第033話 21戦目(4)


 疑念が最大限になった丁度その時、ロープにしがみ付いていた敵ゴブリン達が一斉に勢いよく――


 羽搏はばたく。


 えええええええええーっ!!!。

 飛べないからー。

 マジで。


 更に凛々しい横顔で――


 華麗に――


 羽搏く。


 いやいや、お・ち・て・る。

 本当に。


 尚も澄まし顔で――


 悠々と――


 羽搏く。


 現実を見て。

 特・に・下・を。


 あ、分かったかも!

 これってー、集団自殺?


 俺達は一体、何を見せられているのだろうか。

 それだったら嫌過ぎる。


 加えてこのシナリオを描いたものは異常。


 いやいや、何かあるはず。

 結論付けるには早い。


 そうそう。

 これで終わりの訳がない。

 この展開を読まなければと、カッと開き疑念の目でしっかりと見るが――


 落下していく敵ゴブリン達。


 やはり超絶異常過ぎるかもしれない。


 んー!

 落下死は日常から良く見ている。

 それもどうかと思うが、ダンジョンなので致し方なしだ。


 そしてその際に違いはあれど負の感情が、顔へ滲み出るものである。

 それがない。


 そうそれがこの光景を異様たらしめる要素なのかもしれない。

 何よりも恐怖心が見えないのは、どうも腑に落ちないのである。


 あっ!

 まさかの洗脳か。


 もしそうならこれは最早もはや俺の想像を超えた不条理と言える。


 意味もなく自ら進み落下死するゴブリン達を見せることで動揺させ、精神的に追い込む手法。

 それも間接的にだ。

 たちが悪過ぎることこの上ない。


 確定ではないが、遠からずではないだろうか。

 可能性は十分に高いかと。


 んー。

 散々、目を引き付けておいてのこれか。

 嗜虐しぎゃく過ぎる。


 どう考えてもフウカは、ヤバいな。

 それも飛びっきり悪い方でだ。


 考えれば考えるだけヤバさが増してくる。


 現在のフウカは、


 ヤバいx10だ。


 これはー、あれだな。

 間違いないくフウカは―― 


 真正の加虐性愛病質者サディス性サイコパス


 となるとー。

 変なヤツに目を付けられたかもしれない。

 残念過ぎる帰結。


 対戦相手に精神的負荷を加え、悦に浸っているのだ。

 おそらくフウカにとって勝敗は二の次。

 間違いない。


 そもそも誰一人も申請がない状況でのフウカから申請。

 有り難いと感謝さえしてしまったが、怪しむべきだった。


 まさしく俺は狙われた。

 狙われるべくして狙われてしまったのだ。

 

 くっ。

 何てことだ。

 今更遅いと思うが、悔やまれてならない。


 後悔で胸が一杯になりかけたそのとき、敵ゴブリン達が後ろに手を回して背中のポシェットをゴソゴソと。

 そして勢い良くそこから投げだしたのは――


 パラシュート。


 パッパッと次々と開き始める。


 おおおおおおおー。

 これは、これは。

 お見事。


 ゴブリン落下傘部隊かー。

 全く予想してなかった。 

 それも滑空性能やコントロール性に優れるバラグライダー型。


 「タオ様ー、凄いですねーっ!」


 「ああ、これはー凄いっ」


 「よし、やれっ」


 えっ!

 非情なシロツキの号令。


 穴の下で包囲しながら待機している部隊へ命令を下したようだ。


 蜘蛛の子を散らすように逃げようとしているが、穴下こと落下地点周辺からの岩石を用いた集中砲火により、瞬く間に撃墜されていく敵ゴブリン落下傘部隊。


 その間にも第2次敵ゴブリン落下傘部隊がロープ上にスタンバイ。

 そして同様に空中へ羽搏き、散ってく。


 フウカは凄いな。

 穴の深さについては知られていないはず。

 当然掲示板にも載っていない。


 それを想像でカバーして乗り越えようとしているのが犇々ひしひしと伝わってくる。


 落下中の敵ゴブリンに迷いや恐怖心が見られなかったのは、単に自分達のダンマスを信じていたからだろう。

 あれこれと深読みし過ぎたのかもしれない。


 フウカ、ごめん。

 君は加虐性愛病質者サディス性サイコパスではなかった。


 そしてフッと目に留まる対戦スコア。


  (タオ)      (フウカ)

  93,591 VS 37,578


 どちらも数値が目まぐるしく変化しているが、上げ幅的にうちの方が高いようだ。

 それに敵ゴブリン落下傘部隊の撃破ポイントも低いけど次々と加算されていってる。


 うんうん。

 なんだかんだでリード出来てるので上々。


 ん!

 あれれ。


 攻略階層に変化がない。


       ・

       ・

       ・

  ・ 7階層:   789体

  ・ 8階層: 1,052体

  ・ 9階層: 3,076体

  ・10階層:     0体


 攻略状況ボードでは、先程と同じ9階層までしか到達しておらず。


 んー。

 停滞中? 

 感覚的に10階層以上へ行ってても良いと思ったけど、強敵に難航中のようだ。


 「……んー手強いな」


 「そうねースコアの伸び的には問題ないのだけどねー」


 「……そこは気にしてないがー、階層突破が……」


 「……んー厳しいわねー、ここまで抵抗されたら。それに……」


 「ん、時間的猶予か?」


 「ん、そうそう。もう少しあればねー」


 あ!

 制限2時間でOKしたの俺だ。

 ごめん。


 2人の話す内容からは、タイムアップがなければ突破可能な感じかな。

 それに順調には倒せてるとのこと。


 「今はー、どんな状況?」


 「はい。予想ではー9階層の突破を果たしてるはずでしたがー、想定以上の抵抗に遭っている最中です」


 「想定以上?」


 「相手側がー9階層を防衛ラインにした可能性が高いですねー」


 「防衛ラインかー」


 「援軍を次から次へと送り込んでいるのかと」


 「……なるほど。倒しても倒しても新手が来るからー、次へ進めずかー」


 「スコア的にもコンスタントに倒せているのでー向こうはー、必死ですねー」


 フウカ的にこれより先へ行かせるつもりはないようだ。

 さぞや9階層は修羅場と化していることだろう。


 激戦の激闘。

 屍山血河しざん けつがか。

 南無。


 お!

 こっちもか。


 穴周辺で待機していたオーク達が、満を持して雄叫びを上げながら次々と勾配を駆け下りながら、そのまま頭部から四方へ向けて――


 ダイブ。


 おおおお。

 滑空っ。

 ロープ、使わないのね。


 手と足の間に布が張ってあるムササビスーツことウィングスーツで華麗に飛翔するオーク達。

 次々と飛んでくる岩石を旋回しながら横転と背面で矢継ぎ早に躱していく。

 さながららのアクロバット飛行。


 カッコよ。

 まさに曲技。

 つい見惚れてしまう。


 編成は、


   ■オーク       x77体

   ■オーク・ソルジャー x 7体

   ■オーク・リーダー  x 1体


 一通り躱し切ると腕をたたみ、滑翔かっしょうするオーク達。

 グングンと増す速度。


 そして突如、一斉に反転。

 申し合わせたかのように息ぴったりである。


 更にそこから錐揉みしながら、一気に急降下。

 しかも両腕をクロスして頭を防御。


 穴底こと地面への最短ルートを狙うオーク達。

 まさに正面突破。


 当然それを阻止すべくゴブ達による岩石の弾幕が何重にも展開されていくが、止めること適わず。

 手からひじまである立派で格好良い篭手こてことガントレットに、ことごとく弾かれているようだ。


 そして地面から200m切ったところでようやく、背中のポシェットからパラシュートを放り出すオーク達。


 「さっきのと形が違いますねー、タオ様っ」


 「んー今度のはー、マッシュルーム型かなー」


 「……んん、穴?」


 「え、穴ですかー。……あ、ほんとだっ」


 「あーそれはー、空気抵抗を減らすためのー穴だよ」


 「……空気抵抗、ですか」


 「そうそう。最低限の減速にしてー早く降りるためかなー」


 「あ、なるほど。そう言うことですかー」


 「……着地に耐えるギリギリを……穴の数で……微調整?!」


 「シロツキーその通り。おそらくはねー」


 その間にも4次・5次敵ゴブリン落下傘部隊が継続的に襲来して、穴下の空中戦が大混雑の模様となってしまっている。

 そんな中、遂に――


 オークが降り立つ。


 次々と地面へドシンッドシンッと勢い良く着地するオーク達。

 そして胸を大きく広げて深く息を吸い込み、りったけの咆哮で威圧を周囲へバラ撒く。


 『『『アブブブブブブブブブブブブブヒィーーーー!!!!!!』』』


 圧倒的音量が波となり放射状に落下地点周辺を飲み込んでいく。

 その間にも上では次々と穴へダイブするオーク達の姿が。


 ん!

 大丈夫?

 

 チラッとシロツキを見るが、平然と通ニャンツウにゃんで指示を淡々と飛ばしている。


 んー。

 どうなんだ、これは。


 一応撃墜されたオークもいる。

 心配ないよね。

 ただ穴下の地面に侵入者が到達しただけなのに、お初なこともありソワソワする俺。


 「敵オーク、やりましたねー。それに見倣って敵ゴブリンもーもう少し頑張らないとですかねー」


 俺とは違い、なぜか楽しそうなアヤメ。

 なので率直に聞いてみることに。


 「……心配は?」


 「え、今ですかー」


 「そうそう」


 「タオ様ーっ、大丈夫ですよー。うちの子達の方が強いのでー」


 「マジか」


 「大マジですよーっ」


 その言葉で少し安心してホッとしたそのとき、


 『『『ゴブブブブブブブブブブブブーーーーッ!!!!!!!』』』


 お返しとばかりにゴブ達の咆哮が、轟く。

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