迫っていたゴブリンは完全に攻撃が出来ると思っていたのだろう。目の前の人形の首だけがこちらに向いている光景に化物を見るような視線でたじろぐ。


 視線だけはしっかりと合わせたまま首から下の体も背後のゴブリンに向き直るべく回転させる。

 その頃には一人残ったゴブリンは戦意という物を失って少しずつ後ずさりし始める。


「逃げられたら・・・彼らに復讐等の概念があるのか?逃げられたら何するか分からんし今回の件を糧に成長されても面倒か」


 結局のところ情報も何も無いので憶測だが、今このゴブリンは私に怯え、あらいはそれに類する感情を持っている。感情があるのだ。


 おそらくは今回の事を屈辱的な敗北と記憶し、そこから復讐やざまぁモノの小説の如く研鑽と成長を重ねる・・・かもしれない?

 まあ、要は私が手痛いしっぺ返しを恐れてビビっているのでここで完全に根絶やしにしておきます。というだけのことだ。


 逃げようと足をもつれさせ転倒したゴブリンの頭部に手を添えパイルバンカーを射出する。


「ふぅ、今更も今更だが生物の殺害に対してここまで無頓着だったか私?人形になった影響かはたまた別の要因か・・・。戦闘時の興奮状態から覚めていないので今は何も感じないのか。なにも分からんな」


 戦闘時に落ち着いていたのはおそらくこの体が生身じゃない事からだろう、人間の体なら破損したり欠損したりすれば一大事だし死の危険性が頭にチラついたりするだろう。

 だが人形の体ならあといくらでも修復出来るので致命的な、取り返しのつかない傷、という状況があまり無いだろうという事で高性能なVRゲームをしているんだなぁくらいの気持ちで臨める。


 加えてこの人形の体、五感のON/OFFの様な機能もあるようで、これがまた私に怪我の恐怖を無くしている一因だと考えている。

 いまは死体の臭いがきついので鼻の機能を停止している。

 怪我をしても痛い思いをしなくても良く、また壊れても修復が容易。ここまで揃ってしまえば落ち着いて戦闘が出来るというものだろう。


 まあ、考えても仕方ない。どこかRPGゲームの様に考えてしまっている自分がいる。という案外単純な理由かもしれない。


 そういえばRPGゲームと言えば、ステータスにはLvが記載されていたはずだ。今の戦闘で経験値的な何かが溜まってLvが上がってはいないだろうか?


_______________________________


 名無し Lv2


 種族 不明(該当記録無し)


 HP:110/110

 MP:110/110


 技能:生産魔法(初級)

    錬金(初級)

    付与(初級)

_______________________________


 Lvの上昇と共にステータスが上がっていた事実に私は満足気に微笑んでしまう。以前の体であればニヤついている気持ち悪いおっさんだが、今は美女の人形だ。

 ニヤついている気持ち悪い美女の人形だ。対して変わらんな。


 HPとMPが10ずつ上昇している。いいな、この上がり幅。昨今のゲームはどうにもインフレが過ぎるあまり頭の悪い数字のオンパレードばかりなのでこういう現実的な古き良きゲームのような数値に僅かに好感を持ってしまう。


「ふむ、経験値の標記が無いのが少々不便と思わなくも無いがまあいいか。ゆっくり行こう。とりあえずは現地の人間と出会おう、情報が何もない。」


 どっかに襲われている現地人いないかねぇ。助けて・・・どうする?

 

 ゴブリン達ですら人形が動いているという状況にあれほど困惑し初動が遅れていたのだ。普通の人間なら「すわ魔物か!?」と斬り伏せられる、のではないか?


 全身覆うローブでも作るか?だがせっかくの美人をローブで隠すのも勿体無い気もしなくは無いが・・・初対面の人間に警戒されないようにローブを基本被り、ある程度仲良くなったら明かしてみるか。


 今一番起きてほしいシチュエーションは襲われている、それも一人の状況の弱い人類種と出会って助ける、だなぁ。


 弱ければ反撃される危険性を考えなくてもいいし、助けられた、という事実は多少の事があっても「まあ敵じゃないしなぁ?助けられたし」というのである程度はカバー出来る。

 異世界あるあるではよく最初そういったシチュエーションに遭遇するが、ここは現実だし望みは薄いとは思うが。時間も余裕もあるのでいずれ出会うだろう。


「道中で色々試しながらまったり歩きますかぁ」


 私はそれから色々と歩きながら試行錯誤することにした。

 一番大きな成果はパイルバンカーの改装が上手く行った事だろう。

 刃を分厚く、形状をよく想像する長く細い槍ではなく横に広い形状に、イメージとしては部屋の角とかにつける三角形のコーナーラック、あれに近い。先端を現状使える生産魔法をフルに使用し刃を整える。


 薄くよく切れる日本刀ではなく、鶏などの解体に使われる解体包丁のような。そんな分厚く、切るというよりは大質量を速度で無理矢理ぶつける。そういうコンセプトで槍を改装していく。


 手首についている接続部分も随分と様変わりした。前回の戦闘では射出した槍部分を元の位置に戻すのに苦労したので歯車のようなものを用意しパイルバンカーの持ち手部分に溝を彫り歯車と連動出来るようにし、歯車を回すと槍がスムーズに後退していくようにした。


 ガラガラと派手な音が鳴ってしまうが今まで五秒ほど掛けて戻っていた石槍が2〜3秒ほどで再射出出来るようになった。

 歯車部分も私の体とくっついている関係上、感覚があり動かせるので両手を塞ぐことなく歯車を回す事が出来る。


「・・・かぁ〜っ!こいつぁ私の癖に刺さるなぁ・・・いいなこれ。特にこの歯車が音立てながら石槍戻すこの感じがまた・・・ねえ」


 試しに殴るような動作で勢いをつけて近くの岩に射出してみればガッ!と派手な破壊音と共に岩の一部を破壊したのを見てつい感想を口にしてしまう。


 他にも試したいものが色々とある、私はどこへ向かうともなくあて無く森の中を歩きながら偶に試し撃ちで破壊したりしながら構想を練る。


 そろそろ日が暮れるが私にとってはこれも些細な事だ。人形は眠らないのだから。

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