第3話 一部望み通り

 ・・・やはりというか、人の気配などしない森のただ中への転生であった。

 なぜ大抵異世界モノの小説はこんな森の中に飛ばされるのか、とも思ったが老紳士の場合、依頼内容的にはここに私が飛ばされた時点で依頼は達成されているのだし、その後の事などはあまり関心が無いのだろうなと思う。


「まあ生き残れるだろうという対策は施してもらったし・・・待て?なんだこの声は?」


 私は自分で今しがた発した声が普段の声とだいぶと違い高い事に違和感を覚える。

 まさか・・・これは


「おいおい・・・冗談だろ?TSしてくれなんて願った覚えはないぞ?しかもこれは随分と背が高いんじゃあないか?」


 確かに人形の体にはなっている、関節の一つ一つに球が入っており、通常人が出来ない角度まで体を曲げたり動かしたりも出来る。


 だが女性モデルの人形にしろなどと言った覚えはないのだが。


 今更言ったところで変更してくれるとは思えず、暫く閉口し立ち尽くしてしまう。

 もうどうしようもないと思いつつ私は自身の体をよく観察する。


 指先は細くしなやか、体型はモデル体型というのだろうか、細くかといって痩せすぎなわけでは決してないバランスが取れた美しい体。

 手鏡がポケットに入っていたので確認すれば、顔もまあなんとも美人なものだ。

 赤と金色のオッドアイに灰色の髪は肩よりやや下まで伸びており、小さな口はいまは困ったような線を描いている。


 今着ているものは生前に着ていたものとは違い地味な色のシャツにズボンだが、元の素材がいいのだろうか魅力を損なう事なく遠目からならかなり美人な人間に見えるだろう。


「さてはて、ここがよくある異世界モノならステータスなどが見れるはず、だと思うんだが・・・ん?」


 一端顔の確認の為に持っていた手鏡をポケットに仕舞おうとするとポケットの中に長方形の紙片のようなものの感触がした。

 人形の体にも五感のようなものがあるようで安心した。


「これは・・・私のステータスが描かれている?リアルタイムで体力の欄が回復していっているということは成長すればこれで確認が取れるのか・・・耐久力も申し分ない。ちょっと乱雑に扱っても破損したりはしないのか、これ」


_______________________________


名無し Lv1


種族 不明(該当記録無し)


HP:95/100

MP:100/100


技能:生産魔法(初級) 錬金(初級) 付与(初級)


_______________________________


 名前は以前と同じものを名乗ろうと思ったがこれほどの美丈夫なのだ。それらしい名前を名乗るべきなのだろうか。

 種族が不明なのはおそらくファンタジー的な世界で見ても人形に意思が宿り生きている、などというのは有り得ないからなのだろうか。この世界的にもお前なんだあ?という状況なのだろう。


 私の要望通りに生産と錬金の二つを入れていてくれている。もう一つはおまけで付けてくれたのだろうか。だが使い方に関しては分からないままであった。


「とりあえずこのまま丸腰はまずいか?生産・・・とりあえず枝でも手にとってみるか」


 

 あるあるだと魔力がうんぬんかんぬんどうたらこうたら・・・と。

 魔力とは一体・・・、とりあえず目の前の枝の先端を尖らせたいと思いながらじっと枝を見つめる。

 するとクレイアニメーションの様に先端部分だけがゆっくりと変形していった。

 

「お、なんかいいなこの変形の仕方、懐かしいなぁクレイアニメ。日本だと南極のペンギンさんのクレイアニメが有名かねえ。粘土とストップモーションであんなにも表現できるなんて発想しだいでは・・・発想か」


 懐かしい思い出に浸りながらふと私は思いついた事を実行しようとする。


 これ、手に持つんじゃなくて前腕、手首から少し離れた側面に付けられないだろうか?

 もしできれば武器(そう呼んでいいかは分からないクオリティの低さだが)を持ちながら両手が空かないだろうか?と。


「私の前腕の一部に生産魔法で武器保持用のホルスターを直接生やして・・・」


 手首の関節部分の球から少し離れた位置にもう一つ球をそこらへんの枯れ枝で生やし、その球にくっつくように受けと呼ばれる球を嵌める穴、のような?部分がついてる部分をつけたホルスターをつけた。


 腕に沿うように作られたおかげでホルスターは普段の動きを邪魔しないようになっている。


「うん、これで・・・うわなにこの感覚っ!?」


 腕につけたホルスターだが


「おかしいな、私はただホルスターを・・・うわあこれ自由自在に動かせる・・・いっそ杭打ち機みたいにするか。こう至近距離で一気に加速して突き刺すような構造に」


 その後私はいくつかの試行錯誤をしいくつかわかったことがある。


・球と受けを作って自身の体につけた物は自身の体のように動かせる。だが慣れるまで時間がかかる。


・別に木材である必要は無い。そこらへんの石でも生産で形を整え、球と受けの二セットを付けて体のどこかにつければ動かせる。ただ重心がずれたり新しい部位に脳の処理を割いてる関係か、つけすぎると頭が痛い。


・生産魔法は作るものの大きさやイメージがしっかりしているかで消費MPが変動する。イメージがしっかりしていなくてもMP量があればゴリ押しも出来るようだ。


 そんなこんなで私は人間でいう脈がある所らへんに先端を尖らせた石槍のようなものをくっつけた。

 私の意思でそこそこの速度で前方に射出する杭打ち機、パイルバンカーだ。

 パイルバンカーである石槍部分と腕との接続部分である折りたたんだアームによって石槍を前方に射出したり戻したりする。


「パイルバンカーは男のロマンというが、なるほど確かに。情けない話、少々ワクワクしている。試しに・・・そいっ!」


 近くにあった木に射出してみると派手な音を立てて木を穿った。貫通こそしていないが殺傷力という意味では十分だろう。

 本来ならこんな時間をかけてしまえば腹が減ったり疲れを感じたりするのだろうが、まったくそんなものを感じたりはしていなかった。


 本当に、人形になってよかった。時間はそれこそどれだけ掛けてもいい。生存には問題が無い。


 とりあえずの武装と現状の軽い確認を終わらせた私はどこへ向かうという目的も無く適当に歩き始める。


 幸い私は人形だ、のんびり行こう。



 歩き始めてどれくらいが経過しただろうか?前方から緑の体色に背の低い二足歩行の生き物が三匹歩いてきた。


「あー・・・異世界あるある?ゴブリンさんじゃあないですか。異世界モノでは最弱扱いだけど私にはそうは思えないんだよなぁ・・・。だってなあいわば人間みたいなものだろ?小さくて数が多くて知恵が回る・・・」


 罠を使い、徒党を組み、倫理観や道徳が無い。これが脅威と言わず何と言うのか。確かに一体一体は脅威では無いが囲まれれば達人でも叶わないだろう。


 三人から同時に攻撃されれば対処出来るのは二つまで、とはどこの漫画で見たんだっけか。


 目の前に現れた私という人形にゴブリン達が困惑しているうちに私はこれ幸いだと接近しゴブリンの顔面に手をそっと添え、手首につけたパイルバンカーを射出させる。


 ぐしゃり、と頭の半ばまで入り込んだパイルバンカーはまだつけたばかりで接続が甘かったのか歪な音を立てながらゆっくりと元の位置まで戻っていく。


「次からはもう少し形を工夫するか、これでは連続で射出出来ない。というか私なんでこんな落ち着いてる?いや、後で考えよう」


 正面にいたゴブリンが倒れたのを見て残りの二人はゆっくりと挟み込むように移動する。


 やはり知恵が回る。それにさっき頭を潰したゴブリンの持っていたナイフを見れば緑色の粘つく何かがナイフにべったりとついていた。腰についた鞘のようなものにはたっぷりと緑色の何かで満たされていた。

 おそらくは毒だろう。


 人形なら、おそらくだが大丈夫だと思う。必要であれば傷口まわりを取り外せばいいだろうし、材料は木材でもなんでもいいのであればまた作れるだろうし。

 

 時間にしておそらく六秒ほど、パイルバンカーが元の位置に戻り再度打ち込めるようになる。


「さて、そんなに耐久が無いのであれば簡単に行ってくれるか?」


 希望的観測を少し含んで自身を元気づけゴブリンを殺すべく構える。

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